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PCA水谷社長、「第二創業期の決意で売上高100億円に挑戦する」


 かつては、「日本企業の独壇場」といわれていた業務アプリケーションにも、大きな変化の波が訪れている。SAPのような専業メーカーをはじめ、オラクル、そしてマイクロソフトもアプリケーション領域に積極的に進出。さらに、SaaSのようなオンラインサービスも登場し、業務ソフトといえども、「日本市場は他の国とは違う」とは言ってはいられない状況が揃いつつある。

 そんな中、国産業務ソフト大手のピー・シー・エー株式会社(以下、PCA)は、6月22日付けで副社長だった水谷学氏が社長に就任した。水谷社長は今年49歳。前社長の川島正夫氏からの若返り人事となる。水谷社長は、「PCAとしても新しいものに積極的に取り組んでいかなければならないタイミングが来た。開発体制を大幅に強化し、他社にも先行して新しいものに取り組んでいく」と話す。


テクノロジー進化にあわせ開発体制を強化

代表取締役社長COOの水谷学氏
―社長就任、おめでとうございます。

水谷氏
 ありがとうございます。


―今回、社長から会長となった川島さんは1935年生まれであるのに対し、水谷社長は1958年生まれ。ずいぶん若返りました。

水谷氏
 当社は川島会長が設立した企業ですが、設立当時の会長の年齢は45歳でしたが、年月が経って現在の川島の年齢は72歳です。IT業界で70歳台の社長というのは大変珍しいでしょう? いろいろな技術変化が起こる中、創業時の川島と同年代の私が社長になることで、新しいことに取り組んでいく体制を作ることが狙いです。PCAとして第二創業期を迎えたつもりでやれということだと思います。


―第二創業期ですか?

水谷氏
 元々PCAは、新しいもの好きで他社に先駆け、先端技術を取り入れる社風がありました。例えば、当社の中堅企業向けERP「Dream21」は、他社に先駆け2001年にマイクロソフトの.NETをベースに開発した製品です。他社であれば、既存製品との互換性を維持することを優先するのでしょうが、新時代のアーキテクチャーを採用したために、既存製品との互換がなくなってしまった。「そこまでやらなくとも」という意見もありますが、あえてそこまで踏み込んで、新しい技術を採用していくのがPCAの特色だと思うんです。

 ところが、それ以降から現在までを振り返ってみると、大きな動きがほとんどなくなっているんです。既存製品である中小企業向けの「PCA8シリーズ」、SOHO向けの「じまんシリーズ」のバージョンアップは行っています。それ以外にもいくつか製品は増えました。ただ、それだけなんです。足踏み状態になってしまったというのか、大きな動きがないままになってしまっている。


―その結果、売上高も伸び悩んでいるように見えます。平成17年3月期の売上高が60億500万円、平成18年3月期の売上高は63億8300万円、平成19年3月期の売上高は63億3600万円。

水谷氏
 そうなんです。ですから、第二創業期と考え取り組んでいくというのは、その状況を大きく変えていきたいという狙いがあります。業務ソフトを取り巻く環境も大きく変わってきています。まずは開発部隊を大幅に強化していくことができればと考えています。

 業務ソフトというと、最新のテクノロジーを活用することよりも、安定的に動作するといった面が評価されるきらいもあります。しかし、実は技術変化はわれわれのような業務ソフトメーカーにとって、大きなプラスになってきたんです。


―正直なところ、財務会計といった基本的な業務に利用するソフトが、テクノロジーの進化によってどう変化するのか、真剣に考えたことがありませんでした。

水谷氏
 大昔は、メモリが十分に確保できませんでしたから、「こんなソフトが作りたい」と思っても、なかなか自由にソフトを作ることができませんでした。今はメモリの制約を考えてソフト開発をするなんてことはありません。

 64ビット化の影響も大きかったです。大規模な業務ソフトは、構造上、どうしてもデータベースアクセスが頻繁に行われます。そうなるとデータベースへの負荷も高くなって、32ビット時代にはどうしてもパフォーマンスが十分に確保できないという問題を抱えていました。それが64ビット化されたことで、パフォーマンスがすごく向上しました。

 もっとも、データベースが64ビット化されても、ソフトの構造がきちんと対応していなければ、パフォーマンス向上にはつながりません。当社の製品は、すべてのデータが64ビット対応となっているからこそ、パフォーマンス向上を実現できたのです。


業務ソフトのSaaS化に適した日本のブロードバンド環境

―SaaSのようにオンライン型のサービスをどう見ていますか?

水谷氏
 今年秋には、まず小規模なサービスから開始を予定しています。


―積極的にSaaSに対応していくということですか? パッケージソフトベンダーにとってSaaSのようなオンラインサービスは、大きなビジネスモデルの転換が必要になると思いますが。

水谷氏
 当社の既存ユーザーにアンケート調査をしたところ、約半数のお客様がオンラインサービスにお金を支払ってもいいと回答されました。つまり、すでに数十万単位のお客様予備軍が存在するということです。

 それにオンライン型サービスは、実は中小企業のお客様にとって大きなメリットをもたらすものでもあるんです。まず、複数の拠点で同じソフトを使うことができる点が実は中小企業には、大きなメリットがある。本社以外に工場を持っていたり、店舗を持っていたり、支社や営業所を持っている中小企業は案外多いですし、経営者の方が自宅に戻って帳簿を見るといったニーズもあるでしょう。会計事務所と企業が連携して利用するという使い方も可能になります。中堅企業向けのソフトや大企業向けのソフトであれば、複数拠点で同時に利用できる機能をもったものはたくさんありますが、中小企業が導入するにしては価格も高い。SaaSによって、中小企業であっても簡単に複数拠点で同じソフトを利用することができるようになるわけです。


―SaaSは2000年頃、日本でもブームとなったASPと比較されることが多い。「実はASPとSaaSには違いはない」という指摘もあるくらいです。ASPも中小企業に向いているといわれながら、普及は進みませんでした。SaaSはASPとは異なり、普及するのでしょうか?

水谷氏
 ASPブームが起こった頃、当社もグループウェアを提供したことがあります。社内では現在も使っていますよ。

 ただ、どうしても本腰を入れてサービスを提供するという決断はできませんでした。いくつもの障壁があったからです。

 ASPブームが起こった頃のインターネットのスピードと今を比較すると、現在は当時の30倍速い。ローカルLANとほぼ同等のスピードが出ます。それに比べて当時はスピードが遅かったので、「これをやりたい!」と思っても、データを表示されるまでゆっくり待っていないといけなかった。

 コストも違います。当時、常時接続サービスは非常に高価でした。満足のいくスピードを確保しようと思ったらどれくらいかかるのか、計算したことがあります。月15万円くらいかかるという結果が出ました。これだけコストがかかってしまうと、中小企業が気軽に利用するというわけにはいかない。

 MetaFrameみたいなツールを利用すれば、業務ソフトのASP化も不可能ではありませんでしたが、印刷ができない。それでは業務ソフトとしては、不十分でしたから。


―現在は条件が整い、業務ソフトとして十分な質をもったSaaSを提供できるようになったと判断したわけですね。

水谷氏
 ブロードバンドは、個人が利用することが多いから、昼間よりも夜の方が混雑している。それに対し、業務で利用するとなると夜ではなく、昼間の利用が多くなります。そういう意味でもブロードバンドと業務用SaaSは相性がいいんです。


―先日、マイクロソフトがKDDIと一緒にSaaSを提供するという発表がありました。PCAもこのサービスに参加する意向表明をされました。秋に発表するサービスとは、これを指すのでしょうか?

水谷氏
 いいえ、まずは自社でのサービス提供を予定しています。ただ、マイクロソフトさんとは一緒にビジネスを進めていますし、当社にとっても望ましいサービスだと思いましたので、参加意向表明をさせていただきました。

 SaaSはいろいろな形態で提供していくことが可能だと思っています。ただ、まずは既存の客様から見て、「パッケージ以上に面白いサービスだ」と言ってもらえるようなレベルのものにしなければなりません。まず、そこが大前提になります。


マイクロソフトにはない専業メーカーならではの強みがある!

―PCAは、マイクロソフト製データベースを採用しています。つまり、欠かせないパートナーではありますが、Dynamicsシリーズによって競合という側面も出てきました。「Dynamicsシリーズもプラットフォームのひとつ」とマイクロソフトは主張していますが、本当でしょうか?

水谷氏
 確かに、当社がDynamics用ソリューションとして、例えば給与や人事を提供するといったことは可能です。その点では、確かにDynamicsシリーズというのはプラットフォームであるといえます。

 しかし、その一方で会計については競合する部分がゼロとはいえない。そういう点ではライバルであるともいえますね。

 ただし、マイクロソフトに限定しなくても、競合メーカーというのはこれからも出てくると思います。では、われわれの強みとはどこにあるのでしょう? それはやはり、「専業メーカーであることの強み」ということだと思うんです。

 われわれは業務ソフトの専業メーカーです。ずっと同じジャンルの製品を開発し、販売してきました。退職率もすごく低い会社ですので、「もう20年、会計ソフトを開発しています」というスタッフもいます。外資系ベンダーには、そういうスタッフはあまりいないでしょう?

 長年いるスタッフがいる強みというのは、例えば消費税の税率が変わるといった時に出てきます。12月に、「こういう税率になります」とアナウンスされて、翌年の4月には即施行といったことが起こり得る。そんな急な動きに対応できるのか?といった点でも、専業メーカーならではの強みが出てくると思います。

 もちろん、専業メーカーだから、逆に不得意なこともあります。例えば、先ほどお話ししたSaaSのようなものに対しては、一部は当社から提供することになりますが、それではわれわれがサービスを提供するプロバイダーになれるのかといったらそうはいかない。ずっと業務ソフト開発を手がけてきたスタッフに、24時間対応のデータセンター担当になれといっても簡単にはいかないでしょう。

 われわれは事業者を通してサービスを提供する。サービス事業者のためのエンジン部分を開発し、提供するのが当社のような専業メーカーの役割となるのだと思います。

 昨年11月、ネクストウェアと資本・業務提携を行いました。これもそういった新しいビジネスを展開するための施策の一つです。当社は専業メーカーとしての強みを生かし、サービス事業はサービスで強みを持つベンダーと提携することで実現する。そういうビジネスモデルで新しい事業を開拓していくことを計画しています。


次世代の人材育成も社長としての仕事

―昨年の売り上げが伸び悩んだ原因は、主力商品である「Dream21」の売り上げ減であると決算短信でも説明されていました。これを改善するための施策は?

水谷氏
 Dream21を構成するモジュールの数を増やします。現在は7つのモジュール数を17モジュールへと拡大します。そうなると、本格的なERPとしての機能が揃うことになります。これまで以上に、競争力をもったソフトとなると思います。

 中小企業向けの「PCA8シリーズ」については、9へのバージョンアップはまだ先になると思います。これは時間をかけて、きちんとやっていく計画です。バージョンアップの前に、SaaS対応版を提供しますので、そちらにも注目していただきたいですね。先ほどお話ししたように、中小企業にとってSaaSは大きなメリットがある。これまで同じ社内でありながら、FAXを送って伝票を再入力している企業も多いですが、こうした問題点をSaaSのような複数拠点でサービスを利用することでカバーしていきましょうといいたいです。

 こうした改革を進めていくことで、3年後には売上高100億円を目指したい。新しいものを提供していくことで、それは決して不可能ではないと思うのです。


―現在の売上高が63億円であることを考えると、かなり高い目標のようにも思います。

水谷氏
 はい、簡単にはいかないことも理解しています。ただ、将棋的感覚というのかな、最終的に王様を捕るためにこういう施策をとって、さらにこうやってと考えていくと、十分に可能性はあると思うんです。

 やることはいろいろとあるんですよ。PCAという企業は露出が少ない。技術の会社であることをアピールするために、スターエンジニアも育てたい。ただ、技術力は高くても、外向けにアピールすることが嫌いという人材も多いから、なかなか難しいんですが。

 さらに次世代のPCAを担う人材もどんどん育てていかないといけない。第二創業ですから、そういうことも意識してやっていければと考えています。



URL
  ピー・シー・エー株式会社
  http://www.pca.co.jp/


( 三浦 優子 )
2007/07/20 00:00

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