ノベルが日本でのLinuxビジネス拡大に、大きくかじを切った。
SUSE Linuxのディストリビューターである同社だが、2006年11月にワールドワイドで発表されたマイクロソフトとの提携など、企業ユーザーが安心してLinuxを利用できる環境作りを積極的に進めている。日本法人の堀昭一社長は、「現実的には、Linuxサーバーだけ、Windowsサーバーだけというユーザーは少ない。両方のOSを搭載したサーバーが混在しているのが現実だ」と指摘。オープンソースと、非オープンソースが混在した環境を、「ミックスソース」と称して、「ミックスソースでセキュアなITインフラを提供する」ことを標ぼうする。
そしてこの主張を理解するユーザーが増加し、それを支えるシステムインテグレーターなどパートナー企業が増加していくことによって、「エコシステムが構築され、当社のLinuxビジネスが拡大する要素が整い、Linuxビジネス拡大期を迎える」と堀社長はアピールする。同社は、どのようにLinuxビジネスを拡大させようとしているのか。堀社長に聞いた。
■ 少ない予算で増大する情報を管理する仕組みを提供

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代表取締役社長 堀昭一氏
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―ノベルのビジネス領域は、ここ数年で大きく変化していますね。
堀氏
ご存知のように当社が日本に進出したのは、ネットワークOS「NetWare」の提供を開始したタイミングでした。その後、市場変化によって、アイデンティティ(ID)管理のためのソフトウェアを提供してきました。現在は、ID管理をはじめとしたソリューションに加え、SUSE Linuxなどオープンソースソフトウェアのビジネスに注力しています。
当社のモットーは「ミックスソースでセキュアなITインフラを提供します」というもの。ミックスソースというのは、現在のお客様環境を指しています。ほとんどのお客様が、オープンソースのソフトウェアと、マイクロソフト製品のようにソースが開示されていないベンダーのソフトウェアを、両方使っているというのが実状だと思います。オープンソースソフトウェアと、そうではないソフトウェアが混在したものを、「ミックスソース」と呼んでいます。そのミックスソース環境を支えるインフラを提供するのが、ノベルの役割だと考えています。
これからはオープンソースソフトウェアの重要性がさらに増してくることになるでしょう。ミックスソース環境のお客様も増えていくと思います。当社の仕事はますます増えていくことになると思うのです。
―オープンソースソフトウェアの重要性が増す要因とは?
堀氏
間違いなく今後3年間で、全世界の情報量は倍増することになるでしょう。インターネットの進展によって情報量が加速度的に増えていくからです。ところが、それを支えるIT予算が倍増することはない。情報量が増えているのに、そのための予算は増えないわけですから、増加した情報を支えるイノベーションが必要になることは間違いありません。
すでにハードウェアの価格はどんどん下がっているし、スペックはどんどん向上している。ところが、ソフトウェアの値段はハードウェアの価格ほど下がってはいません。IT予算自体は減っているわけだから、何かしらの方策が必要になる。そこでオープンソースソフトウェアの活用をはじめとした、新しい取り組みが必要になってくるのです。
―オープンソースソフトウェアを活用する以外にも、予算を抑えながら拡大する情報をコントロールする方法はあるのでしょうか?
堀氏
仮想化も対処法の1つだと思います。最近、「サーバールームが一杯になって、新しいハードウェアを置く場所がない」というお客様が増えています。しかし、置かれているサーバーがどれくらい使われているのか、その稼働率を見ると、実はトータル10%程度でしかないという調査結果も出ています。新しいサーバーを増やさなくても、稼働率をあげれば問題が解決する場合も多い。仮想化によって、サーバーの稼働率をあげていきましょうという提案も、ノベルとして行っていきたいと思っています。
企業のコスト削減としては、サーバーだけでなく、デスクトップにもLinuxを利用するという方法もあります。当社が提供する「SUSE Linux Enterprise Desktop」には、「OpenOffice.org 2 Novell Edition」がバンドルされています。オープンソースのオフィスソフトウェアというと、「できることに限りがあるんじゃないの?」とおっしゃる方もいます。しかし、実際に使ってもらうとわかるんですが、普通の人がやることだったら十分にできる。特別な機能を使うのでなければ、価格もマイクロソフト製品の10分の1になりますし、コスト削減を実現する強い武器になると思います。
■ マイクロソフトとの提携はユーザーのために実現した
―マイクロソフトとは、競合であると同時に提携も行っています。
堀氏
マイクロソフトとの提携は、ミックスソースでは必要なことと考えたから実現した提携です。「お客様に安心してミックスソースを使ってもらう」とすれば、当社が頑張っただけでは、実現できないこともある。だから提携を決意したのです。
Linuxサーバーを導入しているお客様であっても、1台もWindowsサーバーがないというお客様はいない。いくら我々が「Linuxだけにしてください」とお願いしても、マイクロソフトが「Windowsだけにしてください」といっても、それはできないというお客様が増えているというのが現実だと思うんですよ。
―ユーザー側はどんな点で混在環境を望むのでしょう?
堀氏
現実として、混在環境でサーバーが動いているのに、「どちらか片方に統一してください」というのは、やはりベンダー側の勝手な主張だと思います。先ほど、サーバーを有効活用するためには、仮想化技術も1つの方法だと申し上げました。ミックスソース環境でのサーバー仮想化ができれば、一番有効だとわかっているのに、「ベンダーの都合でそれはできません」というのはいかがなものでしょう。
これまではお客様もしくは、システムインテグレーターの方にいろいろと無理を聞いてもらっていました。その結果、お客様側から、「混在環境での利用ができるよう、きちんと提携して欲しい」という声があがるようになった。当社はそれに突き動かされて、提携を決意したわけです。そういう背景で実現した提携だったために、発表後には次々に事例が発表されたのです。
―確かに、ワールドワイドでは米流通大手のウォルマートをはじめ、企業への導入事例がいくつも発表になっています。
堀氏
昨年11月に提携発表を行った際には、特許利用を含む相互運用可能なバージョンのLinuxを1年で7万本ずつライセンスするということが決定したのですが、実は発表直後に4万本を出荷してしまった。ミックスソースを待っているお客様がいかに多かったのかということを実感させられました。
―ただし、その一方で日本のユーザー事例というのは発表されていませんが。
堀氏
日本のお客様も導入準備を進められているところはたくさんあります。ただ、事例として発表できるかどうかということですね。おそらく、今後、事例として発表できるものも増えてくるのではないかと思います。
マイクロソフトとの提携による事例ではありませんが、日本でも東京工業大学の「TSUBAME」のように、22のISVアプリケーションと6つのオープンソースアプリケーションをサポートしたグリッドシステムといった事例もあります。こうした事例をもっと発表していきたいと思います。
―先日、マイクロソフトの記者会見で、「インターオペラビリティを実現することが重要な課題であり、ノベルとの提携はその点でも欠かせないもの」という説明がありました。両社の提携は、お互いのビジネスにとってもプラスに働くのではないですか?
堀氏
それはもちろんあると思います。だからこそ、提携したわけです。
―Linuxユーザーの場合、訴訟されることへの懸念を口にすることも多い。今回の提携で、その懸念から解放されることになりますから、「SUSE LinuxはほかのLinuxよりもリスクが少ない」とユーザーから評価されることにもなる。ノベルにとってこの提携は、ビジネスメリットも大きいのでは?
堀氏
ご指摘通り、ほかのディストリビューターから販売されているLinuxとの差別化になると思います。ただ、当社とマイクロソフトとの提携は、「相互のお客様を訴えることはありません」という内容です。お互いを訴えることはあり得るんですよ。
―お客様を守るというところでは手を結ぶが、ベンダー同士の競争は止めません!ということですね。
堀氏
そうです、そうです!握手はしたけれど、足をけっ飛ばしあっているかもしれない(笑)。そういうことです。
■ ミックスソースを支えるエコシステムを構築
―ただ、残念ながら、日本でのSUSE Linuxの知名度はそれほど高くはありません。
堀氏
現状は確かにその通りです。ただ、その環境は徐々に変わっていくことになると思います。まず、SUSEというLinuxが、非常に信頼度が高いものだということ。SUSEはもともと、堅実性が高いことで知られるドイツで生まれました。“ジャーマンエンジニアリング”がベースとなっているからでしょう、ものすごくがっちり作られているんです。
Linuxというのは、コミュニティが作ったさまざまなコンポーネントの中から、質が良く、必要なものをチョイスする必要があります。SUSEは、必要なものを選び出し、ビルドするためのシステムを作り上げているんです。これが大変優秀なものだからこそ、ほかのディストリビューターよりも高い質のLinuxをビルドできるわけです。
―Oracleがサポートサービス「Unbreakable Linux」提供を発表しています。このサービスによって、ディストリビューターの存在意義が変わるのではないかという見方もありますが。
堀氏
私はそうはならないと思います。Linuxをどうビルドするかによって、差ははっきりとあらわれると思っています。ジャーマンエンジニアリングの強みというのは、発揮できると思いますよ。
また、当社のサポート事業の責任者は、Linuxコミュニティへの影響力の大小も重要なポイントだと指摘しています。このコミュニティへの協力をどれだけ持っているのかも、ディストリビューターとしての価値が左右されるポイントだと思います。
これまで、ディストリビューターによる差異があまり大きくないといわれてきたのは、ディストリビューターには、規模の大きくない企業が多かったことにも起因していると思います。当社は世界で最大規模のLinuxディストリビューターなんです。個人が趣味で使う場合はともかく、企業のお客様が利用する場合、安心して利用できる信頼性ある企業がディストリビューターであるというのは大きな武器になると思っています。
先ほどお話ししたマイクロソフトとの提携といった施策も、当社の企業としての信頼性あってこそのことだと思いますし。
―そういった点をきちんと理解してもらうこととともに、日本でのLinuxビジネス拡大に欠かせない要素はどんなものになるでしょう?
堀氏
エコシステムの構築です。ノベルには、ミックスソース環境でサーバーを仮想化していく際、どのハードウェアにどのリソースを振り分ける、といったポリシーを作っておくと、自動的に振り分けを行うオーケストレーションのためのソフトウェアといったものもあります。こうした管理ツールを駆使して、お客様向けシステムを構築していただけるシステムインテグレーターなどパートナー企業の充実、これが不可欠です。
ミックスソースを望むお客様は、増加する傾向にありますから、それを支援するパートナー企業がそろって、安心してシステム構築ができる環境、つまりエコシステムが必要なんです。
その環境は、徐々に整いつつあります。例えば、マイクロソフトとの提携以降、デルとも3社で安心してミックスソースを販売するパートナーシップを結びました。日本で企業向けシステムビジネスをする際には、ハードウェアメーカーとの提携関係が不可欠です。そういう関係もでき上がってきましたから、秋以降は当社のLinuxビジネスが加速すると思っています。
これだけ条件がそろっているのですから、ノベルは日本で一番のLinuxディストリビューターになることができると私は思っています。いや、必ず日本一になってみせますよ。その準備は着々と進んでいます。どうぞ、期待してください。
■ URL
ノベル株式会社
http://www.novell.co.jp/
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