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エプソン販売・平野社長、「アダプテーションをキーワードにビジネス基盤を強化」


 今年6月から、エプソン販売の代表取締役社長に就任した平野精一氏。昨年まで在籍したセイコーエプソンでは開発、設計のリーダーとしてプリンタ事業をけん引。昨年からエプソン販売に異動し、国内営業全般を担当。いよいよ満を持して、エプソン販売社長として登板した。例年ならば、9月には年末向けのプリンタ新製品が発表されるタイミング。それだけに、早くも社長として初めて迎える年末商戦に向けた準備に余念がないといえよう。平野社長に、エプソン販売の今年度下期事業方針を聞いた。


代表取締役社長の平野精一氏
―今年6月の社長就任後、社内に向けての第一声はなんでしたか。

平野氏
 「安心して働ける会社を目指す」ということです。


―「安心」ですか。意外な言葉ですね。

平野氏
 安心には3つの意味があるんです。ひとつめは、物理的に安心して働ける会社であること。例えば、古い建物で働くというのは社員にとっても決して安心して働ける状況ではない。安心、安全な環境で精一杯働ける環境を作りたい。2つめは、生活を守っていけるという安心感。企業が確実に事業を成長させ、収益を拡大し、社員が経済的な面で安心して働ける会社にしていきたい。そして、最後に、働くことに安心していられるビジョンを持つ会社であること。ビジョンが描けると、それは社員にとってもやりがいにつながる。これは、常日ごろ考えていたことでもあります。


―平野社長は、長年プリンタの開発、設計に携わっていたこともあり、販売というイメージからは遠い感じがするのですが(笑)。

平野氏
 そうかもしれませんね。ですから、私自身の行動も、考え方も、変化しなくてはいけないと思っています。設計や製造側にいると、仕組みや構造を変更しようとすると、比較的、自分の意思をすばやく反映できた。しかし、販売会社では、顧客や販売店といった相手がいますから、すぐに変更できるわけではない。正しい方向であることをしっかりと説明し、それを相手に理解してもらった上で実行に移す必要がある。この1年で、販売会社として、どんな考え方をすべきかを理解しはじめたところです。

 今年度は、事業方針のコアとして、お客様を大事にしていくという考え方を徹底し、ここにこだわっていく。エプソンのプリンタを選んでいただき、購入していただくことは大切ですが、それ以上に使って満足してもらうことの方が大切です。満足していただかなければ、買っていただいた意味がないばかりでなく、次の購入にもつながらない。そのためには、製品そのものの強みも大切ですが、サービスやソリューション、そしてコミュニケーションが大切だと考えています。お客様との関係をしっかりと築いていく行動をしてきたい。ユーザーとのコミュニケーションという点では、まだ満足できる段階には到達していない。例えば、当社が製品とともに提供しているITサービスが、どれだけユーザーに伝わっているのかというと、まだまだです。


―確かに、エプソンが提供するITサービスというと、まだピンとこないところがあります。具体的にはどんなものがありますか。

平野氏
 例えば、昨年12月から、インクジェットプリンタの最上位機で提供している「テレ・プリ・パ」機能は、地上デジタル放送で配信される画像をその場でプリントアウトできます。これはエプソンならではのITサービスのひとつです。また、今年6月に開始した携帯電話からコンテンツを印字できるモバプリも、エプソンが提供するITサービスのひとつです。エプソンは、単に製品を提供するだけでなく、いかに使ってもらうか、というところに焦点を当てている。そうしたものをしっかりとユーザーに対して提案していきたいと考えています。私は、こうした取り組みを総称して「アダプテーション」と呼んでいます。


―これは個人向け製品に対しての言葉ですか。

平野氏
 いいえ、違います。企業ユーザーに対しても同様のことがいえます。日本版SOX法の施行など、ITに対する要求はますます高まっている。それは、プリンタにおいても同様です。しかし、ユーザーが求めているのは、プリンタそのものを使いたいのではなく、プリンタを使って、なにかをしたいということなんです。そのなにかに対して、エプソンは応えられる企業でありたい。


―ハードウェアよりも、ソフトやサービスが重視されますね。

平野氏
 セイコーエプソンには、1000人以上のソフト技術者がいますが、そのうち、国内の企業向けソフトウェアの企画を行う人員を約10人、エプソン販売に異動しました。企業向けの製品にどんなソフトをアダプテーションするべきか、を考える部門です。例えば、大判インクジェットプリンタでは、特定の用途向けに使いたいという要望が多い。のぼり旗などもそうです。そうした特定用途に最適化したチューニングを図り、製品として供するといったこともアダプテーションのひとつ。これもソフト技術によって、実現するものです。ハードだけに固執したビジネスをしていてはユーザーの満足度を得ることはできない。だからこそ、あえてアダプテーションということをいっているのです。


―ビジネス向けのオフィリオでは、昨年から「分散配置、集中管理」を提案していますね。この成果はどうですか。

平野氏
 レーザープリンタを分散配置し、多くの人が利用しやすいようにする。しかも管理は集中的にやる。これもソフトの技術が大きく影響することになるものであり、アダプテーションのひとつなのです。ただ、ここでも残念ながら、分散配置、集中管理という当社のメッセージが的確に届いているとはいえません。分散配置および集中管理は、リコーやキヤノン、富士ゼロックスが提案してきた集中配置の大型複合機の手法を完全否定するものではなく、オフィスのサイズによっては、こっちの方式が最適な場合もありますよ、というひとつの提案なのです。経営者や部門管理者のなかには、大型複合機の提案では使いにくさを感じているという声もある。それならば、この手法も検討してみてください、というわけです。

 現在のところ、テレビCMの影響もあり、4~6月の実績は市場の伸びを上回る前年比1ケタ台の後半で推移しています。とはいえ、レーザープリンタの年間出荷計画は、2ケタ増の17万台としていますから、一層の努力が必要です。これからは、アプリケーションをどう連動させるか、用途を明確にし、その上で使い勝手のよい提案ができるかどうかが鍵になります。

 コンシューマ向け製品は、以前に比べると、あらゆる時期に売れるようになったとはいえ、やはり年末商戦に集中する傾向が強い。ビジネス向け事業の拡大は、安定したビジネスを推進する上でも重要な取り組みになります。パートナー会社を巻き込んでアダプテーション戦略を推進するとともに、メッセージを的確に届けられるようにしていきたい。


―エーアイソフトを吸収し、エプソンダイレクトを子会社化した成果は出ていますか。

平野氏
 シナジー効果という点では、まだ最終製品として形になっているわけではありませんが、社内に、プリンタメーカーとしての考え方、ソフトメーカーの考え方、そしてPCメーカーとしての考え方というように、異なる発想をする社員が増えてきましたから、アダプテーションの考え方に幅が出てきたとはいえます。発想の源泉は数多くあった方がいいと思っています。その点では、これからの成果が楽しみなんですよ。


―コンシューマ向け製品では、エプソン販売の社長として、初めて年末商戦を迎えるわけですが、どんな気分ですか。

平野氏
 まだ準備段階ですから、特別な実感があるわけではありませんが、市場全体が5%減程度で推移していること、昨年に引き続き60%以上が複合機になるという点では、方向性などについては、前年とそれほど大きな変化はありません。


―今年はデザインを一新しますか。

平野氏
 いや、それはいえませんよ(笑)。現時点では、楽しみにしていてくださいということだけですね。ただ、当社が売りたいものを、しっかりとアピールする体制をとりたい。特定のモデルを意識し、効率的に販売する仕組みを作りたい。メディアをミックスさせた形でのユーザーへの認知活動や、量販店に対する説明にもしっかりと時間を割きたいと考えています。


―まだ気が早いですが(笑)、年末のシェア目標は。

平野氏
 それは、やはり50%以上ですよ(笑)。エプソンが1年間かけて取り組んできたことの真価が問われるのが、年末商戦ですから。新製品に対する市場の反応がどうなるのか、いまから楽しみですよ。


―一方で、プロジェクター事業はどうですか。

平野氏
 大画面に対する需要が高まるなか、フロント型のホームプロジェクターに対する関心は高まっています。年末商戦では、エプソンのホームプロジェクターの良さを積極的に訴えていきたいですね。しかし、リアプロジェクションテレビは、大画面テレビの大幅な価格下落の影響もあり、なかなか難しいところもある。いまは、市況の変化をとらえながら、体制を立て直す時期だといえますから、じっくりと取り組んでいくつもりです。


―ところで、平野カラーというのはどんな形で出てくることになりますか。

平野氏
 「営業は奥が深い」というのがようやくわかってきたところですから(笑)、まだまだですね。ただ、足を使うこと、耳を使うことを、私は自身に課しています。靴を履きつぶす覚悟で、多くの人の意見を聞き、意見をそしゃくして方向付けをしていく。冒頭に、ビジョンという話をしましたが、10年先にエプソン販売はどうなるのかということを、社員とともに描き、共有したい。若い人たちも巻き込んで、これを考えていきたい。

 年内には、ある程度は原案らしきものがまとまると思いますから、これを3カ月間ほど吟味して、来年度からビジョンとして社内に打ち出していく。全員参加型のビジネスを推進すること、そして3つの安心をコミットする会社であることが、このビジョンのなかには含まれることになります。これが、平野カラーということになるかもしれませんね。



URL
  エプソン販売株式会社
  http://www.epson.jp/


( 大河原 克行 )
2007/08/24 00:00

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