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ブロケード石本社長、「SANベンダーからデータセンターのソリューションプロバイダへ脱皮する」


 昨年の米Brocadeによる米McDATA買収のニュースは、ストレージ業界においては、ひときわ注目された出来事であった。だが、かねてよりライバル関係にあった両社には、これまで多々あったM&Aにみられる“買収した”“買収された”といったような勝ち負け的イメージとは異なるものが感じられる。それは、買収された側も含めて、それぞれにオーバーラップしない強みがあり、両社の統合によって企業力を増幅強化せしめることとなったからだ。エンドユーザーへの対応も、マクデータ製品のブランド変更、サポート5年間保証などのメンテナンス部分を含めて、順調に進んでいるという。いま名実とも、データセンターのソリューションプロバイダを目指すブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社(以下、ブロケード)の石本龍太郎新社長に、その抱負を聞いた。


マクデータ時代からの思いをばねに新ビジネスを推進する

代表取締役社長の石本龍太郎氏
―石本社長は、買収された側であるMcDATA日本法人の社長としてもご尽力されてきましたが、昨年、買収が決まったときはどのような思いでしたでしょう?

石本氏
 当時その話は、自宅でシンガポールの同僚からの電話連絡で知りましたが、そのときは「嘘だろう?McDATAの方が買収したんだろう?」と答えたものでした。かつてこの両社には、いずれがいずれを買収しても、なんら不思議ではないときもありましたからね。ですが、時代の流れからみれば、BrocadeがMcDATAの方を買収したのは起こるべくして起こったということでしょうか。

 もっとも、そのとき、私のみならずほとんどのマクデータ社員が冷静でした。


―なぜ皆さんがそのように冷静でいられたのでしょうか。

石本氏
 これがまさに両社統合によるシナジーなんです。両社には同じようなソリューションがあるものの、市場で受け入れられる部分や会社としてのバリュープロポジションなどは、決して重複していません。だからそれらを合わせれば、さらに大変な強みになるんです。当然人材も、統合された環境の中でも従来どおり存続することになります。求められる人材も当然異なってくるのですから、ブロケードに移っても自分はすることがある、という思いがあったのではないでしょうか。それに、これまでライバル関係にあった両社の強みや弱みも、互いに熟知していましたしね。


―ブロケード、マクデータそれぞれの強みとは具体的に何でしょうか。

石本氏
 たとえばSANでいうと、ブロケードの場合はオープン性における強さでしょう。またマクデータの場合は、ミッションクリティカル系あるいはメインフレーム系における強さといえる。これらの強みが統合された結果、いかなるユーザー環境でもカバーできることになったんです。しかもプロフェショナルサービスも統合されますから、より広範囲にお客様のニーズにお応えでき、一段と強さが増すことになりました。


―マクデータが買収されたにもかかわらず、ブロケードの社長を引き受けられたのはなぜですか。

石本氏
 1つには、やはりマクデータ時代に取り組んでいた仕事を継続できるからでした。それまでのエンドユーザーはじめパートナー、あるいはOEM関係の方たちとのおつきあいも継続できる。また何よりもありがたいことには、そうした方々から、背中を押していただいたんです。


―そうして新たなスタートを切られたわけですが、Brocade本社は石本新社長にどんなことを期待したのでしょう。

石本氏
 Brocadeにおけるワールドワイドでの売り上げは、2006年度で約14億ドルです。実は、これを2010年度には40億ドルにしようという目標を掲げています。これを実現するためには、従来から得意としていたSANソリューションビジネスのおよそ3倍にまで成長させなければならず、それほど容易なことではありません。従来のハードウェアやソフトウェアといった製品の売り上げだけでは大変なんです。そこでサービスの拡充がキーポイントになってきます。

 また従来から取り組んでいたM&Aにも拍車をかけなければなりません。これは米国本社のみでは無理で、世界各地における法人での取組みが不可欠です。当然日本への期待も高くなりますので、そこに向けて私自身も懸命に取り組んでいかなければなりません。本社からは、日本には機会がたくさんあるよ、とプレッシャーをかけられています(笑)。


プロフェショナルサービスとFANで新たな市場へチャレンジ

―40億ドル達成に向けてブロケード日本法人が具体的に取り組むべき柱は何でしょう?

石本氏
 まずプロフェショナルサービスの拡充ですね。これは、私のマクデータ時代に、もっとも取り組みたいといっていたことなんですが、結果的には実現できませんでした。しかし今、これをあらためて実現しうる絶好のチャンスが訪れたんです。これが裏をかえせば、このたびの両社統合の産物といえるのかもしれません。

 加えてサポートサービスの強化も重要です。これまでパートナーやOEMにお任せしていたストレージ関連サービスも、ブロケードが直接エンドユーザーへ提供させていただきたいと思います。ですが、これはブロケードが直販するということではありません。あくまで従来からのパートナーやOEMを経由して、あるいはご一緒に提供していく、というスキームをこれから築いていくということなんです。これにより、従来ハードウェアやソフトウェアに依存していた売り上げに加えて、サービスの売り上げでも企業を加速成長させていきます。今はそのために、社内ではコンサルティングも視野に入れて、担当者教育など具体的な取組みを展開中です。


―そうしたサービスビジネスについてもう少し具体的なところをお聞かせください。

石本氏
 特にプロフェッショナルサービスで重要な役割を果たすのは、エンドセールス部隊ですね。たとえば、データセンターでは、データマイグレーションが日ごろ頻繁に行われています。このとき異なるベンダーのストレージ間でのマイグレーション作業では、特定ベンダーにマイグレーションの依頼ができず、大変苦労されているのが現状です。こんなときこそ、エンドセールス部隊がエンドユーザーの方たちから実情をよくおうかがいして、お手伝いさせていただきます。当社では、SANで扱うブロックデータだけでなく、FAN(File Area Network)で扱うファイルデータ、いずれのマイグレーションでもお役立ていただくことが可能ですから。


―その新しいソリューションであるFANもこれから活発化しそうですね。

石本氏
 FANでも、競合となるベンダーが複数ありますので、そんなにのんびりしてはいけない。明日にでも立ち上げなきゃいけないんです(笑)。

 そうした状況の中で、ご承知のようにブロケードでは、業界に先駆けてFANに取り組んでいます。SANはブロックデータが対象ですが、FANではマイクロソフトなどのアプリケーションで用いるデータが対象で、ユーザーが日々使っているアプリケーションの使いにくさを解決するソリューションも提供していきます。実績としては、ワールドワイドでみてもまだ決して多くはありませんが、重要なソリューションに位置付け、精力的に取り組んでいるところです。そのためにFAN専従のSEやサポートエンジニア、営業部隊などを今後少なくとも倍以上に拡充させることを考えています。FANでは、インフラの問題などもあるのでしょうが、特に地方に複数拠点を構えるエンドユーザーの方たちには関心が高いですね。


ブロケード日本法人の新たな目標とは

―SANをはじめ、期待の星であるFAN、そして新しいサービスを取り込んだ石本新社長のねらいはどういったところにありますか?

石本氏
 SAN、FANの両輪でデータ管理を一元化可能な当社の概念は、これからの日本版SOX法や企業コンプライアンス上求められるバックアップなどをにらんで重要になってきます。ただこうした法規制だけをにらんでビジネスを展開させるのは間違いだと思いますね。こうしたことは多分に一過性的なものかもしれないからです。もっと純粋に、エンドユーザー自身が日々直面する問題を解決させていただく答えを提供する、というものでなければなりません。


―最後に、今後をにらんでエンドユーザーやパートナー、OEMに向けたメッセージをお願いします。

石本氏
 今後のブロケード戦略の柱はプロフェショナルサービス、SAN、FANの3つにつきるといっても過言ではありません。さらに加えれば保守サービスの充実も重要です。こうしたことをふまえて、名実ともに“データセンタソリューションプロバイダ”を目指します。

 特にサービスソリューションは、パートナーやOEMにも、これまでの扱い品に加えてエンドユーザーへ提供いただけるよう、はたらきかけていきます。彼らが提供しているサービスの中に当社のものを一部採用していただくのも、1つのやり方です。そうすることで、エンドユーザーに当社の存在をより身近に感じていただけるのではないでしょうか。

 現在の当社シェアはさまざまな分野で80%後半になろうとしています。しかし大切なのは、そうしたことにおごるることなく、むしろこれをしっかりとした責任感のもと自負しそしてサービスにつとめ、お客様を裏切らないようすることと戒めています。



URL
  ブロケードコミュニケーションズシステムズ株式会社
  http://www.brocadejapan.com/


( 真実井 宣崇 )
2007/08/31 00:00

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