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EMCジャパン諸星社長、「日本に根付いた“日本企業化”を進める」


 EMCジャパンの社長に諸星俊男氏が就任してから、約3カ月が経過した。社長就任前の前職は富士通の経営執行役。富士通の現役役員が、大手外資系企業に異動する前例はなく、その転身に業界全体が注目した。就任会見では「EMCジャパンの日本企業化を進めたい」と宣言。諸星カラーによるEMCジャパンの進化に注目が集まる。諸星社長に、新生EMCジャパンの事業戦略を聞いた。


代表取締役社長の諸星俊男氏
―社長就任1カ月後の8月1日に行われた会見では、「1カ月間で2箱(400枚)の名刺を使った」と発言したのが印象的でした。そのペースは落ちていませんか(笑)。

諸星氏
 落ちていませんね。そろそろ1000枚に到達しますよ。もちろん、夜の銀座で配っているわけではないということを付け加えておかないと(笑)。とにかく、お客さまの声やパートナーの声を聞くことが、私の仕事だと思っていますから、そこに最優先で取り組んでいます。とくに、これまでは富士通の立場でしたから、NECさんとビジネスの話をする機会はありませんでしたが、EMCにとってはNECさんは重要なパートナーですから、かなり深くお話しをさせていただいています。富士通の雰囲気と似ているところがあるなぁ、と改めて感じているところです。私自身、NECさんと話をしていて気が合う部分が多いですよ。


―社長自ら顧客を訪問するというのは、諸星流ともいえる手法ですね。

諸星氏
 米Fujitsu Computer Systemsの社長時代も、私は、顧客やパートナーを率先して訪問していました。米国の現地法人の場合、ナンバー2に米国人を据えて、顧客やパートナーを担当させ、自らは経営に専念するというケースが多いのですが、私は逆でしたね。むしろ、私が出ていって、米国人に社内を担当させる。自分でいかないとわからないんですよ。これは私の欠点でしょうかねぇ(笑)。

 とにかく、CIOの社会は狭いですから、大手企業のCIO同士がつながっている場合も多く、そこからビジネスチャンスが発生する。私が、多くのCIOとパイプを持っていることがビジネスにつながることも多かった。米EMCも富士通にとっては優良な顧客でしたから、EMCのCIOとは旧知の仲です。「俺、EMC行くよ」と連絡したら驚いていましたよ(笑)。

 EMCジャパンでも、米国にいたときと同じ手法を取っているだけです。私は、すべての社員に「外に出てほしい」と言っています。営業だけが外に行くのでなく、法務も経理も、リース部門も、どんどん出ていって、外の空気を吸ってくれと。外の空気を吸うと、問題点がわかってくるんです。顧客の要求もわかる。それがEMCを強くすることにつながります。


―顧客、パートナーへの訪問でどんなことがわかりましたか。

諸星氏
 日本の顧客が求めている品質の高いサポートを提供できているかどうかという点での課題を感じました。現在、EMCが提供しているサポートレベルでは満足していないという声が出ています。プロセスを含めて見直しを図りたい。

 一方、パートナーに対しては、まだまだ当社からのメッセージが伝わり切れていないことを感じました。EMCは、もともと直販指向が強い会社なので、パートナーとの意志疎通に弱い部分があった。例えば、パートナーに対するインセンティブ制度が浸透しておらず、それが有効に利用されていない。これは早急に改善しなくてはならない課題です。10月1日付けで、組織変更を行いました。ここでは、直販中心の販売体制から、システムインテグレータおよびVARなどのパートナーとの連携によるビジネスモデルを、さらに推進していくことを打ち出した。高い営業スキルや営業経験を持っている人たちをパートナー支援とし、さらに今後増員を図っていきます。

 また、マーケティングに関しても、特定の製品だけでなく、サービスまでを含めた情報ライフサイクル全般をとらえた動き方へとシフトしていく。その体制づくりにも取り組みました。日本では、まだストレージの比重が高い。EMCが持つソフトウェア、サービスが紹介しきれていないし、それを展開できる体制もなかった。EMCは、「保護」、「保存」、「活用」、「最適化」という4つの分野において製品、サービスを取り揃えている。EMCが、競合ベンダーと本当の意味で差別化するには、ストレージだけにとどまらず、ソフトやサービスを含めた情報ライフサイクル全般での提案が必要。今後は、ここにリソース配分をしていく考えです。


―パートナーも増やしていくことになりますか。

諸星氏
 現在、約15社のパートナーがありますが、これを倍にしていきたい。ただし、単に増やすだけが目的でなく、もっと密接な関係を作っていきたい。パートナー戦略は、最重点課題だと肝に銘じています。


―就任3カ月で、かなり方向性が見えたようですね。

諸星氏
 この3カ月の間に、長期的に伸びていくためにはどういう会社にすべきか、そのためには顧客やパートナーとの関係をどうするか、といったことが見えてきました。また、プロセスをどう変えていくべきかも見えてきた。EMCジャパンとしての問題点が明らかになり、米本社に対してどんな要求をすべきかというのもわかってきた。これから、迅速に実行へとつなげていきます。富士通に比べると、事業のスピードは早いですが(笑)、まだ動きには遅いところがある。しばらくは睡眠時間を削って、それをカバーしなくてはならないかもしれません。


―就任会見では、「日本化」という言葉を使いました。これはどういうことを意味するのでしょうか。

諸星氏
 「日本化」というのは、日本に根付いた企業であるという意味です。製品開発は米国で行っているが、日本の顧客のことをしっかりと考えた製品やサービスが投入できる、日本の顧客が欲しいものを的確に投入できる、そして、サービスレベルについても、日本の顧客が要求するレベルに到達したものが提供できる。これを目指したい。

 組織づくりについても同じです。日本人が働きやすい環境を作り上げる必要がありますし、福利厚生や年金問題というところにもしっかりと対応していく。日本の企業には、ファミリーのような雰囲気があります。米国では難しい企業体質ですが、これをEMCジャパンのなかでは醸成していきたい。社員が運命共同体として、目標を達成していく会社にしたいですね。


―どこか手本とする企業はあるのですか。

諸星氏
 あえてあげるとすれば、日本IBMです。米国資本の企業でありながら、日本に根ざした企業として立脚しています。


―富士通出身の諸星社長から、日本IBMという名前が出てくるのは意外ですね。「日本IBMみたいになったね」と言われるのが、「日本化」のゴールではないですよね(笑)。

諸星氏
 面と向かってそう言われると、なかなかうなずけない部分はありますが(笑)、ある部分では、そう言われたときに、ひとつのゴールに到達したと判断できますよ。


―日本IBMが「日本的」だと言われる背景は、メインフレーム時代からの泥臭い直販営業スタイルであったり、研究開発拠点を日本に設置していたというような点も見逃せないと思いますが。

諸星氏
 泥臭い営業スタイルは、いまのEMCにも根付いていますよ。本当に泥臭い営業をやっている(笑)。それと研究開発拠点に関しては、いまは日本に設置するという具体的な計画はないにしても、上海とシンガポールの研究開発拠点に対して、日本からの要求を出すことが、これから増えていくでしょう。

 日本のユーザーは、新たなものに乗り換えるということに対しては慎重です。ミッションクリティカルのなかに、新たなマイクロコードを入れることを嫌う。その点が米国をはじめとする海外のユーザーとは異なります。このような日本のユーザー環境をとらえた提案もしていく。「あいつらは外資系だから、この程度しかやってくれないよ」と、日本のユーザーから言われるようではおしまいです。外資系と認識されないような企業になりたい。まぁ、EMCという横文字の社名ですから、なかなか難しいでしょうけど(笑)。


―EMCジャパンの社長を引き受けた理由はなんでしょうか。富士通にとっては、海外事業の成長が重要な課題となっている時期ですから、富士通でグローバル事業を担当する伊東千秋副社長からの慰留もあったと思われますが(笑)。

諸星氏
 富士通の現役役員が外資系企業のトップに異動する前例はありませんから、周りからは「なにがあったんだ」とよく聞かれるのですが、みなさんが思っているようなことはありませんよ(笑)。家族も、米国での生活が長いせいか(笑)、反対はありませんでした。ちなみに、富士通の伊東さんには、「申し訳ありません、こういうことになりましたので」と、ちゃんと断りを入れておきました(笑)。いまでも富士通の方々とはゴルフに行きますし、いろいろと情報交換をさせていただいています。鳴戸さん(道郎氏=元富士通副会長)にお話ししましたら、「思う存分やれ」と言われましたよ。

 EMCは、ビジョンとストラテジーがクリアな会社です。その点で、大変魅力を持ちましたし、積極的な買収戦略を外から見ていて、その方向性と将来性に興味がありました。外資系企業の日本法人社長は、本社における地位が低い場合が多い。だが、EMCは、米国本社の副社長として、世界で一緒に戦うことができるポジションを用意してくれた。これが、EMCジャパンの社長を引き受けた理由です。


―EMCは、情報インフラストラクチャ企業を標ぼうしていますが、米国に比べると、日本での製品ラインアップはまだ不十分だといえます。

諸星氏
 確かに、日本の市場に、EMCが持つすべての製品が紹介しきれているわけではありませんし、もっと積極的にやっていかなくてはならないと考えています。ここ数年で、多くの企業を買収していますから、それによって、日本への製品紹介が遅れているものもある。CMSやECMと呼ばれる領域は、今後成長すると言われながらも、依然として低迷したままです。当社がドキュメント/コンテンツ管理製品群をはじめとするソリューションを、しっかりと日本に紹介できていないという反省があります。この領域は、当社にとって、大きな差別化のポイントになりますから、製品を取り揃え、システムインテグレータと一緒になって、もっと積極的に提案していく必要がある。

 いまから1年後にはある程度の製品が揃い、それが2年後には、売り上げにも大きく貢献する。サービスも、より日本の顧客に密着したものが提供できる体制を目指します。米国では、ハードが40%、ソフトが40%、サービスなどで残り10%強という構成比率ですが、日本でも同様の構成比にしていく計画です。また、日本市場において、より戦略的な展開を進めるには、日本法人による独自の買収も視野に入れていく必要があるでしょう。


―買収については、すでに動き始めていますか。

諸星氏
 いや、まだ、具体的な案件はありません。しかし、ソフトウェア、製品、サービス、コンサルティングといった領域で、まだまだ強化していかなくはならない部分もありますし、日本に根ざした企業を目指す上では、買収もひとつの手法だといえます。1年後には、ソフトウェア事業の売上高は3倍規模にまで引き上げたい。そのための体制をしっかりと作っていく。まだ、日本では成長の余地が大きい。ストレージでは最低でシェア10%、ソフトでは最低でシェア15%を獲得する。顧客の声を聞き、パートナーとの協業関係を強化すれば、達成は難しい数字ではないと思っています。

 あと10月30日に、EMC forum 2007を開催します。ここで、EMCが提供する情報インフラストラクチャやソリューションの数々を見ることができます。ぜひ、会場に足を運んでいただきたいと思います。



URL
  EMCジャパン株式会社
  http://www.emc2.co.jp/


( 大河原 克行 )
2007/10/19 00:00

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