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富士通・山本常務、「4つのサーバーを持った上で競争力をいかに発揮するかが課題」


 ブレードサーバー市場における存在感を高めるとともに、PCサーバーやUNIXサーバー市場でも注目を集める富士通のサーバー事業。2008年度上期の折り返し点を迎え、さらに事業を加速させようとしている。メインフレームからPCサーバー、PCおよび携帯電話事業までを統括する山本正己経営執行役常務に、富士通のサーバー事業戦略を聞いた。


経営執行役常務 システムプロダクトビジネスグループ長の山本正己氏
―2008年度上期のサーバー事業の状況はどうですか。

山本氏
 製品ごとに、でこぼこはあるにしても、サーバー事業全体では、ほぼ前年並みで推移しているという状況です。その中でも好調なのは、ブレードサーバー。前年同期比20%増に達すると見ています。また、PCサーバーも前年同期比1けた増で推移しています。ブレードサーバーは他社に比べて出遅れが指摘されていますが、ようやく攻める体制が整ってきた。中でも、パートナーからの評価が高い。「売るための障壁が取れた」という声が聞かれています。


―売るための障壁とはなんですか?

山本氏
 これまでのブレードサーバーの導入では、SEへの負担が大きく、結果として、SEのパワーが足りずに、顧客の要望に応えきれなかったという反省がありました。富士通では、PCサーバーと同様に、中規模ブレードサーバーに「かんたんブレードセット」を用意し、バックアップやセキュリティなどの必要なコンポーネントを事前に接続検証し、ターンキーシステムとしてセット提供できる環境を整えました。つまり、SEパワーが足りないというパートナーの問題点を解消することができ、パートナー販売に弾みがつくようになった。ブレードサーバー市場における富士通のシェアは、すでに10%を超えるところにきています。もはや、出遅れ感は解消されつつあると考えています。下期には、この成果がさらに明確に出てくることになるでしょう。


―富士通のブレードサーバーの強みとはなんでしょうか。

山本氏
 「かんたん」というのは富士通のブレードサーバーの大きな強みとなっています。システム規模や用途に応じて、4つのかんたんセットを用意し、ユーザーがブレードサーバーのメリットを短期間に享受できる環境を整えた。それに加えて、高速伝送技術は、富士通の大きな強みです。先進の10Gbpsスイッチブレードを他社に先駆けてサポートしたのもそのひとつです。また、富士通が長年にわたり培ってきた高信頼性技術も、ブレードサーバーの世界に持ち込んだ。技術面での優位性が訴求できる材料がそろっています。


―2010年には、ブレードサーバーでトップシェアを獲得するという目標を掲げていますが?

山本氏
 20%以上がトップシェアの条件だとすれば、今後2年半、20%を超える成長率を維持していく必要があります。ブレードサーバーでは、ミッションクリティカルの領域、HPCの領域、そして、中小企業およびSOHO向けの市場がそれぞれ存在する。京都大学から受注した大規模クラスタシステムによる次期コンピュータシステムのような案件もあり、こうした実績もブレードサーバービジネスには大きな追い風になる。攻めていく準備は整ったと考えています。


―市場全体が厳しいPCサーバーにおける業績はどうですか。

山本氏
 全体的に良くないといわれる市場環境の中では、比較的良かった方ではないでしょうか。市場全体が前年割れの中で、1けた台前半の成長率ですから、ますまずの健闘ぶりです。中でも、いま注目されているのが、「PRIMERGY TX120」です。世界最小の設置面積を実現するとともに、静音性や省エネでも世界最高水準を実現している。これは日本市場を狙って投入したものですが、欧州でも高い人気を呼んでいる。思った以上に手応えを感じています。その一方で、コストパフォーマンスを追求した製品群でも成果があがっている。しかし、手綱を緩めるわけにはいきません。


―一方で、中型、大型サーバーの動きはどうでしょうか。基幹IAサーバーのPRIMEQUESTは、投入以来、富士通の想定通りには事業が推進されていないという感じがします。

山本氏
 ご指摘のように、ミッションクリティカルシステムの多くをIPFで置き換えていこうという方針の上では、思い通りの成果があがっているとはいえません。市場における認知度、理解度という点でも、必ずしも高いとはいえない状況です。残念ながら、私が見る限り、オープンサーバーに対する信頼性への理解がまだまだ低い。特に日本のユーザーは慎重なところがありますから、システムをドラスチックに変えるということが風土にあわないという背景もある。

 ただ、その一方で、Linuxに対する関心は日々高まりつつあることを感じます。データ互換さえ確保できればいいというような一定の領域であれば、オープン環境に移行してもいいのではないか、という考え方も出てきている。今年からエントリーモデルを新たに追加し、データセンター系でも導入を加速できるようにした。とにかく、この分野は富士通の強みが生かせる分野だと思っています。国内で信頼性の高いハードウェアを生産し、ミドルウェア、アプリケーション、システムインテグレーションまで一気通貫で提供できる。実際、日本市場向けのサーバーの開発は神奈川県川崎市の川崎工場で、生産は石川県かほく市の富士通ITプロダクツで行っています。コストと信頼性を両立できるのが富士通の強みだといえます。


SPARC Enterpriseの最新モデル、「SPARC Enterprise M9000」
―もうひとつの注目点は、SPARC Enterpriseへの取り組みですね。

山本氏
 周知のように、富士通とサン・マイクロシステムズの関係は、この2、3年で劇的に変化しました。ただ、この流れの中で、重要なポイントは、Solarisがサンによって継続的に提供される環境が整ったことです。つい最近まで、富士通にとっても、PRIMEPOWERを今後継続的に提供することができるのかどうか、という点は大きな課題でもあった。これが不安となって、営業部門もPRIMEPOWERを積極的に売ることができないという状況にあったのは事実です。しかし、3年後、5年後はどうなるか、という回答が明確に出た。サンと富士通が役割分担を明らかにし、その上で、富士通がSPARC Enterpriseのラインアップを広げながら、事業を拡大していくことが可能になったからです。この安心感から、PRIMEPOWERからSPARC Enterpriseへのリプレース案件も増えている。また、Sun FireとPRIMEPOWERのラインを統合することで、部材調達面でのメリットも出ています。今後は、ますますコスト競争力が高まっていくでしょう。


―この分野は「攻め」ですか、「守り」ですか。

山本氏
 どちらかというと、「守り」が重視されます。まずは、Solarisに対する安心感を再認識してもらう必要がありますし、日本HPやNECからの「攻め」に対して、「守る」必要がある。ただ一方で、グローバル展開を考えれば、「攻め」ととらえることもできる。北米では、サンが中心となって事業を展開していきますから、それに向けた、当社のビジネス拡大も見込める。現時点では、事業そのものは横ばいという状況ですが、グローバル戦略の中で拡大させたいと考えています。


―メインフレームのGSシリーズに関してはどうですか?

山本氏
 確かに、市場全体では、前年割れで推移する状況には変わりません。しかし、富士通は、2015年まで、CPUのエンハンスを続けるということを明らかにし、OS、ミドルウェアも継続的に進化させている。顧客を中心に事業を考える富士通にとって、メインフレームをやめるという判断はありません。


―一方で、グローバル戦略がこれからのサーバー事業の成長には大きな柱になりますね。

山本氏
 富士通にとって、グローバル化は、今後の事業拡大に向けた重要なキーワードであることには間違いありません。サーバー事業においても同様に、グローバル化は重要な戦略です。米国ではSI部門の強化によって、ソリューションとして戦っていく体制が整った。また、欧州でも富士通サービスが軸になって善戦している。ストレージのETERNUSも数字が伸びています。


―富士通には、PCサーバーのPRIMERGY、UNIXサーバーのSPARC Enterprise、基幹IAサーバーのPRIMEQUEST、メインフレームであるGSシリーズ、の4種類のサーバーラインがあります。それに加えて、ブレードサーバーもある。これが、グローバル戦略を推進する上で、コスト競争力におけるデメリットとはなりませんか。

山本氏
 富士通は、これからも顧客の資産を守るという姿勢には変わりがありません。つまり、4つのサーバー製品を継続的に提供しつづけるという姿勢はこれまでも、これからも変わらない。その中で、PCサーバーはコストパフォーマンスを武器に、IAサーバーやUNIXサーバーは信頼性を武器に戦っていく。もちろん、サーバーラインが複数あることで、開発、生産、調達に関するリソースが分散し、量産効果が発揮しにくいということもあるでしょう。だが、4つのサーバー製品を持った上で、いかに競争力を発揮するかということが、富士通が取り組むべき課題なのです。


―その点では、どんなことを考えていますか。

山本氏
 そのひとつの取り組みが部品の共通化だといえます。すでに、筐体の一部や電源部分などで、共通化への取り組みを開始しており、約10%の部品が共通化しています。これをさらに推し進め、2010年をめどに、SPARC EnterpriseとPRIMEQUESTの部品の共通率を50%にまで引き上げたいと考えています。共通化は、CPU以外の部分であらゆる面から模索していきたい。グローバルで戦うという点からも、共通化は避けては通れない取り組みだと考えています。


―ところで欧州市場においては、独シーメンスと共同出資している富士通シーメンスから、シーメンスが資本を引き上げるのではないかとの見方が出ていますが。

山本氏
 富士通シーメンスは、富士通とシーメンスが、それぞれ50:50の割合で出資した会社で、設立から10年を経過する2009年10月には契約が切れます。それに向けて、検討をしている段階です。


―富士通にとっては、欧州での事業を拡大する上で、重要な地盤を築いている会社ですから、シーメンスのブランドがなくなるだけでもダメージは大きいですね。

山本氏
 まだシーメンスの決定が発表されたわけではありませんので、なんともいえません。ただ、富士通として最良の選択になるように検討を重ねていきます。


―今年6月からの野副社長体制になり、前任の黒川社長時代に比べて、「ソフト、サービス」といった言葉が前面に出ています。ソフト重視路線が進展するのでしょうか。

山本氏
 いえ、そうとは考えていません。富士通は、ソフト、サービスだけを提供する会社ではなく、「ソフト・サービス」と「プロダクト」の両輪を提供する会社です。この両輪を活用することで、成長を遂げていくことになる。富士通は、ハードとソフト、サービスのすべてのモノづくりを自前でできるというのが特徴です。IT分野においては、両方をやって、初めて「モノづくりの会社」ということができる。


―2009年度の営業利益率5%という目標に向けては、プロダクト部門の寄与が鍵になりそうですね。

山本氏
 テクノロジーソリューションという領域で見ればむしろそれを上回る数字を視野に入れています。むしろ、課題は、PCや携帯電話、HDDなどのユビキタスソリューション事業ですね。これらの分野でいかに収益性を高めるかに、知恵を絞る必要があります。


―2007年実績では、サーバー事業では国内トップシェアでした。2008年はどうなりますか。

山本氏
 前半はトップシェアではなかったが、富士通は後半偏重型ですから(笑)、通期ではトップシェアを狙っていきます。下期の重点ポイントは、中小企業およびSOHO市場向けのPCサーバーの事業強化になります。ここはパートナーとの協業が重要となる。その一環として、FIPやFsasとの連携によって、パートナーが販売しやすい環境を確立しています。インフラ工業化という言い方をしていますが、顧客のもとにパートナー企業とFsasなどが一緒に出向き、必要とされるシステム構成をインフラから含めて提案し、短期間にシステムを構築できる仕組みです。これも、富士通のサーバー事業の拡大に効果を発揮することになるでしょう。今年も、サーバー事業におけるシェアナンバーワンはなんとしても確保したいと考えています。



URL
  富士通株式会社
  http://jp.fujitsu.com/

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( 大河原 克行 )
2008/10/01 00:00

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