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インテル吉田社長、「新技術で実現できる変化を提供するのがインテルの役割」


 厳しい経済環境の中でスタートした2009年。IT投資も厳しくなるとの見方もあるが、インテルの吉田和正社長は、「環境がよくなってから準備したのでは遅い。環境がよくなる前から準備を進めた企業こそ、環境が好転した際にいち早く攻めに転じることができる」と指摘する。そして企業に対し、「現在提供されているテクノロジーのパワーをフルに生かしたROIの高いシステムであるか、見直すことが重要」と提言する。


電力効率アップを実現した新テクノロジーが新たな需要を実現

代表取締役社長の吉田和正氏
―まず、2008年を総括するところから伺いたいのですが。エンタープライズ分野に関してはどんなトピックがあった年だったでしょうか。

吉田氏
 インテルにとっては、非常によい年だったといえると思います。

 企業の皆さんがノートPCを活用するための進化がさらに進んだ年となったと思います。性能の向上と電力効率アップという進化の流れは、2006年、2007年から大きく変わったわけではありません。しかし、2008年7月にリリースしたCentrino 2によって、これまではデスクトップ、サーバーで実現していた地球に優しく、なおかつ高性能というメリットがノートパソコンでも実現できるようになった。これは大きな出来事だったと思います。

 サーバーに関しても需要が大幅に増大しています。インターネット上のサービス、アプリケーションが増加してきたことで、データセンターなどサーバーを必要とする場面が生み出されているのです。

 サーバー向けにリリースしたXeon 7400シリーズは、45nmプロセスで製造され、最大6コアを内蔵したマルチプロセッササーバー向けのCPUです。電力効率のよいサーバーシステム構築が可能となります。また、おかげさまでXeonは、経済産業省の「グリーンITアワード2008」の商務情報政策局長賞を受賞しました。プロセッサのような部品の受賞は初めてということで、大変光栄なことだと思っています。ICTをうまく活用することで、地球に優しく、温暖化対策を実現することを評価されてのことだと思います。


―確かに2008年は、グリーンITという概念が普及し、ハードウェア買い換えの際に消費電力を考慮するという企業も出てきたと思います。ただし、これだけ経済環境が厳しくなると、現実的にはハードウェアの買い換えサイクル延長を検討する企業が増えていることも事実だと思います。

吉田氏
 消費電力効率アップということは、実はコスト削減に大きく寄与するのです。例えば、最新のCentrino 2に搭載されているパワーマネージメント機能が搭載されているものは、搭載されていないものに比べ消費電力は2分の1になります。パワーマネージメント機能は、消費電力だけでなく、セキュリティ管理という観点でも大きなメリットがあります。業務時間外の夜にセキュリティアップデートを行うことができれば、業務効率という点でもプラスになります。ところが、企業に置かれているパソコンは、夜は電源を切っているものが多い。パワーマネージメント機能を搭載しているものであれば、電源が切れていてもアップデートを行うことが可能になります。

 2008年に第三世代をリリースしたvPro搭載のパソコンを使えば、運用管理機能が大幅に向上し、利用形態を変えることなく、管理が強化され、IT管理者の管理負荷を減らしながら生産性、電力効率アップにつながります。

 これは2009年になっても変わらない方向性です。最新技術を搭載したパソコンを利用することで電力効率は、必ず向上していきます。


―日本法人は10月1日付けで、2人で社長の職務を遂行する代表取締役共同社長体制から、吉田社長が1人で社長を務める体制となりました。この体制変更による影響は?

吉田氏
 2人でやっていた業務を私1人でこなさなければいけなくなったわけですから、随分大きな変化がありました。


―失礼ながら、外部から見ているとそれほど大きな変化はないのかと思っていました。

吉田氏
 私の海外出張の時間が多くなったことで、ローカルで使う時間が少なくなりました。その分、日本法人のスタッフに権限を委譲するスタッフの業務見直しを行っています。社員一人一人の業務内容という点では大きな変化があったと思います。


現実的な技術を使いこなしているのか見直すことから始めるべき

―次に2009年のビジネス展望を伺いたいのですが、世界的に経済環境が厳しく、IT投資についても影響が多いといわれています。

吉田氏
 確かに2009年を展望するのは難しい側面もあります。経済環境を見れば、ご指摘の通り明るい話題は少ない。だからこそ、インテルとしてはきちんとプロモーションを行い、新しいテクノロジーを出していることをアピールしていく必要があると思います。

 インテルの役割というのは、きっかけを与えることだと思うんです。新しい技術を正しく位置づけ、アピールしていく。経済環境が悪い中でも、スローダウンすることなく、むしろ今まで以上に新しい技術とこれを利用することのメリットを伝えていく義務があると思っています。

 これまでの経験から考えても、不況が永遠に続くわけではありません。むしろ、企業というものは不況の時期だからこそ、『自分たちはどう差別化していくべきか』を真剣に考えるものです。そしてどこかの時期に、何かをきっかけにして先を読み、他社に先駆けて新しいことをやる体制を作ることが望ましい。不況が明けた時期に他社をリードしている企業というのは、状況が好転してから変化するのではなく、不況の時期に次の展開を準備しているものです。その際のサポートを、IT側からどう行っていくのか、新しい提案をきちんと行うことが重要だと思います。


―コンピュータ業界の新しいトレンドとして、クラウドコンピューティングに注目が集まっています。クラウドコンピューティングが具現化すると、これまでのように企業にサーバーを置くのではなくデータセンターにサーバーを置くようになり、クライアント側も従来のようにハイスペックのパソコンは必要なくなるという見方があります。クラウドコンピューティングの普及は、インテルのビジネスに大きな影響を与えるのではないですか?

吉田氏
 2009年、クラウドコンピューティングが普及し、一挙に現在のコンピュータ環境が変わるということには、まだならないと思います。クラウドコンピューティングが普及し、社内システムにおけるインターネットの役割がますます高まっていくことにはなるでしょうが、明日から急にそうなるということではなく、あくまでも徐々に進展していくということだと思うんです。

 それではインテルとしては、お客さまにどんなメッセージを伝えるべきなのか。われわれは、「身近でできることはまだまだたくさんあります。まず、そこから目を向けましょう」とお伝えしたい。まず、すでに形になっていることを先にやって結果を示すべきだと思うのです。

 インテルはこれまでにも新しいコンピューティング環境を実現するテクノロジーを提供し、着実に結果を出してきました。先ほどご紹介した省電力、生産性向上といった要件もそうですし、複雑なデータを処理する処理能力を持ったCPU、高集積化した小型のサーバー用プラットフォームや仮想化のためのテクノロジーを商品として提供しています。

 最近ではコンピューティングパワーが余っていて、仮想化のようにサーバーを集約して効率化するテクノロジーが登場していますから、一時的にはサーバーの出荷台数が減ることもあるでしょう。

 ただ、これでサーバーはもう必要ないということではないと思うんです。今後、ますますサーバーのパワーが必要となっていくでしょう。

 そこに向けて仮想化技術はもっと導入が進む必要があるでしょうし、2009年前半に登場予定の「Core i7」を搭載したサーバーによって、低消費電力、省スペースといったトレンドがますます加速していくことになるでしょう。


―実現していない新しいトレンドも重要ですが、まず現在あるテクノロジーをフルに生かしているのか、見直すというのは、経済環境が厳しい時期に適した提案ですね。

吉田氏
 インテルは、コンセプトを提示するのではなく、きちんと結果を出して、実現していくことを大事にしている企業です。ロードマップを提示することが仕事ではありません。結果を出すことが使命です。

 その中で、2009年に何をするべきか。2009年は、会社として解決しなければならないさまざまな問題に直面しなければならない年だと思います。どう雇用を確保するのかは、社会的に重要な課題でしょう。ただ、その一方で、「社員一人一人の生産性」という点についても、もっとシビアに目を向けなければなりません。この点をあいまいにしたままでは、経営状況は厳しくなる一方でしょう。これまでは顕在化していなかった部分もきちんと見える化して、管理し、結果の出るIT、ROI(return on investment)の高いシステムにシフトしていくことが重要だと思います。


ネットブック搭載のAtomは新市場を創造した

―2008年に登場し大ヒットとなったネットブックですが、一部、誤解もあるように思います。これまでのパソコンと同等の機能を持った安価なパソコンととらえられてしまっているようですが。

吉田氏
 ネットブックというのは、携帯電話とパソコンしかなかったところに新しいカテゴリーの商品を提供することを目的としたものです。PDAもありましたが、広く定着したとはいえない状況です。そこにネットブックという新しいカテゴリーの製品を生み出すことができました。

 ネットブックに搭載されているAtomは、小さく、低消費電力で、これまでのインテル製品とは違う展開を目的とした戦略商品です。ネットブックがこれだけ受け入れられ、携帯電話とパソコンに加え、新しい選択肢を提供するという、ミッション1は果たすことができました。


―先ほど話題にあがったクラウドコンピューティングやSaaSの場合、パソコンを購入せず、ネットブックで十分だと考える企業が増えるのではないですか? そうなると、パソコンの売り上げ減となるのでは?

吉田氏
 Celeronのようなプロセッサを販売していれば、真剣に競合を悩まなければならないと思いますが、Centrino 2とAtomは競合せず、すみ分けできると思いますよ。例えるなら、卓上掃除機と普通の掃除機の違いのようなものでしょうか。卓上掃除機は机の上のように限られたスペースを掃除するのには適していますが、広い床を掃除するには向いていない。ネットブックも手軽にメールを確認する、ちょっと調べ物をするといった使い方には適していますが、高い解像度が必要な業務には向いていないし、音楽や重たいファイルを処理するのには向いていません。すみ分けはきちんとできていると思います。

 クラウドコンピューティング用のクライアントというのは、これまで存在していなかった新市場といえます。まさにAtomが狙っていた新市場の創造という点では狙いに合致するわけです。パソコンをリプレースするものではないと思います。

 ただ、ご指摘のように、その違いがまだまだきちんと伝わっていないことは反省しています。それぞれの特性をきちんとアピールしていくことが必要だと思います。


テクノロジー生かす社会的に影響ある仕掛け作りには時間も必要

―Atomとまではいかなくとも、「企業用クライアントのプロセッサは、現行製品のパワーで十分だ」という声もあります。サーバーであれば、Core i7のパワーの必要性は理解できるのですが、クライアントという点ではいかがでしょうか。

吉田氏
 これまでインテルが提供してきたように、以前は実現できなかったことを実現させていきます。例えばバーチャリゼーションといったことは、プロセッサパワーがなければ実現できませんでした。

 Core i7ではどんなことを実現するのか。例えば、これまでのように1M bps程度の通信であればCore i7のパワーは必要ないかもしれません。しかし、WiMAXのような広帯域通信が実現すると、ストリーミングのような大容量データを通信で利用する場合、Core i7ではメモリコントローラーがCPUに内蔵され、しかもマルチタスク処理ですから、これまでになかった効率のよい処理が可能となります。最適なアプリケーションが登場する前から、Core i7の価値を認めてもらうことができるでしょう。

 ただ、それでは最適なアプリケーションは必要ないのかといえば決してそうではありません。新しいテクノロジーを生かすアプリケーションを開発してくれるベンダーとのエコシステムはきちんと作り上げていきます。従来に比べ、新しいテクノロジーを生かすための仕掛け作りが、以前よりも複雑になってきていますので、なかなか簡単にはいかない。その状況を変えるべく、組織レベルでのエコシステム構築のためのグループをインテル社内に2003年に構築し、それから年月がたってようやく成果が出てきました。


―やはり、新しいテクノロジーが登場したからそこに合わせて仕掛けを作るのでは間に合わないということですね。

吉田氏
 これからは、キャリア、ソフトメーカーなど従来のパートナーだけでなく、社会の基盤となるような仕掛けを作らないといけないと思っています。しかし、社会に影響があるような仕掛けを作るとなると、やはり3年くらいかけて準備をしないと駄目ですね。例えば、日本で地デジが登場し、これまで何回もできていたダビングが一回しかできなくなるコピーワンスという制度が導入される。消費者には大きな不便を強いるこの制度に対して、なんとか規律にのっとった自由を確保しなければならない。管轄の省庁や、権利団体などとの連携も必要になるわけです。ようやく、時間をかけてダビング10という制度ができて、パソコンでもダビングが可能となる。先手、先手で動いていかなければならない仕掛けが増えていますね。


―しかも、コピーワンスのように日本独自の仕組みは、アメリカ本社には理解してもらいにくいでしょう。

吉田氏
 インテルのような企業は、戦略はグローバルでも業務遂行体制は日本に合わせて行うことが基本ですから(笑)。


―そろそろ、最後になりますが2009年のインテルの目標を教えてください。

吉田氏
 2009年はCore 2 Duoから新しいアーキテクチャーへ進化する年となります。新しいテクノロジーを活用することで、企業の皆さまはいち早く競合他社との差別化を生むチャンスとなります。

 モバイルに関しても、利用形態が大きく変わります。WiMAXサービスも始まりますから、これを活用することで新しいモビリティの可能性が見えてくると思います。

 Atomについても、システム・オン・チップ化されることで新しい機器が誕生するきっかけとなることでしょう。Atom=ネットブックと考えられている方もいるかもしれませんが、ネットブックはあくまでもAtomのワン・オブ・ゼムにすぎません。ネットトップや家庭向けMIDのような新しい製品が登場してくることになるでしょう。こうした新しい機器にいち早く取り組んでいくことで、新しい市場が生まれ、日本だけでなくグローバル展開を行うことができる可能性だってある。その点では2009年は新しい飛躍に向けた楽しみな年といえます。

 微細化技術も45nmから32nmとなり、さらなる高性能化、低消費電力化が2009年の終わりごろから見えてくることでしょう。45nmではできなかった、スマートフォン用Atomといったものも実現する可能性があります。

 こうした新しいものが、既存のものをリプレースするのではなく、新しい市場を作り上げていくことがインテルの最大の目標だといえます。既存のものはすでにパイが決まっていますが、新市場を創造することが最も重要です。

 そういう意味で、2009年というのはインテルにとってやることが多い1年になりそうです。



URL
  インテル株式会社
  http://www.intel.co.jp/


( 三浦 優子 )
2009/01/05 08:44

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