日本オラクルの社長兼最高経営責任者に遠藤隆雄氏が就任してから、間もなく3四半期(9カ月)を経過しようとしている。社長就任会見では、遠藤社長体制による日本オラクルの位置づけを「第2巻」という言葉で表現。データベースを中心とした企業から、SOAプラットフォームやビジネスアプリケーション分野にも力を注いでいく姿勢を示した。また、この間、「Oracle Exadata」によるハードウェアビジネスにも参入。厳しい経営環境にもかかわらず、同事業の出足の良さを見せつけている。あわせてパートナービジネスの強化にも取り組み、中堅・中小企業に向けた施策強化にも余念がない。遠藤社長に、厳しい経済環境下における、日本オラクルの取り組みを聞いた。
■ パートナーに依存するのではなく、共存共栄を目指す
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日本オラクル 社長兼最高経営責任者の遠藤隆雄氏
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―社長就任から約9カ月。この間、どんなことに取り組んできましたか。
遠藤氏
今の状況は、就任したのがいつであったのかを忘れるぐらいの激しい変化ですからね(笑)。この9カ月間を振り返ると、まるで9年間を経過したような気分ですよ。就任時点で話したことがどうであったか、という自己評価よりも、むしろ、今をどうするかという方が重要な要素となっています。日本オラクルに来て、私自身変わったのは、業界におけるお付き合いが広がったという点でしょうね。これこそがソフト事業を生業としている、日本オラクルのビジネスモデル。1社でビジネスをやるのではなく、IT業界のパートナーとともにビジネスをやる中で、ソフトにさまざまなものを付加し、ソリューションにしてビジネスとして成り立たせる。その点では、パートナーシップが基本戦略の中心にあります。
ただ、誤解してはいけないのは、日本オラクルがやっているのは、パートナーに依存するビジネスではないということです。これは社員の中にも誤解している部分があるが、パートナーにお願いしている、あるいは、パートナーが前面に出て、当社が後ろにいるというビジネスモデルではいけないんです。「依存」ではなくて、「共存共栄」。パートナーの事業戦略と、当社の事業戦略は、それぞれに別個のものがあり、それが相乗効果を生み、ユーザーにメリットを享受できるという仕組みでなくてはならない。もう少し緊張感を持った、パートナーとのチームワークが必要だと感じています。
―遠藤社長がそこにあえて触れるのは、課題だと感じる事象があったのですか。
遠藤氏
これまでは、パートナーへの「依存」がちょっと強かったかな、という印象がある。これを売ってもらうようにお願いしようとか、パートナーの技術力を高めてもらおうとか、当社自身が少し後ろに下がった立場での話が多かった。もう少し、日本オラクルの良さを市場に出す仕組みにしたいんです。ただ、こういうと、当社はパートナーを無視して自分たちでやってしまうのではという誤解を招きがちになる。正しく日本オラクルの価値を認識していただき、その上でパートナーと一緒にビジネスをやる。最後の「パートナーと一緒にビジネスをやる」ということが抜けていては駄目なんです。
―その、パートナーと共存共栄で取り組む体制は出来上がったのでしょうか?
遠藤氏
まずは社員の意識から変えることに取り組みましたが、それを加速するために、昨年10月1日に体制も変えました。もう少し、お客さま視点で動けるようにし、当社のスキルも高める努力をしている。まだまだ変化の過程にありますが、私は、この点については、しつこく言っていますから、早く成果が出てくると期待しています。
私は、年初から「礎」という言葉を使っています。厳しい時代は、原点に返ることが大切です。では、原点とはなにか。それは、お客さまと社員です。会社が存在しているのは、お客さまから仕事をいただいているわけですし、そこで収益を出せるのは社員のおかげです。この2つに回帰することが必要。まずは、お客さま視点で活動しよう、お客さま志向で仕事をしよう、と。
ただ、掛け声だけでは活動にはつながらない。そこで、センス・アンド・レスポンドという言葉を用いて、社員への徹底を図っています。センスとは、お客さまの経営戦略、経営課題、経営上の悩みを、正しく、タイムリーにきっちりと理解する。前線の営業は、お客さまの課題や悩みを、アンテナを高くして察知する。これは結構難しいことなんです。ですから、社員には、もっともっとスキルを磨けといっています。
一方、レスポンドは、グローバルを含めたトータルオラクルバリューによって、解決策を価値として提供するものとなります。コンサルティング部隊、開発部隊の力を借りながら、提案としてまとめていく必要がある。いわば、オーガナイザーとしての力、オーケストラの指揮者のようにまとめていく役割が必要です。データベースだけのビジネスだったら、ここまでは必要ない。だが、今の当社の製品群を見ると、こうした役割こそが重要になってくる。まずはセンスありきで、それにレスポンドが続く。これが、今の日本オラクルが追求しなくてはならない原点であると。
言い方を変えると、スペシャリゼーションと、インテグレーション。そして、ローカリゼーションとグローバリゼーションという、2面を持った体制作りということになります。
スペシャリゼーションというのは、特化したスキルを身につけること。これによって、ソリューションの価値や提案力を高めていく。一方で、インテグレーションとは、スキルを身につけた人たちがワンチームとなって、お客さまに対して、シングルインターフェイスで対応する。いわば、インテグレーション@カスタマという考え方です。また、ローカリゼーションという日本の顧客に密着した提案と、グローバリゼーションによる全世界のOracleの力を活用した提案も推進する。「or」ではなくは、「and」になって、初めて価値が出るんです。
■ 日本オラクルの強さは「トータルな品ぞろえ」と「オープン」
―経済環境が悪化する中、日本オラクルの強みをどこで発揮しますか。
遠藤氏
未曾有の経済危機といわれる中で、経営者にとっての一番の問題は、不確実性であること、不透明であることなんです。変化が激しい中で、底はどこか、どこから立ち上がるのか、それが見えない。過去の経営は「KKDU」でした。経験と勘と度胸、そして、運(笑)。豊富な経験をもとに、鋭い感性、感覚で、すばやく決断し、結果は運次第。ここにリーダーシップがあった。
ところが、100年に一度の経済危機といわれるわけですから、100年前には誰も生きていない(笑)。まず経験が通用しない。経験だけでは、今の状況を判断することは不可能なのです。経験プラスαが必要となる。そのプラスαが「情報」です。市場の動き、競合の動き、顧客の趣向変化、顧客の経営環境の変化、グローバルマーケットの動き、金融市場の動き、在庫、サプライヤー、パートナーの動きといった、さまざまな動きを総合的に判断しながら次の一手を考えなくてはいけない。だが、情報ははんらんしています。多くの経営者が、情報を必ずしもうまく活用できていない。この時代には、経験に加えて、こうした「情報」を活用することが大切であり、そのために必要なのがITということになる。
ここ数年、「見える化」が叫ばれていますが、今こそ、ITの力で不透明な世界を見える化し、すばやく反応しなくてはならない。経営者には、ITを活用し、情報を活用し、次の一手を打ってほしい。そうしなければ、方針を誤りますよ。当社では、アプリケーションパッケージ、ミドルウェア、ITコンポーネントをすべて持ち、それをトータルで提供できる。そこに強みがある。そして、それらが、すべてオープンである。これが日本オラクルのコアですし、強みです。
―一方で、選択肢が多すぎるというきらいがありませんか。
遠藤氏
業界やユーザーにとって、求める要素が違いますから、PeopleSoftのHR(人事システム)がいいというお客さまもいれば、Oracle EBS(E-Business Suite)のHRがいいというお客さまもいる。この時代に、これだけの選択肢を用意できることは、むしろ強みだと考えています。もちろん、環境の変化が激しいですから、これが弱みにならないように注意しなくてはならない。いずれはどこかに集中した方がいいとは思っていますが、今は選択肢の多さを強みとしてとらえています。
また提案の中では、今後、ソリューションとしてのつながりを、シナリオ化することを考えています。例えば、営業からサプライチェーンにつながるところは、SiebelからOracle CRM on Demandにつないで、Oracle EBSのSCMにつないでいくということができる。異なる製品同士をつなげて、ゴルフでいえば、スムーズなスイングができるようにして提案したい。提案する社員、パートナーによって、内容がぎこちなくなるのは良くない。そこで、一度「型」にはめてしまおうというわけです。このソリューションであれば、このパターンというように、型にはめた業界ごとのシナリオを作ろうと考えています。これらをセールスプログラムと称しています。
いろんな組み合わせに対して、苦労しながらチャレンジするのは面白いかもしれないが、それ以上に、特定のシナリオでバリューを高めていく方が、今は重要だと思っています。一方で、提案内容の品質をあげるためのクオリティ・アシュアランスの強化にも取り組みも始めています。
―この厳しい経済環境の中で、ユーザー企業の経営者の関心はどんなところにありますか。
遠藤氏
ここにきて、BIや経営シミュレーション、営業システムとのリンク、市場からの情報をタイムリーに入手するセールス&オペレーションの領域での引き合いが増えています。営業改革は高い関心がありますよ。過去を振り返ると、経営者のフォーカスエリアには、変遷があります。2000年前半まで注目されていたのが、コスト削減。生産性向上とか、ビジネスプロセスの改革といった提案が注目を集めていた。ところが、2005年ごろからは、成長戦略がもてはやされてきた。新たな事業の創出といった動きがその代表的なものですね。そして、私が今感じているのは「本業回帰」に取り組む経営者が増えているということです。自分たちのコア事業を強化することにフォーカスし、投資しようとしている。
それと、もうひとつは、経営者の判断を支援することが、本当の意味で必要な時代になった。もちろん、これまでにも同じことは言われてきたが、少し前までの実態は、経営者にとっては、「ITなんて、余計なお世話」でしかなかった。それが、今は、経営者自らが、ITのサポートが必要だと思い始めている。これは大きな変化です。
KKDU(経験、勘、度胸、運)の中に、ITの「I」が加わってくる。経験には情報が加わり、勘にはアナリティック(分析)が加わる。度胸や運に、ITを組み合わせるのは難しいかもしれないですが(笑)。そうした時代が本当にやってきたと思っています。
■ 今だからこそ生きる初のハードウェア「Oracle Exadata」
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Oracle Exadataファミリの中核製品「HP Oracle Database Machine」
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―一方で、日本オラクルのプロダクトの中で、今、一番気になるのはOracle Exadataへの取り組みです。事業の進ちょくはどうですか?
遠藤氏
Oracle Exadataは大量の案件をいただき、うれしい悲鳴をあげています。反響はすばらしくいい。こうした経済環境の中では異例の動きともいえますが、裏を返せば、今だからこそ、さまざまな情報を活用し、分析したいという要求が高まっている。これは、まさに、Oracle Exadataが主戦場とする分野であり、BIとOracle Exadataの組み合わせが注目されている。経験に情報を加え、勘にアナリティックを加えるというのは、Oracle ExadataとBIとの組み合わせが最適解となる。個人ユーザーを対象にビジネスをしている企業は、膨大なデータを持っています。どこの地域で、どんなものが売れているのかを的確に分析し、しかも、それを瞬間、瞬間の状況で見たいという要求が出ている。全件ソート、全件マージみたいな使い方が出ているんです。そうなると、Oracle Exadataでないとパフォーマンスが出ない。
Oracle Exadataで問題をあげるとすれば、検証やベンチマークといったテスト環境が追いつかないこと。青山のオラクルタワー(本社)9階に米国から持ち込んだマシンと、日本ヒューレット・パッカードから借りたマシンを設置しているが、検証センターの稼働率は100%。待ち行列ができている。増設したいとは思っているが、それに対応できる人材確保の問題もある。今後は、パートナーとの協業によって、検証を行える環境を増やしていきたいと考えています。
―別の観点として、Oracle On Demandのビジネスも注目されますが。
遠藤氏
IT投資が抑制される中、競争力を高めるためにはIT投資は不可欠と言われる。その中で、まずは小さく始めたいという要望があります。そのソリューションとして注目を集めているのがOracle On Demandです。大手企業に加え、中堅・中小企業からの引き合いも多いですね。また、Oracle On Demandで検討を開始したものの、結果としては、システム導入するという例もあり、ドアオープナーとしての役割も果たしている。日本オラクルがこれまで手が届かなかったユーザー層を開拓しているともいえます。
―これまで日本オラクルでは、何度も中小企業へのアプローチを行ってきましたが、しかし、なかなか成果が出ません。この点ではなにか施策を考えていますか。
遠藤氏
中小企業向けビジネスのやり方が悪かったという反省があります。仕組みを作ったがうまく機能していない部分もあった。これを改善しました。その点では、Oracle On Demandもひとつの武器にはなると思います。また、中小企業向けソリューションは、ターンキーになりますから、会計や人事を含めたワンソリューション型の手法も強化していきます。
■ 「大変」と「ワクワク」が同居する局面
―具体的には、どこに反省点がありましたか。
遠藤氏
中小企業向けには、ビジネスパートナーと、Oracle Directを活用した提案方法がある。これがうまく活用できていなかった。特に、そのプロセスに納得がいかない部分があった。最初の顧客獲得のところをお客さま訪問でやっていたものだから、カバー範囲が少ない。これを、間口を広げて顧客を得られるようにしなくてはならない。ここをもっとプロアクティブにしていこうと。そこで得た広い案件から、パートナーにお願いするものと、Oracle Directを活用するものとに切り分けて提案活動をしていく。これが、やっと納得いくレベルまでこぎ着けたという段階です。中小企業向けには、淡々と当たり前のことをやるのが大切。まだまだメッセージも十分とはいえませんから、これから発信も増やしたいと思っています。
―サービス事業も着実に業績を拡大していますね。
遠藤氏
ここも淡々と、そして、着実に増やしかなくてはいけない領域です。ここでは、アプリケーションのコンサルティングビジネスの強化として、経営の視点に立った形でのコンサルティング、いわば、経営コンサルティングを行える部隊を組織化しました。まだ数人の体制ですし、具体的に予算をつけているわけではありません。まずは始めてみて、成果が出れば増員し、明確な予算もつけていきたいと考えています。
―今後半年間の重点課題はなんでしょうか。
遠藤氏
やはり、Oracle Exadataがひとつのポイントです。これが収益のけん引役になります。ますます積極的にやっていきたい。もうひとつは、営業改革をはじめとする、今の旬ともいえるソリューション、連携型経営の提案、BIの提案など、経営者の悩みを解決することに直結するソリューションに力を注ぎたい。これを軸にして、業界ごとの特性に応じて対応していくことになる。社内に対しては、「センス・オブ・アージェンシー」、「お客さま指向」、「チームワーク」ということをしつこく言っています。これが日本オラクルのバリューの発揮につながるからです。
―遠藤社長の得意な「囲碁」に当てはめて、今の状況をたとえると、どういう局面にあると思われますか(笑)?
遠藤
なかなかこういう局面は囲碁でもありませんね(笑)。混沌(こんとん)とした状況であり、あちこちに危なそうな石がたくさんあり、怖い状況にある。ただ、一部には、Oracle Exadataのようなワクワクするところもある。大変なところとワクワクするところを抱え、どちらも大事な一手が求められている。そんな感じでしょうか。いずれにしろ、持久戦となっていることには間違いないですね。
■ URL
日本オラクル株式会社
http://www.oracle.co.jp/
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