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デル・メリット社長、「経済環境の悪化はオープンシステムのデルにチャンス」


 2月から新年度に突入したデルが、事業拡大に向けて新たな取り組みを開始した。日本法人を率いるジム・メリット社長は、「ソリューション」が新年度の重要なキーワードになると語る。4月1日からは、第11世代となる新サーバーや、新たなサービスを投入したほか、4つのグローバルビジネスユニットによる、顧客ごとにフォーカスした展開も加速することになる。新年度の取り組みや、グローバルビジネスユニットの狙い、日本における事業拡大などについて、デル株式会社代表取締役社長であり、日本/アジア太平洋地域のラージエンタープライズ事業担当を兼務するジム・メリット氏に話を聞いた。


代表取締役社長のジム・メリット氏
―1月末締めとなる昨年度の日本におけるデルの業績について、どう自己評価していますか。

メリット氏
 世界的にIT投資意欲が減少する傾向はありますが、日本においては、まだ前向きの要素があると考えています。そのなかで、デルは日本市場において、業界全体の成長率と比べても高い成長率を達成し、高い収益率も維持した。日本法人の業績は誇れるものだといえます。


―デルは、全世界において、5つの領域にフォーカスしていますね。エンタープライズ、ノートブック、中小企業、コンシューマ、そして新興国市場。このうち、新興国市場を除いた4つの領域における、日本での成果はどうですか。

メリット氏
 コンシューマ分野では、デル製品を取り扱う小売店舗を拡大することができ、日本では取り扱い店舗が1000店舗を超えました。これは、全体の75%をカバーするものです。また、ノートブックをはじめとする新たな製品をアナウンスし、2ケタ成長を維持することができました。

 エンタープライズ分野では、EqualLogicの製品投入、サーバーの新製品投入などにより、製品ポートフォリオを広げ、サービスの幅も広げることができた。そして、EMCとの提携も順調に進んでいる。業界の成長にあわせ、業績を伸ばすことができています。特に、EqualLogicに関していえば、受注高が最も大きかったのは日本法人でした。新事業を短期間にスムーズに立ち上げることができたといえます。さらに、東京・三田に、ソリューション・イノベーション・センターを開設した。多くの顧客が来場しており、デルが提供するサーバー、ストレージ、サービスに関する説明をより具体的に行えるようになった。同センターがあることで、エンタープライズ製品の売り上げ拡大に向けた体制を作ることができた点も大きい。ITを取り巻く環境は厳しいが、引き続き、成長を遂げるチャンスをつかむことができたといえます。

 ノートブックでは、Latitude Eシリーズといった日本市場に合致した新製品の投入や、小型・軽量のInspiron Mini 9などを投入し、ある程度、満足できる状況になったといえます。だが、第2四半期、第3四半期までは力強い成長があったが、第4四半期は景気の低迷を背景にIT投資抑制の動きがあり、やや減速気味であったのは事実です。日本の市場に向けた製品投入という点では、まだ改善の余地があるととらえています。

 一方で、中小企業向け市場では、すばらしいとまではいわないが、比較的、良い1年であったと考えています。中小企業分野では、日本法人が、世界でもトップクラスの収益性をあげている。収益があがっていますから、それを投資にまわす余裕が生まれ、新たなソリューション、サービスを生むという土壌も確立できた。これらの取り組みを総合して見ると、「A-(マイナス)」ぐらいの成果といえるのではと判断しています。


―課題はなにかありますか。

メリット氏
 あえてあげるならば、中小企業領域におけるマーケットシェア拡大に対して、もう少し積極策を打つことができたのではないかという点です。成長という点では、成果はあがっていますが、こうした経済環境下において、やや収益を伸ばすところにポイントを置かざるをえない事情もあった。決して結果に不満があるというわけではないのですが、成長というところにもっと重きを置くこともできたのではないかということです。


―一方で、全世界規模で、4つの顧客別のグローバル組織体制をスタートしました。これは日本法人にどんな影響を及ぼしますか。

メリット氏
 デルでは、ラージエンタープライズ、中小企業、公共機関、コンシューマの4つのグローバル組織を編成しました。ただ、この組織再編による顧客や社員への影響は、現時点では、ほとんどなかったといえます。まずは、マネジメントチームへの影響が大きかった。最大のメリットは、より顧客の持つ課題にフォーカスすることができる体制が整ったという点です。ラージエンタープライズに特化した問題や課題にフォーカスできるようになり、公共機関においても医療や教育関係、連邦政府向けといった分野ごとにフォーカスがはっきりしてきた。中小企業に対しても、ローエンド製品や、バリュー製品にフォーカスし、同時にソリューションに特化した製品を提供できるようになる。フォーカスすることで、組織が機能的に動くようになったといえます。


―ただ、縦割りの組織体制が強化されますから、いわゆる「サイロ」ができやすい環境になります。その点での不安はありませんか。

メリット氏
 サイロ構造に陥るということは懸念していません。というのも、ひとつひとつのビジネスの規模そのものが大きいため、サイロになりようがないと考えているからです。ラージエンタープライズだけでも700億~800億ドルの年間売上規模があり、コンシューマもSMBもそれぞれに同等の規模がある。それだけのスケールがあるということは、それぞれにより最適化したソリューションを提供でき、ひとつのビジネスとして完結できる。サイロ構造に陥って、最適化が中途半端になることはない。

 もちろんその一方で、日本の顧客はなにを求めているのか、日本の市場はどう変化しているのか、といった点について、デルジャパンという統合されたひとつの顔として、ビジネスができるかどうかは重要な鍵になる。日本法人がひとつの組織として機能していくための仕掛けが必要です。例えば、デルでは、四半期に一度、すべてのエグゼクティブが集まり、それぞれ15分ずつ、現在のビジネスがどうなっているのか、どんなことが起こっているのかを報告する会議がある。3月31日にも、これを開いたばかりです。ラージエンタープライズ、中小企業、コンシューマ、人事、法務部門の担当者までが集まって、情報を共有し、ひとつの組織として運営できるようにしています。


―メリット社長自身も、日本/アジア太平洋地域のラージエンタープライズ事業担当を兼務することになりましたから、日本にいる時間が少なくなりますね。

メリット氏
 そうですね。いまの段階で、どのくらいの時間を日本にいて、どの程度の時間をアジアの国々にいるのかといった、ワークバランスは決めていません。そのときの優先順位やフォーカスによって変わってくるでしょう。ただ、日本のビジネスは、大きな部分を占めていることには変わりがありません。最も重要な市場であり、収益の観点でも最も大きい。また、日本で取り組んでいる課題は、そのままアジア全体での課題につながることが多い。つまり、日本市場の存在は、アジアで展開するためのシャーレ(ペトリ皿)のようなものともいえます。アジアで新たなサービスを展開したいという場合に、これが複雑なものであれば、まず日本で実験的に取り組み、その成果をアジアに展開していくことも増えるでしょう。その点でも、日本へのフォーカスが高まることになります。


―デルでは、先ごろ、世界規模で2011年までに40億ドルのコスト削減計画を掲げました。これは、当初の計画から10億ドルも増加したものとなっています。日本法人におけるコスト削減に向けたの具体的な取り組みはありますか。

メリット氏
 一般的に全社規模でコスト削減を行う場合には、生産設備の整理統合であったり、販売管理費の抑制などが中心になります。しかし、日本においても、常に生産性をあげるための改善や、社員のスキルをいかにあげるかといった継続的な課題にも取り組んでいます。日本法人に対する具体的なコスト削減目標というよりも、ビジネスプランをどういう形で立案し、四半期ごとにどれぐらいの経費をかけて、どのくらいの売り上げ拡大につながり、顧客への価値をどれくらい引き上げることができたかといったとらえ方が中心となります。


―日本市場への投資が削減されるということはありませんか。

メリット氏
 例えば、宮崎のカスタマーセンターへの投資という点で見れば、それはありません。宮崎では、これまでにも投資に対する効果が得られていますし、その成果は、クライアントPCでは国内ナンバーワンの顧客満足度を獲得し、エンタープライズ分野における顧客満足度でもナンバーワンのポジションにあるということからも裏付けられる。宮崎カスタマーセンターは、テクニカルサポートの強化、サービスの強化といった点で必要があれば引き続き拡充を図っていきますし、サービスパートナーとの提携も必要であればやっていく。宮崎カスタマーセンターでは、新卒採用を昨年から行っていますが、今年も4月1日付けで、約100人の新卒者が入社しました。来年の採用計画も同等規模を予定しています。また、宮崎カスタマーセンターの特色は、すべてがデルの正社員であるという点です。この点にもこだわっていきます。

 一方で、日本におけるM&Aについては、現段階で、具体的なものはありません。現在の経済環境下においては、なにをするにしても以前よりも慎重にやる必要があるでしょうが、顧客に近いところで、コアビジネスにフォーカスしていくという姿勢は変わりません。


―経済環境が悪化するなかで、デルの強みをどこで発揮しますか。

メリット氏
 顧客がどんなところで苦戦しているのか、頭痛の種になっていることはなにかといったことを考えた場合、多くの顧客に共通しているのが、投資をしているIT予算のほとんどが既存システムの管理、特に日本のユーザーの場合には、独自技術によって作られたシステムの管理に使われているという点です。そうした環境のなかで、デルはなにが提供できるのか。ひとことでいえば、プラットフォーム、サービス、ソリューションといったITインフラ全般にわたるなかで、独自システムからオープンシテスムに移行できるものを提供できるという点につきます。

 デルが扱っているものは、すべてがオープンシステムです。ほかのITベンダーのように、独自技術を売りながら、オープンプラットフォームの製品も扱っているというわけではありませんから、社内でのあつれきもない。デル以外のすべてのITベンダーは、1社残らず独自仕様のプラットフォーム、技術を売っています。独自システムを維持することが、システムをより複雑なものとし、顧客を囲い込むことにつながり、そこでサービス、サポート、メンテナンスで収益を確保できるからです。それに対して、デルが一番の目標にしているのは、顧客に対して、簡素化した、シンプルで、効率性の高いIT環境を提供することです。それこそがデルが提供できる最大の価値です。これによって、顧客は、保守、管理に余計なコストをかけずに、新たな分野へのIT投資予算を生みだすことができる。

 経済環境の悪化は、デルにとって、ピンチか、チャンスかといわれれば、それはチャンスの方が大きい。経済が厳しくなると、独自システムの問題が浮き彫りになってくるからです。フレキシビリティに欠ける、サポートコストが高い、機能強化に余分なコストがかかるといった独自システムは、この経済環境のなかで縮小される傾向にあるIT予算では限界に達してくる。いまの経済環境だからこそ、デルの強みがはっきりしてくるのです。


―富士通が、現在、国内8万台のIAサーバーの出荷実績を、2年後には20万台にするという意欲的な目標を掲げましたが。

メリット氏
 実際に、どこまで事業が拡大できるのでしょうか。いま、顧客は独自システムから離れ、オープンなプラットフォームに向かおうとしている。ITプロバイダーとしては高い信頼を持つ富士通が、その流れをとらえ、IAサーバーというオープンなプラットフォームに成長の機軸を置くということは、独自技術からの脱却を意味することになります。そういう点からみれば、富士通の判断は正しいのではないでしょうか。


―デルの日本における今年度の事業目標を教えてください。

メリット氏
 具体的な数字について明らかにすることはできません。しかし、エンタープライズ分野においては、カスタマーサービスおよびサポートにおいて、ナンバーワンの企業になることが大きなターゲットであると同時に、常に効率的なインフラを提供することによって、デルが信頼できるアドバイザー企業であることを顧客に認識してもらうことに取り組んでいきたい。顧客が、ITインフラにおける効率性が必要だと考えたときに、「それならば、デルに相談しよう」と真っ先に考えてもらえる企業になりたいのです。また、カスタマーフォーカスやソリューションフォーカスを強めることで、サービスおよび製品に関する利益を伸ばしていきたい。

 一方で、コンシューマ分野に関しては、日本の小売店のベストパートナーとなることを目指すとともに、日本の顧客が欲しいと思う製品を出していきたい。日本では、軽量で、バッテリー寿命が長いノートブックが求められていますから、それに合致した製品をこれからも出していきたいですね。


―一部報道では、NTTドコモとの連携によって、ワイヤレス対応したPCの投入を計画しているということですが。

メリット氏
 これは正式な発表に基づいたものではないので、コメントはできません。ただ、先日、マイケル・デルが来日した際にお話ししたように、日本市場向けには、10インチ液晶を搭載したモデルを投入する考えであり、続けて追加モデルを今年のうちに投入することになります。こうした領域に対して、顧客の要望があるのは明らかですから、それに向けた検討は行っています。


―デルの日本法人にとって、今年度のキーワードはなにになりますか。

メリット氏
 ソリューションですね。顧客が抱える問題に対して、コストが低く、最も効率的に問題を解決できるソリューションを提供することに力を注ぐ。ハードを提供するだけにとどまらず、サービスとの組み合わせ、さらには、パートナーシップの強化を含めて、あらゆる角度からソリューションを提供し、顧客のコスト削減、効率性向上に寄与していきたいと考えています。



( 大河原 克行 )
2009/04/03 00:00

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