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日本AMD吉沢社長、「AMDの技術でITを戦略的にとらえる企業に成功を」


 「AMDのシンパを広げることが重要。AMDの製品を使いたいというお客さまの声がサーバーベンダーを動かす」、そう語るのは、2008年10月に日本AMDの代表取締役社長に就任した吉沢俊介氏。ITインダストリーの中核技術であるx86プロセッサのベンダーとして、業界に革新を提供してきたAMDのソリューションのよさを地道に知らせることの重要性を強調する。厳しい景況感の中、どのような方針で日本AMDをかじ取りするのか、吉沢社長に話を伺った。


ビジネスにアグレッシブに取り組む企業が支持するのがAMD製品

代表取締役社長の吉沢俊介氏
―まずは、社長になる前となった後でどのような変化があったのかお聞かせください。

吉沢氏
 当たり前のことですが、一番変わったのは仕事の内容です。お会いする方々は、以前とほとんど変わらないですね。これまでも、外向けに話をするときには出ていましたので。私のバリューはやたらと(日本AMDに)長くいることですから(笑)。

 長くいるということは、日本AMDの中で、AMDとはなにか、どのような企業価値があるかを一番理解しているということでもあります。お客さまにとって、従業員にとって、それぞれAMDに対する価値は異なりますが、根幹は同じです。企業価値を語り、ビジネスを拡大するのが私の役割ですね。


―AMDの価値ですが、具体的にはどのようなものを指していますか?

吉沢氏
 x86プロセッサのベンダーであるというのがひとつです。x86プロセッサは、IBM PC/ATが誕生したときに開発されたプロセッサですが、今ではITインダストリーの中核技術になっています。プロセッサといっても、一昔前にメインフレームで行っていた処理の何万倍もの速度で処理が行えるまでになっています。チップというよりもシステムといっていいでしょう。

 そして、このx86のインストラクションセットのプロセッサを開発できるベンダー2社のうちの1社であることも、AMDの価値です。以前は、インテルの互換品を作っていましたが、今では互換品ではなくx86のインストラクションセットをエクスキュートする独自技術を持つ企業になっています。これがITインダストリーに対するAMDの価値といえます。


―日本のお客さまに対して、AMDの価値は浸透しているのでしょうか?

吉沢氏
 特定のセグメントには浸透していますが、まだまだ浸透していない領域がありますね。その浸透していない領域に対して、説明していくのが私の役割です。われわれのシェアは10~15%の間で推移しています。それ以外の領域は食い込めていないというわけで、ここに機会があるとみています。


―浸透していない要因はどこにありますか?

吉沢氏
 AMDを評価していただいている方々に共通するのは、自分で中身を判断できる、ビジネスにアグレッシブなアプローチをとっている、人から言われて決めるのではなく自分で決める、そして成功したことをほかの人にいいふらしたがる(笑)、というところですね。まったく未知の場所で道を切り開くタイプの方々で、使ってみていい結果が出ると公に発表されるケースが多いですね。

 昔、IBMのSystem/360以外はコンピュータではない、とにかくIBMを入れておけば間違いないという時代がありました。今、インテルが業界標準だからといって採用しているのと同じ状態ですね。いくらAMDがいいといっても伝わりません。

 こうした状況を改善するには、AMDのソリューションがいいということを人から知らされたり、業界全体がそのような雰囲気になってはじめて理解していただけると考えています。つまり、われわれが取り組まなければいけないのは、マーケティングメッセージだけでなく、本当にいいということを理解していただける方々を確実に増やすことです。仮想化やクラウドといった新しい分野に注目が集まっていますが、こうした分野でAMDのテクノロジーを積極的に取り入れていただき、実績をたくさん出すことが重要です。

 もちろん、われわれはチップベンダーであるわけで、製品として提供するためにはサーバーベンダーやISVと協業しながら進めることも重要です。われわれとしては、点を線にし、線を面にする取り組みを行っていくだけです。


―サーバーベンダーとの関係ですが、45nmプロセスのOpteron(開発コード名:Shanghai)を発表した際、海外のベンダーが中心で日本のベンダーの姿が見えなかったのが印象に残っています。

吉沢氏
 日本のサーバーベンダーは、ハードウェアだけでなくミドルウェアを持っており、このミドルウェアで他社と差別化を図っています。そのため、ミドルウェアを最新のハードウェアにポーティングするのにリソースがかかることから、少し時間がかかっているのは確かです。

 AMDが新しいプロセッサを作ったからといって、すぐに対応するわけではありません。やはりお客さまがあるかどうかは重要な要素になります。AMDを使いたいというお客さまがいて、そのお客さまがサーバーベンダーにとって重要なお客さまであるというのが、AMDにとって一番いいケースになるでしょう。実際、大学の案件で、富士通さんと日立さんがAMDを使っていただいたように、積極的に使っていただけるユーザーの声が高まれば、この状態は変わっていくでしょう。私は時間の問題だとみています。


―経済環境が厳しくなっており、IT投資も今年はかなり厳しくなるという見通しになってますね。

吉沢氏
 それは実感しています。特にクライアントに関してはそうですね。クライアントの場合、技術ドリブンで選択しているわけでもなく、生産性という面で判断されがちですから。AMDとしては、省電力化というメッセージを打ち出していきます。また、「HP+AMDエコプロジェクト」では、AMDプロセッサ搭載PCを1台購入するごとにマングローブの木を1本植樹するというプロジェクトにも取り組んでいます。こうした取り組みは、官公庁などで評価されています。

 サーバーやワークステーションの場合、一概にはいえませんね。IT投資そのものが冷えているのは間違いないのですが、コストパフォーマンスという点で選択していただく例も増えています。たとえば、ワークステーション向けのグラフィックスの場合、IT投資が潤沢なときは話を聞いてくれませんでしたが、今は話を聞いていただけるようになっています。また、製品自体も、競合と比べて処理速度が速くて値付けもアグレッシブに行っているので、反応はいいですね。

 仮想化も同様です。昨年まではサーバー統合が中心でしたが、最近では仮想化ありきでシステムを設計する例が増えています。ホスティング業者のように低コストで生産性を高めたいという方が、積極的にAMDを選択しています。

 ITを戦略的に考えるようになっているエンドユーザーは増えています、また、成長している業界は競争にさらされていますので、そうした業界の企業に対して、AMDの技術を紹介し、そして成功していただくことは大切です。


―クライアントの話が出ましたが、企業の情報システム部門の方に話を伺うと、今のパフォーマンスを使いこなしていないという声も聞きます。シンクライアントでもいいのではないかという意見もありますが、その点どのようにお考えでしょうか?

吉沢氏
 そういう傾向があることは理解していますし、業界全体の問題でもありますね。

 プロセッサを開発している側からいうと、サーバー用もクライアント用もx86のインストラクションセットの開発そのものは大きな違いはありません。逆に、省電力でありながらパフォーマンスが求められるなど、サーバー用プロセッサの要件とノートPC用プロセッサの要件は合致していることの方が多いのです。マルチコアに関しても、サーバー用はコアを拡張して対応できますし、クライアントはデュアルコアあるいはシングルコアにするなどの対応ができるのです。実際、2003年に出荷したOpteronで採用されたDMAはすべての製品で使われています。

 クライアントのコンピューティングパワーだけをみると、そのような議論があるのはわかりますが、開発する側としては違う製品を2つの系統で作っているわけではないのです。

 クライアントにしろ、サーバーにしろ、われわれはチップベンダーであり、組み込んだシステムがないと成立しません。クライアントのマルチコア化に関しては、たとえばウイルススキャン実行時にパフォーマンスに影響を与えないようにするなど、ISVと共に提示できるようにしないといけませんね。


グラフィックスの利用でコンピューティングのやり方が今後変わる

―半導体製造会社を分離するなど、米本社の動向についてお客さまから聞かれることはありますか?

吉沢氏
 もちろんです。特にサーバーの場合、一回買って終わりではないものですから、AMDが生き残りをかけてどのように取り組むのかよく聞かれます。

 お客さまには、ファブを切り離すことで損益分岐点を下げる取り組みを行ったこと、プロセッサとグラフィックス以外のビジネスを売却するなど選択と集中を行ったことを説明しています。

 重要なのは、AMDに企業価値があるかどうかという点です。われわれが手がけているのは小さなチップですが、ITインダストリーに大きな影響を与えるものです。x86-64(AMD64)をAMDが発表しなかったら、64ビットはx86と互換性のないItaniumだけになっていたかもしれません。もちろん、x86-64をマイクロソフトが採用したことも大きな要因ですが、小さなチップが業界に大きな影響を与えられるんだと実感した出来事です。インテルだけでは、こうした影響は与えられなかったでしょう。


―ATIを買収し、グラフィックス分野も統合していますね。今後、このグラフィックスをどのように生かしていきますか?

吉沢氏
 CPUですべてを処理するのではなく、並列演算にたけているGPUを組み合わせることで、全体的なパフォーマンスの向上が可能です。ここにグラフィックスを取り込んだ優位性が出るのではないでしょうか。

 AMDはこれまでに大きな舵を切ったときに成長してきました。最初は、Athlonで独自のバスアーキテクチャを採用して、インテルとのハードウェア互換をやめたとき。次が、Opteronでx86-64を採用したとき。そして、次はグラフィックスを利用することで、コンピューティングのやり方そのものを大きく異なるものになります。これは、コードの書き方が異なるため、インテルかAMDかを選択しなければならなくなるので、AMDにとってリスクも高くなります。


―個人的には、社長に就任されたことで、インテルをやっつけるというような発言を期待していたのですが(笑)。

吉沢氏
 インテルをやっつけるのは、あとにします(笑)。まずは、AMDのシンパを広げることが重要です。エンタープライズ分野でも、隠れシンパはたくさんいますので、そうした方々をおもてに出していかないといけませんね(笑)。

 まずは30%程度までシェアを高め、ITインダストリーが求めているものに応えていかなければいけません。また、チップだけでビジネスはできませんので、システムとして一緒にやってくれるところをいち早く見つけて、その方々を成功させることも必要です。

 1月の事業方針説明会で話しましたが、(オバマ大統領が唱えている)“Change”を“Chance”にしていきたいですね。ChangeとChanceは1字違うだけです。われわれとしては、Changeしたくない企業には目を向けずに、ChangeをChanceとみている企業に訴えかけていきます。



( 福浦 一広, 三浦 優子 )
2009/04/10 00:00

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