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トレンドマイクロ大三川氏、「売上高1000億円を超え、社会的責任を強く感じる」


 トレンドマイクロは、2008年12月決算で、設立以来初めて売上高1000億円を突破した。設立20周年を迎えた節目の年での大台到達。「多くのユーザーに支えられていること、そして、社会に対する責任を強く感じる」と、同社 取締役日本地域担当の大三川彰彦氏は語る。新たなセキュリティ技術基盤である「Smart Protection Network」を活用した、「Trend Micro Threat Management Solution」による次世代ソリューションの提供を開始し、より強固な企業向けセキュリティサービスの提供を可能にしている。今後、トレンドマイクロはどんな成長を遂げようとしているのか。大三川氏に、同社の取り組みについて聞いた。


売上高1000億円超えで感じる社会的責任

トレンドマイクロ、取締役日本地域担当の大三川彰彦氏
―トレンドマイクロの2008年度連結売上高は1017億円。設立以来、初めて1000億円を突破しましたね。

大三川氏
 日本円で1000億円、米ドル換算で1ビリオンという線に到達したことで、企業規模の観点からも社会的責任をより強く感じます。しかも、昨年8月18日に20歳(設立20周年)を迎えたわけですから、その節目の年に到達した点でも感慨深いものがあります。

 トレンドマイクロは、これまでにも企業買収を行ってきた経緯がありますが、買収によって事業を拡大してきたわけではありません。他社の買収がマーケットまでを含めて買収する手法であるのに対して、トレンドマイクロの買収は純粋に「技術」を買収するという手法です。それによって、ソフト、サービスの品質を高め、結果として1000億円規模に到達しました。

 また、経理上の話になりますが、売上高計上は受注ベースではなく、実売ベースで行っており、36カ月のライセンス契約も、36回に分けてそれぞれ毎月計上しています。受注ベースで見れば、売上高はさらに拡大することになりますし、長期間にわたって売り上げを計上し続けられることが分かっています。しかも、お客さまの継続率が向上している。安定した収益構造を持っているという財務上の強みがあることも見逃せません。


―これだけの企業規模になったことで感じる責任感とは。

大三川氏
 継続率が高まっていることからも分かるように、当社に対する期待感、信頼感がますます高まりつつあります。この期待を裏切らない製品、サービスを提供し続けなくてはならない。また、個人ユーザー、企業ユーザーを含めて、セキュリティ製品がITインフラの重要な要素のひとつとして定着していますが、新たな脅威に対しても、しっかりと対応し、インフラとしての責任を果たす必要があります。

 当社の製品、サービスは、顧客から見える部分というのは、ユーザーインターフェイスの部分だけです。しかし、その裏では、数多くの独自技術が動いています。製品よりも早く、エンジンは更新されていますし、パターンファイルは毎日のように進化している。製品、エンジン、パターンファイルという3階層に分けて、日々進化をし続けているのです。

 2007年には、脅威の数は、年間約550万件だったものが、2008年は1100万件へと倍増したと見られています。しかも、過去の脅威は売名目的で、特定の個人がバラまいていたのに対し、いまでは犯罪目的での活動が増え、組織的に行われ、巧妙で複雑性のある脅威が増えている。かつては、上位10種で感染被害全体の68%を占めていたものが4.5%に減少していることを見ても、数多くの脅威がまん延しているのが分かります。こうしたセキュリティを取り巻く環境の変化にも対応していく責任が当社にはあります。20年間に培った顧客ベースや、グローバルでの実績をもとに、ノウハウ、ナレッジを進化させていくことが必要であり、セキュリティ分野で、こうした取り組みができる数少ない企業の1社だと自負しています。


パターンファイルではもう不足、セキュリティは「現行犯逮捕型」へ

Smart Protection Networkの概要
―トレンドマイクロは、複雑化するセキュリティ環境の変化にどう対応していきますか。

大三川氏
 従来の脅威への対応は、パターンマッチング方式が主流でした。いわば、指名手配書や指紋で、合致したものを犯人と見なして逮捕するという手法です。ところが、これでは、限界が出ている。「膨大な数の新種ウイルスの出現に対してパターンファイル作成が追いつかない」「水面化で活動する未知のウイルスには対応できない」「顧客もこれ以上の頻度でパターンファイルの更新ができない」という課題があるからです。

 そこで、ふるまい検知という手法を補足的に用い、脅威を先に見つけることで、未知の脅威にも迅速に対応する現行犯逮捕型としました。これをThreat Management Solutionとして提供します。2005年に買収した米Kelkeaが持っていたIPフィルタリングのレピュテーションサービス技術をベースに構築したSmart Protection Networkを活用したものとなります。このソリューションは、まず、企業ネットワーク内の脅威を可視化するところから始まります。「Threat Discovery Appliance」といった専用装置やソフトウェアを顧客のもとに配置し、ログを収集。これをSmart Protection Networkを活用して、データベースと参照することで、精度の高い分析を可能とします。Smart Protection Networkは「E-Mailレピュテーション」「Webレピュテーション」「ファイルレピュテーション」の3つのデータベースで構成され、それぞれが連携してスパムの検出や、危険サイトのブロックなどを行います。

 この4月には、3つのレピュテーションデータベースが協調動作を開始し、今年9月以降にはファイルレピュテーションを、日本のユーザーに提供できるようになります。ファイルレピュテーションでは、パターンファイルのうち約75%をクラウド環境に移行して提供しますから、クライアントに大きな負荷をかけずに常に最新の防御パターンファイルを維持できます。「パターンファイルを更新しない限り最新の脅威に対応できない」あるいは「パターンファイルのデータ量が肥大化しクライアントの動作が遅くなる」といった課題が解決できますから、リソースに制限があるモバイル系デバイスなどにおいても活用できるのが特徴といえます。


―Threat Management Solutionの手応えはどうですか。

大三川氏
 かなりいい手応えを感じています。まず、顧客のもとで、内部ネットワーク環境を可視化すると、危険なファイルが数多く入っていることに驚くケースが多い。知らない間に、未知の脅威となりうるものが企業内ネットワーク上にまん延しているのです。

 また一方、Windows NTなどの古いサーバーOSのもとで、特定の独自アプリケーションを動作させている場合、リソースの問題などからセキュリティソフトの導入に制限があり、セキュリティ環境に不安を持っている顧客も少なくない。その場合にも、Threat Management Solutionを活用すれば、ライトリソースでセキュリティ管理が可能になる。こうした顧客からの引き合いも増えています。

 さらに、経済環境が悪化するなかで、コスト削減効果も発揮できる。例えば、Smart Protection Networkにおいては、社員数5000人の企業の場合で、年間約3000万円のコストが削減できることが、第三者機関である米Osterman Research社のデータから明らかになっています。IT投資は削減される傾向にありますが、それでも、復旧にかかる期間やコスト、社会からの信用の失墜といったリスクを考え、セキュリティに対する投資は削減できないという認識がCIOの間に定着している。そこにコスト削減という効果が加わるわけですから、顧客にとっても大きなメリットがあるというわけです。顧客自身が、コスト削減効果を判定できるようなツールも提供します。


グローバル展開を見据えたパートナー戦略も進める

―パートナー戦略にも変化はありますか。

大三川氏
 グローバル戦略で展開することも視野に入れていますから、パートナーとの協業は重要になってきます。まずは、コンサルティングファームやシステムインテグレータなど5社程度と提携するつもりです。大手企業からの引き合いも多く、3カ月以内には、大きな協業成果を発表できると考えています。


―パートナー戦略という点では、USBストレージ向けの組み込みソリューションを、OEMの形でサードパーティーに提供していますね。ここにきて注目を集めているUSBによる製品戦略では、セキュリティソフトを自社製品として投入せずに、パートナー戦略を軸にしている理由はなんですか。

大三川氏
 Trend Micro USB Security for Bizは、現在、バッファローとアイ・オー・データ機器の2社に供給しているソリューションです。いずれも法人向けに提供しているものであり、USBメモリにあらかじめ組み込んで出荷し、使用時に書き込まれるファイルをリアルタイムに検索し、ウイルスを検出します。USBを介してウイルスがまん延するケースが急増するなかで、Trend Micro USB Security for Bizが搭載されたUSBメモリを使用すれば、そこからの感染を防ぐことができます。

 企業からの一括受注も増えているようです。もちろん、当社自身で製品化するという選択肢もありましたが、USBメモリのように在庫コントロールが難しい商品に、素人である当社が乗り出すにはリスクが大きい。また、世界中に展開していくという点では、世界各国のパートナーとの連携が適切だと考えました。これによって、OEM先の販路を活用して販売することができるというメリットもあります。


コンシューマビジネスでも新たな展開

―最近は、企業向けソリューションの発表が目立ち、コンシューマ向けへの取り組みが減速しているように見えますが。

大三川氏
 そんなことはありませんよ。日本におけるビジネスの約半分がコンシューマ向けビジネスですし、海外においては3割強のコンシューマ向けビジネスを、今後は半分ぐらいまで拡大しようと考えているところです。コンシューマ向けという点では、ウイルスバスターによる展開が代表的ですが、「プレイステーション 3」で提供されるネットワークサービスにおいて、URLフィルタリング、Webレピュテーションのサービスを開始し、これが今後有料化される可能性が高い。このサービスをほかのデバイスへと展開することも可能です。

 また、米国ではLinksysのルータにフィルタリング、ペアレンタルコントロール、アンチウイルス機能を搭載し、ネットワーク接続された家庭内のPCやゲーム機のセキュリティ環境を強化することもできる。これもコンシューマ向けソリューションのひとつで、年間600万台規模の出荷が見込まれる。コンシューマ領域は、むしろこれまで以上に積極的に伸ばしていくつもりです。

―2009年における重点ポイントは。

大三川氏
 いよいよ秋には、ファイルレピュテーションを提供することになりますから、これによって、あらゆるデバイスが、新たな脅威に対して、強固なセキュリティを実現できる。企業におけるセキュリティレベルを大きく高めることができます。また、クラウド環境でのサービスについては、顧客のアプリケーションとシンクロさせた形でソリューションを提供できる「カスタマイズクウラドサービス」といったものにも取り組んでいきたい。さらに、今後は仮想化環境においても、セキュリティソリューションを強化していくつもりです。トレンドマイクロのセキュリティソリューションを導入することで、コスト削減にも直結することも訴求していきたいですね。そして、日本のみならず、北米、欧州、東南アジア、中国といったグローバル展開を加速し、技術に裏付けされた信頼性を高めていきたい。こうしてみると、今年もやることが、たくさんありますね(笑)。



URL
  トレンドマイクロ株式会社
  http://www.trendmicro.co.jp/


( 大河原 克行 )
2009/04/17 00:00

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