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シリコンバレーの新聞少年からソーシャルメディアの伝道師へ
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時事通信・湯川氏
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今回のゲストは時事通信社の湯川鶴章氏です。湯川さんと知り合ってから1年くらいになりますが、初めてお会いした時からオープンでフレンドリーなスタイルに、非常に好感を抱きました。飾らない人柄と、メディアに対する鋭い視点は、常に参考になります。
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湯川 鶴章(ゆかわ つるあき)
時事通信編集委員。先端技術が専門。1958年和歌山県生まれ。
大阪の高校を卒業後、渡米。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国、現職。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)フェロー。著書に「ウェブを進化させる人たち」(2007年、翔泳社)、「爆発するソーシャルメディア」(2007年、ソフトバンク新書)、「ブログがジャーナリズムを変える」(2006年、NTT出版)。共著に「ネットは新聞を殺すのか」(2003年、NTT出版)、「情報セキュリティーで企業は守れるのか」(2005年、NTT出版)、「ブログ・ジャーナリズム」(2005年、野良舎)がある。
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■ シリコンバレーの新聞少年からスタート
小川氏
(湯川氏の著書である『ウェブを進化させる人たち』の)出版記念パーティでお会いして以来ですね。
湯川氏
そうですね。フィードパスをお辞めにならなかったら、小川さんにも登場いただくはずだったんですけど、ごめんなさい。
小川氏
いえいえ(笑)。ところで、僕たちは湯川さんをよく存じ上げてますけど、読者のために簡単に自己紹介していただいていいですか?
湯川氏
はい。時事通信という通信社、主に新聞社に原稿を売っている会社で、IT記者をやってます、湯川と申します。時事通信社には珍しく中途採用です。小川さんと同じで異端児ですね。
小川氏
僕は普通だと思ってますけど(笑)。
湯川氏
いや、僕は生まれ変わったら小川さんになろうと思ってますから(笑)。時事通信社に入ったのはシリコンバレーにいるときで。15年おったんですけど、2000年のITバブルがはじけた5月に帰ってきたんですよ。時事通信にはシリコンバレーにいるときに入りました。
小川氏
シリコンバレーでは何をしてたんでしょう?
湯川氏
僕はね、大学受験に失敗して、というより本気で行く気がなくて、アメリカに留学したんですよ。8年いたかな。アルバイトをして生活してたんですけど、そのアルバイトが時事通信のニュースの配達で。新聞少年、いや新聞おじさんをずっとやってました。
小川氏
まだネットがないときですよね。
湯川氏
ネットどころじゃないですよ。さん孔テープといって、漢字テレックスを使って配信された記事を解読して、輪転機で印刷して、ダウンタウンの米国進出日系企業に配信するんです。配信といっても、印刷した紙を自分で配って歩くんです。ほんとに新聞おじさん。10年くらいやってました。30代半ばまでやってたな。
小川氏
それがどうして時事通信社に?
湯川氏
みんなにいつまでそんなことやってるのと言われてましたね。でもそうこうしているうちに取材や記事を書くことも頼まれるようになって、サンフランシスコ支局、今のシリコンバレー支局に採用されて。それから編集員として日本に帰ってきたわけです。
■ ソーシャルメディアに注目
小川氏
本を書くようになった理由は?
湯川氏
新聞記者というものは、チャンスさえあれば本を書きたいと思うものですよ。最初書いたのは『ネットは新聞を殺すのか』という本でしたが、いまでは6~7冊書いたかな。
小川氏
その本の結論は?
湯川氏
記者の書く原稿と、一般の人が作るコンテンツ、そして技術を使って新しいメディアを作っていくしかない。そういう感じですね。
小川氏
今の興味はどんなところにあるんでしょう? 最近書かれた本は、『爆発するソーシャルメディア』というタイトルでしたね。
湯川氏
はい。やっぱりね、自分はメディアの人間ですから、メディアに興味があります。ずっとメディアを追ってきたからこそ、次に何がくるのか、ということを思っているわけですね。そのスタンスからすると、次はソーシャルメディアがくると思っていますね。
小川氏
ソーシャルメディアとは具体的に何を指していますか?
湯川氏
業界的に言えばCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)となりますね。でもそれは頭文字でいかにもテッキー(技術オタク)的です。この世界はもはや業界の人だけの関心事ではない、新しく形容する言葉が必要だろうと思ったわけです、だからソーシャルメディアという言葉がいいかなと。英語の頭文字は日本人にはウケないと思います。
小川氏
そうですね。僕らは最近RSSと呼ばずにFeedと呼ぶようにしていますし。
湯川氏
ブログなんかもね、僕が最初に書いた本ではウェブログと書いてました。そのほうが分かりやすいだろうと。その後急速にブログという言葉の方が普及してきてしまって、ちょっと困りました。ウェブログのほうが語源としては正しいわけですけどね、一般の人には関係ないですからね。短くて覚えやすく、言いやすい用語の方がいいに決まっています。
小川氏
湯川さん的にはソーシャルメディアの範疇にはいるサービスはどこだと考えるんでしょう?
湯川氏
ブログ、SNS、mixi、MySpace、セカンドライフ、モバゲー、ざっとそんな感じです。サービス形態はいろいろで、コミュニティが基本でしょうね。セカンドライフってソーシャルメディアといえるのか? という話もよく聞きますし、モバゲーどうなの? ともいう人がいますけど、どちらもソーシャル的な要素があったから成功しているんですね。
小川氏
はい。ソーシャルメディアのビジネスモデルをどう考えます?
湯川氏
そこなんですよ! ソーシャルメディアが次のパラダイムと考えるかどうかが、重要なんです。Web 2.0と同じで、パラダイムをどうみるかなんです。Web 2.0って、小川さんも書いてらっしゃいますけど、これまでのWebと今のWebの分け方ですよね。いままでのWebとは違うよ、ということでしょう。同じように、ソーシャルメディアが新しいパラダイムとすれば、どう分けていくか、ということなんですよ。
小川氏
はい。
湯川氏
メディアの条件は、2つです。まずは人がいっぱい集まること。それから金を儲ける手段があることです。
例えばポータルでは、人が集まり、マネタイズとしてバナーがあったわけです。検索も同じです。検索するために人が集まり、マネタイズの方法として検索連動広告がある。これによってGoogleが新しいパラダイムを生んだと思うわけです。
最近は、何百万人を集めるソーシャルメディアはいっぱいありますけど、ただまだマネタイズがきっちりできてはいないですね。そのマネタイズの方向が決まったときにパラダイムが起きたといえるんでしょうね。そのパラダイムの兆しが見えてきているとは思いますけど。
小川氏
同感です。Feedについても同じことは言えると僕は思っています。トラフィックそのものは既に急激に膨らんでいて、成長も加速しています。CGMほど認知されてもないですけど。それでもまだ、このFeedのトラフィックを金に換える方法が明確でない、それが問題だと。
■ Feedはメディアになるか?
湯川氏
その辺については、実は小川さんと認識が違うところですね。
小川氏
というと?
湯川氏
Feedは表舞台にならないんじゃないかなと。Feedをメディアとして全面に押し出す必要はないかと思っています、裏方でいいんじゃないかなと。
例えば、小川さんが始めようとするmodiphiにしても、RSSでコンテンツを集めるとしても、RSSかどうかは関係なく、価値のある情報を収集して表示するサービスとして押し出して行く方がいいのではないか、と思っているんです。
小川氏
なるほど。
湯川氏
例えばmixiの笠原さん(社長)だって、mixi自体をSNSとは言ってないですよね。modiphiもFeedの存在を全面に出さないほうがいいんじゃないかなと。
小川氏
…。Web 2.0のサービスを考えていくと、日米では大きな違いがありますね。日本はサービスモデル、アメリカはテクノロジー。テクノロジーに焦点を当ててないとグローバル化できないし、言語の壁も越えづらいのでスケールしない。僕はエンジニアではないんですけど、だからこそFeedというオープンなフォーマットの使い道を考えていく方向でいこうと思っているんです。
湯川氏
実は、Web 2.0という言葉がでてきたころに、渡辺聡と呑みながら、Web 2.0なんて言葉はつかわない、本は書かない、と言っていたんですよ。そんなテッキーな言葉ははやらない、いやはやらせないぞと(笑)。ところが小川さんは『Web2.0 BOOK』で成功した(笑)。今回はね、Feedがほんとにビジネスになるかどうかで勝負ですね、はやらなければ1勝1敗、はやれば僕の2連敗(笑)。
■ モバトゥイッターは軒先を貸して母屋をとる?
小川氏
(笑)。湯川さん的に最近気にしているベンチャーはありますか?
湯川氏
うーん。僕は冬眠する熊みたいなもので、定期的に情報を集めては本にして、そしてしばらくまた情報収集に時間をかけていくんですね。いまはちょうど出し切ってしまったところなんで、あまり新しい情報はないんですけど。
強いて言うならば、ベンチャービジネスの作り方としてですけど、最近の動きを見ていると、やっぱり基盤的なものは米国からのものが多いじゃないですか。YouTubeもそうですけど。
小川氏
そうですね。
湯川氏
でも、それらは米国で作られたものだから、日本には必ずしもフィットしていない。米国のサービスを見て、それと同じようなサービスを急いでつくってぶつけるという戦略は確かにあると思いますけど、米国のサービスはAPIをたいてい公開してますから、うまいこと日本にフィットするようにして、つまりフロントエンドを日本向けにちゃんと作り直して利用するという手段もあると思います。
たとえばTwitterがあったら、それに同じようなサービスを作ってぶつける、と対抗するのではなくて、アメリカのサービスをうまく利用してローカライズして、それを日本に合うサービスに変えるのもよいと思います。
モバトゥイッターって知ってます?
小川氏
いや、知らないです。
湯川氏
paperboy&co.のスタッフが遊びで作ってから、正規のプロジェクトに昇格したらしいんですけどね、Twitterのモバイル版なんです。Twitter自体にモバイルサービスがあるんですけど、やっぱり日本のケータイには合っていない。モバトゥイッターは日本のケータイ用に作っています。
結局顧客にできるだけ近いところ、フロントエンドをとったもん勝ちですよ。ユーザーが深く入り込むサービスを作ることが大事ですね。本家のサービスが良くないなら、プラットフォームを作り直して日本側でフロントエンドを奪ってしまえばいいんです。一から新しいサービスを作って出すのは、ほんとに難しいことですから。
小川氏
セカンドライフなどは、この戦略がいいかもしれませんね。アバターなんかは日本人には全然イケてないですから。
湯川氏
そうそう。
小川氏
同感ですけど、僕はあまのじゃくなので(笑)どうしても、オリジナルなサービスを作りたくなります。
湯川氏
(笑)。あと気になることというと、日本のベンチャーは学生のノリで、かなり大きくなるところまで、そのまま行きますよね。でも、シリコンバレーにはそういうベンチャーはほとんどないですからね。ある程度の大きさまでくると、プロの経営者が乗り込んできて、経営のスタイルを変えちゃう。創業者たちからすると実権を握られるかもしれないけど、その結果でっかいベンチャーになる。日本にはそういうのがないですね。
小川氏
その通りですね。あ、そろそろ時間が…。
湯川氏
じゃあ、最後に告知させてください、僕のポッドキャスト聞いてください、それと、7月10日に、時事通信ホールで「爆発するソーシャルメディア」セミナーをやりますんで、ぜひきてください(笑)。
小川氏
できるだけ僕も行きます。今日はありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。
東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。
2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。
著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
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