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Web 2.0は多重人格としてのつきあい方に始まる

D4DR・藤元社長

 今日のゲストは、Webサービスモデルのコンサルティングを行うディーフォーディーアール株式会社(以下、D4DR)の藤元健太郎社長です。


D4DR・藤元社長 藤元 健太郎
ディーフォーディーアール株式会社 代表取締役社長

1967年東京都生まれ。1993年からインターネットビジネスの研究を開始し、野村総合研究所で日本有数のサイバービジネス実験サイトであるサイバービジネスパークをトータルプロデューサーとして立ち上げ、sofmapやJTBのeビジネスの立ち上げを支援。現在はeビジネスの競争戦略や事業プロデュース、ベンチャーインキュベーションを進めるD4DR株式会社の代表を務める。経済産業省産業構造審議会委員、青山学院大学大学院EMBA非常勤講師、TBSラジオの解説なども務める。


ネット上の多重人格の実現が2.0の特徴?

藤元氏
 今日はおよびいただいてありがとうございます。先日は急に食事の約束をほごにしてすみません。


小川氏
 いえいえ。早速ですけど、藤元さんの知的好奇心をくすぐっているキーワードを今日はお伺いしましょうか。


藤元氏
 興味のあるキーワードですか…「多重人格」、ですかね。


小川氏
 多重人格ですか。


藤元氏
 Web 2.0自体がそうだと思いますし、セカンドライフやNTTドコモの2in1なんかもそうなんですけど、デジタル社会における多重人格を実現するようなサービスがどんどん出てきますよね。mixiに疲れてしまって破たんしちゃって退会する人が最近よくいますけど、一つの人格に全部をつぎ込む人というのは、あの手のサービスには向かないといえるでしょう。2.0の本質のところを楽しむには、複数の人格をあやつることができる人でないとだめなんだと思います。


小川氏
 もう少し詳しく伺いましょう。


藤元氏
 例えばですが、NTTドコモの2in1は、電話番号とメールアドレスを2つ持てる、というサービスです。番号の二重化はひそかに前からあったらしいですけどね、メアドは初めてです。小川さんもそうだし、僕もそうですけど、昔言ったことがいまだにネット上にあるということはよくあるじゃないですか。10年前の情報がまだ検索できるというのは怖いことです。その意味で人格を使い分ける必要有り、と考える人は多いんじゃないですかね。


小川氏
 なるほど。


藤元氏
 小川さんも僕も、ネット上では実名で出現してますけど、たいていの人はそれは嫌だと思うんですよ。いい例だと、文学にはペンネームがありますね、文学界で自分が残していくもの、つまり文学作品はペンネームで書いているわけです。私小説を書く人でも、実は表では違うことをやっている人でも人格を使い分けられることはありがたい。ネット人格というんですかね。


小川氏
 確かに、ブログがオフィシャルになってしまうと読者の目を意識して書くようになりますし、それでSNSに個人的なことを書くようになると、だんだんそっちもまた窮屈になってくる。


藤元氏
 サラリーマンは企業人としては、コンプライアンスや企業内の規約がうるさくて副業はできないし。クリエイティビティを発揮したりするような環境がなかったわけですよね。昼間ネットを駆使するのがいいかどうかはおいておいて、そのほうが社会的にはよいのではないかなあ。働き方、兼業ルールなどの問題は残りますけど、土日の週末起業というのではなく、マルチなコミュニティに属して、生産をするほうがよいだろうと思いますね。そういうツールができてきたことは喜ぶべきことじゃないでしょうか。SNSにしたって、家族や親戚がみていたら、なかなか本音が書けないということもあるだろうしね。


小川氏
 そういう人たちがTwitterに流れているのかもしれないですね。


多重人格の世界では、場所や時間ごとの行動マーケティングが必要

藤元氏
 企業のマーケティングも同じですよ。年齢や地域や年収が同じだからといって、同じものを買うわけではないじゃないですか。行動ベースマーケティングが注目されるのもそこなんです。18歳の女の子だろうが80歳の老人であろうが、興味が同じなら同じターゲットになるわけです。IDがユニークであって、なんらかの分野の商品のサイトをみているのであれば、性別や住所はもう関係ない。であれば、行動さえ見ておけば、プライバシーの問題や個人情報の収集についてセンシティブになる必要はないですから。

 また、ある場所で何かの商品に気を取られたとしても、それはその時間だけのテンポラリーな欲望や興味でしょう。テンポラリーな人格を相手にマーケする必要があるんじゃないですか。サイトでも見たページ全部が記録され、マーケの対象になるのであれば、ためらう人が出るのも当然です。


小川氏
 その通りですね。アマゾンでも、ちょっと何かを見たらすぐそれを覚えてられるというのも、少々うっとうしいですから。

 話は違いますが、D4DRは創業してどのくらいでしたか?


藤元氏
 創業して5年ですね。もともと野村総研で1993年くらいから、TBSやドコモなどの大企業のネットビジネスの立ち上げを手伝っていたんですね。1996~1997年くらいからネットビジネスの市場ではベンチャーが主役になるだろうと感じていて、外にでたんです。1999年にCSKの故・大川さんに支援していただいて、フロントライン・ドット・ジェーピーを作りまして、その後2002年にD4DRを作りました。


小川氏
 事業モデルとしてフロントラインから変わったことは?


藤元氏
 当時はSIPSというか、コンサルとシステム開発をワンストップで提供していたわけで、ネットイヤーに近い事業モデルでしたね。D4DRは、開発ではなく上流のコンサルに特化してます。インキュベーションもやっていますが、基本的には投資はせずに、ベンチャーにマネージメント支援や人材の提供をしています。


小川氏
 事業としての2.0化(笑)はどうでしょう?


藤元氏
 そうですね、コンサルティング会社もいつまでも人月計算による事業ではなく、コンサルのノウハウをパッケージ化していきたいですね。知識を流通するアプローチをやりたいと思っています。最近手がけているのは、ブログを分析して複数のブランドとの比較をするようなサービスも商品化しています。


小川氏
 なるほど。先ほどの話に戻りますが、多重人格が実現される上で事業上なにか考えていることは?


藤元氏
 多重人格ベースのサービス提供は、セキュリティ的には難しいですからね。法人格を持つと、さらにとっても難しい。例えば会社が営業にNTTドコモの2in1をもたせて、会社の番号と個人の番号を分けるのはいいが、不正をどう防ぐか?ということになりますよね。お金が絡むと難しいです。

 ただ、大企業が2.0に興味を持っているという状況はこれからも加速するでしょうね。感覚的には、景気がよくなってきて、リストラなどの事業効率化や、SOX対応などを考えていくにつれて、企業がその次を考えるようになってきたということなんでしょう。実際には今はいいけど、その次が空白だ、という会社が多い気がします。Webが生まれて10年経って、前に作ったWebサイトのリニューアル時期など、次を考えなければ、というステージに多くの会社があるわけです、そういうタイミングにちょうどさしかかったのだろうという気がしてますね。企業が好調になってきて、次を考えるという局面にきた、技術がどうかではなく、次の数年を企業が考えるという時期に重なった、ということだと思っています。


小川氏
 確かに僕も、去年と比べるといわゆる大企業からお声がかかることが多いですね。


藤元氏
 個別のシステムよりもプラットフォームを考える、ということでもあるでしょうね。多くの企業がASPにチャレンジした1999~2000年頃とは技術が違って、やっとSaaS的なテクノロジーが追いついてきたじゃないですか。セールスフォース・ドットコムがうまくいくのをみたりして、企業間を横断するようなシステムも実現性がでてきたしね。データを統合して動かしていくという気分がでてきたのだろうと思います。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/06/13 00:00

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