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ブログとWebは混然一体になっていく

シックス・アパート関社長

 今回のゲストは、ブログ業界のパイオニア企業シックス・アパートの関氏です。


シックス・アパート関社長 関 信浩
シックス・アパート株式会社 代表取締役
(米Six Apart Ltd. Executive Vice President & General Manager of Japan)

1969年10月 東京生まれ。1994年 東京大学工学部卒。
1994年から2003年まで、技術系出版社で編集や事業開発に従事。2002年 カーネギーメロン大学ビジネススクールで経営学修士(MBA)を取得。カーネギーメロン大学在学中に、ビジネスプランコンテストで特別賞などを受賞。
2003年12月 シックス・アパート株式会社を設立し代表取締役に就任。


フィードメディアに侵入開始したGoogle

小川氏
 いきなりですけど(笑)GoogleによるFeedBurnerの買収についてどう思いますか?


関氏
 (笑)。Googleという会社は、もともとRSSフィードとかのストラクチャーとは別、その前の世代の会社じゃないですか。彼らのテクノロジーは、混とんとしたWebの中から必要なものを検索してくるというものですね。フィードは混とんとは逆に整然とした世界です。そのいう意味で、GoogleがFeedBurnerを買収したということは、すなわちRSS、フィードがビジネスになるという証明になったということじゃないですかね。


小川氏
 同感ですね。基本的にはいい兆候と思っています。


関氏
 広告のインベントリー(商品目録)を増やすうえで、Googleはネット以外の広告も増やしてきたわけですが、出稿する場所を増やすうえでフィードに目を付けてきたという証拠ですから。FeedBurnerを買収したことはいいことなんだろうと思いますね。

 実際、Bloggers.comを買収したときも、なんのためか分からなかったけど、今となっては多くのページ、広告媒体として活用するためだとはっきり分かっているわけです。


小川氏
 フィードを活用するビジネスを標ぼうするベンチャーにとっては、Googleがフィードメディアに入ってくることを脅威と思う向きもあるでしょうね。


関氏
 アドワーズにしてもアドセンスにしても、Bloggersだけとつきあうわけではなく、より多くのメディアとつきあっていくのがGoogleのビジネススタイルです。となれば、FeedBurnerを買ったからといって、他のフィード企業とも変わらずつきあっていくとは思いますよ、自社媒体を持つメリットはあると思うけど、ビジネスの相手は開かれているほうがGoogleにとってもよいことでしょう。


SaaSモデルの不安点

小川氏
 Googleの侵攻はフィードの世界に限らず、速くて激しいですね。


関氏
 Googleだけではないですね、ここ一年の広告企業の買収は、どうにも過熱感がありますね、ダブルクリックの買収もそうですし。Googleについては、10年前のマイクロソフトがありとあらゆる企業から敵国扱いされた時をほうふつさせます。

 話変わりますが…。


小川氏
 はい。


関氏
 こないだサン主催のパネルディスカッションに出たんですけど、SaaSの時代になって、サーバーの集約とか省電力化などがテーマになっているという話になって。シックス・アパートにしても、B2Cにブログサービスを提供するうえでホスティングしているサーバーはすごい台数になっています。つまり、SaaSの裏側では、サーバーの運用の部分での人不足が顕著になると思うんですね。


小川氏
 技術者不足がSaaS事業の発展の足を引っ張ると…。


関氏
 あれだけの台数を管理するには、かなりの人がいる。アタックがあったり、メンテ自体に人手はかかります。社内サーバーだと外的なトラブルはあまりないと思いますけどね、SaaSだと、外的な障害に常に対処しなくてはならないわけで、SaaSに代表されるWeb 2.0のサービス事業のボトルネックはそういうネットワークの技術者の不足になるんじゃないかなと思ったりしてますね。


小川氏
 なるほど。


関氏
 10年くらい前に、メインフレームからUNIXサーバーになって、分散化して、運用が大変だという話があったじゃないですか。論理的には一社が管理してみんなで使うわけだけですけど。サンだと超巨大サーバーで台数減らしていくというアプローチをとったりしてますが、またスーパーサーバーの時代になるかもしれないという感じもしてます。

 だから、一方では、SaaSではなくて、シンクライアントからファットクライアントに移りたいという考えもまたでてくるかも、と。ネットワークの帯域が高価なのかストレージが高価なのかで話は変わってくるわけですけど。いずれにしても、新しいイノベーションがまたあるかもしれない、いつかは分からないけど、そうしたパラダイムが変わるかもしれないなと思いますね。あまりに偏ると、揺り戻しが起こるし、そのときはプレイヤーも交代すると思っています。


日本と米国のコラボレーションがシックス・アパートにはある

小川氏
 少し話は違うかもしれませんが、シックス・アパートはSaaS型ののTypePadに加えてMovable Type(以下MT)というクライアント/サーバー型のプログラムも持っています。MT 4をリリースした意味は?


関氏
 小川さんも知っているように、ちょうど3年前にMT 3をだしたじゃないですか。そのころから、いつかはMTそのものがWebサーバーになると思っていました。当たり前にどんなマシンにもブログ機能がついてくると思っていたわけです。MTがそれなのかは分からないけど、ブログは書くだけではなくて、Atom APIのようなもので投稿して配信するというようなこともできる、一種のミドルウェアになってきています。コンテンツを管理するし、フィードも吐くし、HTMLも書く、APIベースで操作もできるし、今後はいっそう普遍化していくと思いますね。


小川氏
 日本はブログ大国であるのに、技術面ではなかなか次の進化を見せられない。テクノロジー的に、Web全体の進化のなかでどういうポジションにあるシステムなのかを理解してないような気がするんです。


関氏
 Twitterのように、コミュニケーションやプレゼンスをだすようなシンプルなツールも日本から出てもよかったとは思っていましたけどね。

 ただ、日本って閉じた環境だから、一つのサービスや製品を突き詰めて開発していくのはうまいとは言えると思うんです。みんなで同じことをやっていて、どうすればいいかというゴールがみえていて、そこにいかに早くたどりつくかという勝負を日本はやっている気がします。ところが米国はまったく違うルールやパラダイムを持ち込んでくる人たちがいる。どちらがどうというわけではなく、文化が違う、ということでしょう。

 モノを改良していくという能力は日本人は高い。米国が作ったざっくりとした、荒削りでも何か新しいものを日本に持ってきて、研ぎすまして商品をよくしていくという、よいコラボレーションがシックス・アパートにはあるかな、と思ったりします。


小川氏
 米国と日本で役割を分けていると。


関氏
 新しいことを生み出すことだけがいいというわけではない、役割分担がグローバルにあってもいいのかなとも思いますね。新しいものを作りたい人がシリコンバレーにいくとして、それを損失と見るのか、グローバルとしてはよいことと見るのかは、見方の問題だろうと考えます。


小川氏
 Voxは新しいコンシューマー向けのブログとしてデビューしましたが、最近はどうですか?


関氏
 Voxは、マルチメディアに対応したブログというポジションです。平易なサービスだとは思うんですけど、同時に先進的でもある。今のところ技術面の新しさが前に出すぎて、十分に受け入れられていないかもしれません。使い方が難しく思えるのでしょう。Twitterのように、何をしているか分かりやすいモデルは爆発的に伸びることがあるわけですけど。


小川氏
 modiphiもその意味では同じですね。フィードを書くという行為そのものがまだ一般に受け入れられてはいないので、どんなに簡単だよと言っても、なかなか額面通りには受けてくれませんね(苦笑)。


関氏
 まあ、個人、法人に向けてわれわれはポートフォリオを組んでいかなくてはならないですけど、時流にあった商品に都度力を注ぐべきでしょう。今年はMT 4かな、と。

 MT 4は機能強化の柱の一つとして、通常のWebサイトを作るためのCMS的要素があるんです。MT 3は、あのくらいの値段であのくらいのスペックがあるという、管理者には大きなメリットがあった。ビジネスブログのようなものを作ったりするにはとてもいい。その後、企業ユーザーがすごく増えて、いろいろなフィードバックをもらって、CMS的な要素を加えることが必要なんだろうという結論に至ったといえますね。Webサイトをたてるという感覚とブログを作るという感覚が近くなったともいえるでしょう。ブログの一番いいところは簡単にコンテンツを加えられるところですけど、管理者からすると運用が、運営が楽、ということがメリットになります。


小川氏
 ブログはWebそのものを2.0に押し上げた最大の要因と思っていますが、社内でも同じ力を発揮できるといいですね。


ブログとWebの差異を見えなくするプラットフォームとしてのMT

関氏
 Webサイトを作る、発信するという機能とは別に、ブログは双方向性の良さがある。検索されやすいということもあるし。コミュニティを作って運営するという要素を持っているんです。サイト上にあるコンテンツを管理するというのが従来のCMSですけど、そのコンテンツに人が来るようになり、1対nの情報発信からコミュニティへと発展する、そうした管理を追加していくというのが、もう一つの大きな柱であると考えてますね。

 だから、ある意味SNSとまではいわないけど、ソーシャルメディア的に情報のやりとりをするときにMTを使えばいい。人が集まって何かすればソーシャルメディアだし、商品を扱うEコマースであれば、レビューを書かせるようなこともいるし、そういうコンセプト的なアーキテクチャーを変えていくのがMTなんですね、昔はプラットフォームとしてのMTに、シングル目的のプラグインを足していったが(いまはパック、と呼んでいますが)、コミュニティ管理をするためのさまざまな機能をそろえたパックを追加すれば、簡単に管理できるようになります。MT 4があれば、なんでもカンタンにまとめてできますよ、というのが大きな変更点ですね。


小川氏
 なるほど。


関氏
 MT 3をだしたときに、将来はブログという言葉を使わなくなるんじゃないかということも思ってました。ビジネスブログという言葉で、ブログイコール日記、じゃないという印象を与えることもできたし、小川さんがイントラブログと言い出したおかげで(笑)社内ブログを説明しやすくなったけれど、ブログとWebの境目が薄くなって、区別をわざわざつける必要さえなくなっていくように思っています。そのときのプラットフォームにMTが選ばれるようにがんばります。


小川氏
 期待していますよ(笑)。ブログがWebの積極的な参加者を増やした功績を、僕はとても大きいと思っています。Webを見る、という行為を一般の人に門戸を広げたのがNetscapeなら、書くという行為はブログ、それもシックス・アパートかなと。僕はフィードの世界のNetscapeを作りたいと思ってmodiphiというサービスに取り組んでますからね。Netscapeは事業的には成功とは言えないかもしれないけど、最高にクールな、ネットビジネスのアイコンだと思っています。


関氏
 僕自身、記者時代にNetscapeの立ち上げから見てきていて、シックス・アパートを知ったときに、ああ、これは次のNetscapeだな、と。だから取材する側の関わり方から、その内側に入って関わりたいなと考えた、それが今シックス・アパートの社長を務めることになった最大のモチベーションでしたね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/06/26 00:00

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