Enterprise Watch
バックナンバー

「店舗数×商品数=店舗力」これを磨き上げることが楽天のマーケティング

楽天・光枝部長

 今回のゲストは楽天株式会社マーケティング本部の光枝部長です。最近Webサービスを発表したり、Web 2.0への取り組みを表明するなど、自社の“2.0化”を加速しているようにみえる楽天ですが、Googleの侵攻やアマゾンのモールビジネスの取り組みなど、さまざまな環境変化にいかに対応していくのでしょうか。お話を伺いました。


楽天・光枝部長 光枝 仁美
楽天株式会社 楽天市場事業ビジネスユニット マーケティング本部 ユーザマーケティング部 部長

福岡県生まれ。
1997年カルチュア・コンビニエンスクラブ入社。
直営店運営、全国の出店インストラクター、SV職と現場を渡り歩き2000年楽天株式会社へ入社、ECコンサルタントとして従事。
ファッション事業部、キッズベビーマタニティ事業部長、コスメフレグランス事業部長、ダイエット・ウェルネス事業部長を経て、2006年4月マーケティング本部、同年9月ユーザマーケティング部兼アフィリエイト推進部部長
主に楽天市場の新規獲得のマーケティングを担当


ツタヤの店舗から楽天へ

小川氏
 こんにちは、光枝さんはこの連載初めての女性ゲストです。いや、音流さんがいたから二人目ですね(笑)。先日は僕の記者発表会でのエンドースメントをいただき、ありがとうございました。


光枝氏
 こちらこそ、先日は発表会にお招きいただきありがとうございました。


小川氏
 楽天についていまさらご紹介いただくことはないですけど(笑)、光枝さんの経歴についてちょっとお話しください。


光枝氏
 楽天にくるまえは、CCCにおりました、CDやDVDのレンタルのツタヤの運営会社です。そこの三軒茶屋の店にいて、ディレクTVのチューナーも売ってました(笑)。その後はツタヤの出店の支援を全国各地でやりました。そのあとスーパーバイザー業務をさせていただきました。


小川氏
 そのあと、楽天に?


光枝氏
 はい。当時、2000年でしたけど、ツタヤオンラインが始まっていて、ケータイを使ったクーポンの説明などを店舗さんにしているうちに、自分自身ネットの可能性に目覚めたんです。ネットを使えば顧客マーケティングも比較的楽にできるところがいい、と思えたんですね。日本の人口はどんどん少なくなってくるし。

 そんなおりに、楽天を見つけて。それで転職をしました。最初は2006年までずっと事業側にいて、出店している企業へのECコンサルタントをしていました。私が思うに、楽天が楽天であるゆえんは、たくさんの優良店舗さまが店舗運営を行っている、ということです。楽天の原点はそういった店舗さまがしっかり店舗運営をしていただく土壌を作ることだと常に思っています。彼らにいかに店舗運営に専念していただけるようにするかが大切だと考えています。そういう思いがようやく形になって、2006年の4月にマーケティング部隊に移ることができて、同じ年の8月から現職になりました。


小川氏
 楽天におけるマーケティングとは?


光枝氏
 大きく分けると二つです。新規のお客さまを連れてくること、既存のお客さまの活性化、の二つです。私の役目は新規のお客様を外から楽天にお連れすることです。


楽天アフィリエイトと楽天ウェブサービスの提供について

小川氏
 最近楽天ウェブサービスを公開しましたね。それもその新規顧客獲得向けのマーケティングの一環?


光枝氏
 ええ。楽天の強みは、どこにも負けない商品数と、そのバリエーションの豊富さなのかなと。その強みを生かすための方法の一つとして、楽天アフィリエイトをまず展開してきました。

 楽天ウェブサービスを開始したのは、楽天ユーザーさまの利便性を上げていくためです。複数のデータを一度にとって、情報の更新の手間を省くためにWebサービスの提供にいきつくのは自然です。


小川氏
 楽天アフィリエイトと楽天ウェブサービスの、サービス上の違いは?


光枝氏
 楽天は、誰にでも簡単に使っていただけるサービスです。楽天アフィリエイトも比較的簡単に扱えるサービスです。それに比べると楽天ウェブサービスは少しハードルが高いかもしれません。


小川氏
 つまり、楽天アフィリエイトは初級者から中級者向け、楽天ウェブサービスは上級者向けということですね。


光枝氏
 そうです。楽天アフィリエイトで一般的には十分なんでしょうが、最近は個人が非常に高度なサイトを運営するようになってきていて、彼らにも利便性を提供することがいいとも思えてきた。その結果としての上級者向けサービスが楽天ウェブサービスの提供です。


小川氏
 三木谷さんもついにWeb 2.0という言葉を使われましたしね(笑)。


光枝氏
 楽天市場は、そもそもレビューなど口コミ重視で、2.0的な要素は備えていたとは思います。だから、2.0的ではないとか1.0である、というように言われていたことには不満はあったと思います。


Web 2.0への意識

小川氏
 米Yahoo!も新CEOとなったジェリー・ヤンがしきりにWeb 2.0についてのコメントをし始めていますけど、僕はあまりあわてなくていいんじゃないかなと思っています。たとえば、鮫って何億年も前からあの形のまま進化してないんですね。


光枝氏
 はい(笑)。


小川氏
 鮫は海の生態系のトップで、それ以上進化する必要がないほど洗練された生物です。もっと軽量で動きが速くて頭もいい動物や魚はいくらでもいるかもしれないけど、食物連鎖の中ではあれでいいわけです。楽天さんもそうだしYahoo!もむしろ鮫でいけばいいんじゃないのかな、って思ったりします。


光枝氏
 ありがとうございます(笑)。ただ、楽天がもう少し力を入れていくべきポイントは、エンパワーメントなんだと思うんですね。東京にはいろいろいいものが売っている、でも地方の人はなかなか買いにはこれない。そういう人たちへの利便性を与えることもエンパワーメントですし、楽天ウェブサービスや楽天アフィリエイトのように、積極的にEコマースに関わってくださるユーザーさまに方法を提供するのもそうだと思っています。


小川氏
 フィードもだしてください(笑)。


光枝氏
 検討します(笑)。


小川氏
 トラフィックの流れは検索から直接店舗ページに入ることが多いのでは?


光枝氏
 検索もそうですし、楽天アフィリエイト、メルマガなどから店舗さまのページに直接飛んでもらっていることも多いですね。トップページからのトラフィックと比べての比率は分からないですけど。店舗さまの力は強いので、直接そちらに向かうトラフィックも増えていますね。


小川氏
 PCとモバイルの市場の割合は最近どうなんでしょう?


光枝氏
 年々モバイルの比重は高まっています。多いときには20%いってましたけどね。今後まだまだ伸びていくだろうと思っています。


小川氏
 米Amazonは、流通在庫の負担を下げていくために、iTMS(iTunes Music Store)をまねてデータ販売にシフトしようとしていると聞いています。楽天さんは?


光枝氏
 (白い歯を見せて)いまはまだコメントできないです。


小川氏
 分かりました(笑)。話は違うけど、楽天さんは女性管理職が多いですよね?


光枝氏
 多いですよ。女性が結婚後でも辞めないようにするにはどうしたらいいのか?とか、子供を連れての通勤はどうするのか、などなどについて、三木谷が先頭切って協議しています。女性は役員にも、管理職にもいます。楽天の女性の登用は積極的だと思いますね。


店舗数×商品数=店舗力

小川氏
 最後に、激化する競争の中で、自社をどういうポジションにみているのかを教えてください。


光枝氏
 楽天は楽天市場が基本ビジネスです。そこはぶれることはないですね。楽天市場があって周りがある。そのスタンスには変わりがないと思うんです。

 もちろん多角化をすることによって、いろんな切り口からお買い物をするお客様が入ってくるわけです。いろいろなアクション=モノを買う、旅行にいく、などなどをしていただく、それによって商圏を広げていく、という戦略を今後もとっていきます。


小川氏
 その中で最大のライバルは?


光枝氏
 検索エンジンは確かにライバルなんだと思います。会員組織を持っているところは、なんであっても直接的なライバルですけど。でも、基本通りに仕事を進めていくことがまずは大事なことですね。モール運営で一番大事なことは、個人的には、商品であり、店舗さまだと思ってます。店舗さまが自身で商品ページを楽しく便利にしていくことができるようにすること。それが必要だと思っています。結局、店舗数×商品数=店舗力なので、それを向上していくために私は仕事をしています。

 お客様が来店しても、モノはないし売り場に魅力がないとだめじゃないですか。だから価格戦略などは二の次で、店舗力をいかに強めるかを考えていきたいです。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/06/29 00:00

Enterprise Watch ホームページ
Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.