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エンタープライズ2.0の中核はセマンティックな企業向けサービス

住友商事・佐藤氏

 本日のゲストは、総合商社の住友商事でベンチャービジネスへの投資業務に関わる佐藤氏です。佐藤氏と筆者(小川)は、フィードパス株式会社の出資者と経営者という関係にもありました。そんな因縁浅からぬ(?)佐藤氏から、成功するであろうネットビジネスを嗅ぎ分けるコツを学んでみましょう。


住友商事・佐藤氏 佐藤誠之(さとうせいじ)
住友商事株式会社 ネットワークソリューション事業部 部長代理 企画・マーケティング

1963年6月生まれ。
1987年 早稲田大学理工学部 卒
1987年 住友商事入社
1994年7月-2001年9月 米国駐在(LAからNYへ)
現在、ネットワークソリューション事業部にて米国ベンチャーの日本でのインキュベーション事業に携わる。


米国ベンチャーの日本進出を支援

小川氏
 米国駐在されてたんですよね?


佐藤氏
 そうです。1994年7月から7年ほど米国にいました。最初の一年はLA、95年10月からNYに異動しまして。95年の夏には、NetscapeのIPOというインターネット業界のエポックメイキング的なことがあって。そんなニュースが気になりながら、VC業務をそろり始めました。住商の米国におけるVC子会社である「Presidio Venture Partners(現PresidioSTX)」の立ち上げにも参画し、そこで、バブルな時代背景の下、ベンチャー投資を忙しくやってました(笑)。


小川氏
 主な仕事の説明をもう少しいただけますか?


佐藤氏
 駐在中は、インターネットの黎明期でしたからね、当時はネットのプラットフォーム的な技術開発への投資がメインでした。そして、それらを、日本のキャリア等へ紹介、または製品・ソリューションとして販売していました。帰国してからは攻守交代してピッチャーとキャッチャーの役割は変わりましたが、今また盛り上がっているWeb 2.0分野等にも投資領域を広げて、引き続き、米国のベンチャーのインキュベーションを日本側から支援しています。


小川氏
 基本は米国ベンチャー企業が日本に進出するときの支援になりますか?


佐藤氏
 そうですね。フィードパスのように日本のベンチャーに出資するケースもありますが(笑)。


小川氏
 フィードパスは、御社が米国で出資した(Webメールソフトの)Zimbraの日本市場向けローカライズおよび製品サポートのパートナーですしね。


佐藤氏
 そうですね(笑)。フィードパスでは、ローカライズおよび製品サポートに加えて、ZimbraをZebraというブランドでSaaS提供しています。2月にローカライズを完了してテイクオフしました。一方で、住商自体は、Zimbraの総販売代理店として、xSP/SaaS事業者様や企業様向けに、Zimbraソフトのライセンス販売をしていまして、最近の実績としては、まだ詳細は公表できる段階ではないのですが、数万人の従業員を持つ某一部上場企業様が、Notesのリプレースとして採用していただける方向で話を進めています。


小川氏
 それはZimbraブランドですよね?


佐藤氏
 そうです。

 企業におけるNotesのリプレース需要というのは確実にありますね。Googleもこの分野ではSaaSモデルで参入しているし、マイクロソフトもExchange/Liveを擁しているわけですが、Zimbraも強力な選択肢に入ってくると思っています。

 また、企業だけではなく、xSP市場でも米国では非常にホットな状態でして、1200万ユーザーを抱える全米一のCATV事業者であるComcastが、今秋より、Zimbraを導入することを決定しました。ComcastユーザーのLoyalityをいかに高めるか、Churn率をどう減らすか、というソリューションとしてリッチなWebメールが有効であると認識されたようで、Zimbraが採用されました。Comcastの例でいえば、Zimbraのマッシュアップ機能を使うことで、各ユーザーの個人カレンダーへTV番組予定表が自動挿入されそのまま番組予約できるとか、TV番組関連のコンテンツが即ダウンロードできたりといった今までにないサービスが、Zimbra上で可能となります。日本でも、同様の事例ができればと考えています。

 さらに、最近は大学での採用も進んでいます。いわゆる、生涯教育が重要になってきていて、大学間の生徒の囲い込み競争が激しくなっていますが、学生やOB、そして教授陣等が共有して使えるカレンダー機能やリッチなWebメール機能は、サービス事業者たる大学側からすれば、お客様である生徒・OBの大学へのLoyalityを高める訴求ツールになり得る、というものです。

 というわけで、Zimbra本体としては、北米が主体ですが全世界ベースで、1500社、800万アカウントの有償ベースでの販売実績があります。


小川氏
 なるほど。具体的にはどんな大学がZimbraの採用を?


佐藤氏
 UCLA、ジョージア工科大学等を含めて、現在約80校以上が採用しています。ちなみに(Gmailがある)Google Appsが日大に採用されたことですし、Zimbraも同じように日本の大学に採用していただけるよう努力していきたいと思っています。


エンタープライズ2.0は企業内の「意味ある情報空間」を垣間見ること

小川氏
 Googleとの差別化をどう考えていきますか? メールもそうですし、グループウェア的な機能を持っていることでは近いコンセプトですよね。


佐藤氏
 SaaSは確かによいのですが、企業にしてもxSPにしても大学にしても、貴重なデータをGoogleに預けるということでいいのか、という点をやや心配されるケースが多いと思います。データを誰かに預けるのか、それとも自分で管理するのか、という判断はお客様自身がするものです。その選択肢をZimbraであればお客様に持っていただくことができます。この点は、非常に重要です。

 また、「Zimlet」というAPIを用意してまして、お客様が自前でさまざまなサービスとのマッシュアップ開発を実現できるという点もGoogleに勝っていると思います。また、Google Gearsというオフライン機能をGoogleは発表していますが、Zimbraは彼らより先行して、今年3月から、「Zimbra Desktop」として“オフライン機能”をリリース済みです。


小川氏
 なるほど。


佐藤氏
 米国では、この秋には5.0がでるんですけど、さらに、“インスタントメッセンジャー”、“ユニファイドメッセージ”、そして“ポータル機能”がリリースされます。それに、Google Appsと違ってスキンも簡単に換えたりとか、BlackBerryや先日発売されたアップルのiPhoneへ既に対応済みとか、優位点はいろいろありますよ。


小川氏
 日本語にローカライズしているバージョンは?


佐藤氏
 Zebraは、Zimbra 4.0.3ベースです。来月には4.5ベースがリリースされます。ローカライズにかかるタイムラグはなるべく短くしたいと思っていますが、ある程度枯れさせて(=機能を安定させて)から使っていただくための期間としては致し方ないと割り切ってもいます。5.0は今年の第3四半期に米国でリリースしますが、日本でも数カ月後には出していきたいですね。


小川氏
 最近僕もいろいろ大企業に呼ばれて講演することが多いんですが、いわゆるエンタープライズ2.0の流れをどうお考えですか? 基本は、Web 2.0的な技術や思想を取り入れて、社内情報共有システムを作っていく、という動きだと思いますが。


佐藤氏
 最近の法人顧客のニーズを見ていると、GoogleのPersonalizedページ(iGoogle)と同様のパーソナライズされた、EIP(企業内情報ポータル)という実際のニーズがはっきりと出てきていますね。この流れを見据えて、次期5.0では、パーソナライズ可能なポータル機能を追加予定です。ただし、このポータル機能は、別ベンダーのポータルを使っていただいても一向に構いません。いずれにしても、ポータルの中の一つのコンテンツモジュールとして、メールやスケジューラとしてZimbraのアイコンがあるような形になると思います。


小川氏
 なるほど。


佐藤氏
 また、このポータルの上で、企業が今後求めるニーズの一つには、ビジネスマンとしてリアルタイムで欲しいはず、という情報を自動受信させたいというニーズがあるように思います。言い換えるとアマゾンに代表されるようなリコメンデーションエンジンの企業版のイメージかもしれません。米国VC動向の断面としては、「意味ある情報空間」という意味で、セマンティックウェブの世界が垣間見えてくる気がします。そのあたりがエンタープライズ2.0なのかな、と。


エンタープライズ2.0はデジタルアセットをメタ化すること

小川氏
 話は違いますが、11月に東京で行われるWeb 2.0 EXPO Tokyoのプラチナスポンサーなんですよね。


佐藤氏
 ええ。キーノートにはZimbraのスコット・ディーゼン(President & CTO)を呼ぶことになっています。


小川氏
 ちょっとWeb 2.0の話をしましょう。僕はWeb 2.0サービスの重要な要素として、「受信」「検索」「発信」「共有」をサポートすることと主張してきたのですが、最近は「通知」を「受信」の前に加えるようにしています。そして、この「通知」こそがFeedなのかなと。

 佐藤さんはWeb 2.0をどういうようにとらえていますか?


佐藤氏
 現状は、セマンティックウェブ的な観点では、入り口の入り口にあると思うのですが、アマゾンや、オンラインフォトサービス、商品比較&推奨サービス、トラベルエージェントサービス等、が非常に初期的なセマンティックなアプリと言えますね。


小川氏
 Web 2.0はセマンティックウェブの方向に進んでいる過程だと思われているわけですね。


佐藤氏
 そうですね。セマンティックウェブということは、情報をどうやってメタデータ化するのかということだと思いますが、セマンティックな世界では、あらゆるデジタルアセット、それもテキストに限らず、静止画像や動画もその対象になるでしょうが、それらがメタデータ化されていかないとならないですよね。メタ化する方式は、現在皆さんがWikiっぽくやってる流行りのタグ付けがありますし、RDF等があったり、自動でタグ付けするような仕組みがあったりと種々雑多な現状です。


小川氏
 はい。


佐藤氏
 いずれにせよ、将来的には、メタ化されたあらゆるデジタルアセットをすべて、“意味ある形で紡ぎ出すインテリジェントなエージェント”みたいなものがでてくるんじゃないですかね、セマンティックエンジンと言ってもいいかな。それが例えばEC向けや、エンタメ向けなどいろいろなアプリごとに激しく開発競争されている、というのが米国ベンチャーの一つの動向かと思います。


小川氏
 なにか一つ、アメリカ側での実例を紹介してください。


佐藤氏
 ちょっと面白い例として、画像に関連してのセマンティックエンジンの一例として、静止画・動画の中のオブジェクトを一つ一つ自動的に切り出して、同時に意味づけができるエンジンを持っているベンチャーがあります。つまり、画像データをオブジェクトごとに分解してメタ化して意味付けしているわけですが、これを米国ではインテリジェントコミュニティーなところが利用し始めているようです。


小川氏
 インテリジェントコミュニティー?


佐藤氏
 たとえばCIAみたいなところです。彼らは膨大な静止画・動画の中から特定のオブジェクトを、自動で高速に抽出する目的で使っているようです。


世界情報傍受サービス『エシュロン』のアイデアを企業サービスに転用?

小川氏
 なんでしたっけ、アメリカの情報傍受システム…。


佐藤氏
 エシュロンですね。ちょっと想像力をたくましくした話ですけど、そうしたセマンティックな加工をされた画像からの情報と、これまた傍聴なり盗聴なりして抽出された音声などのデジタル情報を、さらに総合的にかつ横断的にセマンティック分析して、そして同時にヒューミントな情報も加味して、例えば、何日以内にここらあたりでテロが起こりそうだ、というような推論を導き出す、“リコメンド”する、ようなことができるかもしれません。あるんでしょうね、もうすでに多分。


小川氏
 かもしれませんね。


佐藤氏
 一方、これを画像データを形態素解析しているという風に見れば、オンラインフォトサービスへの応用や、画像の意味を理解した上でのネット広告サービス、つまり画像版アドセンス、なんていう可能性があると期待しています。ともかく、セマンティックウェブで語られる世界はテキストだけではなく、動画や画像にも本来広がるべきですから、そういう分野にも投資をしたいと思いますね。


小川氏
 企業内であれば、もっと早く実現されていくかもしれないですね。


佐藤氏
 そうですね。先ほどのエンタープライズ2.0的な企業ニーズでいえば、ナレッジマネージメント的に、社内の全ドキュメントをメタ化して、各ドキュメントごとに、このドキュメントはこの人が欲しいはず!という感じで、これはという適当な社員にリコメンドするようなことはできますよね。

 つまり、先ほど小川さんが言われた「通知」の世界を拡張したインテリジェントな方向性ですね。検索履歴からみられるような無意識な行動や嗜好(しこう)を拾っていけば、広告の行動ターゲティングに似たサービスを作れそうです。サーチは自分が何を知りたいのかを分かって能動的に調べているわけですけど、こういうプッシュ型のサービスは何が欲しいかわからんけど受け取って初めて、ああこれが俺が探していたものだったんだと、受け取って始めてわかる発見、つまり“ディスカバリーサービス”なんですね。そんなセマンティックな新しいサービスが、コンシューマ向けに限らず、企業向けにも、遠くない将来に出てくるだろうなと期待しています。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/07/19 00:00

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