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大手広告代理店と競合? クリエイティブエージェンシーの実体とは

ライジン・丸田社長

 今回のゲストはクリエイティブエージェンシーのライジンの丸田力也社長です。

 丸田さんとは知り合ってから8年という長いつきあいです。一時は同じ会社のパートナーとして仕事をしていたこともあります。現在ではmodiphiのブランドディレクターを兼務していただいており、modiphiのブランディング構築の一翼を担ってもらっている友人でもあります。

 Enterprise Watchではクリエイティブエージェンシーという業種については耳慣れないとは思いますが、非常に興味深い内容ですので、是非ご精読ください。


ライジン・丸田社長 丸田 力也(まるた りきや)
株式会社ライジン 代表取締役

1972年東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部環境デザインコース卒業後、フリーランス、J.W.トンプソンジャパンを経て、2005年クリエイティブエージェンシー「ライジン」を設立。最近の仕事に、オリックス生命のテレビコマーシャル、ウェブサイト(http://www.massugu.tv/)用映像制作など。


modiphiのロゴを作ったクリエイティブエージェンシー

小川氏
 僕が描いたmodiphiとφのロゴを、非常に美しいロゴに仕上げてくれたライジンとスタッフに感謝しつつ(笑)。まずはクリエイティブエージェンシーという業態について説明してくれますか?

 丸田さんの事業は広告業界で、どっちかというと紙を媒体にすることが多かったと思うんだけど、ネットベンチャーの多くは広告を収入源にしているところが多いわけですから、実は近しいものだと思うんですよ。


丸田氏
 ライジンはWebだけやって、というようなメディア(媒体)を絞る仕事はあまり受けることはないんですけれど、メディアプランの中での影響力は大きくなっていますよ。

 まず、広告の業界的には、クライアントがいらして、大手広告代理店があって、その下にデザイン事務所がある、という構図なんです。だから、デザイン事務所がクライアントと直に仕事をすることはめったにないわけですけど、最近、直に仕事を受けるところも増えてきました。こういうデザイン事務所をクリエイティブエージェンシーと呼ぶときがあるんです。

 広告代理店の仕事では、メディアがいちばん金になるところなんですけど、僕たちはクリエイティブでお金をいただくことを考えてるんですよ。量的な調査でターゲットはどんな人なのかを見極めて、そこから質的な調査で、そのターゲットが、どんなトリガーで購買に動くのかを探っていきます。そこからクリエイティブアイディアを導きだす。それができたら、どんなメディアミックスが最適なのかを考えて、実際のデザインワークやコピーワークに落とし込んでいきます。


小川氏
 聞いていると広告代理店を中抜きするわけだから、広告代理店とは競合になるんでしょう? それに今の話だと、まだまだレアな業態に聞こえるけど、大手っていうのはあるの?


丸田氏
 そうですね。代理店さんとは協業することもあるし、競合するときもあります。

 クリエイティブエージェンシーとして一番有名なところだと、クリエイティブディレクターとして有名な佐藤可士和さんのサムライがありますね。他には岡康道さんのタグボート、佐々木宏さんのシンガタがあります。でもまだまだみんな新しい会社ですよ。


小川氏
 可士和さんの露出はすごいよね。


丸田氏
 佐藤さんの影響は大きいですね。僕も佐藤さんもアートディレクターの出身なんですけど、彼はクリエイティブというか広告屋の領域を広げたと思うんですよ。それまでだったら、例えば商品開発はクライアントの中で完結していて、そこに広告屋は立ち入ることはできなかった。というか、そもそもそういう考え方をしなかったんです。

 また、クリエイティブの人間が、メディアプランニングにまで主導権を握るということも少なかったんです。そこを彼は変えて、クリエイティブの対象までも広げてしまったというところが大きな功績だと思うんですよね。彼が出てから、大企業と直接取引できる小さい企業が出てきたんです。こういう時代がきたのはつい最近です。ライジンも2005年設立だし。


ブランドパーソナリティとブランドプロミスを考える

小川氏
 会社作ってからまだ3期目なんですね。


丸田氏
 丸2年経ってないですねー。

 いまのライジンの主な仕事はCI(コーポレートアイデンティティ)やVI(ヴィジュアルアイデンティティ)作りから始まることが多いですね。特にCIは時間がかかる仕事です。お話をいただいてから、納品が2年かかったりすることもあります(笑)。会社設立時に携わった仕事がようやく最近請求書を出しました。

 VIというのは、会社概要、封書、名刺など、CI、会社に最低限必要なものの制作ですね。外資系だと、出資者が代わったりすることがあるので、イメージを大きくシフトしたいときがあるじゃないですか、そういう仕事も多いですね。


小川氏
 ブランディング、と言ってもいいですよね。


丸田氏
 ブランディングの定義は難しいですけど、ブランドパーソナリティとブランドプロミスという言葉があるんですね。人に例えたりすることが多いかな。たとえばmodiphiってどんな人? というように例えるんですね。そのうえで詳細を定義していきます。modiphiのイメージカラーは? フォントはゴシック、明朝、丸文字? 硬質な感じ? 柔らかな感じ? というように決めていきます。

 これはトップダウンでやらないと決まらないんです、トップと一緒になってやっていく仕事なんですね。ただ、一回決めたら変えてはいけないというわけではなくて、ある程度大枠を決めて(おおまかに)あとで付け加えていくものでもあります。色、形。どんどんがんじがらめになっていくんですけど(笑)、逆に言えばより明確になっていくんです。

 こうしてブランドパーソナリティが決まった後で、社員向けのインターナルブランディングをやることもあるんですけど、これも非常に大事ですね。会社のイメージを外に伝えていくために、あえて社員の言動や服装なども縛ったりする方がいいんです。


小川氏
 ブランドプロミスは?


丸田氏
 ブランドプロミスはブランドパーソナリティを決めた後で、決めていく。タグラインとは違って、そのブランドがもたらす価値を明確に示すものです。たとえば清涼飲料水メーカーなら、飲むとさわやかになる、とか。最近うちが手がけているMARIANNAという化粧品(ナノエッグ)なら、「年齢を忘れる美しい」で「時をさかのぼらせる(=肌をキレイに、若いときに戻す)」、などがあります。modiphiなら…。


小川氏
 「使うと仕事が楽になる」かな(笑)。

 それはともかく、ライジンの顧客はわりと大企業が多いんですよね。ベンチャーとは仕事しない? ITの企業がCIを考える必要性はあると思うんだけど。


丸田氏
 ありますよ。ベンチャー企業はやっぱり信頼感や安心感には欠けますよね。だからブランディングをきっちりやることによって、怪しさを消す作用が出ると思うんです。ブランドを大切にする企業であれば、カンタンには潰れないとか。ただ…。


小川氏
 ただ?


丸田氏
 経営者に揺るがないビジョンがないとブランドは作れないですからね。場当たりではできないんです。経営者にビジョンがないと、ブランディングのお手伝いはできないですね。また、ブランドに対する興味と重要性への理解がないと。小川さんは揺るがないじゃないですか。


小川氏
 そこは自信がありますね(笑)。そもそもいままでは自分でブランディング戦略を立てていたし、実行してきたからね。今回が初めてなんだよね、外部の企業に一任するのって。


GRP勝負ではなくネットのバズに頼るキャンペーンを展開

小川氏
 話は違うけれど、ITでもクリエイティブディレクターの時代がきていると思うんです。


丸田氏
 Webメディアの力じゃないかな? Web制作が仕事になってきたころに、代理店がキャッチアップするまでに時間がかかりましたからね。Webに限っていえばデザイン会社がクライアントに直につながることが多かったんですよ。だからクリエイティブディレクターの発言権が大きかった。

 ただ、最近は揺り戻しがあるようで、ITバブル期にベンチャーの納期遅れや倒産のリスクを味わって、クライアントも慎重になって、やっぱり大手広告代理店を通そう、という感じになったかもしれません。


小川氏
 そうか。その感じでいうと、昔のSIPS(Strategic Internet Professional Services=ネット戦略の策定から経営コンサルティング、デザイン、システムの構築・運用などのすべてを一社で請け負う業者)に近いですね。


丸田氏
 そうですね。クリエイティブエージェンシーとSIPSは近いかも。

 ただ、代理店はコミッションモデルから抜け出せていない感じがしてます。代理店口銭って17.65%が一般的だったんですよ。その中でクリエイティブもやりますというざっくりとしたビジネスだった。

 それを壊したのが外資系の代理店だったんです。日本に乗り込んできて、メディアいりませんといったわけです。フィー(手数料)でいただきますと。その結果、国内代理店もフィー型ビジネスに入ってきたんですけど、まだまだメディアに依存していますね。だからテレビ中心主義が抜けないわけです。


小川氏
 その環境を、ライジンはどうやって変えるつもり?


massugu.tvの全体プラン
丸田氏
 実は、今回オリックス生命さんがWebだけを使った初めての試みをされていて、そのお手伝いをさせていただいています。

 massugu.tvというサイトで、Webドラマを流しているんですけど、まっすぐな気持ちを誰かに伝えてみよう、というキャンペーンなんです。ドラマを見て、なにか感じたら、自分の大切な誰かにメッセージを送りましょう、メールを送れますよ、というサイトです。また、他の誰かが書いたメッセージも読むことができます。

 もともと、オリックス生命は「まっすぐな保険」というキャッチコピーを持っていた。生命保険は基本的に一親等の中での関係になりますけど、もう少し広げて、昔の先生とか恋人など、もう少し広げたところに、まっすぐな気持ちを持ちませんか、というメッセージを作ってみたんです。気持ちを人に伝えるというのは難しいじゃないですか。そのきっかけになるような、メッセージを誰かに届けられるようなキャンペーンをやりましょう、と。


小川氏
 テレビ中心主義をWebドラマで変える、と?


丸田氏
 まあ、そこまでは考えていないですけど(笑)。GRP(Gross Rating Point=出稿量と視聴率をもとにしたテレビCMの定量指標。延べ視聴率)がどのくらいあるかという勝負ではなくて、お金をなるべくかけずにバズによってどのくらいの効果を上げられるかを考えてみた、という感じです。


小川氏
 modiphi beta2と公開日が同じですよね(笑)。


丸田氏
 7月17日でしたね。サイトは11月末まで公開してます。10月31日まで手紙を送れて、11月30日まで読めるようになっています。サイトではシゲルという歌手がとてもよいテーマ曲を歌ってくれているんですけど、ポッドキャストと着うたに対応しています。ただ、JASRACのからみがあって、キャンペーンが終わってから発売することになっていますけど。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/08/07 00:00

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