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YouTubeへのアンサーが“ワッチミー!TV”、Japan Coolな世界を目指す
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フジテレビラボLLC・上村CIO
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今回は、フジテレビラボLLCの上村さんをお招きしています。フジテレビラボは「ワッチミー!TV」という視聴者からの投稿を含めた、さまざまな動画コンテンツを配信する新しい試みを続けていますが、その登場の背景やYouTubeとの立ち位置の違い、あるいは今後のコンテンツビジネスの動向など、興味深いお話を伺いました。
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上村 喜一(うえむら きいち)
フジテレビラボLLC CIO
独立系テレビ番組制作プロダクションの“草分け”テレビマンユニオンに公募1期生で参加。(2000年まで在籍)音楽番組などの演出を経て、主に一社提供のスペシャル番組の開発を通して、ドラマ・ドキュメンタリー・情報番組・音楽番組、美術番組、科学番組などさまざまな題材と方法を駆使したテレビ・ラジオの番組開発、TVCM、イベント、舞台、コンサート、フェスティバル、劇場用映画などの企画開発や演出プロデュースに関わる。また、1980年代後半、ソ連の崩壊の予兆などを契機に、検証報道ドキュメンタリー番組やパラダイムシフトを意識した討論番組、国際共同制作のスペシャル番組などの立ち上げと企画開発。この間、取材を通してITの進化と金融工学の変化を強く意識し、インターネットを駆使したテレビ番組開発に関わる。2000年、ブロードバンド時代の新たな映像配信ビジネスに着手するために転籍。映像制作のワークフローのIT化などを進める過程で数社の起業に関わりながら、2006年フジテレビが出資した一般動画投稿サイト「ワッチミー!TV」の立ち上げに関わり現在に至る。
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■ ワッチミー!TV誕生の背景
小川氏
今日は自由に語っていただこうかと(笑)。
上村氏
そうですか(笑)。
小川氏
でも、まずはフジテレビラボLLCが作られることになった背景をご紹介いただけますか?
上村氏
…まあ、いろいろあるんですけど、そもそもは情報制作局という部署が立ち上げたプロジェクトが母体なんです。そこがひとつの“ミソ”です。情報制作局というのは、番組でいえば「めざましテレビ」とか「とくダネ」、などを作っているところなわけですが、単なる動画投稿サービスなら、別の部署が作る方が自然なんです。LLCの設立が法的に可能になったので、フジテレビともう1社の出資を受けてLLC(合同会社)で“外”に出しました。そこが「第2日本テレビ」とは違う、“もうひとつのミソ”です(笑)。あまり知られていないですが「ドリームワークス」はLLCです。「日本のドリームワークスをめざす!」とかいきがっていた時期もありました(笑)。
小川氏
そこを、どうして情報制作局が作ることに?
上村氏
情報制作局では、ドキュメンタリー番組もやっていましてね、いろいろと冒険的なトライアルもやっています。この近年、ドキュメンタリーの企画の傾向に変化が見られていました。その昔、ドキュメンタリーといえばマクロ的なテーマ(社会問題など)が常道だったわけですが、最近は個人的な身の回りのことを撮っていくような企画を提出してくるディレクターが多くなっているんです。親と子の長い断絶に、カメラが入ったらうまいコミュニケートが始まって、ひとつの解にたどり着くといったようなね。往年のドキュメンタリストが見れば「もっとでっかいテーマをやれよ」と不満もあるようですが(笑)。
小川氏
ああ、なるほど。つまり、ワッチミー!TVやYouTubeに投稿するようなネタに近しいものがある。ワッチミー!TVを作るための素材や流行といった背景ができていることに気づく人が多かった。
上村氏
そういうことですね。他にも「FNSドキュメンタリー大賞」という年に1回系列局で作られたドキュメンタリーの顕彰のようなことを地道にもう15年ばかりやっているんです。でも「大賞」を取った作品は誰も見ていない(笑)。ゴールデンタイムでも、例えば在日中国人の暮らしを定点で追いかけるような一見、地味な番組を編成したことがあったんです。そういう粋な編成もやるんです、フジテレビ(笑)。これがすごい反響があって、放送後に「見せて欲しい」という話があちこちからあっても、放送枠は取れないし、放送は基本は「1回放送」で終わりですから、そういう見損なった人や再放送を希望する視聴者の“熱いラブコール”に答える術はないのか?と。番組を作った現場の人間は「見てもらってナンボ」の世界でもありますから、少しでも多くの人に見てもらいたいわけですし。ワッチミー!TVが成立する過程で、そういうプラットフォームをイメージしていた議論もありました。
小川氏
もったいないですね。そんなコンテンツの再利用の場を考えていくのは大事ですよね。
■ 著作権への配慮は今後の課題
上村氏
先日フリーカメラマンの長井(健司)さんがミャンマーで亡くなってしまったけど、ああいうフリーのジャーナリストや局の関係の取材カメラは、毎日世界中で「今」を切り取ろうと膨大な数が出ています。そういうファインダーがとらえている映像をリアルタイムで、例えば「Google Map」上にマッピングすると、世界の今がリアルタイムで見える、そういうのもたのしいじゃないか、そういうひとたちに注目していきたいじゃないか、という議論もあったんです。それに今は録画の道具はわれわれのようないわゆる「プロ」じゃなくとも一般の人の手に相当高度なものが安価で届いている、そういうところへも広げていくと想像できないような「映像のリアルタイム・ライフログのようなものができる」のではないか、とか。ワッチミー!TVにある“サムライ・ジャーナリスト”とか“24時間ライブカメラ”(今は事務所とか、お台場の観覧車を撮っているに過ぎないですけど(笑))という企画に、そのアイデアの片りんがみえると思います。
小川氏
あれ、面白いですよね。ちなみに、サムライの一人の渡部陽一さんは知人なんですよ(笑)。ところで、YouTubeは意識しましたよね、やっぱり。
上村氏
個人的に登録したのが、2005年8月ですから。「やられた!」という感じで出会いました(笑)。なにより、ユーザーの中にどういうニーズがあるかを確認したという意味では大いに意識しましたね。ワッチミー!TVもローンチ直後からしばらくはフジテレビの番組のクリップが大量に投稿されてきてまいりました(笑)。日本のユーザーは「テレビ」をよく見ていて(笑)、いち早く自慢したい性向にある、と。放送番組は「放送権」でさまざまな権利処理がされているので、簡単には別の媒体に転用できません。同時に、YouTubeの中で、映画館や放送メディアでは編成されないような映像が、すぐに評判になりましたよね。「ロケットブーム」とか、「matt」とか「ブラビアCM」とか「lonelygirl15」とか。ああいうようなオリジナリティには大いに刺激を受けて、手ごたえも感じました。
小川氏
うーん…。
上村氏
ワッチミー!TVは、そもそもいわゆる「動画共有サイト」とは違った狙いがありました。
われわれも独自にコンテンツを制作していますし、映像の投稿を促進していくような企画を並べて、「Japan Cool」と海外から命名されるような表現の多様性や可能性を、プロではない世界から引き出してみたいとの想いが強くありました。そういう意味で、YouTubeが「broadcast yourself」としたことへのアンサーが「watch me!」だったのですね。ただ、事前に想像していた以上に、そもそも「動画を投稿すること」にさまざまな障壁があることを思い知らされたことと、ましてや「自分自身を撮る」(watch me)ということにいたるにはハードルの高さがさまざまにある、というのが実感です。そこのハードルをいかに下げて、ユーザーフレンドリーなサービスにするかが大きな課題です。
もうひとつは、著作権というものの概念ですね。ジャーナリズムの批評精神の延長線上に「パロディ表現」があると思います。BBCなどは得意中の得意。パブリックドメインになったものは可能ですが、昨日放送した例えば報道映像に何らかの風刺的表現を加えたいなどという場合は、どう考えればいいのですかね。昨今の「ニコニコ」の爆走(笑)を見ていても、やはりそのような強い希求がある。
日本のように「建前」の横行するお国柄では逆に「パロディ的表現」に対しては近代以前から根強いポテンシャルがあると思うのです。そこをどう整理するか。
小川氏
著作権についてはわれわれももどかしい思いをすることは多いですね。たとえば、Webサイトで無料で公開している情報って、どこまで著作権を主張するべきなんでしょうね。有料で配布しているコンテンツをコピーすることは問題、というのははっきりしているけど。
上村氏
書評の世界などで出典を明記した「引用」をするような話も、今ではブログで書き込んだシーンを「映像クリップ」で引用表現したい人も多いのではないかと想像します。こういう問題に権利者はどう対応するのか。コンテンツのどの世界でもロングテールの「首(頭)」にいる人の声は大きいし(笑)、発言の効果も強力だとは思うのですが、実は「腰から尾っぽの大量の人」が生み出すコンテンツをどう取り扱うかが大事じゃないですか?
公共図書館に本を置くことで利益が損なわれるという作家もいるようですね。でも、ロングテール的なしっぽのほうの(=あまり知られていない)作家は図書館にこそ自分の本を置いてほしいという気持ちがあるでしょうし。
小川氏
確かにね。
■ ビットメディアのストリーム=テレビ
上村氏
テレビの世界に入った時に、放送用のVTRテープをスプライス(切り刻む)していたことを知る最後の世代です。放送業界でも録画できるコストをかけられるのは贅沢な時代。30分番組で、素材は最大4時間までという時代でした。今は、ほぼ無限に録画可能です。
とにかく、「ブンまわしておいて」(笑)あとで編集すればいい、そういう時代になりました。
小川氏
それもチープ革命ですね(笑)。
上村氏
われわれは、NHKと違って(笑)、「医療」に関するドキュメントを作っていても、“その筋”の専門家ではない場合が大半。そうすると、取材の過程で知り得たことや映像に大量に記録されたことの意味も、研究者や専門家が見ればわれわれとは別の評価があって、記録された映像の埋もれた価値に気づくことが、ままある。
小川氏
ああ、なるほど。見るひとがみれば、その価値が分かるし、それを再利用する道がある。
上村氏
そう。情報をWebにアップしても、ただそこに置いておくだけでは拾われない。アーカイブから情報を引っ張って、ユーザーに再活用していただけないわけじゃないですか。その間のサービスをどう構築していくか?
それで小川さんの仕事に関心がでてくるんですけどね(笑)。MODIPHIを使えばニュースをだいたい入手できるから、元のメディアやポータルを見に行かなくなっちゃう(笑)。
小川氏
ありがとうございます(笑)。
上村氏
テレビって、いつの時代でも「フロントライン」を触ろうとしている。昔は、ドラマでも「アバンギャルドな表現」の最前線を見せてくれる媒体でもあったんです。ラジオでも深夜放送の枠でしかやっていない「聞き逃せない!情報」を伝えているというようなウィンドウだった。
それが今はWebにだいぶんとってかわられていますね。子どもを含めて、高度情報化社会という世界は皆忙しいし、経済的には豊かになった分やりたいこともいっぱいで、可処分所得よりも可処分時間の奪い合いがいろいろなメディアの間で始まっている時代ですね。
小川氏
テレビは今後も重要なポジションを守るとは思いますけどね、ただ在り方は変わってきますよね。
上村氏
いまはどんな番組でもまるごとHDDデッキに録画できるし、YouTubeでみられるからいい、というけど、関心のあるドラマの最終回はリアルタイムで見たい、というシンクロニシティみたいな、そういう感覚はあるでしょ。「結末をひとから聞きたくない」とか(笑)。
スポーツの結果なんかもそう。ワールドカップのパブリック・ビューイングは、いわば昔の「街頭テレビの再現」でした。テレビはもともと「生」、「今何が起きているか」を“みんなで目撃したい”というメディアなわけで、ストリーマーというか、共時感覚のプロセスを送っているわけですよ。
それに受動的であってもコンティンジェント(偶有的)に探そうとしていないコンテンツに出会える。Amazonじゃなくて、書店を散策している感じ。発見の喜びを共有できる。
小川氏
なるほど。プロセスを送るというのは面白いですね。
上村氏
ええ。「放送番組」は常に“中間報告”だし、そもそも「ビットメディアのストリーム=テレビ」といえるでしょうね。テレビは固定されていない情報を送っているんです。地震や「総理の辞任」があれば、人気の高いドラマをやっていてもカットするじゃないですか、そういう機能性をコンテンツより優先するのがテレビなんです。共有すべき情報が最上位にくる。
小川氏
確かに。
■ コンテンツの市場のマジックミドルの成長が重要
上村氏
Webの世界の人と話していると「VOD」の話ばかりです。既存のパッケージ・コンテンツの調達の話です。でも、テレビの“本質”は、そこにはないのです。基本は“流動している一過性の情報”を流しているメディアです。テレビのビジネスモデルは「時間を売っている」のであって、基本は「コンテンツ(番組)を売っている」のではない、ということです。
毎日生産されている番組全体のいったいどのくらいのパーセンテージの番組がセカンダリーマーケットに出ていますか?
日本には「フェアユース」の発想もありませんから、コンテンツの流動性は低いです、現状では。また、欧米にいくと「放送と通信は違う?放送だって無線の通信じゃないか」といわれて怪訝(けげん)な顔をされるか、笑われるか(笑)のどちらかという問題もあります。
世界のコンテンツ市場の成長率は5%台といわれますが、日本は2%台。コンテンツの市場規模は、書籍とかすべて入れて12~13兆円。別の産業を見ればトヨタ自動車1社で23兆円ですから(笑)。
放送は6兆円弱ですが、映画コンテンツの市場規模は、DVDなどの「2次市場」を入れて4000億円の市場規模なんですけど、それって東京キー局の一局の売上に相当する程度なんですよ。
小川氏
映画全体がテレビのキー局ひとつ…、そう考えると小さいかもしれないですね。
上村氏
日本の「映像コンテンツ市場」は小さくて、韓国・中国・インドをはじめ新興アジア諸国に比べても、“競争優位”ではありません。アメリカの人口の半分としても、市場規模は半分にも満たない。“Japan Cool”とか言われながら、アニメ、ゲーム以外は国際市場へ出て行くのも極端に少ない。
既存のメディアと新しい“メディア”とのアライアンスによって、JAPAN MADEのコンテンツ市場のボリュームが大きくなることをめざしたいです。世界最先端のブロードバンド環境を使った「出口」で、どんどん新しいコンテンツが生み出されていくことを。
ロングテールで言えば、みんな「首(頭)」を狙おうとするか、極端に「しっぽ」でいい、となるんですが、「マジックミドル」といわれるあたりのボリュームがどう大きくできるか、だと思うのですよ。
そのためには、人材の育成とトライアルの仕組みも必要だし、リスクマネーが入れるようなファンドや、この夏に改正されましたが(金融商品取引法)、ファンドの出資持分が有価証券化されることになったので転売も可能なコンテンツ系金融商品のセカンダリー市場を作るとか、そもそもオンラインで映像コンテンツの取引ができるような(アメリカのシンジケーションマーケットのような)市場を作るとかが急務だと思うんです。
ワッチミー!TVを運営するLLCを作ったのも、やってみなければわからないことはあるだろう、という思いもありましたね。親であるフジテレビと利害がぶつかるところもあるかもしれないけど(笑)まずは手を付けてみましょう、という感じ。ああ、そうそう、ワッチミー!TVで生まれたコンテンツをそのままBSフジに流してるんですけど、これも日本では初めての試みなんじゃないかな。
小川氏
そもそも上村さんのインターネット事業へのはじまりは?
上村氏
そろそろテレビの世界から別の世界で新しいトライをしたいと思っていた2000年、「オルカライブ」が始まったのを見たんです。
小川氏
シャチですか?
上村氏
そう。カナダの海流をオルカ、つまりシャチが回遊するんですけど、その様子をそこにあるラボが映像と音声で24時間ストリーミング配信するんですね。まもなくシャチが来るぞというセンサーがあると世界中の登録者にメールで告知する。
小川氏
Webの黎明期には大学のコーヒーベンダーの様子をストリーミングするという、若干くだらない(笑)動画も人気がありました。でもスケールが違うな。
上村氏
そうでしたね。オルカライブはインフラのキャパの関係で300人しかみられないので、アラートが来るとみんなが世界中から殺到してくるんです。手応えを感じた瞬間でしたね。その年の秋、LUNA SEAの解散コンサートを香港からライブストリーミングしました。結果はほとんど映像にならなかった(笑)。でもちらっと映ったときは関係者から歓声がどっとあがりました。テレビの「イの字」が映ったときはこんな感じだったのかな(笑)。たった、7年前はそんな感じでした。もう隔世の感があります(笑)。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。
東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。
2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。
著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2007/11/13 00:00
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