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メールサービスのプロフェッショナルが語る次世代のWeb

GDX・近藤取締役

 現在、メールは古くて新しいプラットフォームとして注目されています。最近Yahoo!の子会社となったZimbraは、Ajaxとマッシュアップによって新しいメールコラボレーションサービスを生み出し、Googleは検索技術との組み合わせによるGmailで、Webメールは遅くて使いづらいというイメージを払しょくしました。そして今、メールが確実に届くための安全性と信頼性に重点を置いた新しいプラットフォームを生み出そうとしているのがGDXです。そのGDXの近藤取締役に話を伺いました。


GDX・近藤取締役 近藤 学
GDX Japan株式会社 取締役 事業開発担当

1998年、SI会社を経て株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)に入社。入社以来、数々のIIJの主要なメールサービスについて企画、開発を進める。早くから迷惑メールへの対策を訴え、国際的な迷惑メール対策団体MAAWG(Messaging Anti-Abuse Working Group)や日本国内の通信事業者を中心とした迷惑メール対策団体JEAG(Japan Email Anti-Abuse Group)の創設から深く関わり、主要メンバとして積極的に参加。


日米共同でメッセージング交換のプラットフォームを開発

小川氏
 フィードパス時代はいろいろとお世話になりました(笑)。


近藤氏
 こちらこそ(笑)。


小川氏
 簡単に自己紹介いただいてもいいですか?


近藤氏
 そうですね…。GDX Japanの近藤です(笑)。GDXはセキュアな環境でメールメッセージ交換ができるサービスを提供している会社です。旭化成の関連会社に1990年に入社して、その後1998年にIIJに移りました。IIJでも一貫してメールに関する企画、開発をやっていました。


小川氏
 GDXは今年の春にスタートしたばかりですよね。


近藤氏
 ええ。米国のベンチャーGDX NetworkとIIJの合弁として、今年スタートしました。

 GDX Network自体、MX Logicの子会社で、まだ数人の開発会社にすぎないんですけどね。セキュアなメッセージング交換サービスとそのプラットフォームの開発をしています。だから、商売としての展開は、日本が先なんですよ。


小川氏
 GDX Japanは開発はしていない? 販売専業ですか?


近藤氏
 いえ、日米で共同開発しています。


メールは絶対に届くという保証がないからこそ、それを担保する

小川氏
 GDXの商材を詳しく教えてください。


近藤氏
 GDX Trusted Platformという商品です。次世代のメッセージングプラットフォーム、と表現していますが、これを世界中に広げていきたいと思っています。

 メッセージングにはいろいろな形がありますよね、たとえばボイスメール、メール、インスタントメッセンジャー、ファイル転送などなど。それら全体を安全で信頼できる環境で行えるようなサービス、B2BやB2Cに特化したプラットフォームを作り、それを提供していきます。


小川氏
 類似商品はどういうものがあるんでしょう?


近藤氏
 明確な同業他社はないんじゃないですかね。VPN、あるいはVANがちょっと古いけど近いんじゃないかな。VPNはレイヤーが低い空間でクローズドですよね、われわれのサービスではアッパーレイヤーかつセミクローズドな空間を作って、そこで安心してサービスを使っていただこうと思っています。ある意味、新大陸を作りたいといっていいですね。


小川氏
 セミクローズドというのは、相手の信頼性に応じて出入りを許す、ということですね。


近藤氏
 はい。とはいっても、ユーザーの目から見ると、今とは変わらない環境になると思います。例えば普通のネットユーザーは、メールは絶対届くと思っていることが多いですけど、メールの仕組み上、本当はそんな保証はないわけじゃないですか。GDXではそこを保証するし、担保する。届いたかどうかも、です。そういう意味で、TRUSTというキーワードを大事に考えていますね。信頼すべき相手、関係性を重みにしていろいろなファンクションを使い分けできるようなサービスになると思います。だから、ユーザーの目から見て、メールがドラスティックにリッチに変わるというわけではないですね。


小川氏
 企業ユーザーは、大手企業であればあるほど保守的な傾向にあると思います。例えばエンタープライズサーチのFASTと組んで、何年か前に企業内検索システムの普及に取り組んだことがあるんですけど、なかなかうまくいかなかった。最近ようやくFASTも日本市場で高い評価を得始めていますが、それでもどちらかというとイントラよりは公開型のWebサイトのサイト検索のほうに注目が集まっている気がします。


近藤氏
 はい。


小川氏
 企業に新しいシステムを提供する上で、それが新しいアイデアであればあるほど、類似商品がなければないほど、顧客に理解していただくのは難しいと思うんですが、そのあたりはどう克服するんでしょう?


近藤氏
 メールは古いというか、枯れた技術で、安全性を高めようとすると、例えばスパムなどに対するフィルターを強めるなどの方法をとる場合が多いですね。でも、その副作用もでてるのではないかな、と思うんですよ。メールは枯れすぎているが、絶対に必要なコミュニケーションシステムです。でも、ほんとに重要な情報をメールでやりとりするのは本当は危ないというか、怖いことですよ。株の情報をメールで出すのは怖い、リーチャビリティ(絶対に届く保証)ってないわけですから。


小川氏
 そうですね。


近藤氏
 メールは25年前のプロトコルであり、古いシステムです。でもそれが普遍的になっていて、これからも使い続けなくてはならない。だったら、それをちゃんと補強してあげることは必要だろうと思うんです。そういう説得をお客さまにしていくことが大事だろうと思います。メールは枯れすぎているからこそ、企業間のプラットフォームになっているわけですから。また、企業群が一緒にインターネットを使って仕事をするのは当たり前のことで、その土台に安全で信頼できるメールシステムがなくてはならない。だから、そのメールシステムをわれわれが補強して、よいプラットフォームとして作っていく。


小川氏
 なるほど。


近藤氏
 ただ、そうはいってもメールに特化しているわけではないんですけどね(笑)。メッセージングシステム全体をセキュアにするための開発をしています。


信頼度の高低や取引関係の濃淡に応じたメッセージングプラットフォーム

小川氏
 サービスはSaaS型でしたか?


近藤氏
 SaaS的な提供もしますし、SI的にお客様のところに箱(サーバー)を置いてもいいです。どちらにしてもフルマネージドなサービスで、言葉はよくないですけど中央集権的に管理させてもらうことになります。


小川氏
 Zimbraと少しかぶりますかね?


近藤氏
 Zimbraは実は社内で使ってます(笑)。Zimbraは社内コラボレーションのプラットフォームとしてはいいけど、そのコラボの相手を選ぶわけではないんです。GDXは社外とのコラボレーションのプラットフォームを考えたシステムです。GDXはコミュニケーションのツールを相手の信頼性によって分けるようなサービスです。取引先の与信の大きさに応じて、コミュニケーションのプラットフォームを変える必要性も出てくると思います。


小川氏
 なるほど。分かりました。mixiでも、いったんマイミクに入れてしまうと、みんな友達っていうことになりますけど、実はその中でも本当はこの人には日記を見せたくない、ということもありますよね(笑)。


近藤氏
 確かに。ほんとはマイミクの中でも人間関係には濃度があって、属性の違いによって度合いをつけたいですよね。それが自然な感覚です。


小川氏
 そういう感覚をお客さまはすぐ理解しますか?


近藤氏
 エンドユーザーには受けがいいですよ。組織の構造に応じて、濃淡、高低をつけたいと考えるお客様が多いです。

 例えば、スパマーと非スパマーを分ける。そんなとき、メールは分かりやすいんです。


小川氏
 具体的には?


近藤氏
 スパムに対してメールは負けているじゃないですか。SMTP捨てよう、ということもよく言われるわけです。GDXも、内部はXML-RPCで動かしています。迷惑メール団体(MAAWG)でもSMTPはもう無理、という論議になることが多いです。Trusted Communicationをメールでも実現しようと。


小川氏
 ふむ…。最近ではGoogleのOpenSocialとか、OpenIDをはてなが採用した、などとIDの共有化のような動きが見られますね。そういう時代に、信頼とか安全というキーワードは重要ですね。


近藤氏
 SNSをコロニーといっていいかどうかは分かりませんが、コロニー間の乗り入れを考えると、そういう動きは当然必要ですね。OpenSocialもOpenIDも、GDXと何となく近いものを感じています。

 ただ、GDXはIDではなく、ドメインのようなざっくりとしたもの、の乗り入れになりますけど。だから、そのうえにOpenIDのようなものもいいかもしれない。


小川氏
 そういうことですね。


近藤氏
 その流れでは、メガSNSではなくて特化型のSNSに関心がありますね、最近。GDXもある意味SNSだし。深堀りしたほうが長続きするのではないかなと思います。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/11/20 00:00

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