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ITのIとT間にあるべきものを考える

サン・マイクロシステムズ藤井本部長

 今回のゲストはサン・マイクロシステムズ マーケティング統括本部 本部長の藤井さんです。長身と端正な容姿を持つ藤井さんはそれだけでも非常に目立つ存在ですが、Feed Business SyndicationやWeb2.0 EXPOなどのイベントでも手腕を発揮する、ご自身がそのままネット業界のプラットフォーム的な役割を果たしているひとでもあります。


サン・藤井本部長 藤井 彰人(ふじい あきひと)
サン・マイクロシステムズ株式会社
マーケティング統括本部 プロダクト・ストラテジック・マーケティング本部 本部長

名古屋大学工学部情報工学科卒。富士通にてシステム・インテグレーション業務に従事した後、シリコンバレーの空気とJavaに触発され、Sunへ。Sunでは、SEとして SunSoft, iPlanet, Sun ONE部門にてJava, Web, tool関連ソフトウェア製品を担当。現在は、マーケティング統括本部にて、製品マーケティングを担当し、同時にオープン・コミュニティ支援のための社内プロジェクトの責任者も兼務。


サンはネットサービス提供者ではなく、ネットサービスのプラットフォーム提供者

小川氏
 先日(2007年10月17日)のFBS以来ですね。


藤井氏
 そうですね。


小川氏
 既に各方面で活躍されているわけですけど、一応自己紹介していただいていいですか。


藤井氏
 サン・マイクロシステムズ マーケティング統括本部長の藤井です。職務としては、全製品のマーケティングの責任者となります。社内的にはシステム、ストレージ、ソフト、サービス、の4つを4Sといいますけど、そのマーケティングの責任者です。

 また、コミュニティプロジェクト、つまりコミュニティのパワーを使ったマーケなどのプロジェクトの責任者でもあります。あとは、Javaのエンジニアでもあるし、エバンジェリストであるともいえますね。


小川氏
 RSSフィード活用促進団体のFBSのメンバーでもあるし、マッシュアップアワードの主催者でもありますね。


藤井氏
 小川さんとの共通点といえばフィードですね。そもそもXMLを作ったジョン・ボザック(Jon Bosak)とティム・ブレイは今はサンの人間です。


小川氏
 ボザック氏といえばW3CのSGMLワークグループで議長だったひとですね。ティムはこないだのWeb2.0 EXPOでもごあいさつしました。


藤井氏
 ティムはWeb 2.0というムーブメント以前から、テクノロジーとしてのフィードに興味を持っていました。


小川氏
 サン自体はインターネットサービスの会社ではないですが、藤井さんが考える今のWebの現状は?


藤井氏
 そう、サンはネットサービスをやるという会社ではない。でもそこがミソです。われわれのコアコンピタンスはテクノロジーです。たとえば最近のRailsブームでも、JavaのVM上でRubyを動かしています。昔はサンというとSPARC、SolarisやJavaですが、いまは違います。

 2.0的なネットサービス、SaaS、という言葉はわれわれは使ってないんですが、そういうサービスを作るプラットフォームを提供していくのがサンであると考えてください。


小川氏
 プラットフォーム提供者としてWebの動きに関わっていくと。


藤井氏
 そうですね。

 われわれのマーケティング活動の中として、マッシュアップアワードがあるんですが、いまはどこからどこまでがデベロッパーの領域で、どこまでがエンドユーザーの領域なのかよくわからなくなってきています(笑)。そういう背景でマッシュアップアワードというイベントは成長しています。

 Web APIを提供している会社とそれを利用している会社、つないだら面白いだろうと思って始めたわけですけど、最初は50作品くらいの応募にすぎなかったのが、今回(3回目)では29社のエントリーで193応募作品がありました。Google主催のコンテストよりも大きくなりました(笑)。

 法人も各賞を受賞したりしてもいますが、優勝者は個人です。セールスフォースのプラットフォームを使ったビジネス系のアプリの応募もありました。


小川氏
 審査も大変ですね、大きくなると。


藤井氏
 大変です(笑)。


ハードのイノベーションを考慮してこそ今後のサービスは成立する

小川氏
 Web2.0 EXPOのアドバイザリーボードの一員でもありましたね。


藤井氏
 ええ。アドバイザリーボードのメンバーが講演者を手配したりもするんですけど、IT企業の人が多いからテッキーな話が多いので、デザイン面の話も面白かろうと思って、チームラボの猪子さんにも出ていただくようお願いしました。


小川氏
 GoogleもYahoo!も出てないけど(笑)?


藤井氏
 でてないですね。

 GoogleはWeb 2.0という言葉、きらいなんじゃないですかね?(笑)。


小川氏
 そうかも(笑)。AjaxもGoogleが開祖みたいにいわれますけど、彼らはAjaxといういい方してないですしね。


藤井氏
 Ajaxを取り巻く環境も変わりましたね。JavaScriptのライブラリもどんどんでてきている。乱立しているといってもいいかもしれない。オープンソース化されたライブラリをいかに使っていくか、という感じ。ギークな人が新しいライブラリをどんどんつくってくれるのもあるけど。

 うちの米国側のCTOがいってたんですけど、1、2年先ではなくてもっと先だけど、ネットサービスがこんなに普及したらネットサービス自体のオープン化が始まって、オープンスタンダードがでるだろうと。


小川氏
 ふむ。


藤井氏
 ITって、雨後のタケノコのように何か新しいのがでたら、すぐに吸収合併、陣取り合戦、という繰り返しになってますよね。ネット系ではOpenSocialなんかもまさにそんな感じで。ユーザーを多くつかんだ、というのも大事だけど、プラットフォーム上のメタの主導権争いのほうがより重要なんでしょうね。


小川氏
 藤井さんの立場だと、やっぱりサーバーというハードやOSのプラットフォームも気を配らなければならないから大変ですね(笑)。


藤井氏
 うーん。サンに長くいるのは、サンという会社が、べたなところは全部オープンにしてその上で新しいことをやるという姿勢が好きだからなんですね。偏執狂的にオープン、が好き(笑)。

 ただね、宣伝みたいだけど、僕自身がソフト屋でありテクノロジー屋で、ハードのイノベーションもみているけど、最近の風潮として、どうしても2.0のレイヤーにいるとサーバーとはなんでもいい、という感じになる、安かろう悪かろうでもいいという感じになりがちです。しかし、そんなことは言ってられない時代になってきていると思うんです。


小川氏
 シックス・アパートの関さんもそういうことを話してましたが…。具体的には?


藤井氏
 たとえばマルチコアのCPUがでてくると、そのうえで動くネットアプリに差が出てきてしまいます。MySQLが100 CPUのうえでちゃんと動くの?という疑問もです。

 インフラのテクノロジーをきれいに使いながら、ネットサービスをつくっていく、という技術も必要になります。コンピュータリソースをスタックしてサービスをきちっと作るのは結構大変です。Googleはそうして成長している会社ですけど、サーバーの進化はものすごくて、25年でCPUの1ドルあたりのミップス値(MIPS=Million Instructions Per Second。1ミップスは1秒間に100万回の命令を実行する処理速度)が10万から100万倍になっているんです。マルチコアがでてきて、まだまだいってしまうでしょう。それだけの処理能力を活かしきるためのサービス設計が必要なわけです。


小川氏
 なるほど。サーバーの進化とサービスモデルの設計は確かに不可分ですよね。


ITの、IとTの間を考える

藤井氏
 サンはThe Network is The Computer、という標語を持っていますけど、僕と小川さんの立場が違うのは、IT企業のテクノロジストとしての目で物事を見ないといけないことでしょうね。装置産業の目というか。ネットワークがこんなにつながってくると、どんどんインフォメーションこそがITのビジネスのコア、という感覚が広まってきます。でも、またどんどんテクノロジー側への揺り戻しがくると思うんですよ。


小川氏
 はい。たしかに。


藤井氏
 ITというのは、Information Technology(インフォーメーションテクノロジー)の略ですけど、実際の動きを見ているとInformation(情報)とTechnology(技術)の間に乖離(かいり)があるように思えます。


小川氏
 たしかに。日本では特にそうかもしれないですね。


藤井氏
 だから、IとTの融合、IとTの間をどうみるかが、今後の差別化になる、より重要になってくるだろうと思っています。本当の意味での情報産業になるには。


小川氏
 なるほど。


藤井氏
 フィードのレイヤーで行くと、RSSで吐き出すという概念を、RSSを出し合う、フィードし合うというプロトコルへ変えていかないとならないと思います。なにかを提供するだけでなく双方向にしないと。特にAtomはネットワークのコンテンツエンジンになると思っています。Atomで情報をだしてたらコンテンツのネットワークDBを創っていけるとも思うし。Webのコンテンツを集めて吐き出す、そのトランザクションをうまくコントロールして。情報の出し手も、あるときはBlogで、あるときは企業情報として、あるときはフィードで、いろいろな形で見せられると面白いんじゃないですかね。メタな感じで。


小川氏
 いいですね。IとTをつなぐ新しいコンセプト、そして情報と情報の間のトランザクションをうまく作るフォーマット。FBSの次のテーマにしていきたいですね(笑)。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/12/18 00:00

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