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東京IT新聞は読者の情報収集の手間を肩代わりする

トレンドアクセス佐藤社長

 今回のゲストは、「東京IT新聞」というIT業界紙を無料で配布するビジネスを展開するトレンドアクセスの佐藤社長です。新聞形式のメディア事業は非常にローテクですが、R25などの成功もあり、最近のトレンドに合ったビジネスモデルであるともいえるかもしれません、本連載の読者のオフィスにも東京IT新聞は配布されているかもしれません。古くて新しい、この事業をどういう視点で佐藤さんが経営されているのか、お話を伺いました。


トレンドアクセス・佐藤社長 佐藤 僚(さとう りょう)
株式会社トレンドアクセス 代表取締役社長

1993年 ソニー入社。UNIXエンジニアとして業務に従事しながら、同社初の公式Webサイトを立ち上げる。1997年 Web専門プロダクションのアルシード設立に参画。1999年 ネットエイジ(現ngi group)入社。CTOとして技術開発部門を組織(現ngi technologies)。2003年より同社技術開発および事業開発担当取締役として、多数の事業インキュベーションを手掛ける。現在ngi group情報システムセキュリティ室長、トレンドアクセス代表取締役、その他投資先の社外取締役を兼務。


紙メディアと仮想空間メディアを事業ドメインに

小川氏
 ごぶさたしています。佐藤さんはいくつもの顔をお持ちですが、簡単に自己紹介いただいてもいいですか。


佐藤氏
 今回はトレンドアクセスの社長としての対談ですが(笑)、ngiグループのISO20071推進責任者であり、IT統制が絡む情報システム部責任者です。動画検索のTAGGYの取締役でもあります。


小川氏
 トレンドアクセスの事業内容を教えてください。


佐藤氏
 IT関連情報のフリーペーパーである東京IT新聞の発行と配布による広告事業、それと、セカンドタイムスというセカンドライフなどのメタバース情報を提供するポータルも運営しています。


小川氏
 紙と仮想空間とは真逆ですね(笑)。東京IT新聞は、まったくお金をとってないんですよね。


佐藤氏
 とってないですね。IT関連情報をビジネスパーソン相手にお届けしているわけですけど、コントロールサーキュレーション(登録した企業にだけ配布)を徹底しています。2007年末の時点で配布先は4500社で、発行部数は6万5000部ですね。


小川氏
 僕も読んでますよ(笑)。


佐藤氏
 ITはネットにあふれているけど、編集のフィルターを通して情報をお渡しすることは意味があると思っています。創刊したのは2006年8月なんですけど、2007年2月にngiキャピタルが事業を買収しました。その年の6月に事業再構成して今につながっています。


IT情報のフリーペーパーは新しさと古さのハイブリッド事業

小川氏
 社員は何人?


佐藤氏
 今は14人かな。東京IT新聞系で6名。編集が4人、営業が2人。一部12ページで週刊だから、一人風邪引いたらもう発行できないかも(笑)。


小川氏
 たしかに(笑)。


佐藤氏
 事前登録制で配布していますが、すべて口コミでお申し込みいただいています。ご紹介ベースで発行部数が増えてきて。まあ、この事業が面白いのは、新聞というパッケージは、マスメディアでは最も古いパッケージですよね。だけどビジネスモデルはネットと同じ、無料で配布して企業から広告をいただいています。つまり、新しさと古さのハイブリッドでやっている、というところですね(笑)。


小川氏
 ネットと違う問題点は?


佐藤氏
 部数が増えれば増えるほどコストがかさむということでしょうね。現状だと、広告枠が全部売れれば採算ラインの倍になる、つまり50%でペイする状態です。部数が増えれば単価をあげられるかもしれませんが。要はネットと比較すると、紙の広告枠の量は有限ですからね。


小川氏
 紙面の大きさに規定ありましたっけ?


佐藤氏
 第三種郵便は面積の決めがあるんですけど、うちはないです。折り込みチラシは、ソニーさんに出していただいたことがあるんですけど、3万部に入れて、300件以上の反応があったんです。かなりいい反応でしょう? やはりビジネスパーソン対象なので、ターゲットがはっきりしているところがいいんでしょうね。クライアントに提供する価値をうまく設計すれば、おのずから売れていくモデルだと思っています。


Webサイトを紙媒体の広告連動用と割り切る

小川氏
 Webサイト版もありますよね。


佐藤氏
 Webもあります。11月にリニューアルしたんですけど、紙面のバックナンバーが読めるようにしています。ただ、Webを事業にしようとは思ってはいなくて、紙面だけではなく、Webに集客したいというお客様へのクロスメディアプラットフォームとして考えています。


小川氏
 ネット企業なら紙で広告を出すだけではなくネットにつなげたいでしょうね。


佐藤氏
 ですね。読者にとってもバックナンバーがあるというのはいいと思います。コンテンツは100%一緒だし。逆に言うと、Web自体も週刊なので、日々情報が更新できるわけではないから、即時性で勝負できるわけではないんですね。だから紙との連動によって価値を発揮できるように設計していきたいと思っています。バナーの領域は一応あるし、アドセンスも一応おいていますが、メインの収益はあくまで紙の広告だから、サイトのほうでは今のところページビューの目標も立ててない状態です。


小川氏
 東京IT新聞を電車の中で読んでいる人をみたことはありますか。


佐藤氏
 ないですね。自分は複数のオフィスの移動があるので、電車の中でよく読みますよ。赤坂から中目黒の往復くらいにちょうどいい分量なので(笑)。紙はポータビリティにすぐれていますからね。


小川氏
 紙メディアという、ある意味古いメディアを主戦場にした最大の理由は?


佐藤氏
 現代のビジネスマンは忙しいですから。ネットの情報を短時間で簡単に入手できる人ならいいんですけど、そういう人はなかなかいないと思うんですよ。MODIPHIを使いこなせれば、それはとても便利だと思いますが、そうでない人はまだまだ多い。新しい情報を自分の仕事のヒントにしたいという人たちにとっては、紙というパッケージは有用だと思っています。

 ネットの情報源は玉石混交なので、(われわれが)取材して編集して読みやすくすることは皆さんのお役に立つことでしょう。断片的なものを統合できる力がある人ばかりではないので、情報処理能力を肩代わりするというのがわれわれの存在価値かなと。紙という媒体を使うことによって、もっと簡単にITの情報に触れていただくことができると思うんですね。


小川氏
 紙に関わらず、情報を品質をある程度担保してくれるサービス、編集者とかエディタというような機能や役割は必要だと思います。

 ところで、時間もなくなってきましたので、最近面白かったなというニュースあるいは今後の展望などを聞かせてください。


佐藤氏
 難しいですね~。2006年に子供が生まれて(笑)、家電みたいなガジェットには相当詳しくなりましたよ。子供を撮影したHDビデオカメラのデータをDVDにどう落とすかね。もともと家電メーカー出身ですけど、家電のHDVをDVDにするにはどうエンコードすれば、とか、そういうことに詳しくなりましたね(笑)。


小川氏
 なるほど(笑)。


佐藤氏
 あとは、経営そのものですね。僕の仕事の大部分は事業の経営と情報システム関連、関連会社管理、ですかね。どんなにいいテクノロジーがあっても、どんなにいいプランがあっても、キャッシュを稼がないとつぶれるわけですから、経営は手を抜けない。


小川氏
 同感です。僕も株式会社モディファイを一刻も早く軌道に乗せることしか考えられないですね、いまは。

 今日はありがとうございました。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/01/15 11:55

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