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世界にコンピュータが5つしかない時代がくる
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「ウェブを変える10の破壊的トレンド」著者 渡辺氏
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今回のゲストは、著書「ウェブを変える10の破壊的トレンド」で日米のベンチャーマインドにおける彼我の違いに対する警鐘を鳴らす渡辺弘美さんです。筆者のマンスリーイベントWBS2.0にもよく足を運んでくださる渡辺さんは、ニューヨーク駐在から昨年戻られたばかりです。アメリカ側からみた、Webビジネスのトレンドとは何か、お話を伺いました。
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渡辺 弘美(わたなべ ひろよし)
2007年6月まで日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨークセンターでIT分野の調査を担当。インターネット、ITサービス、セキュリティ分野などの動向を毎月まとめた「ニューヨークだより」に定評あり。近著に「ウェブを変える10の破壊的トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)や「セカンドライフ創世記」(インプレス)がある。東京工業大学卒。福岡県出身。 ホームページはこちら。
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■ ニューヨークでWebのトレンドをウォッチ
小川氏
ニューヨークからはいつ戻られたのですか?
渡辺氏
去年の7月ですね。
小川氏
本業(笑)を伺ってもよろしいですか?
渡辺氏
経産省の医療系の、根っからの国家公務員です(笑)。1987年に当時は通産省でしたが、経産省に入りまして、ずっと情報通信系の仕事をしています。2002年あたりから、いわゆるITという流れに入り、当時は中国とか東南アジアに、日本の携帯電話プラットフォームを売り込むためのお手伝いをしていましたね。まあ、ご存知の通り日本のケータイはもう世界から撤退した状態ですけど。中国にはSARS(重症急性呼吸器症候群)がはやっているときも含めて50回は行ってますし、東南アジアも数十回は出張しています。
小川氏
米国にはいつから?
渡辺氏
2004年7月にJETRO経由でニューヨークにいきまして、IT部のディレクターという仕事をしていました。米国のIT事情の調査がミッションだったんですけど、ブッシュ政権はITに関してはあまりみるところがなくて、政策面でのITという見方はあまりできず、業界全体の傾向などを追っかけていました。たとえば、まだフィッシングという言葉がなかった時代に、クレジットカードの情報漏えいなどのプライバシーやセキュリティの情報を追いかけていました。そのあとはSOX法などのからみでコンプライアンスをどうITでささえるかとか、オフショア問題でインドのタタ財閥であるとか、いわゆるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の、経済成長が著しい地域)などの動向チェックをしてましたね。
そうこうしているうちに、もともとエンタープライズ系には興味があまりないということもあったんですけど、Googleをはじめとするネット系、特にコンシューマ系のWeb2.0的なトレンドが盛り上がってきた感じですね。
小川氏
そこでWeb系のネタを追いかけ始めたと。
渡辺氏
そうですね。2007年夏に帰国することになって、直前にニューヨークで講演する機会があったんですね。帰国後も講演のお声がけをいろいろといただいて、これまで考えていたことをお話したところ、反応がよいので、その内容を本にしたいと思うようになりました。
「セカンドライフ創世記」という本の共著もしたんですが、もう少し総括的な話をまとめたいと。ニューヨークにいるときに小川さんの「Web2.0 BOOK」などの著作を読んで触発されたということもありますね。
小川氏
ありがとうございます。
渡辺氏
タイトルは、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」に影響を受けまして、ある程度読者の注意を引くことができるインパクトと、いまでも十分通じるクリステンセンの主張に共感したこともあってつけました。
■ 代表的な破壊的トレンドは?
小川氏
その破壊的なトレンドで渡辺さんが特に強調したい部分は?
渡辺氏
まずはダイレクト、というキーワードなんですけど、それは小川さんが主張されるフィードの重要性にもつながってきますが、情報の送り手と受け手の間で、情報やサービスが直接届く、つまりダイレクト感が大事だということです。フィードだけではなくて、ウィジェットなんかもそうですね。Facebookのような巨大SNS、iGoogleなどのパーソナライズドポータルの中でも、ウィジェットは重要な役割を果たしています。つまり、一つひとつのテクノロジーがそういう流れにある、という感じがしています。
小川氏
同感です。無数の直線的なトラフィックが今後は増えていくと思います。
渡辺氏
次はクラウドソーシング、ですね。集合知という言い方はよく使われますが、たくさんのユーザーの声を集約するだけではなく、n対nでマッチングしていくというのが面白い。要は仕事を群衆にアウトソーシングするという考え方ですけど、ウィキノミクスみたいな言い方もされますね。マーケットプレースなんかも新しいあり方が出てくると思います。
小川氏
わかります。
渡辺氏
バーチャルとリアル、という観点も面白いと思っています。
セカンドライフもそうですけど、面白かったのは、仮想通貨を現実の通貨に変えるというコンセプトですよね。例えば中国の農村の若者がオンラインゲームをして仮想通貨を稼いで、それを現実の通貨に換金する。農作業するより儲かるからどんどんそっちに時間を使う。生活を変えてしまっているんですね。
小川氏
AdSenseやAmazonで生計を立てている人もいますからね。デイトレードなんかもまあ同じですけど。
渡辺氏
リアルの世界をいかにバーチャルにするか、という逆の試みも面白いですね。Googleマップのストリートビューや、EveryScapeがリアルの、たとえばマンハッタンの路上をネット上に再現してくれていますけど、実際にそこを歩いているような感じでみえますからね。Microsoft、Googleらのカメラをつけた車が撮影のために、そこら中に走っています。バーチャルとリアルの境をいったりきたりしている感じです。
あとは、サーチなんですが、日本でも面白い検索ベンチャーがでてきている感じがしますけど、アメリカでは200~300の検索エンジンがGoogleに挑戦しています。自然言語処理であったり、人力で答える形であったり、いろいろですけど、Google のページランクを超えようとするベンチャーは多いです。検索結果の見せ方で勝負するところもあるし、医療とか旅行などの分野に特化したバーティカルな検索もあって多種多様です。
■ 日米ではオープン性に違いがある
小川氏
本を書くというのは、それが本業ならいざ知らず、僕も渡辺さんも、ある意味片手間というか、自分の時間を犠牲にしてやっていると思いますけど、結構大変ですよね。モチベーションはなんでしょう?
渡辺氏
やっぱり日米のメディアのあり方にショックを受けたことに始まっていますね。アメリカにいたときに思ったのは、たとえばNew York Timesなどの一流紙の一面では、ウィジェットやフィードの話が毎日のように載っている。ところが、日経新聞をはじめとする日本の一流紙はいまだに半導体や液晶パネルの話を全面に出しています。ウィジェットという言葉は日経に出たことあるのかな?
小川氏
ないんじゃないですかね。SaaSは最近カタカナになってサースと日経産業には出るようになりましたね。
渡辺氏
だから、日本はまだ意識が変わってない、という感じがするんですよ。日本にも優秀なエンジニアがいると思うんですけど、これは(Ruby on Railsの)松本さんがおっしゃってたんですけど、日本のエンジニアは自分では使いたくない言語や開発環境の中で悶々としていると(苦笑)。だから、本というメディアを使って、時代の変化を、実際に権限を持っている人たちに理解してもらいたいと思ったことがモチベーションですね。あるいは、いまの環境に見切りをつけて若い人にはもっと活動してもらいたいという気分で本を書いたともいえます。
小川氏
なるほど。
渡辺氏
本を書くにあたって、なるべく事実に基づいて、事例を載せた本を出そうと思ったんです。ネットをみれば書いてある話なんですけど、こんなこと知らなかった、というような感想をいただくことも多いですね。みなさん忙しいのだろうと思いますね、あとは英語の問題もあるかな。
小川氏
日本に帰国されて時間が経ちましたけど、何か違う感想は持たれましたか?
渡辺氏
そうですね。たとえばアメリカはWi-Fiが当たり前なんですけど、(丸の内の)オアゾにいったおりにノートパソコンをつなごうと思ったら、iモードかなにかの無線LANがあって、それを試そうとしたらケータイで申し込めというんです。これには驚きました。あと、出張の際に新幹線の予約をしようとして、JRのサイトに登録しようとしたら、まずは専用のメンバーズクレジットカードを作れ、というんです。びっくりして、全部のJR系を試したら、JR東日本以外はみんなクレジットカードを作らないとサイトの会員になれない。
小川氏
ありがちですね(苦笑)。
渡辺氏
囲い込みはいいけど、最初の段階で囲い込みはやめてよ、といいたいですね。入り口で囲い込もうとする姿勢はおかしいですよ。
それと、最近のあらたにす、でしたっけ?
小川氏
はい。
渡辺氏
あれもどうかしている気がしますね。New York Timesは自分専用のページで、好きなコンテンツとして、違うメディアのページも引っ張って来れるわけです。最初からユーザーを囲い込むんではなくて、PVや滞在時間を結果的に稼ぐ、という姿勢なんですね。やっぱり日米ではオープン性の違いがあるかな、という気がします。ベータ版をユーザーに使ってもらってユーザーの声を聞きながら製品を作るという気分も、日本の大企業にはないですね。
小川氏
逆に、日本が進んでいるとおもったことは?
渡辺氏
おサイフケータイ、などのプラットフォームですかね。米国のケータイはしゃべる専用、単機能の文化なんだと思います。日本だと、この一台でなんでもできますよ、というマルチな機能を売りにしますけど、米国だとジューサーはジューサー、ミキサーはミキサーみたいな感じで単機能。家が広いということもあって、いろんなモノを置いとけますからね(笑)。そのあたりが決定的に違うかな。ただ、iPhoneが出て、変わってきたかも知れないとは思います。アメリカでは革命的なんじゃないですかね。
小川氏
では、最後に、とっておきの面白いITネタを披露していただけませんか?
渡辺氏
アメリカでは、23andMe。1000ドル払うと唾液を入れるキットを送ってくれて遺伝子を解析してくれるサービスがあるんですよ。
小川氏
面白いですね。個人情報の管理が大変そうだけど(笑)。
渡辺氏
Googleのセルゲイ・ブリンの奥さんがやっている会社らしいんですけど、例えば本人に絶対音感があるのかないのかとか、100mダッシュする能力に長けているのかどうかなど、あとはアフリカ大陸のどのへんにルーツがあるのかなども分かるらしいです。しかもそれをWeb上でみられて、ソーシャルネットワークになっているところも面白い。Googleは情報を整理する会社ですけど、Webだけではなくやがては人の体の中まで整理しようという気かもしれませんね(笑)。別の会社ですが、DNAで恋人のマッチングするところもあるようです。
小川氏
そこまでいくと、もはや検索ではなくて神託、ですね。
渡辺氏
あとは、最近感じるのは、アメリカもそうだけど、Web系のエンジニアとエンタープライズ系とでは分かれているじゃないですか。
エンタープライズ系のデータマイニングなどの深い技術をWeb系に使ったら面白いと思いますし、Web系に流れがちな若いエンジニアたちも、エンタープライズ系の研究がWebビジネスにつながるようになれば悶々としなくてすむようになるかな、と。
小川氏
バーチャルとリアル、大企業とベンチャーの人的マッシュアップは僕の主張でもありますね。
渡辺氏
世界にコンピュータは5つあればいい、とSunのCTOが言ったらしいですけど(Microsoft、Google、Yahoo!、Amazon、Salesforceなど、クラウドコンピューティングの世界を指す)、IBMあたりはこの兆候にちゃんと気づいていると思うんですけど、日本メーカーは分かってないのかも、と危ぐしたりしています。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2008/02/26 00:00
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