今回のゲストはモバイルを活用したマーケティングビジネスを展開するグランドデザイン&カンパニー株式会社の小川和也社長です。同じ小川同士、ということで、普段はヒロさん、カズさんと呼び合う仲です(笑)。金融畑からのIT業界入りをしたという経歴も、商社出身の筆者とは共通項があります。
モバイル業界の中でも、着メロなどのコンテンツビジネスを行うCP(コンテンツプロバイダー)でもなく、モバゲータウンなどのサービサーとも違うグランドデザインの事業モデルとは何かを伺いました。
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小川 和也
グランドデザイン&カンパニー株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学法学部卒業後、1995年に安田火災海上保険株式会社(現:株式会社損害保険ジャパン)入社。主に営業企画、マーケット開発等に従事。同社本社にて中央官庁担当を経て、2004年7月、グランドデザイン&カンパニー株式会社を創業、代表取締役社長 兼 最高経営責任者に就任。
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■ 損保会社からモバイルビジネスへ転身
小川(浩)氏
今日はよろしくお願いします。まず自己紹介をお願いしていいですか。
小川(和)氏
はい。いまはモバイルを使った事業をしているわけですが、元は丸9年間、損害保険の会社に勤めてました。マーケットシェアの基盤作りや、全国展開のための戦略など、損保の営業ではなく、バックオフィス的な仕事に従事していました。保険は形がないものですが、今の仕事もある意味形がないものなので、自分としては違和感ないですね。
創業したのは2004年です。iモードが立ち上がってきて何年目だったかな、ハード面や通信技術の進化などをみて、モバイルの業界もPCにおけるインターネットのような軌道を描いて成長する可能性があるな、と思ったのがきっかけです。ケータイこそがマルチな影響力を持つツールになると感じたんです。
小川(浩)氏
いまやPC以上の影響力を持った、生活に密着したツールですよね。
小川(和)氏
ええ。でもツールやプレイヤーが偏っている、という感じはしますよ。コンテンツにしても占いや着メロのような分野ばかりに集中していますし、ケータイそのものも似通っています。ならば、僕はソリューションエリアで勝負しようと思ったんです。CPではなくて、マーケティングなどのソリューション分野で食っていきたいと思いました。そこでグランドデザインを創業したわけです。
小川(浩)氏
なるほど。
小川(和)氏
モバイルの事業は、2010年には1兆7000億円規模になるといいます。もちろんモバイルSuicaなど、あらゆるプラットフォームを含むわけなんですけど、それにしてもでかいじゃないですか。この業界はエンターテインメント系から入ってくる人が多いけど、金融のようなビジネス系サービスの参入者は少ないので、市場の伸びしろと自分の特性を活かせると思って、このドメインにいます。
小川(浩)氏
社員数は?
小川(和)氏
22人です。アルバイトを含めるともっといますが。モバイル分野は美容など女性の感性を活かせるサービスが多いので、結果として6:4で女性が多いですね。
■ 自社モバイルサービスの展開と、それによるノウハウの提供を事業化
小川(浩)氏
具体的な事業の内容を教えてください。
小川(和)氏
いまは大きな2つの軸を持っています。
まずは自社のモバイルサービスを立ち上げる事業です。コンテンツではなくソリューションサービスです。例えば、店舗が顧客を囲い込むためのツールだったり、商品を売るための仕組みをASPまたはパッケージで売るというものです。そういう自社サービスとしては今までに12個立ち上げてきました。クライアント数は、例えば、美容室で1200店舗、飲食店で500店舗くらい。継続率は高いですよ。
小川(浩)氏
分野的な偏向はありますか?
小川(和)氏
美容とか女性向けのものが多いですね、現状は。
小川(浩)氏
サービスの特異性やユニークポイントは?
小川(和)氏
メガサービスではなく、セグメントを絞って提供しているところでしょうね。量ではなく質で、巨大サービスをマスに向けて提供ではなくて、割と小型のサービスではあっても、提供するサービスのターゲットを絞り込んで広く浅くではなく狭く深く提供します。その結果、ローコストで早めに収益化を考えられるノウハウがたまってきてますね。
小川(浩)氏
なるほど。
小川(和)氏
立ち上げのコツ、っていうんですかね、そういうノウハウはだいぶ蓄えましたよ。
よくそんなにたくさん立ち上げられますねといわれるけど、メガサービスを作ってきているわけではないから、結果的にできますね。
小川(浩)氏
2つ目の軸は?
小川(和)氏
2つ目は、蓄積した自社のノウハウやデータを中心に、モバイル事業の立ち上げのお手伝いをすることです。根っこから事業部を立ち上げる、いわゆるコンサルなんですけど、当社のモジュールや解析ツールを使って行っています。しかも成果報酬型です。モバイルとリアルの融合をもともと考えているので、お客さまと共同で事業を作っていく上でも成果報酬で提供することが意味があると思います。モバイルのデータを利用としてマーチャンダイジング事業といっていいですね。
■ ベンダーの認識とユーザーの理解にはギャップがある
小川(浩)氏
モバイル業界の方々と最近よくお会いしているわけなんですけど、カズさんの事業は少し毛色が違いますよね。
小川(和)氏
そうだと思いますよ。われわれはモバイル業界にいますが、正確にいうとモバイルを事業にしているのではなく、モバイルをキーとして事業しているんですね。個にセグメントされている世界では、テレビを主体としたマーケティングではなくて、モバイルを主体としてマーケティングのほうが効果が大きいはずなんです。だから、生活者にとってはモバイルはニッチではすでになく、マスといっていいと思います。
小川(浩)氏
同感ですね。
小川(和)氏
ところが、モバイルによるマーケティングの影響力はマスメディアと同等以上なのに、戦略や使い方ではマスとはまだまだ差があると思うんですよ。そこに妙味があって、マーケティングのためにモバイルをいかに使うの、ということを考えています。
その意味で、マーケットインというか、消費者寄りの視点をもっと大事にしていかなくてはならないと思いますね。モバイルマーケティング、という言葉もわれわれにとっては本来の意味とは違っている気がします。だから、グランドデザインでもモバイルサービス創造部、という部署名を採用しようかと思っています。
小川(浩)氏
創業して4年ですけど、当初の事業目的と現実に何か相違があったりしますか?
小川(和)氏
予想通りの成長といえますし、市場規模やインフラとしてのスペックの向上も予想通りですね。ただ、一般的なユーザーのリテラシーは想定より低いままですし、実はベンダー側もまだまだ成熟していないのかもしれないです。ベンダーが願う領域とユーザーが使いこなせる領域にはギャップがある状況じゃないですか。モバイル業界の成熟期はまだまだ先、いまはまだ黎明期な気がします。
■ モバイルをキーとする総合マーケティング企業を狙う
小川(浩)氏
その辺は通常のインターネットでも同じですけど、まあ、そういうことなんですよね。
ところで、さっきコンサルティングでは成果報酬とおっしゃいましたけど、指標はなんですか?
小川(和)氏
クライアントがECをやっていたとして、その成長のお手伝いをするならば、訪問者数や売上自体を成功を図る指標とします。
クライアントのサイトのシステムをいじることはしないですね。われわれが蓄積したナレッジのデータベースを利用してコンサルティングサービスをします。参入して半年で売上10倍としたケースもあります。成功報酬型だから、クライアントの満足感も深い、と思っています。ただ、最低限の人件費や教育費などの実費はいただくことにはなりますが。
小川(浩)氏
将来的なビジョンを聞きたいのですが、ベンチマークにしている企業はありますか?
小川(和)氏
あまりないんですけど、あえていうと、モバイル業界における電通さんのような存在になりたいとは思います。
電通という企業は、今や総合的にマーケティングを仕掛ける企業であって、広告代理店というものではないですね。もともとメディアの主戦場がテレビだった時代に、電通が一気にその枠を抑えることができたからこそ今の彼らがあると思います。メディアがテレビ集中からインターネットの登場以降、多様化してきたことによって、いろいろなメディアが共存する時代へと変わってきています。その中でモバイルの役割も大きくなってきたわけです。われわれはモバイルという枠をうまくおさえて、モバイルを使った総合的なマーケティングをしかける企業になりたいですね。
小川(浩)氏
IPOは考えますか?
小川(和)氏
一つの通過点かもしれないとは思います。
ひんしゅくを買ってしまうかもしれませんが、実際にIPOしているモバイル会社はCPばかりの状況ですので、われわれのようなタイプのモバイル企業のIPOもありかなと思いますし、事業として法人相手になるので、公開企業であるほうが受注はしやすくなるかなとも思っています。
■ 業者の淘汰が始まるか? 2008年のモバイル業界
小川(浩)氏
なるほど。モバイルファクトリーの宮嶌さんは公式サイト復権(笑)を強調されてましたが、エンターモーションの島田さんは勝手サイトによる広告事業の伸張を強調されていました。
小川(和)氏
どっちの意見も正しいですよ。CPで儲けている会社が多いのも事実です。占いはFACT情報がとれるいい方法なんです、自分の未来を占うためにわざわざ血液型や誕生日を偽る人はいないですし。だからCPがすべからずだめということはないですね。まあ淘汰される企業はあると思いますけど。
反対に、勝手サイトの広告については、クライアントのお話を伺うと、出稿意欲は強いが出稿先がない。モバゲーとmixiのみじゃないか、ということはよく聞きますね。ただGoogleによる検索が大きなトラフィックを生みつつありますし、広告事業も大きく伸びてくるとは思います。
小川(浩)氏
なるほど。
小川(和)氏
それとケータイのサイトを立ち上げるサービスを提供するASPはどんどん増えてきています。エンターモーションのメディアマジックなどもそうですね。うちとしては、自社サービスの運営は業種別の立ち上げのナレッジをためることが目標なんですけど、コンサルビジネスは労働集約なので売上をあげるには人を増やさざるを得ない。その負担を下げるためにシステムを作る、という要素もありますね。
小川(浩)氏
2008年のモバイル業界はどう動きますかね。
小川(和)氏
今年は過渡期というか淘汰の時代ですね。公式サイトの課金モデルから広告、あるいはECなどにシフトはすると思います。いろいろなサービスが乱立する中で、業者の淘汰が始まると思いますね。より本質的なサービスや仕組みしか残っていかないんじゃないでしょうか。
小川(浩)氏
iPhoneやGoogleのアンドロイドの参入についてはどうですか?
小川(和)氏
僕たちモバイル業界の集まりでは、一定のコアユーザーはとるだろうけど、海外とは違うだろうと見ている人が多いですね。業界では、iPhoneは日本でははやらない、という人が多いです。市場シェアはとれないという意見が大半ですね。
小川(浩)氏
そこは僕は違う意見ですけどね。短期的にはそうでも、中長期的には今の日本型モバイルインターネットは大きく質的変化すると思っています。とはいえ、先行きはまだ見えないですけど。
そろそろ時間がないので、最後にモバイル上でのマーケの特徴的なエピソードを一つ教えてください。
小川(和)氏
そうですね。例えばメールにおける男女の感覚の違いかな。
小川(浩)氏
実に興味深いですね(笑)。
小川(和)氏
男性は女性からのメールを受けたときに、女性のメールの中に、どのくらい絵文字が使われているか、絵文字利用頻度を見て相手が自分に気があるかどうかなどの判断をするらしいんです。おお、ハートマークがいっぱい、という感じです。
小川(浩)氏
分かる気はします。
小川(和)氏
ところが実際にはハートマークを使うのは、単に使いたいからというか、女性からすると絵文字を使うこと自体はそういう意味がほとんどないらしいんです。女性が男性からのメールで気にするのは、絵文字ではなくて、返信頻度や返信の早さなんです。
小川(浩)氏
なるほど(笑)。
小川(和)氏
そういう男女比が、モバイルの普及や、メールの絵文字やデコメなどの進化によって現れている、そういう微妙なモバイルならでは現象をとらえていくことでマーケティングにリアリティが出てくるんですね。
小川(浩)氏
参考になるなあ(笑)。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2008/04/25 00:01
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