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「ローカルに特化してLinkedInを迎え撃つビジネスSNSを」、SBI Robo渡部社長


 今回のゲストはSBIインベストメントの子会社であり、ビジネスパーソン向けにファイナンス情報の提供やソーシャルマーケティングサービスを提供するSBI Roboの渡部社長をお迎えしました。明確な成功イメージとビジョンを描き、日本の金融環境やビジネスパーソンのニーズにフィットしたビジネスモデルを展開したいと話す渡部さんが考えるビジネスSNSとはなにか。詳しくお聞きしました。


SBI Robo渡部社長 渡部 薫(わたなべ かおる)
SBI Robo株式会社 代表取締役 執行役員CEO

ベンチャー起業家でSBI Robo株式会社の代表取締役執行役員CEO。SBI Roboは2006年6月にソフトバンク100%子会社ソフトバンクRoboとして設立されるが、ソフトバンクによるボーダフォン買収などの時期が重なり、同年11月に全株式をSBIホールディングスに売却し、SBI 100%子会社となる。その後2007年2月にノルウェー、オスロに本社を置くFAST社とジョイントベンチャーとなり、今日に至る。事業企画および計画を策定し21世紀のデジタル情報化社会に対応したウェブファイナンス事業を推進することを目的としている。具体的にはサーチテクノロジー及びWeb2.0と呼ばれるウェブ技術(Blog、SNS、Wikiなど)を組み合わせ、金融サービスに取り入れる企画開発を主な業務としている。


ベンチャー起業家からソフトバンクグループ入り、そしてSBIグループへ

小川氏
 もともとはベンチャー企業を経営されていたとか?


渡部氏
 そうなんです。SBIインベストメント、当時のソフトバンクインベストメントからの出資を受けたジョイントベンチャーという形でした。2001年ごろの話なんですが、それは実はあまりうまくいかなくて。ソフトバンク側ではそのころはちょうどYahoo! BBを始めて日本にADSLを普及させようと頑張ってた時期だったんですけど、そのYahoo! BBのIPフォンサービスであるBBフォンや、それらを使った携帯電話サービスなどの企画のお手伝いなどをさせてもらったりしていました。そうこうしているうちに2003年になって、ケータイビジネスを本格化するから、いっしょにやろうよと説得されまして、会社を整理して本格的にソフトバンクに入社することになりました。


小川氏
 ソフトバンクでは何を担当されたんでしょう? 僕が初めて渡部さんとお会いした2005年くらいには、すでにBBモバイルにいらっしゃいましたが。



渡部氏
 iモードを超えるサービスを企画してくれ、といわれてましたね。PCの世界ではソフトバンクグループとしてはYahoo!がいるわけですが、モバイルの世界ではGoogleに対抗できるサービスを作らないとならないわけです。ところが、携帯電話事業そのものの業者の免許自体はまだ取得できていない状態だったことに加えて、急にTVバンク(現Yahoo!動画)用に動画検索サービスを作るという話が持ち上がってきて、僕が検索に詳しいらしい、ということになって(笑)。それで先にそちらを作るということになったんです。


小川氏
 ありがちな話です(笑)。それでFAST Search&Transfer(ノルウェーの検索エンジン企業。マイクロソフトが買収)なんですよね。


渡部氏
 そうです。当時小川さんもFASTをご自分のサービスで使っていたんですよね。


小川氏
 はい。


渡部氏
 もともとYahoo!の検索エンジンであるYST(Yahoo! Search Technology)はさまざまな検索エンジンの集合体で、インクトゥミもそうですけど、FASTのWeb検索部門であったAll The Webも包含しているので親和性がいいんです。そこでFASTをこの動画検索に使うことになったんですけど、結局Yahoo!はYSTに一本化するべき、という判断が働いて、2006年6月になってソフトバンクの100%子会社であるソフトバンクロボという会社にFASTのエンジンを移すことになりました。ソフトバンクロボはソフトバンクグループのサーチテクノロジーの会社、かつ携帯電話用のモバイルサーチに特化する、という目的で設立されました。

 ところが、ちょうど同じころにボーダフォンをソフトバンクが買収したこともあり、ソフトバンク自体はケータイに特化して経営資源を使おうということになり、サーチと広告、そしてポータルの事業はYahoo!に集約するということになって、せっかく作ったソフトバンクロボ、という会社は中途半端なポジションになってしまったんですね。


小川氏
 なんとなく僕の経歴に似たものを感じます(苦笑)。それでどうなったんですか?


渡部氏
 そんなおりに、北尾さんがソフトバンクと離れてSBIインベストメントとして新たなスタートを切ったんです。そこで僕は北尾さんについていくことにしたんです。SBIならつながりがあるから孫さんにも納得した上で応援いただけるし、と。そこでSBIに移って、モバイルサーチを金融のサーチエンジンに設計し直し、会社もソフトバンクロボの資本を入れ替えて、新たにSBI Roboを設立し、SBIグループ会社としての再スタートを切りました。


Googleはロボット

小川氏
 SBI Roboはモバイルサーチの会社ではないですよね。


渡部氏
 ええ。ファイナンスの分野とビジネスの分野に特化した会社ですね。検索サービスというよりも検索エンジンを使ったソーシャルマーケティングやマッチングを行う事業をしています。ビジネスSNSとソーシャルサーチを組み合わせたサービスかな。世界的な事例を見るとLinkedInが近いと思います。SNSという言い方だと日本はmixiが主流ですが、LinkedInに代表されるような、実名によるビジネス活動を支援するサービスがあってもいいだろうと思ったわけです。しかもLinkedInにはサーチ機能がないので、われわれはFASTを使うことでLinkedInとも差別化できるだろうと考えました。


小川氏
 なるほど。


渡部氏
 しかも、結果的に金融の業界にきたことのメリットもありますよ。金融業界はWebの技術の活用がまだ浸透してないし。


小川氏
 かもしれないですね。ところでソフトバンクロボから始まって、ROBOという名前を付け続けるゆえんはなんですか?


渡部氏
 長くなりますけど(笑)、今のWebのリーダー企業であるGoogleは、ロボットというイメージを僕は持ってるんですよ。神というよりロボット。これからはAI(人工知能)というよりサーチエンジンがロボット化していくんだと思うんです。よく孫さんは自分のDNAを300年は会社に残したい、自分を継ぐのはコンピュータなんだとおっしゃっていましたけど、意思を継ぐのはコンピュータというよりロボットなんじゃないかなと。ロボティクスというと長いし、メカニカルなものを想像するので、ロボ、と縮めてみました。


ネット上の自分自身の情報をコントロールする必要性

小川氏
 なるほど。現在のSBI Roboは、ビジネスSNSとソーシャルサーチにフォーカスしているとおっしゃりましたけど、LinkedInとはどう対抗していくのでしょう? 日本に上陸してきますよね。


渡部氏
 LinkedInがある米国と、現在の日本の状況を比較すると、日本人は個人名の公開を恐れるきらいがありますね。でも、小川さんもそうですし、僕もそうですけど、IT業界の人やブロガーには実名を出す人も多いじゃないですか。ビジネスで頭角を示したい人は実名を出していくべき、とも思います。だって社会認知してもらうには、Googleでサーチされないとならないじゃないですか。


小川氏
 そうですね。


渡部氏
 ところがですね、例えば孫正義と検索すると、本人の情報よりも、誰かが適当にかいた事柄や嘘が検索結果として出てきてしまったり、Wikipediaの記事が出てきてしまいがちです。Wikipediaといっても必ずしも内容が正しいわけではないじゃないですか。


小川氏
 はい。はてなブックマークなんかもそうですよね。


渡部氏
 つまり、自分の意図していない情報が検索上位に出てしまう可能性があるわけで、それは必ずしもいいことではないんです。ネットが普及すると、自分が意図しない情報がどんどん出てきてしまう。つまり、自分の名前で検索されたときに、自分自身でコントロールできない情報ばかりが表示されるというリスクにわれわれはさらされているわけです。だからこそ、実名での検索結果の上位を自分でコントロールすることは重要だと思います。


小川氏
 そうですね。僕の場合でもいちおう今は自分のブログやオーソリティとしてのニュースサイトでの情報がトップに出るので、それで安心できますが。


渡部氏
 だからこそ、SBI RoboのビジネスSNSで実名のプロフィールを作成することをお勧めています。SBI Roboのサービスを使えば、Googleのランキングのアルゴリズムなど、SEOに対処したプロフィールを作ることができます。つまり、実名でSBI Roboを使うことで自分のネット上の情報をコントロールできるわけです。


小川氏
 なるほど。


渡部氏
 実名をWeb上に出したいと考えるのはあくまでビジネスユースでしょう。だから、われわれはビジネスSNSを運営するわけですが、LinkedInは人脈形成を目標としていますが、われわれは加えて、個人情報を正しく伝えるためという意図も持っているんです。


LinkedInとの対抗軸は、日本の市場環境への理解の深さ

小川氏
 ビジネスモデルはやはり広告ですか?


渡部氏
 現時点ではアドセンスによる収入だけですけど、もう少し会員が増えたらLinkedInをまねしようかと思っています。つまり自分の知り合いの知り合いにたどり着くためには有料になる、というモデルです。あるいはリクルート支援サービスなどをやってもいいと考えています。いま会員が1万を超えたところですが、10万人くらいになったら試してみるつもりです。


小川氏
 リクルート支援はいいかもしれないですね。


渡部氏
 SBIグループは金融関連なので、ベンチャー志望者に対するSBI系の投資や審査を検討するためのリードであるとか、別のVCに参画してもらうような入り口を考えていくのもいいかと思います。ビジネスサポートサービスとでもいいましょうか。SNSなのでビジネスピープルのライフスタイルを把握できるし、ライフスタンスでさまざまな提案ができる可能性もありますから。


小川氏
 デジタルガレージの支援でLinkedInが本格的に日本上陸しますが、対抗できますか?


渡部氏
 LinkedInは世界に1400万人の会員で、日本でもすでに10万人集めていると聞いています。知名度的には向こうが有利かもしれないですが、差別化はできると思いますね。サービスの性格上、われわれはSNSというよりプロフィールサービスなので、共存も可能とも思いますし、日本のケータイにフォーカスできるという意味ではわれわれに強みがあるかもしれません。

 実際、MySpaceが上陸してもmixiは頑張っています。YouTubeに対抗してニコ動も急成長しています。つまりローカルに徹すれば勝ち目はあるんです。いかに日本の市場を理解するかにかかってくると思います。


小川氏
 確かに。


2年で企業価値100億円を目指したい

渡部氏
 彼らにないサービスを追加していくというのも差別化になります。サーチもそうですし、今回MODIPHIベースのニュースリーダーを新たに加えて機能向上を果たすのもそうですね。


小川氏
 ありがとうございます。


渡部氏
 僕自身、RSSフィードには注目していますよ。小川さんとも合うところだと思いますけど、SNSもRSSフィードを発信するべきなんですよ、人間の情報もフィードされるべきなんです。情報を集約できれば便利ですし、人間関係や動向をフィードできればとても便利だと思います。理論上は人口が67億なら、67億のヒューマンフィードがあっていいと思うんですね。フィードを使えば、コンビニがPOSを使ってやっているように、きめ細かくユーザーの情報を分析していくことも可能だと思います。


小川氏
 まったく同感です。


渡部氏
 ニュースリーダーは6月には公開することになりますけど、金融業界の人、というよりIT業界以外の人達はXMLやRSSなどという言葉は全然知りません。だから身近な言葉、身近な使い方を提案してあげないとならないかとは思います。フィードじゃなくてニュース、とか。日本人には難しい言葉はなじまないんですよ、そういう配慮もローカライズの一つなんじゃないですかね。


小川氏
 そういうITリテラシーが高くない業界でビジネスSNSのようなサービスを展開することは難しくないですか?


渡部氏
 かもしれませんが、リテラシーが高かろうが低かろうが時代には逆らえないですよ。オンライン証券などは登場して10年くらい経過しましたけど、オンラインによる手数料の低減競争も限界にきています。もはやテクノロジー的な差別化もない状況です。これ以上のイノベーションはWebに精通した企業じゃないとできないんじゃないですかね。そこにわれわれに強みがありますよ。


小川氏
 目標をどう設定していますか?


渡部氏
 今年の1月から始めて1万人集めましたが、2年で100万人を集めたいですね。将来はより大きな市場として中国進出も視野にはありますけど、まず100万人いったときの事業規模イメージを強く考えています。


小川氏
 というと?


渡部氏
 ユーザー一人あたりの事業規模として3000円くらい、つまり100万人いったら年商30億円になる、という見方です。そのときの時価総額ではれば一人あたり1万円と見ていますので、企業価値100億円という感じです。これが成功イメージですね。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/05/08 12:00

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