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「人こそ第六のメディア。バズソリューションで新しい市場を作る」アライドアーキテクツ中村社長


 今回のゲストはアライドアーキテクツの中村壮秀社長です。商社出身者という共通点と好きなクルマの話で盛り上がったときの笑顔に好感がもてる、若い世代の起業家です。

 蜂がブンブン飛び回る音という意味を持つバズという言葉は、いまでは群衆がざわめいている様子を指す言葉となり、そしてそのバズを起こし、バズを伝達させてマーケティングやブランディングを行うことをバズマーケティングといいます。扱うことが難しいバズを、どうやって起こし、どうやって利用していくのか。中村さんに伺いました。


アライドアーキテクツ・中村社長 中村 壮秀(なかむら まさひで)
アライドアーキテクツ株式会社 代表取締役社長

1997年3月 慶應義塾大学理工学部計測工学科(現物理情報学科)卒
1997年4月 住友商事株式会社入社。リテール部門にて新規事業(Segafredo)会社の設立、運営を担当。
2000年6月 株式会社ゴルフダイジェスト・オンラインの設立に参画。 同社の売上の80%を担うEコマース事業の企画、統括
2004年7月 同社 Eコマース、マーケティング、システム担当執行役員に就任
2005年8月 アライドアーキテクツ株式会社設立


商社から起業家へ

小川氏
 オフィス近いんですよね。一度お伺いしてみようと思っていたんですが、今日はよろしくお願いいたします。


中村氏
 お願いいたします。「Web2.0 BOOK」も読んでます。


小川氏
 ありがとうございます。最新刊の「アップルとグーグル」もお土産に持っていってくださいね(笑)。

 さて、簡単に自己紹介をお願いします。


中村氏
 僕も小川さんや(エンターモーションの)島田さんと同じで商社出身です。元は住友商事のコンシューマ向け事業の部署にいました。スーパーのサミットさんですとか、バーニーズニューヨークなどの事業展開のお手伝いをしているリテール部門なんですけど、僕はSegafredoというカフェチェーンを担当していました。


小川氏
 それでトリトンスクエアにもあるんですね。品川駅や広尾にありますけど、Segafredoのエスプレッソは絶品ですよね。


中村氏
 ありがとうございます。僕自身はその後、26歳のときに、趣味のゴルフとインターネットを結びつけたら面白かろうと思って、ゴルフダイジェストに個人的に(笑)企画を持ち込んだんですよ。そうしたら、先方の方にそんなオモロいことを考えてるやつがもうひとりいるよと。それが今のゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の石坂社長だったんです。


小川氏
 まあ、いかにユニークなことだと思っても、同じことを考える人は必ずいますから。でもそれを行動に移すからチャンスがあるんですよね。

 それでどうなったんですか?


中村氏
 そのままGDOの立ち上げに参画して、EC部門の責任者になりました。当時はメルアドを獲得してメールすればすぐ反応があるような時代でした。ただ、それも徐々に変化してきて、メールマガジンではなくブログからのアクセスがどんどん増えてくるのを見て、ああ、これは新しいメディアが台頭してきているな、と。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌を4マスといったりしますけど、これにネットが入って、さらに第六のメディアとして人、つまりクチコミが事業になるかも、と考えたわけです。それでアライドアーキテクツを創業することになりました。


第六のメディアは人そのもの

小川氏
 なるほど。


中村氏
 だからアライドアーキテクツは第六のメディアとしての妄想から生まれた会社で、マネタイズは後回しでしたね(笑)。とりあえず、ファンになってくれるブロガーをまず増やそうと思っていたくらいで。そこで食い扶持を稼ぐためにWeb製作もやりながら、エンジニアやデザイナーを集めていきました。うちは僕以外の取締役4名が、エンジニア系とビジネス系が2人ずつなんですね、ギークとスーツとよくいいますけど。


小川氏
 はい。


中村氏
 今のアライドアーキテクツを一言でいうと、バズソリューション企業、といえると思うんですけど、クチコミを使ったマーケティングをするための企画からメディア提供、そしてシステム開発までを一気通貫でできる会社になってきたと思っています。さらにその上でバズマーケティングそのものを行うための子会社として株式会社バズマーケティングも2007年に立ち上げています。


小川氏
 バズマーケティングを立ち上げたきっかけは?


中村氏
 セプテーニが広告を口コミ系でやるという話を聞いたのがきっかけですね。


小川氏
 バズゾリューションという事業モデルを具体的にいうと?


中村氏
 ブロガーを集めて、どんなブログサービスを使っていようが関係なく、誰でもMyページを持ててブログパーツをもらえるというサービスをまず作っています。これはエディタというサービスなんですけど、いまでは6万人のブロガーが会員になっており、平均して一人あたり700PV/月になっています。


小川氏
 ブログ自体を運営しないのはなぜ?アメブロはそういうアプローチですよね?


中村氏
 ブログのインフラはもうからないという気がします。ブロガーのマインドシェアをとりたいというか、ブログのトラフィックの上澄みをとる戦略ですね。


小川氏
 なるほど。


バズマーケティングには偶然性を無視できない

中村氏
 さらに2008年2月、モニタープラザというサービスを作りました。ブロガーにお金を払って記事を書いてもらうというビジネスが一時期はやりましたが、モニタープラザは無料で書いてもらいます。ノンペイドであるからこそ、本当に意味がある記事になるはずなんですね。

 お金を払うペイド型だとスポット的な形になりますが、モニタープラザを利用して、企業がイベントをWeb上で行ってそこに継続的にファンを作っていく、いわばストック型で考えてもらいたいと思っています。


小川氏
 僕もブロガーですが、お金をもらって恣意(しい)的な内容を記事にするのは感心しないと思ってます。


中村氏
 ですからモニタープラザではブロガーにバーチャルな展示スペースを提供して、たとえばお菓子屋さんがいたら、そのファンを集めてインフルエンサになってもらうということをやります。


小川氏
 モニタープラザを企業が利用する料金は?


中村氏
 月額10万円からです。業界的には低価格だと思います。

 ノンペイドだからコメントもつきやすいし、そもそもクチコミを使うバズマーケティングは トライ&エラーなので気軽に試していただく金額が必要だと思っています。ビリー・ザ・ブートキャンプも、入隊する、という言葉がはやったからあれだけの人気になった。いわば偶然なんです。やってみなければ分からない、という事実を考えの低料金サービスにしています。


小川氏
 なるほど。


中村氏
 ブロガーと企業のコミュニケーション、企業のホスピタリティがブロガーに響けば、アクセスにつながるということを、使ってみて分かっていただければと思います。ほんのちょっとお客さまのことを考えて行った工夫が、ブロガーの心に響いて大きなバズを生んだ例を僕はいくつも見てきました。アフィリエイトやペイド型のバズマーケティングではなかなかあり得ないことだと思います。

 アフィリエイトだと料率がいいところにブロガーは流れてしまいますし、たいていのブロガーはブログを書くネタに困っていることも多いんですよ。例えば主婦達のブロガーは、ストレートニュース(自分から発信するオリジナルの記事)をブログに書くことがなかなかできないという統計が出ています。モニタープラザであれば、そういう機会を与えることができますので、アフィリエイトとの両立が可能だと思っています。だからこそインセンティブはなくても参加してくれるんですよ。


小川氏
 同感ですね。ところでライバルと目する企業は?


中村氏
 いまのところライバルはないですね…。他の類似サービスの企業はナショナルクライアントにいきがちですけど、うちは中堅企業や中小企業向けのバズマーケティングに特化していますし。


小川氏
 Kizasiとかテクノラティのような、ブログ検索系が企業のバズマーケティングの領域に入りそうな気もしますが。


中村氏
 Kizasiさんとかは商品開発に向いているんじゃないですか。われわれは販促に向いていると思います。その意味で近いけど方向が少し違う。


小川氏
 MySpaceは若干近いかもしれないな。


中村氏
 うーん…、そうなることもあるかもしれませんね。


モバイルバズは若干時期尚早

小川氏
 まだまだ新しい取り組みで事業性や市場規模については分からないかとは思いますけど、今後の目標としては?


中村氏
 そうですね、いずれにしても新しいサービスで市場をとりたいですね。日本は新しい市場を作ることが難しい国だとは思うんですが、反対に一回うまく市場を作れたら、けっこう参入障壁というか新規参入を寄せ付けずにいられると思うんですよ。そのうえで、英語のサービスもやりたいですね。


小川氏
 なるほど。


中村氏
 とりあえずやるべき事業のポートフォリオを去年作ったんで、今年はそれを改良して作っていくというか、じっくり煮詰めていくことを目標にしています。


小川氏
 モバイルバズの領域はどうかな?


中村氏
 モバイルはね、みんなアタマを悩ましていると思うんですよ。被リンク構造がないからクチコミを広げづらいし、プラットフォームがモバゲー、GREE、ミクシィがおさえてしまっているのも問題だし。やっぱりオープンになってほしいですよ、もっと。Googleがやってきているので変わるかもしれないですけどね。


小川氏
 何度もいうんですけど、日本のモバイル市場(だけじゃないけど)はガラパゴスみたいなもので、閉鎖的で特殊ですからね。

 でも変わると思いますよ、近々。僕たちも今年はモバイルには力を入れるつもりです。今日はありがとうございました。


中村氏
 ありがとうございました。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/05/27 00:01

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