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「ネットを使って、働きたい女性の就労機会を」、ワイズスタッフ田澤社長


 田澤さんは女性起業家としては、比較的ユニークな存在です。自ら起業したいという思いではなく、仕事を続けるために結果として起業をし、さらにインターネットを有効利用するという方法にたどり着いたと語る彼女の、ネットオフィス構想とは何か、をお伺いしました。


ワイズスタッフ・田澤社長 田澤 由利(たざわ ゆり)
株式会社ワイズスタッフ(通称 Y's STAFF) 代表取締役

1962年奈良県生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。シャープ株式会社にてパソコンの技術、企画、販売促進等の業務に従事したが、結婚・出産によりやむなく退職。その後、フリーライターとして独立し、3人の娘の子育て、夫の5度の転勤による引越しを経つつ、SOHO(テレワーカー)として、パソコン関連の書籍や雑誌の執筆を行う。
1998年、インターネット上で会社を運営する「ネットオフィス」を実践するため、夫の転勤先であった北海道北見市にて、ワイズスタッフを設立。2004年に2番めの拠点として奈良オフィスを開設し、翌年株式会社へ組織変更。現在、インターネット上で、海外を含む全国各地のテレワーカーであるスタッフ約140名とともに、50以上のプロジェクトを同時に運営している。主な業務内容は、ホームページ制作・メールマガジン編集・マーケティングなど。
女性はもちろん、地方在住者、高齢者、障がい者も「ネットで働ける社会」を実現することをライフワークとして取り組んでいる。

★田澤由利のテレワークブログ
http://telework.blog123.jp/
★空飛ぶ由利ママの社長日記(ブログ)
http://yuri.blog123.jp/


結婚を機に退職、仕事を続けるために起業

小川氏
 ごぶさたしています。簡単に自己紹介をお願いできますか。


田澤氏
 はい。もともとパソコンの仕事がしたくてシャープに入社しまして、商品企画をさせていただいていました。好きな仕事ですから、一生いてもいいと思っていたんですけど、生命保険会社に勤めていた今の主人と結婚しまして、彼の転勤を転機として残念ながらシャープはやめざるを得なかったんですね。子供もできたこともありましたし。でも仕事はしたい、と思いました。じゃあ、仕事を続けるにはどうしたらいい?と考えたことで、場所を選ばずに仕事ができるインターネットに自然にたどり着きました。


小川氏
 僕もマレーシアに住んでいるころの不自由さの解消が、インターネットへの強い関心につながりました。


田澤氏
 当時はインターネットという言葉もなかったですけど、どこにいても働くにはどうするのか、それを解決するために、とにかく1998年に会社を立ち上げることにしました。どこででも働ける会社、という理想を実現しようと思ったのです。在宅やSOHOという形は当時からありましたが、私としては会社に勤めていたいのにやめざるを得なかった方々に、チャンスを与えたいというキモチが強かったですね。どこにいても仕事ができる会社を作るなら、ネット上に作るしかない、と思ったわけです。つまりネットオフィスを作ってあげたい。目標はネット上に会社を作ることによって、その会社をリアルの会社と同じように運営することです。


小川氏
 ネットの会社ではなくて、リアルの会社をネット上に作る、ということですね。ところでリアルにオフィスはあるんですよね。


田澤氏
 ええ。私たちはネットオフィスをメインで考えていて、それに対してローカルオフィスという言い方をしてますけど、北海道の北見と、私の生まれ故郷である奈良に置いてあります。ローカルオフィスには物理的業務があるから、バックオフィスも必要で、従業員が北見に6人、奈良に3人働いています。


小川氏
 北見という地名は初めて聞きました。


田澤氏
 主人の転勤がきっかけで住んだんですけど居着いてしまいましたね。娘が三人いて、子育てにもいい場所ですし。結局主人も会社を辞めて、いまは一緒に会社をやっています。


ネットオフィスとは、普通の会社をネット上に作ること

小川氏
 改めてお伺いしますけど、ワイズスタッフの業務内容は?


田澤氏
 企業のHP製作やメールマガジン運営、ネットリサーチなどをさせていただいております。目指しているのはあくまで普通の会社で、仕事のやり方だけがネットオフィスを通じて普通じゃないだけなので(笑)、業務内容もいたって普通です。ただ、ネットでできる仕事はすべて挑戦したいですね。


小川氏
 ネットオフィスで仕事をしているのは何人くらいですか?


田澤氏
 テレワークをしている人たちを、ネットメンバーと呼んでますけど、全国各地に140人くらいいます。東京にない会社は不利、と思われることも多いですけど、ネット上であるからこそできることもありますし。


小川氏
 男女比はどうですか?


田澤氏
 やっぱり女性が多いですね。選んでるわけではないんです。ただ、応募して来る男性は会社が嫌で独立した人が多いんですね。でも、ネットオフィスは、会社を目指しているので、自分で何でもしたいタイプの人には合わない。反対に女性は私と同じように、本当は会社に属していたいけど、結婚や出産が理由で辞めざるを得なかった人が多く、ネットオフィスに適しているのです。結果として女性が9割くらいを占めています。


小川氏
 テレワークなのにチームワークが大事なんですか?


田澤氏
 われわれは内製のつもりなんですね、決してひとりには発注しないです。必ずチームで仕事を進めていきます。だからデザインだけする人でも全体を意識してもらうことになります。女性は仲間と一緒に仕事をしたいという方が多いので、ネットオフィスには向いているのでしょう。そうはいっても人それぞれですから、私は採用に関しては必ず実際にお会いしてから決めることにしています。


小川氏
 全国から採用するのに面接?


田澤氏
 テレワークだからこそ、よい人を選ぶのにこだわっています。女性スタッフを多く抱えている会社は多いけど、私たちが考えるのは「ネットの会社」を作りたいということで、単にネットを利用した会社を作るわけではないんですね。だからスタッフもちゃんとお会いして選びます。書類選考だけでなく面接は必ずします。だから140名集めるのに10年かかってしまいました。


2010年に全労働人口の20%をテレワーカーにするためのバックアップを

小川氏
 なるほど。

 ところで田澤さんというと女性起業家のはしりのようなポジションだと思うんですけど、昨今増えてきたIT系女性起業家のあり方をみていて何か感じることはありますか?


田澤氏
 私は確かに女性であって、さらに起業した、ということは間違いないわけですけど、そもそも会社を作りたいとか社長になりたいと思ったわけではないので、なんとも言いがたいですね。1997年頃かな、在宅とかSOHOという言葉がはやった時期があって、そのころに創業したので、私たちがネタになりやすい環境ではあったと思いますし、マスコミにとりあげてもらってよかったということはあります。在宅ワークの母、のような肩書きが勝手についてきましたし(笑)。

 でも、パソコンとネットがあれば仕事ができるといわれつつ、実際にはできている人はその頃はまだ少なくて、だからこそ会社を作ったんですね。主人が働いているわけで、生活に不自由がなかったから会社設立には迷いもありましたけど。


小川氏
 それでも何かが背中を押した?


田澤氏
 うーん…。実は、ある男性にね、あなたは主婦だからいいよね、旦那さんの給料で食えるから、仕事も副業ですむし、というようなことを言われたことがありまして。それで奮起したのかな(笑)。


小川氏
 そういうことを言う方はまだいますよね。悪気はないんだと思うんですけど。


田澤氏
 だから最近起業家セミナーなどに呼ばれることがあって、起業家マインドを話して、と言われて困るんですけど、そのときには「ネタ探ししてる時間はないですよ」と言うようにしています。ビジネスになるから、ではなく、自分の想いからニーズを探していくことが大事だと思うんです。


小川氏
 ですね。


田澤氏
 そんなこんなで、女性だからといって得したことは特にないんですけど、広報的には目立ちやすいことや、地方にいることがよかったかもしれないですね。東京にいて男性だったら、目立ってなかったんじゃないかな。でも、それを武器にしてきたつもりはないですよ。女性起業家はどうこうと、さらっといわれることはいやですね。


小川氏
 お気持ち分かりました。


田澤氏
 話は違いますけど、実はテレワークを政府がプロモーションしてくれるようになってきていて、2010年には全労働者人口の20%をテレワーカーにしようというお話をがあるんですね。ITを使って労働力を掘り起こそうと。労働力の低下は目に見えているし、少子化も問題です。だからテレワークという働き方に注目していくべきだと。


小川氏
 なるほど。


田澤氏
 海外から労働力を持ってきても解決にならないじゃないですか。働きたくても働けない人は日本にはいっぱいいるんですよ。だからそういう労働力に機会を与えることの価値がようやく見直されてきました。設立から10年たって、ようやく追い風になってきた気がします。


小川氏
 学歴も職歴も申し分ない女性が労働の機会を与えられないのは不幸かもしれないですよね。


田澤氏
 はい。あとは、10年間のテレワークをベースとしたネットオフィスの運営で、たまってきたノウハウを少し有効活用する道もトライしようとしています。Pro.メール2.0という、メールをベースにしたコミュニケーションツールを作ったんですよ。いわゆるほうれんそう(報告・連絡・相談)にはメールを使うことが多いと思いますけど、テレワーカーのグループワークツールとしていろいろなノウハウをつぎ込んでみました。コンサルも含めて新しい事業分野に挑戦したいですね。

 ネットオフィスにとって重要なことは、普通の会社ならある意味簡単なことですけど、愛社精神をどう作っていくかということなんですね。採用に面接を必ず入れることもそうですけど、よりコミュニケーションを円滑に進めることが、テレワークを普及させる上では重要ですから。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/06/10 00:00

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