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「Firefox 3.0はWebの起爆剤の一つ」Mozilla Japan瀧田代表理事&カナイディレクター
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今回のゲストはFirefox 3.0のリリースを終えたばかりのMozilla Japanの代表理事である瀧田佐登子氏と事業推進担当のゲン・カナイ氏です。
オープンソースコミュニティから生まれ、多くのインターネットユーザーに愛されるFirefoxと、一連のアプリケーション群を開発し続けるMozillaが考える将来のWebとは? 現状の日本の問題点とは? さまざまな角度でお話を伺いました。
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瀧田 佐登子(たきた さとこ)
Mozilla Japan 代表理事
日電東芝情報システム(現・NECトータルインテグレーションサービス)、富士ゼロックス情報システム、東芝などを経て、1996年、日本ネットスケープ・コミュニケーションズ入社。I18N、L10N のエンジニアとして製品の開発およびプロモーション担当。2001年US AOL/Netscapeプロダクトマネージャとして日本の金融関連サポートおよびNetscape 7.0のプロモーション業務担当。2003年オレンジソフトとコンサルタント契約。
携帯電話用POP/SMTPメーラー(BREWアプリ)の開発プロジェクトマネージャ。2004年Mozillaの技術、関連技術の普及啓蒙を目的として有限責任中間法人Mozilla Japan設立。2006年7月Mozilla Japan代表理事に就任。2007年慶應義塾大学非常勤講師。
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ゲン・カナイ
Mozilla Japan アジアビジネスディベロプメント ディレクター
ニューヨーク出身。
米国ダートマスカレッジ卒業後、ソニー、ソニーマーケティング、テクノラティ・ジャパン、デジタルガレージでキャリアを積んだのち現職。
現在は東京を拠点に活動中。
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■ Webの進化の起爆剤でありつづける
小川氏
ゲンさん、ごぶさたしています。瀧田さん、初めまして。今日はよろしくお願いいたします。
Firefox 3.0がついに公開されましたが、Mozillaの取り組みについて、まず簡単にお話をいただけますでしょうか?
瀧田氏
Mozillaはカリフォルニアを拠点とするNPOです。1998年にMozilla Corporationができて、2003年にはMozilla Foundationとなりましたが、設立当初から常にエンジニア集団がオープンマインドでスタンダード作りをしてきました。いまはWebの技術全体が大きく変化している時期ですよね。
日本では急速にブロードバンドが普及しましたし。しかし、Mozillraのエンジニア達は常に5~6年先を考えて開発をしてきており、例えば今となっては当たり前のRSSのような技術もネットスケープ時代の遺産です。
また、98~99年ごろにはすでに今でいうアプリケーションプラットフォームを作り、さまざまな仕組みを提唱してきています。だからSilverlightやAIRなどをみると、ようやく時代が追いついてきたという気がしてなりません。Mozillaはずっと、Webの起爆剤をばらまいていたといえます。
小川氏
Firefox 3.0もその起爆剤の一つですね。
瀧田氏
Firefox 3.0はいろんなメッセージを含んでいると思います。テクノロジー集団から提唱できるいろいろな可能性を持っています。われわれはWebの世界に新たなテクノロジーを投げつけていけなくなったらおしまいだと思っています。Webブラウザを作るだけではなくて、エンジニアの技術の集結の結果物として、Firefoxもあるにすぎないと思っています。
カナイ氏
Firefox 3.0にはいま多くの脚光が当たっていますが、レンダリングが速いとかいう話だけではないし、単にコンシューマに無料で配るためだけに作っているわけではありません。Mozillaのラボの実験の成果や、今後どうインターネットのサービスやWebブラウザとの連携を行っていくかなどを試しながら、あるいはコードを流用しながら創造しています。そういう組織であり続ける、それがミッションだと思います。
瀧田氏
特にMozilla Japanとしては、日本の文化の中で、日本人のきめ細やかさの部分の文化を、日本のコミュニティと一緒にテクノロジーに注入できたら素晴らしいことだと思っています。
■ IE7の6~9倍速いFirefox 3.0
小川氏
Firefox 3.0そのものの話を少し伺いましょう。相当に速くなった、と評判ですし、すでに多くの人がダウンロードをしています。
カナイ氏
現在Firefoxの利用者は1億8000万人にまで増えてきています。言語としては48言語くらいを同時リリースしているのですが、これはまさにオープンソースのコミュニティの協力なくしては実現できない奇跡だと思います。他社ブラウザは、たとえばマイクロソフトがIE7をリリースしたときには最初英語のみでした。コミュニティとユーザーのつながりが大事だという証明でしょう。
瀧田氏
他言語をこれだけのクオリティで同時に出せるということがすでに奇跡です。企業ができないことをコミュニティがどうしてできるのか、とよく聞かれますが、理由は簡単で、誰もが参加できて、誰にでも情報がオープンな組織に、大量のボランティア開発者が集まってきているからです。トランスペアレンシーが大事、秘密がない組織であることが大事なんです。
小川氏
実際、製品のクオリティには目を見張ります。実際どのくらい速くなっているんでしょう?
カナイ氏
1万5000の改善点に対して3年間にわたって開発してきました。Firefox 1.5から2.0のバージョンアップより2.0から3.0の開発範囲のほうがはるかに広く、JavaScriptの動作速度で、IE7の6~9倍速く、Firefox 2.0より2~4倍速いという数値がでています。
小川氏
そんなに!? 僕たちモディファイが提供しているMODIPHI APPS(modiphi.com)はすべてJavaScriptとHTMLだけで書いてありますが、JavaScriptに対するサポートに力を入れていただいているのはうれしいですね。
カナイ氏
JavaScriptを使うサイトがどんどん増えているのが現状です。Gmailなどを見ればJavaScriptの速度が非常に大事ということがわかります。Firefox 2.0ではAjaxに対してメモリをいっぱい使うことが大きかったのですが、いまはメモリの扱い方も改善していてCPUに負荷をかけることも少なくなっています。どういうことかというと、ウィンドウを閉じるときには使用メモリをリリースするんです。
小川氏
IE7はどうですか?
カナイ氏
IE7はリリースしていません。
セキュリティも向上していて、フィッシングだけではなくアンチマルウェア警告機能もついています。拡張性も高く、Webブラウザの中からプラグインを探したり追加できるようにもしていますし、APIも公開しています。
また、UIについては、各OSに応じてネイティブなUIを提供しているので、MacファンにはMacっぽい外観を与えることにしています。
URLボックスに、サイトのタイトルやURLやブックマークしているタグを認識して、検索してURLをだせるのが便利です。ユーザーの使い方で変わるというか、慣れていないとあれっ、と思うかもしれないですが、簡単にすぐに使えるようになると思います。☆=ワンクリックブックマーク、二回押すとタグや名前をつけられる、といった具合です。一回だとブックマークされます。
瀧田氏
作業をいかに効率化させるか?というポイントを考えて作っています。
見た目も大事なのでフォントまわりには気を遣っていて、マルチバイトもきれいに表示されます。
■ 競争なくして進化なし。FirefoxがWebブラウザの進化を再び促した
小川氏
Firefoxというか、Webブラウザが今後Webの世界に果たす役割についてどう考えていますか?
瀧田氏
いまの時代ではWebはネットユーザーの生活にとって重要性は相当高いものです。速くて、安全、しかもオープンスタンダードを守るのが大事でしょう。
今年でMozillaは10年です。NPO団体が世界のユーザーの2割になっている現実は何らかのメッセージを持っていると思います。何万のボランティアの協力も得て伸びているのは考えられない現実でしょう。
小川氏
そうですね。
瀧田氏
だから今ではわれわれは大きな責任がかかってきていると思います。今後もずっと、ネットユーザーのために無料で安全でスタンダードな製品、それはWebブラウザだけではなく、モバイルブラウザでもメールソフトでもそうですが、さまざまなモノを作っていかないとならないと思っています。
そして、一つ大事なのことは、競争を作ることだと思います。Firefox 1.0がリリースされるまで、マイクロソフトにはライバルがいないも同然でした。
小川氏
IE6からIE7のリリースまで実に5年間を擁しているのは彼らの怠慢ですよね。
瀧田氏
ネットの歴史では5年は考えられないスパンです。停滞、といっていい。やはり競争がなければ進化はないということです。Firefoxが出たおかげでOperaもアップルもがんばるようになったといえるのではないでしょうか。Webブラウザの進化を促進したことが重要な点であると思っています。
私自身、ネットスケープ時代から開発に関わっているわけです。CSSにしてもXMLにしても競争があったからこそ進化しています。インターネットってなに?という時代から、Webブラウザというものがなんなのという形をみせたのがネットスケープです。インターネット=ファイル転送にすぎなかったものから、提供者に自由さを与え、本と比べてはるかに安く情報をパブリッシュできるようにしたことがWebブラウザです。いまではインターネット上でできることが増えてきた結果、企業と企業の戦いの影響でWebの世界も少し曲がってしまった感もありますが、Mozillaはそれをなるべく正していきたいと考えます。シェアを上げることがWebの世界にどう影響を与えるかは分かりませんが、Web上のサービスやコンテンツは、どんなWebブラウザでも表示できるべきでしょう。
■ ポストWeb 2.0とモバイルウェブへの見方
小川氏
同感です。僕自身、ネットスケープにはあこがれをずっと持っていて、Web全体の進歩に貢献することを最大の目標にしています。
ところで、ポストWeb 2.0時代を考えてもらいたいのですが。
瀧田氏
一個人としての考え方ですけど、まずわれわれ自身Webブラウザという形にこだわらないつもりです。自分のいる世界がWebブラウザになるというか。今後はネットデバイスも多角化します。家電はほとんどネットにつなげれば即アクセスというふうになるでしょう。いままでMozillaが作ったアプリはPC上で使う目的ばかりでしたが、今後はデバイスは選ばないことが大事で、同じものをいろいろなプラットフォームで動かしてあげることが大事になってきます。
同じモノが同じように動くように。それが第一ステップですね。その次はもっと革新的になるでしょうが、まずは5~6年のスパンはそこだろうと思っています。
小川氏
モバイルについてはいかがでしょう? もうすぐiPhoneも日本上陸しますが。
瀧田氏
モバイルにフルブラウザ、というスタイルがほんとに必要なのか?と疑問は生まれるでしょうね。
カナイ氏
NOKIA N800/N810向けにはOSはLinuxで、われわれのブラウザエンジンであるGekkoが採用されています。韓国メーカーとも話を始めています。
小川氏
ケータイウェブそのものをどう思いますか?
あれはケータイキャリアの巨大なLANであると僕は思うのですが。
瀧田氏
否定するわけではないけど、変えていくべきだと思います。今のモバイルのテクノロジーも市場もすごいけれど、これからの物作りの視点でみたら、革新はやりづらいでしょう。日本の中の変化だけではなく、限界は見えてしまっているはずですから。10年後を見据えるべきであって、国内に閉じこもってはいけないですね。技術が死んでしまう。世界のステージで競争すべきですよ。
小川氏
同感です。僕も日本のケータイやモバイルサービスを否定しているわけではなくて、日本国内にあまりに特化して進化しすぎていることが心配なんです。最近でこそガラパゴス現象という言葉が世間でも使われてますけど、あれ、実は僕が使ったのが最初じゃないかな、とひそかに自負してるんですよ(笑)。僕のエントリより古い表現が見当たらないので。ちなみにイントラブログは僕の造語です。
瀧田氏
閉じた世界は必ず世界から取り残されてしまいます。
オープンソースはすごく面白くて、バリアフリーの世界だから、一つのいい技術がみんなに評価されて、小さな長所が巨大なメリットに変えてもらえるかもしれないという可能性があります。日本はオープンソースを使うことに躊躇(ちゅうちょ)することが多いみたいですけど、米国はとりあえず作ってみて、とりあえずやろう!というスタンスです。リスクリターンを考えるんですね。
でも、企業側も徐々にマインドを変えつつあるとは思います。これもやっぱり節目だろうと思います。次に何をだすの?とみんなで考えるべきですよ。他の国のiPhoneを持ってきてどうするの?と思います。あるいは高級ブランドと組んでケータイを作っても、短期的には売れたとしても意味がない、と思います。
小川氏
まったく同感です。ビジネスになるかどうかの判断だけではなく、長期的な発展を視野にいれないと市場そのものの弱体化が始まってしまいますから。
■ 速くて安全でオープンスタンダードを提供し続ける
瀧田氏
エンジニアも自分自身を見直すべきでしょうね。どういうエンジニアになりたいの? 大企業に入るのが目標? それでいいの? と。世界をみれば自分を試せるんだよ、と言いたいですね。エンジニアは個人なんです。世界で通用できるコード書きになろうよ、甘くはないけど、やりがいはあるよ、と言ってあげたいですね。
小川氏
そうですね。優秀なエンジニアには世界市場が待っているといっていい。
さて、時間が少なくなってきました。クラウドコンピューティングの破壊的な波が押し寄せてくるポストWeb 2.0にあって、これは、というFirefoxの視点を最後に教えてください。
カナイ氏
Weaveというサービスを紹介しましょう。
WeaveはWebブラウザに保存していた情報をネット上に保存し、しかも暗号化するというものです。
小川氏
MacのMobileMeに似てますね。
カナイ氏
Weaveはオープンな仕組みです。
セキュアな環境で、Web閲覧の履歴、ブックマークも保存できますから、会社のパソコンと家のパソコンを一体化することが可能だし、ケータイのモバイルブラウザもサポートします。Mozilla流のクラウドといってもいいですね。
瀧田氏
iPhoneの環境はまだまだオープンであるとはいえないでしょう。Mozillaはオープンな環境を提供することがミッションです。例えば、Flashもオープン化の方向に進んでいるといいますが、まだ完全ではない。だからFlashがなくてもFlashなみの表現力を持ったWebアプリを稼働させるための仕組みをオープンで提供したいとも思います。Mozillaは速くて安全でオープンスタンダードなものを作ることを常に考えています。
カナイ氏
同時に、MozillaとAdobeは強いパートナーシップを持っています。要はユーザーに自由な環境で、すべてのWebを安全に使っていただくためにみんなで努力していくことが大事だと考えています。
小川氏
よく分かりました。
今日は長時間ありがとうございました。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2008/07/01 00:00
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