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「ありとあらゆるチャンスを提供するサイトに」、チャンスイット山口社長


 今回のゲストは、日本のインターネットビジネスの黎明(れいめい)期に懸賞サイトとして生まれ、現在は情報の幅を広げて多角化したポータルサイト群を運営するチャンスイットの山口義徳社長です。創業社長でも生え抜きでもなく、途中入社からベンチャー企業の社長の座に上り詰めた、異色の経営者の素顔をご覧ください。


チャンスイット・山口社長 山口 義徳
株式会社チャンスイット 代表取締役社長

平成2年3月 大阪市立南高等学校 卒業
平成2年4月 株式会社武富士 入社
平成2年12月 株式会社武富士 退社
平成3年2月 株式会社文泉 入社
平成7年4月 株式会社文泉 退社
平成9年9月 サトームセン株式会社 契約社員として入社
平成13年11月 サトームセン株式会社 退社
平成14年5月 ジースタジオ株式会社 入社
平成15年4月 ジースタジオ株式会社 倒産により失職
平成15年10月 株式会社チャンスイット 入社
平成18年12月 株式会社チャンスイット 取締役に就任
平成19年6月 株式会社チャンスイット 代表取締役社長に就任(現任)


ハローワークでの仕事探しから社長へ

小川氏
 創業者ではないんですよね。


山口氏
 はい。株式会社チャンスイットの二代目社長です(笑)。実は入社したきっかけは職安でチャンスイットを見つけたことなんですよ。


小川氏
 職安ですか(笑)。

 それはこの不況の時期だけに勇気をもらえるなあ。


山口氏
 入社して3年8カ月で社長になりました。

 元は営業で、でも前職が倒産してしまったときに本当に苦労しまして。安定した会社がいいなと思ってハローワークで探したらチャンスイットが企画の仕事を募集してたんですね。チャンスイットは当時から資本金が2億円くらいあって、これなら安定してるかなと。しかも営業で苦労したので営業以外の仕事がしたいと思って入ったら、結局お前は営業向きだということで、営業に回されましたけどね(笑)。


小川氏
 そうですか(笑)。


山口氏
 でも当時のネット企業はわりと幼稚というか、ちょっとなあなあなところがあって、入って三日目のミーティングで「こんなやりかたではだめだ」とタンカ切ってしまって。倒産した企業にいて、今度こそはがんばろうという自分の覚悟とはずいぶんギャップがある甘い環境に思えたんでしょうね。そうこうしているうちに入社3カ月でマネージャーになり、3年くらいで取締役。そして3年8カ月で社長になりました。


懸賞サイトを超えて、チャンスの提供サイトへ

小川氏
 チャンスイットは昨年あたりから懸賞サイトという枠を超えて、少しずつ変わってきてますよね。


山口氏
 ええ。昨年の夏に社長になってね、やっぱり二代目としては必ず先代を超えたいと思うじゃないですか。いっちょチャンスイットを世にしらしめてやろうと思いましたね。

 懸賞サイトとしてうちがいいのは、http://www.chance.com/というドメインを持ってたことなんですよ。もともとカレン・チャンスさんという人がこのドメインを持っていて、先代が苦労して売ってもらったんです。


小川氏
 よく売ってもらえましたね。


山口氏
 いや、カレンさんが結婚で姓が変わったんで(笑)、不要になったんでしょうね(笑)。

 それでそのドメインがあるということに再注目しましてね。これはうちはチャンスというキーワードにフォーカスするべきだと考えたわけです。

 そもそも懸賞サイトというのはインセンティブでフックしますから、お客をそれで釣っているように思われてしまいます。情報の質の良さで呼んでない、といわれてしまいがちです。そこで、われわれのサービスは、ありとあらゆるチャンスを提供すること、お客さまにとってチャンスをつかめるサイトにしていけばいいんだと考えつきました。


小川氏
 そういうフォーカスはいいですね。


山口氏
 それでその方法ですが、例えば今年の4月からテレビのスポンサーになったりしました。BS Japanの「チャンス ドビュッシー」という番組で、アンガールズの司会と辰巳奈都子さんのアシスタントで、有名になりたいブロガーをテレビに出してあげる、ブロガーにチャンスを与える、という趣旨なんですが、うちが積極的にテレビ進出するというよりも業界的に最近ある閉塞(へいそく)感を破っていきたいなと。広告代理店にアピールすることもできますしね。


小川氏
 なるほど。


ネット業界では、トップがその業界の収益のほとんどを奪ってしまう

山口氏
 メディアとしてのチャンスイットのほうは、タレントオーディションや転職などの情報提供や、各種のチャンス検定などを用意するなど、いろいろ手を打っています。


小川氏
 チャンス検定というと?


山口氏
 芸能人とかエンターテインメントなどの情報をどれだけ知っているかを試させる検定なんですけど、例えば日産のエルグランドというクルマがあって、そのエルグランド検定をやったわけです。そうすると、その商品の情報を遊びながら見ますよね。そうやって商品を実際にユーザーに目に触れさせて認知度をあげた上で広告につなげるわけです。このやりかたのほうが、通常の広告よりはるかにクライアントからの受けはいいです。


小川氏
 なるほど。


山口氏
 チャンスイットは創業して9周年になるんですけど、収益は広告がメインで、しかもWebの純広告が中心です。あとはアフィリエイトです。

 広告はバナーで、メールとWebの上であればうちははるかにWebが強いです。中途半端なメールの数ではだめですね。例えば200万人にメールを送れる業者と、50万人に送れる業者を4社に分けてメール広告を頼むなら、確実に前者を選んだほうが効率がいい。後者はユーザーがかぶってしまっている可能性もありますから。


小川氏
 はい。


山口氏
 あとは、うちとしては懸賞の比率を下げていきたいですね、バランス的に。起業家を支援したりダイエットチャレンジャーを応援する企画などを立てたりしてるんですけど、数あるポータルの中で、うちはコンテンツにではなく、チャンスを与えるというキーワードにフォーカスして、ユーザーにチャンスを与えることを武器に成長したいと思うんですね。さらに将来はチャンスイットでチャンスをつかんだ人をネット上で紹介していきたいと思っています。私自身もハローワークからコネもなく金もなく腕だけでここまできたわけで、同じチャンスをさまざまな人に与えたいと思っています。


小川氏
 分かりやすいですね。

 事業モデルからするとどこが近いと思っていますか?


山口氏
 懸賞サイトとしては日本一だと思っていますが、業界的にはECナビさんが近いんじゃないですかね。ネット業界では、トップがその業界の収益のほとんどを奪ってしまう傾向がありますから、とにかく圧倒的にトップに立たないと。


人材紹介業への注力も

小川氏
 今一番力入れているサービスは?


山口氏
 メディア事業ではチャンスイットと最近買収したGetMoney!という媒体ですね。この2つに力を入れています。

 ただ基本はみんな統合していこうと思っています。1つのメディアを強くするほうが、さっきのメールマガジンの話と同じで効率がイイですから。例えば、もともとネットのポイント事業ではポイント広場というサービスを持っていますが、それはGetMoney!とほとんど一緒で、かつGetMoney!のほうがメディアとしては強い。だからポイント広場をチャンスイットに統合していくというような感じです。


小川氏
 なるほど。

 統合するほうが企画者や開発者の数も抑えられますしね。今、何人でやってらっしゃるんですか?


山口氏
 40人くらいですが、少ないでしょう?

 少数精鋭でいけるようなシステムは作っていますが、とにかく社員がむちゃくちゃがんばってくれるという、経営者としては幸せな環境ですね。

 システムは自社で、運用も制作も自社でやっています。


小川氏
 今年度も残り少なくなりつつありますが、目標は?


山口氏
 下期の目標としては6億円のざっくりした売上予算をクリアしたいですね。そのために、3つの事業を考えてます。

 まずはメディア事業をのばすこと。次は広告代理事業。そして新規事業なんですけど、転職紹介事業を本格化しようと思っています。

 今チャンスイットの中で転職情報を提供していて、そのボリュームは既に日本一なんです。それ自体は広告事業なんですけど、さらにその中でもハイスペックな人を紹介して人材紹介業として紹介手数料をシェアするモデルを収益化しようとしています。


小川氏
 本当に多角化されてますね。


山口氏
 独立系の自由を満喫、というんですかね。われわれはどの企業の系列でもないので、自由にいろいろとチャレンジできます。その中で成功も失敗もあるのは当たり前で、10回中1回でも当たればいいかなと。成功だけでなく、悪い失敗も有用な情報としてクライアントやアフィリエイトの人たちに、シェアしていくことで信頼を得ることもできると思っています。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/10/07 08:50

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