今回のゲストは、デジタル家電ベンチャー Cerevoの岩佐琢磨社長です。岩佐さんは大手家電メーカーから独立し、日本では非常に珍しい試みにチャレンジを開始しました。自動車でいえばオロチで知られる光岡自動車のような存在と言えるでしょうか、いずれにしても日本では最近なかったハードウェアのベンチャーです。
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岩佐 琢磨(和蓮 和尚)
株式会社Cerevo 代表取締役
2003年に松下電器産業株式会社(現パナソニック)に入社。ネット対応のテレビ、録画機、カメラといった「ネット家電」関連の事業に従事し、DIGA向け宅外予約サービス“DIMORA”の立ち上げなどを担当。
ネットと家電で生活をもっと便利に・豊かにしたいとの思いから独立、2007年12月より現職。
ライフワークであるブログ「キャズムを超えろ!」は業界内では有名。
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■ ネットとの連携を前提とした家電をファブレス方式で生産
小川氏
起業に至った経緯を教えていただけますか。
岩佐氏
大学院では、情報処理や画像処理を学んでいました。学生時代からホームページ作成を請け負うなど、もともとITには興味がありました。でも、コードを書くより、企画そのものを作るほうに興味があって、ネット家電を作りたいという想いを抱くようになり、2002年に松下電器、10月1日からパナソニックに社名変更しましたけど、松下に入社したんです。そこで5年弱働き、実際にネット家電の企画、例えばビエラキャストというYouTubeや(Googleの画像処理サービスである)Picasa対応のテレビの企画などにも携わることができました。
小川氏
でも飽き足らなかった?
岩佐氏
家電とネットを掛け合わせるのはなかなかに難しいチャレンジで、特に大企業だと思い切ったことがしづらいと思い、思い切って自分でやろうと考えて2007年の12月に退社してCerevoを設立することにしました。
小川氏
家電メーカーとしては珍しいと思いますけど、例えばバイ・デザインは近いですよね。
岩佐氏
そうですね。ただバイ・デザインは液晶テレビにフォーカスしているハードウェアのファブレスメーカーですけど、うちはイメージ的にはアップルに近いと考えています。±0とかも近いと思います。デザインを切り口としたファブレス家電メーカーといったらいいんですかね。
小川氏
なるほど。
岩佐氏
うちはネットとの連携を強みとするファブレス家電メーカーと説明することが多いです。
Webのサービスと組み込みソフトは自社で設計して、ハード部分は台湾や中国に発注しています。
■ ファブレスならではのリスクテイキングを参入障壁へと肯定的にとらえる
小川氏
もはや覚えていない人も多いかと思うんですが、アキアというパソコンメーカーと非常に近しい時期があったんです。アキアもファブレスのパソコン直販メーカーとして一世を風靡(ふうび)しましたが、在庫過多の苦境に陥り、結果として市場から退場しました。ファブレスとはいってもやはり在庫を抱える必要があると思うんですが、そのあたりのリスクはどう考えますか? また、品質不良による返品なども大きなリスクですよね。ファブレスだと品質管理に弱みがあるような気がしますが。
岩佐氏
市場の需要の読みは難しいですよ、本当に。モノを作る以上は常にある問題であることは確かです。そこはやはり経験で補うしかない。それに昔と違って、それほど大量に作らなくても台湾や中国の組み立て業者が受けてくれるようになっているので、前よりリスクは減っていると思います。
品質については、基幹チップに必要なものは全部入っていますし、EMS業者(電子機器受託製造業者)のレベルが上がっていて、品質についての不良分を責任もってくれるようになっています。また、あまり大きく仕入れはしなくてすむようにもなっています。一昔前は5万台分の発注はもってこいといわれましたが、いまは数千から受けてもらえます。ネットベンチャーでB2Cサービスで、1年間売上ゼロで人件費だけ払っても結局は数千万円かかります。リスクは変わらないですね。家電はまったく売れないということはないですし。もちろん、そうはいってもリスクは存在していますから、誰にでもできるビジネスではない、つまり参入障壁があるといっていいですね。
小川氏
なるほど。僕も昔からケータイを作る、iPhone対抗みたいなガジェットを作るのが夢なんですけど(笑)怖くてできずにいます。
岩佐氏
いまではオープンソースソフトウェアを使ってケータイを作ることもできますよ。やろうと思えば僕たちにでもオリジナルのケータイを作ることができます。そこまできたんですよ、この2年で。ハード部分もオープンソースハードウェアがあります。クリエイティブコモンズでPCB(電子基板)の図面まで公開されています。
小川氏
ふーむ。すごいことですね。
ところで、最初の製品はいつリリースですか?
岩佐氏
まずデジカメを作る予定なんですが、年度内にはなんとかローンチしたいとは思っています。
いまはボードの上で動くものはできていますが。
小川氏
特徴は?
岩佐氏
まずはコンパクトであること。そして無線LANを使ってネットに接続して、撮った写真をネットサービスに送れることです。
小川氏
ほかにも類似サービスがありそうですが。
岩佐氏
Webはオープンなものだと思いますが、これまでの業者はクローズにしがちだと思っています。
われわれは自社ブランドでの、写真の共有領域をネットに用意し、そこからさまざまなネットサービスへとつなげるようにしようとしています。
■ iPodはiTunesありきの商品。ネットサービスとの連携を前提としたデジカメを準備
小川氏
デジカメしか作らないということではないですよね。なぜ最初にデジタルカメラを選んだんでしょう?
岩佐氏
会社としてはもちろん多品種少量生産をしようと思っています。在庫の読みもそうですし、部品調達などのリスクを避けるためにも、5万から10万台くらいの量の生産に抑えていきます。
そのうえで最初にデジカメを選んだのは、ぼやっとした考えですが、ライツ(権利)コンテンツではなく、ユーザーメードコンテンツを扱う商品がよかろうと考えまたからです。デジカメはWebと親和性がある商品です。動画、静止画、テキストなどをネットで共有するサービスはよくあるけど、まだなんかみなさん不自由を感じているように思うんですよ。
小川氏
確かにそうです。ブログにしても最初はカンタン、と思う人が多かったからさまざまな業者が参入しましたが、多くの人がブログにトライし始めると、あれでもまだ難しい、ということになって、Twitterのようなよりカンタンでリアルタイムに近いようなサービスが生まれてきます。よりシンブルにカンタンにというのは、いつでもチャンスがありますよね。
岩佐氏
はい。デジカメから撮った写真をカンタンにWebに置いて共有する。そういうシンプルなデジカメを作ります。われわれはハード会社であるというつもりはないんです、あくまでサービスを使っていただくためのデバイスを売っていくにすぎないんです。iPodもiTunesありきのサービスです。われわれがデジカメを選んだのは、デジタルフォトをもっとカンタンにネットで共有するためのサービスありきのハードウェアを作ろうと思ったためです。
小川氏
アップルとナイキのNIKE+なんかはまさにそうですね。
岩佐氏
ええ。また、家電はスペックで売れるものじゃないですか。だからどんどん重厚長大になっていくんですね。そういう家電のユースケースから不要なものを削っていく作業をわれわれはしています。大手メーカーはデジカメを作るのでも、誰でも買えるレンズで作るのではなくすごい高価なレンズで作ります。そうしないと価格競争に巻き込まれるから。
われわれも価格競争をしようとは思わないんですが、ハードで高価なパーツを使うのではなく、ネットとの連携を強みに差別化を図っていくんです。
■ 大手メーカーはハイテク化、ベンチャーはネットサービスとの連携で差別化を
小川氏
すべての家電でCerevoのような試みは可能でしょうか。
岩佐氏
デジタル家電ならば。冷蔵庫のような白物は難しいかな。冷蔵庫はノウハウの世界なんですよ、実は。
小川氏
なんかローテクぽいジャンルに思えますが。
岩佐氏
ハイテク冷蔵庫でないものはカンタンに作れるんですけどね、省電力とか消音化は大手メーカーが強いんです。掃除機なんかもそうで、吸引力はすごいけど、消費電力も十倍、なんてものは日本ではもう売れないでしょう?
小川氏
なるほど。パナソニックが白物も同一ブランドにして一新する意味もそこですね。
岩佐氏
デジタル家電は基幹部品はどこからでも買える、コモディティ化したエリアです。メーカーでさえ半導体などを海外から買っています。だから多くのベンチャーが参入することはできます。
小川氏
当面の目標は?
岩佐氏
とにかく1台出すことですね(笑)。10万台はどうかなと思うけど(笑)数万台のマーケットは作りたいですね。何かの家電を買った人たちが、例えばそれ以外のテレビなどを買うときに、先に買った家電とブランドをそろえるという習慣は減りました。そろえてもらうには、ネットサービスによる連携しかないだろうと思いますね。2009年度にはデジカメ以外にも新しいハードを出す予定で、カメラとも連携して売れていくという流れを作りたいと思っています。
小川氏
同感ですね。
逆に当面、苦労しそうなところは?
岩佐氏
部品調達には苦労していますね。将来は生産管理や部品のリードタイムなども対策を考えていかないとならないでしょうね。あとはお金回りかな(笑)。人材の確保には苦労していないのはラッキーです。
ただ、光明もみえてきています。部品メーカーは新しい機能を加えて差別化したいものです。でも大手の家電メーカーは保守的だからある程度時間がたたないと採用しない。そこで僕たちのようなベンチャーならその新しい部品を試してあげますよ、と。そういうアライアンスで進められればなと思ってます。超省電力バッテリとかね。
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小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2008/10/21 00:00
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