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「使うことに短絡的な意味を持たせたTwitter、ケータイをよく学んでできたiPhone」、松村氏


 今回のゲストは慶應義塾大学SFC研究所上席所員の松村太郎さんです。松村さんとは数年前からのつきあいですが、その興味の範囲と知見は実にさまざまな分野に広がっているようです。今回は2008年にみられたさまざまなIT業界の変化を見直しつつ、それぞれに対する松村さんの意見を伺いました。


松村氏 松村 太郎

東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、ラジオDJ。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年ごろより、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。


ブログの創成期からマルチな取り組みを開始

小川氏
 数年来のつきあいになりますが、最近よく会う機会がありますね。iPhoneが出たせいもあるかな。


松村氏
 そうですね。


小川氏
 簡単に自己紹介をお願いできますか。


松村氏
 はい。慶應義塾大学の湘南キャンパス、いわゆるSFCで、パーソナルメディアやテクノロジーとライフスタイルの研究をしています。最近は、情報大航海プロジェクトのコラボレーターという役割を仰せつかったりしています。


小川氏
 ほかのメディアでも連載をよくしていますよね。


松村氏
 CNET Japanのブログ、Ascii.jpでもケータイが語る、ミクロな魅力、という連載をしています。12月で50回目になる長期連載ですね。

 そのほかにもITmediaさんでも連載を持たせていただいています。

 あとは小川さんもご存じな林信行さんと一緒にnobi-taro podcastというポッドキャストを配信しています。もともと大学時代、いや高校時代から個人放送のようなものに興味があって、TALKSHOWというポッドキャストのレーベルを立ち上げています。


小川氏
 松村さんとは僕が日立にいたころからの知り合いで、サイト上でブログも書いてもらっていましたね。


松村氏
 5年前、ブログ元年といえる時代でしたよね。キャンパスでもブログを広めようというイベントが始まったころでもあります。

 当時は面白くて、六本木赤坂界隈がブログの中心地でしたね。


小川氏
 シックス・アパートもあったしね。


松村氏
 六本木ヒルズにもIT企業集まってきて。みんな、CGM/UGCをどうやってネットにためていこうかと考えていたころですよね。僕自身、研究よりブログを書く方にのめり込んでいました。


Twitterはブログを置き換えるか

小川氏
 最近のブログ事情をどう思いますか?


松村氏
 ブログに限らず、ミニブログとか写真共有サイトとか、ソーシャルブックマークなどもなんですけど、うまく使っている人はネット上に自分の行動履歴がたまり始めていますよね。ブログとか、SNSとかをみていけば、その人の引き出しが分かるというか。例えば会社勤めの人は、いろいろ差し障りがあって仕事に関することはかけないから、本業と違うことを書かないとならない人が多い。ブログは充実するんだけど、仕事には生かせないという、ある意味かわいそうな人が多くなってきた感じがありますね。


小川氏
 まあ、僕なんかはわりとブログとビジネスが一致している方だから楽ですね。


松村氏
 だから自分のアイデンティティとつながる、認められるような視点が必要かと思います。SNSは人間関係を記述していますし、その結果できていくライフログをどう活用するかを考えないとならない時期かなと。ブログを書き続けて10年してから過去を振り返るのもいいですけど、ブログに短期的な意味合いを持たせることが足りてないんですよね。仕事に生かすための担保ができないから続けられない、という人も多くなってきた気もしています。


小川氏
 確かに。


松村氏
 そこを補完したのが、Twitterかなと思います。ショートメッセージだけの投稿なんですけどね。


小川氏
 何の意味があるのかなと最初は思いましたよね。


松村氏
 書くことに短期的な意味を持たせることに、実は成功しているんですよね、Twitterは。例えば、自分はあまり中野にはいかないんですけど、昼においしい店がないかとモバイルでTwitterに書き込んだら、返答があったんです。これって人力検索かな、と。ほかにも、京浜急行が沿線の火災で事故になったことがあって、車内で困っているとTwiiterに写真付きで情報があったりしたわけです。いきたいイベントにいけなくても、誰かが実況中継してくれたりします。Twitterに代表されるミニブログのおかげで、ブログと人間の関係がより細かくなってきたと思います。単位が細かくなったので良さが分かるようになった、といっていいですね。


小川氏
 昔、日立のBOXERBLOGのイベントをしたときに、ゲストの平田大治さん(現ニューズ・ツーユー取締役。当時シックス・アパート)がモブログをして、ブログの良さは即時性のレポート、というデモをしてくれたことを思い出します。


松村氏
 ミニブログはさらにそれを簡単にできるようになった。それによって短い情報がネット上を流れていくけど、それらを集約するとアイデンティティを構成する切り口になる、という感じです。この辺は、最近興味を持って取り組んでいるオンライン学習に生かせるかなと思うんですよ。


小川氏
 というと?


松村氏
 例えば、大学で90分の授業が半期に13回あるとします。これをべたっと聞いているより、ポッドキャストとかで、5分のダイジェスト版を13回聞いた場合と、どっちが効果があるか?と考えるんです。ヒアリングしてみると、若い先生ほど後者を支持しますね(笑)。欧米ではライフログをうまく学習に取り入れていたり、この分野ではかなり進んでいます。


ケータイメールとTwitterの類似と相違

小川氏
 ケータイのメールとTwiterのエントリーは、基本短い点と、タイトルがないという点で見ている気がします。若い人にはブログよりはるかに入りやすいでしょうね。


松村氏
 ケータイとTwitterが違うのは、ケータイでは自分のために情報を送らないというところじゃないですかね。ライフハックみたいなものを読むと、リマインダーとして自分にメールすることを勧めていたりしていますが、最初から自分にメールをするのがTwitterかなと。


小川氏
 いまはしませんが、前はよく自分にメモとしてメールしていましたね、確かに。


松村氏
 1対1のケータイメール、コミュニケーションをソーシャル&シェア型にしたのがTwitterかなと思います。

 ケータイメールの方がプッシュで、必ず見てもらえますけど、あえてソーシャルなコミュニケーションをとるのも意味があるかなと思います。


小川氏
 Twitterは日本でも、普通の人たちの間ではやるかな?


松村氏
 どうなんですかね。ケータイでも、知らない人のメルアドって知らないですよね、当たり前ですけど。でも垣根が外れたのがTwitterで、知ってる/知られてるという関係性が薄いですよね。クローズド型とオープン型、プッシュと即時性、そういう別の領域がクロスオーバーしてきたのがTwitterかな。


小川氏
 もしかしたら女子高生用のTwitterとか、地域コミュニティにひもづいたTwitterなんていうオープンなんだけど、属性としてクローズなTwitterなら日本でもはやるかもしれないですね。


松村氏
 今思ったんですけど、日本におけるTwitterは、2ちゃんねるだったかもしれないですね。Twitterがアメリカ版2ちゃんねるなのかな。


SNSは実用性の観点を加味するべき

小川氏
 SNSに話を移しましょう。

 GREEが12月17日に上場しますが、日米のSNSは一口にSNSといってもだいぶ違います。この分野の未来をどうみていますか?


松村氏
 mixiとGREEをみているとバランスシートが違うと思います。ユーザー層が違うともいえますね。ケータイ中心のせいでGREEは若年層のユーザーが多い。もともとGREEは最初(ビジネスSNSである)LinkedInぽかったけど。今後は一般的なSNSが実現してくれていない部分をどうやって埋めていくのかを考えたSNSが出てくるんじゃないですか? 目的が明確なものや少人数で意味が見いだせるもの、例えば就職関係者SNS。リクナビさんはそうすればいいのになあと思います。履歴書をオンライン化して、見る側も出す側も同じプラットフォームでシェアしていくSNS。ビジネスが成り立つかどうかは自信がないですけど。ともかく、獲得ユーザー数のような数字を目標にしてしまうと、mixiがある以上難しいですから。


小川氏
 特殊な領域でのSNSを考えると、ほかにどんなものが欲しいですか?


松村氏
 こないだ富士山に登ったんですけど、登っている間は誰がどこにいるかが気になりますよね。登るペースも違うし。で、登山前はいろいろ計画したり、一緒にいくメンバーをピックアップする段取りをしたりする。登ったあとは、数日間は写真のやり取りをしたり、打ち上げの話をしたりします。で、グループのコミュニケーションはそれで終わりますよね。


小川氏
 はい。


松村氏
 そういうシチュエーションに応じたテンポラリーなコミュニケーションツールがあればいいとは思います。

 mixiだと継続的に長期な人間関係を作らなければならないですから。


小川氏
 同感ですね。日本のSNSは、つながりが強すぎますからね。足跡のこしたのになんでメッセージもコメントもないの? ならマイミク外すよ、と(笑)。

 そういう脅迫じみたことをお互いに強制してしまうところが日本のSNSにはどうしてもあります。Twitterなどのマイクロブログならば、互いをフォローしあう必要はなくて、おれは君の日記を見るけど、君はおれの日記を見る必要がない、というライトな関係が前提ですから。都会的です。


松村氏
 そうなんですよね。あとは、アクションのテンプレートがあればいいなとも思っています。アクションを起こすときのテンプレートというか、“型”を提供するSNS。


小川氏
 恋愛マニュアルみたいな?(笑)


松村氏
 実用的なサービスを作るという、視点が欠けている気がするんですよね。


コミュニケーションの再定義が必要

小川氏
 最後にモバイルの話をしましょう。

 iPhone登場でスマートフォン市場は盛り上がっていますね。孫さんが2008年をモバイルインターネット元年と位置づけたこともありますが、Blackberryも頑張っているし、マイクロソフトがタレントの優木まおみとザ・たっちを起用して、スマートフォンをキャンペーンしたりしています(「Touch!Windows Mobile」)。


松村氏
 スマートフォンって、普及するまでに難しい部分がありますよね。売る人たちがスマートフォンの接客をしたがらない、今までのケータイと違いすぎて。


小川氏
 でもケータイソムリエはどうかなと思いますが(笑)。


松村氏
 日本と海外のスマートフォンの意味は違いますよね。海外ではネット端末ならスマートフォン、という感じですけど、その定義なら日本のケータイは全部スマートフォン(笑)。

 日本ではフルサイズのインターネットを楽しめるかどうかが定義な感じがします。だから、iモードなどのWeb閲覧と比べて、スマートフォンでみるWebの魅力はどこにあるの?というのが日本でスマートフォンが普及するかどうかの分かれ目だと思いますね。


小川氏
 ただ、実はスマートフォンがWebを見やすいかというとそうではないです。例えばBlackberryはWebブラウジングにはあまり向いてない。あれは会社のLANに接続したり、会社のメールをどこででも送受信する、しかもセキュアに、というポイントで作ってますからね。あくまでビジネスユースなんです。それがiPhoneが初めてコンシューマーに使いやすい、という観点からスマートフォンを定義した。iPhone 3Gではセキュアなメールの送受信を担保したうえで、楽しく優雅にWebを楽しめるようにもなった。つまり、ほんとは日本のケータイに近い存在でありながら、スマートフォンでもあるというハイブリッドなんですよ。


松村氏
 アップルは日本のケータイをよく勉強したんだな、と思っていましたよ。絵文字対応もそうだと思います。日本のケータイに理解がある気がしますね。

 ただ、iPhoneとケータイについて話を聞かれるときに、日本のケータイは出荷時に形が決まっていて色とか、サイズとか、とにかくターゲットが決まっているから、購入を勧めるときに提案がしやすい。でもiPhoneは買ったままでも使えるけど、パソコンがないと音楽も買えないことも多いし、ほかの機能を使うにもダウンロードが必要になっていて、自由度は高いが、自分のiPhoneスタイルに仕上げていくのはけっこう手がかかります。

 キャリアのお仕着せがない、自由だ、と思えばいいですが、それを不自由で面倒と考える人も多いわけです。だから、iPhoneを使う型、も必要だと思います。


小川氏
 「松村仕様」のiPhoneとかね(笑)。音楽CDでコンピレーションアルバムが売れるのも同じ理由かもしれないですね。


松村氏
 より能動的に情報に対してアクセスできる人をNHKはデジタルネイティブと呼んでいましたが、僕はノマドといっています。情報収集とコーディネートを無理なくできる人たちですね。でもみんながみんなそうなわけではないですから。


小川氏
 スティーブ・ジョブズはそのデバイドを、クールな外見や楽しくて豊かな操作性、なによりデザインの力で無理やり崩していこうとしている気がします。iPhoneは、とにかく機能とかなによりも、ガジェットとしての質感とか存在感があります。女の子受けするのもいい(笑)。

 だから、機能全部を使えなくても、とにかく買ってしまう人が増えている。欧米でも女性ユーザーは多いですし、高校生が喜んで使うようになっていますから。

 ただ、日本だけ、という限定した空間では、どれだけ普及するかは確かに分からないですね。Googleが日本で一番になれないのと同じような理由かなとも思いますね。


松村氏
 あとは話が少し違いますが、電話のコミュニケーションの中で占める役割が下がってきましたよね。メールも無料になってきて、高校生なら安いケータイでいいと思うかもしれないですけど、経済的に余裕がでてきた大学生あたりだと安さより回線のクオリティが重要なんですね。例えば地下鉄でいったん電話が途切れても、すぐにまたつながる、ということが大事で。

 コミュニケーションの再定義も必要なのかなと。コンテンツによって尺が違いますし。


小川氏
 尺ですか。


松村氏
 ケータイとメールのタイムラグは分かりやすいんじゃないですか。PCでメールをして、返事が来るまでに一日かかってもまあしょうがないかなと思うけど、ケータイでメールして30分返事がなかったら、ちょっとイラっとしたりする(笑)。コミュニケーションにもタイムライン、尺があると思うんですよ。それが生活のシチュエーションによっても変わるし、使うツールや方法によっても変わってくる。世代によっても変わる。その意味で、コミュニケーションのあり方を再定義していくことが、いまは大事なのかな、と思っています。


小川氏
 なるほど。同感です。

 今日は長時間ありがとうございました。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2008/12/09 00:00

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