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「Androidは開発者を魅了するオープンソースのモバイルプラットフォーム」日本Androidの会・木南幹事


 今回のゲストは日本Androidの会の木南英夫幹事です。Androidといえば、Googleが推すスマートフォン用のOSという印象を持つ人が多いかと思いますが、木南さんはむしろAndroidは組み込みソフトとしての可能性が大きいと話されています。次世代のモバイルやネット家電などの可能性について、さまざまなお話を伺いました。


日本Androidの会・木南幹事 木南 英夫(きなみ ひでお)
日本Androidの会 幹事

組み込みソフトウェアエンジニア レコーディングダイエット研究家。
日本Androidの会では、「勉強会ワーキンググループ」リーダーとして活動中。北海道から沖縄まで、全国で無償の「Androidハンズオンセミナー」を主宰。現在、関西、九州、沖縄でのセミナーを企画中。
組み込みソフトウェアエンジニアのライターとして、雑誌や書籍への執筆中。「日経Linux」、「組込みプレス」、「Software Design」などのエンジニアリング雑誌を中心にAndroid関連の記事を執筆。
2008年に6カ月で20kgのレコーディングダイエットに成功。現在、携帯端末を利用したレコーディングダイエットシステムのプロトタイプ中。健康関連雑誌での記事の執筆中。
本職は、コピー機の組み込みソフトウェアの開発。コンポーネント指向のフレームワーク開発担当。


日本Androidの会は開発者のコミュニティ

小川氏
 今日はよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をしていただけますか?


木南氏
 私自身は組み込みソフトのプログラマーです。例えば、オフィスのコピー機などのソフトを設計していました。

 日本Androidの会は、30社以上のITおよびモバイル関連企業グループのOpen Handset Allianceが開発しているAndroidという、オープンソースのモバイルプラットフォームの普及と発展を目指す団体で、私はその幹事をしています。


小川氏
 どのような活動をされているのでしょう。


木南氏
 技術情報の交流と蓄積ですね。開発者のコミュニティであると同時に、新進の技術者の育成と教育支援もしています。ビジネス関連の活性化も目的ですね。参加者はメーリングリストベースだと1500人くらい。ボードメンバーは推薦制なんですが80人くらいです。その中からアクティブな人を幹事としていて、ざっと20名くらいですね。

 直接的な活動は月例イベントで、月一回秋葉原でイベントをしています。毎回100名前後集めていますが、最近は申込者が150名くらいになっていて、抽選にせざるをえないのが残念です。まあユーザーコミュニティで金が無いので(苦笑)。既に13回開催していて延べで1000人くらい集まっています。

 あとはカンファレンスの講演であるとか、雑誌への寄稿、あるいはAndroid行脚と呼んでいますが、全国の会社周りをして啓もう活動に励んでいます。


小川氏
 ひと言で表現するとAndroidとは?


木南氏
 Androidですか。まあ使う人からするとスマートフォンのOSで、iPhoneと同じジャンルになるんでしょうね。ただ開発者の目からするとオープンソースのフレームワークそのものです。たぶん一番大きいのはオープンソース、というところじゃないですかね。そこが開発者の心をつかんでいるポイントでしょう。


小川氏
 AndroidはLinuxベースですよね。


木南氏
 そうです。LinuxにJavaのVMが乗っています。


組み込みソフトのプラットフォームとしてのAndroidに魅力

小川氏
 木南さん自身が感じてる魅力はなんですか?


木南氏
 ケータイに関係ないところです(笑)。用途がケータイだけではない、というところが大きいと思っています。家電やセットトップボックス、カーナビにまで入ってこれる機能を持つフレームワークなんですよ、Androidは。組み込み分野でのフレームワークで、過去にこれだけ大規模なものはなかったですね。


小川氏
 なるほど。その組み込みソフトのフレームワークという見方については、後ほど深堀りさせてください。まずモバイルの分野で少し話をさせていただけますか。米国や欧州などでは先行してAndroid搭載ケータイが登場しているわけですが、日本での見通しはいかがですか?


木南氏
 年内には、とドコモが言っていますけどね、まあ、いまからいくと4月はないかな(笑)…。夏ごろまでには出してほしいというのがコミュニティからの希望ですね。

 ただ、今G1(米国でT-Mobileが販売しているAndroid搭載スマートフォン)を持ち歩いてますが、開発者からすると電話としては使用しないので、Wi-Fiのアクセスポイントを持ち歩いて使ってます(笑)。


小川氏
 ちょっとSMARTみていいですか?(G1を手に取って操作して)うーん、動くけど若干変な動作するなあ、やはり同じWebKitを使っていてもiPhoneとは違いますね。


木南氏
 いやあ、まだまだ、という感じの機体ですね。

 発想がPCから離れられてないという感じです。ただ次の機種のG2はキーボードがなく、さらに薄くなっているらしいです。iPhoneと同じくらいにはなるかな。


小川氏
 いまはG1をどう使ってますか?


木南氏
 メールとスケジュールとRSSリーダーです。

 使用感はいまいちですけど(苦笑)、まだまだ従来のスマートフォンの域を出てないかな、iPhoneと比べるとね。ユーザーからみると物足りないでしょうねえ。ただ、開発者からするとものすごい、これはいいやと思うレベルですよ。


世界標準になりつつあるモバイルブラウザ「WebKit」に準拠しているAndroidはネット家電にも有望

小川氏
 ユーザー目線だとまだまだ?


木南氏
 PCの進化の歴史を振り返っている感じですよ。MacのGUIをまね始めたWindowsがようやく出てきたころの感じ。


小川氏
 iPhoneに追いつきますか(笑)。


木南氏
 どうでしょうかね。今もWindowsに対してMacのほうがおしゃれで洗練されているという人はいますよね。一般の人にはWindowsがあって、デザイン系とかネット系の人にMacがあって、開発者にはLinuxがある。同じように一般のビジネス系の人にはWindows Mobile、おしゃれな人にiPhone、開発者にはAndroidみたいな感じになっちゃうかもしれないし。そうなってほしくはないですけどね。

 ただ、Palm Preみたいな新しいものもあるし、どうなるかはまだ分からないですね。


小川氏
 組み込みソフトのプラットフォームとしての側面を聞きましょう。

 ほかのメーカーがAndroidを使って、何か開発しそうなムードはありますか?


木南氏
 今の組み込みはカーナビもセットトップボックスも、みんなネットにつながることを前提にし始めています。そうすると、Webブラウザが欲しくなるわけですよ。シェアが小さいマイナーなソフトを使うと苦労しちゃいます。だからWebブラウザならWebKitだよね、ということになる。フォントの問題などもあるし。となると、Androidは非常にいい。


小川氏
 なるほど。


木南氏
 問題は、メーカーごとにすでに動いているこれまでの資産があるので、それを捨ててAndroidにくるかどうかということですね。あとはみんな同じものを使うと差別化が難しくなるという問題もありますね。


小川氏
 悩ましいですね。


木南氏
 日本は難しいけど、海外はPND(持ち運び可能なナビゲーションデバイス)があるしデジカメもいいかもしれないですね。

 iPod touchのようなポータブルなAV機器とかチャンビーみたいなガジェットもいいかも。Androidという名前だけに玩具系ができたら面白いですし。きてほしいのはポータブルなプロジェクタかな。プロジェクタ付きのケータイもでてきてるじゃないですか。あれはAndroidに向いてると思います。


小川氏
 ああ、同感ですね。


木南氏
 そういう意味では、ケータイ用という用途は、組み込み機器全体の中ではほんの一割程度のシェアにすぎないですから。


iPhoneは銀座的、Androidはアキバ的

小川氏
 モバイルにちょっと話を戻しますね。今後スマートフォンの需要は広がりますかね。


木南氏
 個人的にはもうきちゃっている、という気がします。いまさら企業がiPhone入れてもニュースにはならないじゃないですか。WindowsもWindows Phone、ノキアもBlackBerryもあるわけですよ。データが社内のイントラに閉じてる会社がまだ多いですけど、そのうち外に出てくるはずですよ、クラウド側においちゃう時代が来ます。その状態だと必然的にスマートフォンを使いましょう、という感じになるんじゃないですかね。

 ただ、中国とかロシアなどのほうが普及は速いかもしれないですね。始めからクラウドを使うという選択をしやすいでしょうから。例えばインドなんかは企業内にメールサーバー持たない企業のほうが多いらしいです、停電が多いから(笑)。

 その点でいうと、Androidの会のメンバーは国内より海外をみてますね。どうやってアプリを海外に売るかを考えているわけです。とはいえ、やるならやっぱり日本独特のモノを出したい、という気になってきて、かえって日本のものを見たりするようになってますね。


小川氏
 Androidケータイは日本でも受け入れられますかね。


木南氏
 たぶんiPhoneよりはぜんぜん来ない(笑)。でもそれでいいじゃないという感じもしますね。スマートフォン全体が盛り上がればいいわけですよ。せめて三年くらいのスパンでものをみないとだめだと思いますしね。


小川氏
 同感ですね。


木南氏
 iPhoneとAndroidでは、集まってる人が違いますね。iPhoneは銀座(Apple Store)に集まる人、Androidはアキバに集まる人が多いわけですよ(笑)。

 だからこそ両立する。持ち味を生かせると思っています。


小川氏
 おっしゃる通りですね。今日はありがとうございました。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社モディファイ CEO。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用して、モディファイを設立。現在に至る。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2009/03/17 08:25

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