SAPなど6社、仮想化を用いたディザスタリカバリを実証


 SAPジャパン株式会社(以下、SAP)、シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)、インテル株式会社、ネットアップ株式会社、ヴイエムウェア株式会社、ザカティーコンサルティング株式会社(以下、ザカティー)の6社は5月11日、各社の製品・ソリューションを活用し、東京と大阪を結んだ実環境に即したディザスタリカバリ(DR)の実証に成功したと発表した。

 DRは、災害による情報システムの致命的な障害からデータを保護するため、遠隔地に災害復旧のためのバックアップシステムを構築するソリューション。今回は、本番サイトを東京(SAP Co-Innovation Lab Tokyo)に、DRサイトを大阪に設置し、実環境に近い形で検証を行った。

 まずXeon 5500/5300番台を搭載したサーバーを3台用意。東京に2台のサーバーを設置し、その環境を仮想化技術を使って1台に集約した上で、大阪に複製した。ストレージにはネットアップの「NetApp FAS 3170」を使い、SAP ERPアプリケーションに販売管理の定常トランザクションを発生させた状態で、レプリケーションソフトにより60秒に1回の差分データ同期を実施。ここで発生させた負荷は、200ユーザーから10秒に1回アクセスさせるほど大きなもので、ERP用仮想マシンあたりおよそ5000~1万トランザクション/時に及ぶという。さらにヴイエムウェアの「vCenter Site Recovery Manager(SRM)」によるサイト復旧も検証し、見事に成功させた。

東京-大阪間でDR検証環境仮想化技術でDRサイトを構築
ザカティー シニアマネジャーの広木氏
SAPジャパン Global Ecosystem&Partner Groupの渡邊周二氏

 シスコは、データセンタークラススイッチ製品「Cisco Nexus 5000シリーズ」と、WAN高速化製品「Cisco Wide Area Application Services(WAAS)」の技術を提供。仮想サーバー環境においてはI/Oのボトルネックが課題になることから、FCoEによるI/Oの統合を行った。EthernetアダプタとFCアダプタを「CNA(Converged Network Adapter)」に統合するもので、これにより、I/Oのボトルネックやケーブルの増加を抑制。加えて、WAASでデータレプリケーションのパフォーマンス向上も行った。

 こうした構成の下で実際にサイト復旧を行ったところ、SRMによるサイトの切り替えに30分、その後の検証30分、有事の際の意思決定の時間を含めても、RTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間)2~4時間のDRを達成。SAP ERPを含めたDRサイトの起動だけでなく、トランザクションデータが同期完了時点まできちんと反映されていることまで確認した。なおデータの同期には、一般的なインターネット環境を利用したことから、「ユーザーはDRサイトから本番サイトと同様なシステムをそろえる必要性から解放されることが実証できた」(ザカティー シニアマネジャーの広木氏)としている。

 今回の検証で「仮想化により、低コストで災害対策基盤が構築できることが実証された。本番サイトと同様の環境をDRサイトに用意しなくても済むためだ」と広木氏は語る。今回も本番サイト2台のサーバーをDRサイトでは1台に集約することに成功している。仮想化によってアプリケーションにも依存しないし、また要件の変更にも柔軟に対応できる。こうしたことから「低コスト化が可能」(同氏)というわけだ。

 また「ヴイエムウェアのSRMとネットアップのストレージ技術を組み合わせることで、スムーズなフェイルオーバーが実現。リハーサル・テスト実行は、ネットアップのFlexCloneというシステムコピー技術を利用し、リカバリテストのための環境をDRサイト内に複製することで実施。通常、DRのリハーサルにはさまざまな課題がつきまとうのだが、このやり方なら本番環境に影響を与えることなく、容易に実施できることが確認できた」(同氏)とも評価。

 6社は今後も、より高負荷な環境でのDRなど検証を進めていく方針。今回の実証分に関しては、ザカティが具体的なサービス提供を検討し、ユーザーの事業継続や災害対策に具体的に貢献していくとしている。

 SAP Global Ecosystem&Partner Groupの渡邊周二氏は、「仮想化を用いることで、DRは“高価で大企業向け”から“安価で中小でも容易に導入できるもの”へと、すそ野を広げることが可能になる」と説明。シスコも「今回はFCoEを利用しているが、この技術も2010年くらいにはかなり低コストになることが見込まれている。そうなれば、今回のソリューションも中小に手の届くものとなるだろうが、まずは事業者などに提案して、PaaSといった形でエンドユーザーへ提供するのが現実的だろう。そういった展開を模索したい」と発言した。

ネットアップのデータ保護技術「Snapshot」「SnapMirror」などを利用FCoEによるI/O統合WAN高速化でスループット向上





(川島 弘之)

2009/5/11 18:30