法改正からみるIT-厳格なエネルギー管理を要求する「改正省エネ法」が間近に


 2010年4月1日、改正省エネルギー法(以下、改正省エネ法)が施行される。企業で消費される燃料・熱・電気などのエネルギーを規制するものだ。改正法では、この規制対象が広がっており、これまで以上に消費するエネルギーへの配慮が要求されるようになる。今回は、この法改正が企業やITに与える影響を追ってみたい。

エネルギー管理義務を課す「省エネ法」

改正前。工場・事業場単位の法体系

 改正法の話に入る前に、そもそも省エネ法とは何であるかをおさらいしよう。まず断っておきたいのは、省エネ法は「エコポイント」とは無関係ということだ。エコポイントは環境省・経産省・総務省が主体の「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」で進められている。一方の省エネ法は、経済産業省 資源エネルギー庁と財団法人省エネルギーセンターが主体に進めており、もともとは石油危機を契機に1979年に制定された「エネルギーの使用の合理化に関する法律」が正式名称の、歴史の長い取り組みだ。

 目的は、経済・社会環境に応じた燃料資源の有効活用を促進すること。これに向けて工場・事業場などに、「エネルギー使用の合理化」に向けた所要の措置を課しているのが、省エネ法である。

 簡単にいえば、燃料・熱・電気などのエネルギーをたくさん使用している工場・事業場に、国が「あなたは多くのエネルギーを使っているので、しっかりとエネルギー管理をしなさい」と規制するものだ。エネルギー使用量の原油換算値で3000kl以上の工場、あるいは1500kl以上の事業場を対象とし、該当する工場・事業場はその旨を国に届け出て、前者なら「第1種エネルギー管理指定工場」、後者なら「第2種エネルギー管理指定工場」の指定を受けることとなる。

 指定を受けた工場・事業場は、「エネルギー管理者/管理員の選任」「エネルギー使用状況などを記した定期報告書/中長期計画書の提出」「工場・事業場単位、設備ごとのきめ細かなエネルギー管理」といった義務が課せられる。そしてエネルギー合理化の取り組みが、判断基準に対して著しく不十分だと判断されると、合理化計画作成指示・公表・命令・罰則(罰金)となるのが、省エネ法の概要だ。

「改正省エネ法」では規制対象が拡大

改正後。企業単位の法体系

 この省エネ法に2008年5月、改正がかかった。規制を強化するもので、改正省エネ法として2010年4月1日に施行予定。その変更点を大まかにいえば、「規制対象範囲の拡大」ということになる。

 前述の通り、これまで規制対象となったのは、年間エネルギー使用量が原油換算値で3000kl以上の工場、あるいは1500kl以上の事業場であった。例えば、企業として複数の工場を有していても、それぞれが3000kl未満であれば規制の対象外だったのだ。

 それが改正省エネ法では、「本社、工場、支店、営業所など企業全体で年間エネルギー使用量が1500kl以上」という規制条件に改められた。これが改正の一番のポイントだ。この値を超える場合は、年間エネルギー使用量を企業単位で国へ届け出て、「特定事業者」の指定を受けなければならない。

 また改正省エネ法からは、連鎖化事業者(フランチャイズチェーン)も新たな対象に加えられている。コンビニやファーストフード店も事業全体でエネルギー管理を行い、1500klを超える場合は、年間エネルギー使用量を届け出る必要があるのだ。この場合は、「特定連鎖化事業者」の指定を受けることになる。

 ちなみに国からは「1500kl以上となる事業者の目安」として、「約3万平方メートル以上の小売店舗」「約600万 kWh/年以上のオフィス・事務所」「客室数300~400規模以上のホテル」「病床数500~600規模以上の病院」「30~40店舗以上のコンビニ」「25店舗以上のファストフード店」「15店舗以上のファミレス」「8店舗以上のフィットネスクラブ」などが挙げられている。

 コンビニなど大手であれば30~40店舗どころではないし、ファーストフードやファミレス、フィットネスクラブもほとんどが規制対象に入るのではないか。これまで工場・事業場ごとの個別計算だったのが、企業全体の合算で1500kl以上となったのだから、より多くの企業が規制対象に含まれることになるのがお分かりいただけるだろう。

2009年度はすでに準備期間

 さて前述の通り、規制強化された省エネ改正法だが、企業はどのようなスケジュールで何を行っていかなければならないのか。実際に改正省エネ法が施行されるのは2010年4月からだが、実は2009年度はすでに準備期間として、年間エネルギー使用量の把握を始めなければならない段階に入っている。

 企業には、2009年4月から2010年3月までのエネルギー使用量を原油換算し、1500kl以上だった場合、2010年度に報告することが義務づけられる。それをもって、特定事業者または特定連鎖化事業者の指定が行われるのだ。1500klを超えているのに、この報告を怠ったり、虚偽の内容を報告したりすると50万円以下の罰金。また経産省 資源エネルギー庁では、「報告は1500kl以上の企業のみの義務だが、エネルギー使用量の把握自体は、明らかに1500klを超えそうにない小さなところも含め、すべての企業の義務である」としている。

「継続的な把握」がすべての企業の義務となる

 ということで、この1年間、全企業が原油換算値を求める必要がある。

 原油換算値の求め方は、1)使用した燃料・熱・ガス・電気ごとに全社の年間使用量を集計し、2)それに各燃料の発熱量、熱の係数、電気の換算係数を乗じて熱量を計算する。3)それらを合算して年間エネルギー量(熱量合計:GJ)を求め、4)0.0258(原油換算kl/GJ)を乗算する、という手順。

 つまり、燃料・熱・ガス・電気の使用量を、正確に把握しなければならないのだ。それも、燃料なら「原油」「原油のうちコンデンセート」「ガソリン」「ナフサ」「灯油」「軽油」「硫化石油ガス」「石油系炭化水素ガス」など、電気なら一般電気事業者からの「昼間買電」「夜間買電」、その他の事業者からの「買電」や「自家発電」など、といったように非常に細かく。

 昨今、グリーンITなどで企業では、さまざまな省エネ対策が進められているだろう。しかし喫緊には、こうしたエネルギー使用量の把握が課題となってくる。改正前の省エネ法であれば、工場・事業場単位での把握だったので、それほどの手間ではなかったかもしれない。しかし、改正省エネ法では「企業全体」で把握しなければならないのだ。例えば、全国展開するコンビニの全店舗を集計する手間は、果たしてどれだけのものだろうか。

 さらに、2010年度に特定連鎖化事業者と指定されれば、以後も継続的に報告していく必要がある上、2010年度に指定されなかった企業も、その後の事業拡大などで1500klを超えた場合には、報告の義務が生じることになる。つまり、この1年間のエネルギー消費量が1500klを超えた企業、超えなかった企業、どちらにしても今後継続した計測が必須となってくるのである。

集計の手間を削減する「ECOMIX」

データ入力画面
地域別・時系列などの推移グラフ

 こうした時勢の中、集計作業を効率化する製品やサービスが、多くの企業から提供されるようになってきた。中でも改正省エネ法を見据えて良くできていると感じたのが、日本ノーベルの環境データ統合管理システム「ECOMIX」だ。「エネルギー」「産業廃棄物」「温暖化ガス」「用水」といった管理項目に対して、ボタン1つでの集計作業に対応。それぞれの拠点が入力したか、入力していないかを1画面で確認できるため、未入力拠点のフォローも迅速に行える。

 参照機能では、全社拠点ごとのデータ比較が可能。そこから掘り下げて、拠点や部署ごとのデータ比較といった表示もでき、地域別・時系列ごおとに各管理項目の目標値・実績値を入力して、推移グラフを表示することも可能だ。また拠点の場所が違えば、データの形式や単位がばらつくことも考えられる。本来であれば、1カ所に集められたデータを1つ1つ確認して集計しなければならないが、Webブラウザで利用可能なECOMIXなら、データの一元管理のほか、単位のばらつきを統一することもできる。これにより、フランチャイズチェーンでも集計・換算の手間が削減でき、オーナーとテナント間でのタイムリーな情報共有が実現する。

 さらにオプション機能を利用すれば、対外的な環境負荷調査資料や行政届出用資料の作成もこなしてくれる。改正省エネ法の対応としては、おあつらえ向きな製品となっている

 グリーンITとしては、省電力製品の導入や仮想化によるリソースの統合など、さまざまなアプローチがある。「エネルギー合理化」に向けて、これらはこれらで必須の対応だし、IT以外でも、企業として環境に対して取り組むべき対策は多かろう。そういった対策の前提として、ECOMIXのような製品が、今後必須のコンポーネントとなるかもしれない。

各地の拠点ごとにどのデータが集計済みか確認可能環境負荷調査資料を作成行政届出用データを作成





(川島 弘之)

2009/5/28/ 11:00