「2010年度以降のV字回復を目指して」-日立、情報・通信事業の強化ポイント


執行役専務 情報・通信グループ長&CEOの中島純三氏

 株式会社日立製作所(以下、日立)は6月8日、情報通信システム事業(HDD事業を除く)概況と中期目標に関する説明会を開催。4つの強化ポイントを紹介し、2011年度に売上高2兆円、営業利益率7%水準への回復を目指すとした。

 2008年度は減収減益だったが、2009年度はさらに、売上高1兆8370億円、営業利益率5.0%という2006年度水準まで落ち込むマイナス成長の見通しである。これをいかに改善するか。執行役専務 情報・通信グループ長&CEOの中島純三氏によれば、「IT投資抑制傾向が強まり厳しい状況だが、当社では2006~2008年度にかけ高収益事業体への取り組みを行ってきた」。これを踏まえて今後の中期計画としては、「2009年度を底に、2011年度売上高で2兆円、営業利益率で7%の水準への回復を目指す」という。

 そのための強化ポイントとして挙げたのが、「高付加価値事業の拡大」「グローバル事業の拡大」「経営・事業基盤の強化」「社会イノベーション事業への傾注」の4点。

2009年度は売上高1兆8370億円、営業利益率5.0%の見通し2011年度の売上高2兆円に向けた強化ポイント

SIとサービス事業で高付加価値化

 まず高付加価値事業の拡大だが、ここでは主にSIとサービス事業の高付加価値化を図る。

 SI事業では、現在7カ国に拠点を展開するグローバルコンサルティングネットワークをさらに拡大。併せてモノづくりや、システムライフサイクル全体でのサポートサービスの強化も図る。「モノづくりに関して、大規模顧客ですでに顧客満足度1位だが、品質・生産性向上をより徹底追求する。具体的には、プロジェクトマネジメントの改革をさらに進めるほか、2007年に50%効率化した設計基盤をさらに改善し、2009年度にはさらに50%効率化することで、最高品質の実現で顧客満足度を一層向上したい」(中島氏)。一方のサービス事業では、金融アウトソーシング、運用管理アウトソーシング、環境配慮型データセンター、eマーケットプレイス「TWX-21」などにこれまでのノウハウを適用し、「グループの総合力で先進サービスを提供する」(同氏)という。

 また、SI/サービス事業と両輪となるハードウェア事業では、これまで通り、構成を意識せずにITを利用可能とする「Harmonious Computing」のコンセプト下で、「グリーンIT化」や「クラウド化」を推進する方針。クラウドに関しては「社会インフラの要求に対応できる高信頼なクラウドの実現を目標に、2009年度第2四半期にクラウドサービス基盤を提供する予定。関連売上高で2011年度に1000億円を目指す」とした。

SI事業の高付加価値化サービス事業の高付加価値化

「強い製品」を核に地域戦略を推進

 2つ目は、グローバル事業の拡大。ここではストレージといった「強い製品」を核にシナジーを追求し、成長軌道の確立を目指すという。「ストレージに関しては2008年度、ソフトウェア/サービス売上高が海外で2けた成長。北米、欧州・中東・アフリカ、アジア太平洋など海外全地域で、好調だった2007年度を上回るプラス成長となった」。これを踏まえつつ、「各地域での拠点、コンサル事業拡大や、新興国への展開強化を盛り込んだ地域戦略を打ち立てて、2011年度に4800億円の海外売上高(2008年度は4200億円)を見込んでいる」(同氏)とした。

グローバル事業方針ストレージを軸に各地域で事業を拡大

調達コストの削減やグループ連結経営の強化で基盤強化

 経営・事業基盤の強化では、調達コストの削減やグループ連結経営の強化により、経営体質を向上する。「2006~2008年度まで、売上高・利益率は右肩上がり、損益分岐点は右肩下がりに、という考え方で経営を進めてきたが、2009年度見通しでそれが崩れた。そこで、2009年度からの運営方針としては、2010年度以降にV字回復するよう、調達コストを徹底削減する。基本的な考え方としては、一度削ってもまた元に戻しやすいものだけを削減するので、人員・研究費などのコストは2008年度を維持する方針」(同氏)という。

 なお、調達コストを具体的にどう削減するかについては、「緩やかに円高・ドル安に向かっているので、まずは為替を利用する。また世の中的に売価が下がっているので、それをきっちり刈り取っていく」と説明。

 一方、グループ連結経営の強化としては、4月に発表された日立電サによる地域ソリューション会社3社の子会社化や、7月に予定する日立による日立コミュニケーションテクノロジー吸収合併といった組織再編を基に、全体最適化を実施。「特に大規模顧客向け戦略をグループで共有し、事業のシナジーを追求、連結ベースでの企業価値を向上する」とした。

調達コストを削減。経営体質を強化し、10年度以降のV字回復へグループ連結経営の強化

今後期待される分野として社会イノベーションにも傾注

 最後が社会イノベーション事業への傾注だ。例としてエネルギー、環境、交通の分野で新たな試みに挑むという。具体的に「エネルギーの分野では、電源多様化時代に最適な電源インフラや、情報・通信インフラによる新サービスプラットフォームの構築に貢献し、スマートグリッド実現を目指す。環境では、これまでも取り組んできたHarmonious GreenプランやCoolCenter50でグリーンITをさらに進め、交通では、ストレスのない快適な移動を実現する次世代交通システムを目指し研究開発を推進する。これらはまだ細かく先が見通せるわけではないが、今後期待される分野として傾注する」(同氏)とした。

スマートグリッドを支えるITプラットフォームの研究開発を推進グリーンITをさらに進める次世代交通システム実現目指し、研究開発を推進

楽観・悲観こもごもの中期計画

 こうした強化ポイントで、目指すは2011年度に売上高2兆円だ。ハードウェアに対するソフトウェア/サービス比率が64%で、海外売上高比率は24%をイメージし、営業利益率は7%まで引き上げるという。しかし質疑応答では、「少し楽観的な数字なのでは」という厳しい質問も飛んだ。これに対し中島氏は、「基本的には2009年度後半から景気も回復し始めるという考え方に立った計画であり、確かに楽観的なところもあるかもしれないが、逆に悲観的にとらえているところもある」として具現性の一端をのぞかせた。




(川島 弘之)

2009/6/8 15:22