手のひらサイズのマイクロサーバー「OpenBlockS 600」を試す
OpenBlockSシリーズは、ぷらっとホームが独自に開発している小型のLinuxサーバー製品で、故障の要因となるファンやHDDなどの可動部分を搭載せず、高い信頼性を実現している。用途としても、アプライアンスプラットフォームとして採用されたり、場所を選ばない独自のサーバーとして設置されたり、さまざまに利用されているユニークな製品だ。その最新モデル「OpenBlockS 600」は、従来モデルと比べてCPUやメモリなどのハードウェア性能が強化され、より汎用性の高い製品に仕上がっているが、ぷらっとホームからお借りできたので、その特徴を紹介するとともに、使用感をレポートする。
■小型・軽量かつ堅牢な筐体を引き続き採用、基本性能は大幅に向上
OpenBlockS 600 |
OpenBlockS 600は、わずか81×133×31.8mm(W×D×H)の、本当に小さなLinuxサーバーだ。重さも約265g(本体のみ)と非常に軽量ながら、CPUがAMCC PowerPC 405EX(600MHz)に、メインメモリは従来比8倍の1GB(DDR2)になるなど、大幅に強化。ネットワークについてもギガビット化され、1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-T×2を搭載したため、WEBアプリケーションサーバーやWEB/メールのフィルタリング、パケットキャプチャといった従来の小型サーバーには不向きだった領域に対しても、適用の幅が広がっている。
新旧モデルのスペック比較
OpenBlockS 600 | OpenBlockS 266 | |
CPU | PowerPC 405EX 600MHz | PowerPC 405GPr 266MHz |
メモリ | 1GB | 128MB |
Flash ROM | 128MB | 16MB |
ネットワーク | 1000BASE×2 | 100BASE×2 |
USB 2.0 | 2ポート | - |
ネットワークにつながる小型サーバーという位置付けだけに、こうした基本性能、ネットワークの強化は非常に重要な点。FTP通信をIPルーティングするローカルルータとして利用した場合、ぷらっとホームの測定によれば、インターフェイスが最高でも100BASE-TXだった前モデルのOpenBlockS 266が72Mbpsだったのに対し、1000BASE-T対応のOpenBlockS 600では521Mbpsを記録した。Xeon E5310(1.60GHz)を搭載した一般のx86サーバーでも537Mbpsだったというから、それとほぼ同等のスループット性能を達成したことになる。
本当に手のひらに載る小ささが特徴 | たばこの箱と比べても、二回り程度大きいだけだ |
インターフェイスはとてもシンプルで、主に2基の1000BASE-T/100BASE-TX/10BASE-Tポートを利用する |
もちろん基本性能の強化のみならず、従来の特徴である堅牢性も引き続き備えている。従来は2枚だった基盤を、OpenBlockS 600では1枚に削減。小型化を実現するとともに耐熱性が向上し、周辺温度55℃の環境においても、ACアダプタを含めて安定した稼働を行えるという。また、筐体は半密閉構造のため、耐塵性においても高い性能を備えている。
プリインストールされるOSには、従来のOpenBlockSやOpenMicroServerといった製品に採用されてきたSSD/Linuxが引き続き採用されており、既存ソフトウェア資産をそのまま生かすことも可能になっている。
■使いやすさを提供するWeb GUI
こうした基本性能の強化などがなされた新モデルだが、使いづらくては何にもならない。そこでOpenBlockS 600では、Web GUIを見直し、ユーザーが使いやすいようなリニューアルを行っている。初期セットアップ時に複雑な操作は一切不要。付属の「簡単導入ガイド」に従って操作を行えば、問題なく利用できるだろう。
■パッケージ化したアプリを容易に導入できるアプリケーションマネージャ
さらに特筆すべきなのは、新機能「アプリケーションマネージャ」だ。これは、ネットワーク経由で取得したリストから、簡単にアプリケーションをインストールできる機能。OpenBlockSにおけるApp Storeともいうべき存在で、必要なアプリケーションを選ぶだけで、パッケージをダウンロードして自動的にインストールしてくれる。
ここで提供されているアプリケーションは、ぷらっとホームがアプライアンスに組み込んで販売していたものを含めてパッケージ化され、ぷらっとホーム側で検証を行っているため、導入後の検証作業が最小限で済む点がメリット。すべてコンパイル済みで提供され、リストから必要なものを選ぶと、ダウンロードとインストールはすべて自動で行ってくれるため、ユーザーの負荷をかなり軽減できる印象だ。
具体的なアプリケーションとしては、DNS、DHCP、NTP、Sysylogなどのオープンソースバイナリ+GUIや、Ruby、OpenJDK、PostgreSQL、MySQLなどのオープンソースバイナリ、PacketiX VPN、Hinemos、desknet's、Denbunなどの商用パッケージまで、幅広く用意された。商用パッケージの一部については体験版がインストールされ、別途プロダクトキーを購入することによって、製品版へのアップグレードを行える。
ここでは、desknet's(スタンダード版)の体験版をインストールしてみた。Linux環境ではあるが、Web GUIだけでインストールは完了し、簡単に起動することができた。起動後も、特にストレスなく利用できており、十分実用に耐えそうだ。グループウェアはトラフィック処理性能を要求するアプリケーションだが、こういったところにも、ハードウェア機能向上の効果がうかがえる。
■小規模環境でのサーバーに最適、発想次第で用途は広がる
現在、小規模向けのサーバーが時には2~3万円で販売されるようになり、フリーのLinuxなどと組み合わせれば、かなり低価格でサーバー環境を構築できるようになった。しかし、以前よりも容易になってきたとはいえ、スキルの面などで、Linuxサーバーを自分で構築し、メンテナンスをすることに不安を感じる人はまだまだ多いだろう。ではWindowsで、と考えても、価格面でのハードルがあり、二の足を踏んでしまうことも多い。余っているPCをサーバーに転用するにしても、信頼性などの問題がある。
今回実機を触ってみて、OpenBlockS 600は、そうしたユーザーにもお勧めしやい製品になっていると感じた。可動部分を持たない構造などにより信頼性は高いし、必ずしもすべての用途に対応できるわけではないが、ハードウェア機能の向上により、本来得意としてきたネットワーク系以外のアプリケーションでも、活用できるシーンは多くなっているだろう。
例えば、今回インストールしてみたdesknet'sは、最小5ユーザーから購入可能で、小規模環境でも導入がしやすいグループウェア。「スケジュール」「インフォメーション」「設備予約」「回覧・レポート」「文書管理」「ワークフロー」など、全部で23機能が標準で提供されている。中小企業、あるいは企業の一部門などでも、グループウェアの導入を検討する機会は多くなっているが、堅牢性が高く、コンパクトなOpenBlockS 600とアプリケーションマネージャにより、ソースの取得、依存関係の確認、コンパイルなどの面倒な作業を行わずとも容易に導入を行えるのだ。
このように、アプリケーションマネージャで導入できる機能の範囲であれば(そしてアプリケーション自体の設定がWeb GUIに対応していれば)、Web GUIからすべての操作が可能なため、ユーザーは特にLinuxであるということを意識せず、簡単に導入・運用が行えるようになっている。また、ぷらっとホーム側での動作検証が済んでいる点も、大きなメリットといえる。
もちろん、アプリケーションマネージャやWeb GUIにとらわれず、自らアプリケーションを開発したり、Debian、Fedora、Ubuntuなど別のディストリビューションを搭載したりすることも可能なため、ユーザーの発想次第では、さらに広い用途での利用も可能。ファイルサーバーに特化したNASとは違う、こうしたさまざまな利用が可能な点も、OpenBlockS 600の魅力といえるだろう。
2010/1/15 09:00