サイボウズLive、無償グループウェアで狙う「100億円の売上規模」
サイボウズ株式会社が2009年11月に発表した「サイボウズLive」。「セカンドグループウェア」というコンセプトで、仕事もプライベートも基本無料で使えるのが特徴だ。現状はクローズドβのような位置づけで、一般公開は2010年中ごろの見込みとなっている。
サイボウズにとって新たな挑戦となるこのサービスは、どういった意図で企画されたのか、既存の有償グループウェアとのすみ分けはどうなるのか、そして収益性をどう描くのか。ネットサービス事業本部 事業企画部長の丹野瑞紀氏に話を聞いた。
なお今回、Enterprise Watch読者向けにサイボウズLiveのアクセスキーをいただいた。同記事末尾にあるアクセスキーを使って、先着500アカウントまでサイボウズLiveを使用できる。早い者勝ちなので、サイボウズLiveに興味がある読者、一般公開まで待てない読者はぜひ使ってみてほしい。
―どういったアイデアで始まったプロジェクトなのでしょうか?
ネットサービス事業本部 事業企画部長の丹野瑞紀氏 |
丹野氏
当社では顧客セグメントを企業規模で分け、従業員50名~300名に「サイボウズOffice」、300名~数万名規模に「サイボウズガルーン」を提供しています。おかげさまで企業でのグループウェア利用は拡大し、両製品でカバーする顧客規模が徐々に膨らんでいった経緯があります。
大規模向けではマイクロソフトの「SharePoint」連携なども図り、範囲がどんどん広がっていったわけですが、そうなったときに、50名以下の顧客セグメントをどうするかという課題にぶつかりました。
50名以下の小規模企業では、人員不足でITスキルも豊富なわけではないため、なかなかグループウェアを使いこなせません。ならば、操作が簡単でTCO削減にも貢献できるグループウェアを作ろうというのが、プロジェクトの始まりです。
―企画的にこだわった部分は何でしょうか?
丹野氏
いろいろとヒアリングした結果、50名以下の企業でグループウェア利用を阻害する最大の壁が「コスト」でした。そのため、この市場に入るためには、まず1つ、「無料化」というキーワードが欠かせないぞ、と考えました。
また、初めてグループウェアを使うユーザーを想定していたので、多機能ではなく、必要最小限の機能に絞りました。
―具体的には?
丹野氏
サイボウズLiveは、無料で会員登録が可能です。会員はサイボウズLiveの基本機能をすべて利用でき、グループも複数作成できます。ただし各グループメンバー数は最大20名までで、データ保存容量は最大200MBという制限が付く。これを超えて利用するためには、有償オプションの購入が必要となります。
また、サイボウズOfficeにあるようなワークフロー・報告書などの業務マネジメントに関する機能はついていませんし、小グループで気軽に使えるように画面もシンプルにしています。
―なるほど。
丹野氏
そうやって企画を詰めるにつれ、グループウェアには企業内での情報共有のほかに、もう1つニーズが存在すると分かりました。企業間やプライベートでのコミュニケーションですね。
企業内はグループウェアで便利になりました。一方で、一歩会社の外へ出ると、依然としてメールや電話に頼ったコミュニケーションのままでした。
「セカンドグループウェア」として、このニーズに応えたくて。企業内で導入されたサイボウズOfficeなどの、いわゆるファーストグループウェアを、うまく補完することはできないかと考えました。
この時点で、サイボウズLiveはグループウェア初心者だけでなく、既存のグループウェア利用者にも有効だぞ、という道筋が見えてきたんですね。
―サイボウズLiveは、初心者に優しいグループウェアであると同時に、既存グループウェアを補完するもの、という2つの側面を持つようになったわけですね。
丹野氏
そうですね。なので、企業規模にこだわらず、いろいろなユーザーに使ってほしいです。
―ちなみに貴社でも利用しているのでしょうか?
丹野氏
いろいろな用途で使ってますよ。人事部では新卒内定者との間で、入社前からサイボウズをよく知ってもらうためや、入社前に各部署の先輩とコミュニケーションを図る意味でも利用してます。
Webサイトを制作する際も、プロモーション会社と打ち合わせに使ってますし、営業はSFAとして、社内部活動の連絡用として、また社外監査役と役員のグループ会議などでも利用しています。
―機能的にはどんな工夫をしましたか?
丹野氏
いろいろありますが、グループを簡単に作れるのが一番の特徴ですね。チームで情報共有したい場合に簡単なクリックのみで使える。ユーザーにはぜひたくさんグループを作ってほしいです。
また、グループが多すぎて煩雑にならないように、各グループの情報をまとめるホーム画面を作成しました。
―新機能も続々と搭載予定と聞きましたが?
丹野氏
はい。まず、2月にモバイルサイトの強化を図りました。ここから新規ユーザー登録も可能となり、PCサイトとほぼ同様の操作が実現しています。モバイルからグループを作ることや招待することがまだできませんが、これらも順次拡張していくつもりです。今回はセカンドグループウェアということで、家族との利用も想定してます。そうなるとPCに詳しい人ばかりではないので、ケータイなどから利用できることが重要なんです。
ほかにもTwitter上でユーザーと活発に意見交換し、ToDoやタスク管理がほしいなどのフィードバックをいただいています。これに優先順位を付けて、さまざまな新機能を開発しているところです。
―ユーザーからはどんな声が多いですか?
丹野氏
もっとも多いのは「Myカレンダー」に登録した自分のスケジュールを、各グループカレンダーに公開したいというもの。サイボウズLiveには、グループごとにスケジュールがあって、それとは別に自分専用の「Myカレンダー」を持つことできます。現状、Myカレンダーに登録した予定は、グループのカレンダーには「何かの予定がある」ということだけを表示して、詳細は表示されないんですね。
これを公開したいという要望です。各グループでやり取りしているのだから、Myカレンダーのスケジュールをみんなに知らせたいというはもっともですよね。ただ、これはなかなか難しいところで、「誰か別の人が登録した予定で自分が参加者です」という予定まで公開するのはまずいので、最適解を模索しているところです。
ほかには、Googleカレンダーとの同期や、1人で複数のプロフィールを登録したいというものがありました。サイボウズLiveではプロフィールも共有されますが、さまざまなシーンに応じて複数のグループを作成するわけですから、グループごとに異なるプロフィールを登録したいというわけですね。
それから、サイボウズOfficeとサイボウズLiveの双方向同期や、新着・リマインドを通知するクライアントツールなど。現状、サイボウズOfficeからサイボウズLiveへのスケジュール同期が可能ですが、逆方向の同期はまだできません。サイボウズLiveにアクセスしなくても新着が分かるツールも含めて、こうした要望の多いものは、一般公開前を目標に追加していきますのでご期待ください。
―わかりました。では、基本無料で有償オプションを提供する「Fremium(Free+Premium)」を採用していますが、収益性はどうお考えですか?
丹野氏
収益については複合的に考えています。
まず、グループ内で20名を超える場合のグループ単位での課金。例えば30名のグループを作る場合に、200~300円/月程度の有償オプションとする予定です。
次に企業への課金。監査ログやIP制限など上位機能の有償オプションですね。それから個人への課金。例えば、スマートフォン向けアプリなどです。これをそのまま有償とするかは未定ですが、ともかく個人がもっと便利に使うための有償オプションを提供していく予定です。
ももう1つがメディア誘導。すでにサイボウズOfficeでは、ビジネスポータル「Cybozu.net」へ誘導して収益をあげていますが、類似のモデルが成立すると考えています。
―いつぐらいに収益が出そうですか?
丹野氏
収益が出始めるのは、100万ユーザー突破が目安だと思います。サイボウズOfficeとサイボウズ ガルーンで300万のユーザーがいますが、まずはその3分の1。そうすれば有償オプションを使うユーザーも出てくるでしょうからね。
―気になるのは、そうなるとサイボウズOfficeの売り上げに影響が出ませんか?
丹野氏
もちろん一部影響は出ると思います。
しかし、サイボウズOfficeのメインターゲットは50名以上で、最近は300名以上の事例も出てきています。なので、サイボウズOffice全体の売上げからすると、大きな影響にはならないと見込んでいます。
サイボウズLiveには業務マネジメントの機能はなく、あくまで情報共有のための最初の機能だけなので、十分差別化もできるだろう、と。
また、サイボウズOfficeからサイボウズLiveへスケジュール同期が可能なので、OfficeユーザーにもLiveを使う動機があります。OfficeからLiveへ反映してケータイで見るという利便性の高さから、使ってみたいと思っていただけるのではないでしょうか。
―モバイルからのリモートアクセスも無償となるのですよね?
丹野氏
無償ですね。ただ、リモートアクセスといってもサイボウズLiveの場合はスケジュールが同期するだけの簡単なものです。当社では有償のリモートサービスも提供していますが、その部分でバッティングするところは少ないでしょう。
サイボウズLiveは既存製品と共食いを起こすものではなく、あくまで併用して便利になるもの。だからこそ、セカンドグループウェアというコンセプトで進めているわけです。これまでグループウェアを使ったことのないユーザーが、サイボウズLiveをきっかけとして、もっとこんな機能がほしいといった具合に、逆にサイボウズOfficeの需要を喚起することにもなります。
―サイボウズLiveでグループウェアユーザーのすそ野を広げて、サイボウズOfficeへ引き上げるということですね。
丹野氏
はい。ただ、それは副次的なもので、あくまでもサイボウズLive単体で収益を上げられるサービスにしていくつもりです。
―現状、サイボウズOfficeとガルーンではどれくらいの売上げ規模ですか?
丹野氏
現状は、Officeが15億円、ガルーンが10億円ぐらいです。
―それに対して、サイボウズLive単体ではどれくらいを目標としていますか?
丹野氏
目標は高いです。100億円とかそれくらいの規模です。
―すごいですね。
丹野氏
それだけユーザー母数が違いますからね。いま、企業数は150万くらいで、グループウェアが必要なところは、おそらく70万くらいです。一方でインターネットユーザーは8000万人いて、その中にどれだけグループがあるかというと、大変な数になります。中には1000万人規模のグループも存在すると推測できますので、マーケットとしてはセカンドグループウェア市場の方が大きく、将来的には既存ビジネスを大きく超える可能性があります。
―現状の課題はありますか。例えば、ネットワークや普及施策などについては?
丹野氏
その辺は楽観的に考えています。
ネットワークに関しては、発表会でサーバー環境を増強していますと申しましたが、運用していく中で、ユーザーの利用動向も見極められましたし、これぐらいのユーザー数だとこれぐらいの負荷がかかるということも分かってきました。そろそろユーザー数を大幅に拡大しても大丈夫な体制が整い始めています。
普及に関しては、人が人を呼ぶと考えています。サイボウズLiveでは、まず旗振りの人がグループを立ち上げて、ほかの人を誘います。誘われた人がさらに人を誘って、クチコミベースで広がっていくと思います。強みは、ITに詳しい人が1人いれば、詳しくない人を誘っても問題にならないんですね。そういう人でも使いやすい設計となっていますから。このサイクルがすでに動き出しているので、普及に関しても問題視していません。
―一般公開は2010年中ごろとのことですが、6、7月ごろと考えてよろしいでしょうか?
丹野氏
はい。
―最後に何かメッセージはありますか?
丹野氏
そうですね。当社はサイボウズLiveで既存のグループウェアをリプレースしたいわけではありません。あくまでも補完するものとお考えください。
また、Googleカレンダーと比較する方がいらっしゃいますが、それは少し違います。総合的なコラボレーションツールとしてのサイボウズLiveなので、カレンダー以外の機能も比べてみてください。必ず良さが見つかるはずですから。
―ありがとうございました。
■先着500アカウントまでサイボウズLiveが利用可能!
冒頭で述べたように、サイボウズLiveに新規登録するためのアクセスキー「impressEW」をいただいた。現在はサイボウズOfficeユーザーなど一部でしか手に入らない貴重なものだ。下記の流れで利用開始できるので、興味ある方はぜひお試しいただきたい。
※3月3日11時をもちまして、アクセスキーのアカウント残数がゼロとなりました。
- https://cybozulive.com/applyにアクセスします。
- 個人のメールアドレスとアクセスキー「impressEW」を入力します。
- 入力したメールアドレスあてに、新規登録用のメールが届きます。
- メールに記載されたURLをクリックし、ユーザー情報を登録します。
- ユーザー情報の登録を終えると、自分だけのトップページが表示されます。
- 「知人を招待する」をクリックして社内のメンバーやお取引先の方などを招待してみてください。
2010/3/2 12:00