MetaMoji、オントロジー工学による機能モデリングツール「OntoGear」を提供へ

機械は「機能」で分解すると理解が深まる

大阪大学 溝口理一郎教授

 株式会社MetaMojiは3月3日、オントロジー工学に基づく機能モデリングツール「OntoGear」評価版の無償提供を、5月10日より開始すると発表した。

 OntoGearは、大阪大学 溝口理一郎教授を中心に研究を進めてきた「オントロジー工学の応用・実用化研究」の成果として開発された機能モデリングツール。存在に関する体系的な理論「オントロジー」に基づいて、機械装置などの人工物の「機能構造」を分かりやすい形式で明示化し、通常は埋没しがちな設計意図を顕在化する。これにより、デザインレビューにおける理解の共有などを促進し、製造業の設計部門や生産・品質管理部門の業務を効率化するという。

 具体的に何かというと、機械を「機能」で分解し、誰でも分かるツリー形式に図式化するものだ。例えば、電気掃除機を機能構造に分解すると、「ゴミを取り除く」という機能が真っ先に浮かび上がる。ゴミを取り除く方式としては「吸引装置」「集塵(じん)装置」「排気装置」などがあり、それぞれ「ゴミと空気を取り入れる」「ゴミをためる」「空気を出す」といった機能に表せる。このうち「ゴミをためる」に着目すると、さらに「単相フィルタ」「多層フィルタ」という実現方式に分解され、フィルタの機能として「ゴミと空気を入れる」「ゴミの運動をなくす」「におい成分を取り除く」「空気を通す」と細分化していける。

 このように「機能」と「方式」を順番に書き記していくのがオントロジー工学で、ツリー図を「機能分解木」と呼ぶ。OntoGearには、吸い取る・蒸気を出す・分割するなどの「機能語彙(ごい)」と、吸引方式・蒸発方式・破断方式などの「方式知識」がそれぞれ100種ほど標準収録され、ツール上にアイコンを配置していく手軽さで、機能分解木が作図できるのだ。

機能分解木を記述し、方式知識を蓄積。改良設計・問題解決・特許管理などさまざまな用途で使えるOntoGearソフトウェア構成掃除機の機能分解木例

 溝口教授によれば、「すべての人工物は、90~100個ほどの機能語彙で表現できる」という。方式知識を体系的に整理する機能も備え、企業独自の製造ノウハウも再利用しやすい形で蓄積していける。このため、特許技術の管理や固有技術の継承など用途はさまざまだ。

 実際の使い方としては、製造プロセスのあらゆる工程で活用可能。設計段階で機能分解木を作図しておけば製造はスムーズになるし、完成物の理解を深めるために製造後に機能分解木を作るのも有効。例えば、「デザインレビューにおいて推論や学習技術が不要となるし、研究者、設計者、現場の技術者が共通の知識表現で共同作業できるようになる。さらに、ワイヤで物を切断する機械があった場合に、“ワイヤで物を切る”ことの反機能として“物でワイヤを切っている”ととらえて作図すれば、それは“不具合原因木”となり、機器にトラブルが発生した際の原因探求にも役立つ」(溝口教授)という。

不具合の原因探求としても有効。例えば、ウエハー研磨機で、「X号機で研磨したウエハーにはパーティクルが残る」という不具合があったとしよう。従来は「純粋洗浄でパーティクルが取り切れなかったのでは?」「純粋で取れないパーティクルが付着していたのでは?」といった仮説系統図による解決を図っていた【左】。これは専門家の経験則から推論を交えるのに対し、厳密に「機能」と「方式」に分解していくオントロジー工学では、経験則が不要となる【右】

 また外部のデータベースと連携しており、例えば、方式知識は学術論文や特許情報などを基に「実在する方式」が組み込まれているし、不具合原因についても「失敗知識データベース」といった外部ソースから、実際に発生した事例が参照できるようになっている。

 ただし、利用するには機能と方式に分解するオントロジーの概念を理解する必要がある。例えば、“溶接する”は機能のように思えるが、実は“接合する(機能)”と“溶融方式(方式)”を組み合わせたものだ。「機能分解木はこれら2つを明確に切り分ける必要があるので、若干の訓練が必要となる」(同教授)。

 「しかし概念に慣れてしまえば、金属を接合する際に、溶接以外にも接着剤で張り合わせる選択肢もあるのだと発想の柔軟さを養うことにもなる。作図した機能分解木は技術に疎い者でも理解しやすく、例えば、特許申請の際に弁理士への技術説明が非常に容易になった、という声が実際に挙がっている」(同教授)という。

OntoGear画面構成方式知識を蓄積して使い回すことが可能不具合の原因探求にも活用できる
MetaMoji 代表取締役社長の浮川和宣氏

 基本構成は、機能分解木記述ツール「OntoGear SE(Standard Edition)」と、方式知識編集ツール「OntoGear WKE(Way Knowledge Editor)」。このほか、統合モデル記述ツール「OntoGear AE(Advanced Edition)」、統合モデル3D閲覧ツール「OntoGear FFN(Functions' Forest Navigator)」、アプリケーション開発用ライブラリ「OntoGearCore API」、各種周辺ツール「OntoGear Gadgets」なども提供予定。

 MetaMoji 代表取締役社長の浮川和宣氏は、「まず触ってもらい、製造業の現場で自分たちの思い通りに使えるか試してもらうことが重要」と評価版の意義を説明。5月10日より提供を開始し、2011年以降は有償化を検討する。課金体系は未定。また今後の方向性としては、「機能分解木の考え方は、人間の行為記述にも同様に適用できる」ことから、サービスサイエンスや意思決定支援など幅広い可能性を模索する方針。





(川島 弘之)

2010/3/3 17:56