富士通元社長の野副氏が会見、「一部関係者が引き起こしたこと」


元・富士通社長の野副州旦氏

 元・富士通社長の野副州旦氏は、4月7日、都内で報道関係者を対象に会見を行い、富士通の役員と幹部社員など、数名に対して損害賠償および名誉回復を求める考えを示すとともに、富士通社内に第三者による調査委員会を設置し、事実解明に取り組んでもらいたいとの意向を示した。

 野副氏は、「自分という人間を育ててもらった富士通は、今でも心から愛している。だが、将来にわたっていい会社であり続けること、グローバルに強い会社に発展し続けてほしいという気持ち、社員が誇りをもって働くことができる会社であり続けてほしいという気持ちが、今回の行動となっている。確たる理由もなく、辞任に追い込まれるのであれば、社長という立場は危うく、会社経営に専念することができないという危惧(きぐ)がある。今回の一件は、会社が私に対して損害を与えたものではなく、数人の一部関係者により引き起こされたものであると考えている。会社に対する損害賠償は行わない。名誉回復が大前提であり、どうしてこういうことが起こったのか、誰が起こしたのかを明らかにしてほしい。なぜこういうことが起こったかという動機がわからない。そのためには、調査委員会の設置は不可欠である」とした。

 また野副氏は、一連の騒動による会社の損害にも言及。「私が会社から排除されたことにより、各分野で会社が損害が発生している。これらの損害のうち、子会社であるニフティの再編に関して、会社法847条1項に基づき、提訴請求書を発送した」としており、株主代表訴訟を起こすとした。損害金額は約50億円としている。

 野副氏は、2009年9月25日付けで、富士通の代表取締役社長を辞任。富士通では、野副氏の社長辞任の理由を、当初は、野副氏が合意の上、「病気療養のため」としていたが、野副氏側が、「辞任を迫られたものであり、病気の事実はない」と反論。2月26日付けで、富士通に対して、臨時取締役会の開催を要求する文書を送付し、その場で名誉回復の機会を設けることや、辞任取り消しを要求したため、これを受けて、3月6日付けで、辞任理由を変更。

 「野副氏と長年にわたり親交の深い人物が代表取締役をつとめる企業が、野副氏が推進していたプロジェクトの一部に関与していた事実を掌握しており、当該企業グループについては好ましくない風評があったため調査したところ、理念・行動規範であるFUJITSU Wayの観点からも、当社が取引などの関係を持つことはふさわしくないとの判断に至った」(富士通)として、相談役を解任した。

 野副氏によると、「9月25日の定例取締役会開始前に、突然別室に呼ばれ、複数の役員から『あなたが付き合っている人は反社会的勢力と関係がある』と糾弾され、『取締役を辞任しないと富士通が上場廃止となる。辞任を要求する』と言われた。反社会的勢力と名指しされた人物は、10年近く前から会社とビジネスの関係があり、100人近くの富士通社員とも付き合いがあった人。継続的に業界情報について意見交換をしていたが、反社会的勢力と関係があるとは到底思えなかった。予期しない糾弾により困惑していたこと、発言した役員の一人が法律の専門家であったこと、約1時間にわたり糾弾が続いたことから、上場廃止を避けるためにはやむを得ないと誤信するに至り、辞任要求を受け入れた」とした。

 また、顧問契約書が用意されており、住所氏名を自署したこと、その内容については、押印はしていないが、今後10年間にわたり、相談役として業務を行い、報酬を支払うというものだったとした。

 「反社会的とする人物との付き合いがあるというのであれば、顧問、相談役として残すということ自体が、事実を隠ぺいする意図を感じる」とした。

会見には、畑敬弁護士(右)も同席し、報道陣からの質問に答えた

 また、会見に同席した畑敬弁護士によると、「反社会的勢力との指摘は、ある機関によるもの。その機関を訪れ、直接確認したが、そうした指摘はしていないとのことであり、富士通側が言う反社会的勢力という根本が崩れている」とした。

 さらに、会社側の指示により、約2カ月の通院をしたが、その間、病気ではなかったとしたほか、病院には会社の幹部社員らが頻繁に訪れ、「社長でなければ許された」、「悪いことをしたわけではないので、将来は戻るチャンスがある」などの発言を繰り返したという事実を指摘。

 「11月までは、病気療養とされたことで、活動はそれに専念してきたが、富士通の信頼を継続するためにもお客さまに対する辞任のあいさつをしたり、私自身が仕事が趣味であり、仕事をしないとモチベートできなかったり、ということから、『病気が回復したということを前提に職場に戻りたい』と申し入れたが、出社は4月以降とされた。ここで、もはや会社に戻れないことを直感した。そこで初めて畑弁護士に会い、会社に戻って仕事をしたいが法的によい方法がないかと相談した。畑弁護士からは、対象となる企業が反社会的勢力であるか否かがすべてである、と返事を受けた。そこで調査した結果、反社会的勢力と関係があるという話がまったくの虚構であることが2月にわかった」とした。

 野副氏は、12月15日に秋草相談役をはじめとする役員と面談したが、「秋草氏は、私が反社会的勢力と付き合っていることを確信していたようだった」との印象を持ったという。

 また、野副氏は今回の件は、「取締役会ではない密室で物事が決められていること」、「調査資料の信用性がないこと」、「当該企業の情報公開に対する疑念」、「反社会的勢力と付き合いがありながらも、顧問とするのは事実を隠ぺいする意図がある」という4点が問題であるとした。

 一方で、野副氏が推進していた構造改革にブレーキがかかっていることに対しては、「構造改革の推進については、私を含めて数人のスタッフによって決めたもの。その上で、それぞれの案件について、相手を交えて話し合いを行い、合意をした。富士通ビジネスシステムの100%子会社化もそのひとつだが、私自身がこれをどう富士通の成長に結びつけようと考えていたのかということと、これを引き継いでやっている人がどう考えているのかということには、考え方に大きな差異がある。改革が止まっているとか、前に進むべきものがストップしているということが問題ではなく、取り組む人の考え方、意思、どういう行動を起こせるかにかかっている。その点では無念である」とした。

 また、4月から就任した山本正己新社長による体制については、「山本社長は、人間的にも魅力であり、豊富な経験があり、能力的に優れていると理解している。だが、企業は1人で動かすことはできない。また経営トップが、一歩、二歩踏み込んだ経営改革をやると誤解が生じることも多い。トップが方向を決めたときに周りが支え、協力していける経営構造を作れるかどうかにかかっている。私が掲げてきた構造改革や、成長戦略への取り組みがテイクオーバーされるかどうかについて、きちんと新体制の方々と話をしなくてはならない。私の経験や考え方、取り組みの内容を話し、株主や顧客と約束したことを間断なくやれるようにしていくことが重要であるとは思っている。経営に参加するかどうかは別にして、私が今回のような行動を起こすことで、彼らが二度と同じようなことに陥らないようにすることが大切だ」と述べたほか、「今回の活動は、経営に戻ることを意図したものではない」と語った。

 さらに、野副氏は、「私個人の経験をもとにすれば、これまでの富士通では、密室で物事が決められるということが起きていたのかもしれない。だが、今回のように表に出てくることがない限り、起きていたかどうかはわからない。こういう行動は日本人はなかなかやらない」などとしたほか、「富士通の企業価値をあげることは簡単である。第三者の調査委員会により、事実が白日の下に公になり、富士通グループ全社がそれにきちんとして理解を示せば、企業力、企業価値は元に戻る。富士通は、それだけの底力がある企業だ」などとした。

会場には入りきれないほどの報道関係者が詰めかけていた

 加えて、「社長に就任してからの16カ月間は会社を良くしたいという一心で取り組んできた。その過程において、いろいろな方々の意見と衝突したことはあった。それは認める。私が社長という立場をもって、相手に飲み込んでもらったこともあるだろう。だが、基本線は会社を良くしたいということであり、私利私欲があるわけではなく、自分のプレゼンスを高めるということもなかった。なぜこうしたことが起きたのか、私自身が理解できない。それを知りたい」とした。

 午後4時から行われた会見では、会場に入りきれないほどの報道関係者が詰めかけ、ほとんどの時間を質疑応答に費やした。




(大河原 克行)

2010/4/8 00:00