富士通のブランドプロミス「shaping tomorrow with you」の意味とは
富士通のロゴとともに使用されるshaping tomorrow with youのブランドプロミス |
富士通が、ブランドプロミスとして、「shaping tomorrow with you」を制定した。
今年6月に、創立75周年を迎える富士通が、グローバルに通用する同社の方向性を示したものが今回のブランドプロミスの狙いであり、今後、全世界で共通的に利用するとともに、これを皮切りに、ブランド戦略をさまざまな角度から強化していくことになる。
「shaping tomorrow with you」の意味とはなにか、そして、それをベースに富士通はどんな方向性を打ち出していくことになるのか。「shaping tomorrow with you」の狙いを探ってみた。
■求められていたのは、グローバルで統一されたブランド戦略
「夢をかたちに」は、富士通のDNA。山本正己社長は、富士通フォーラム 2010の基調講演でまずこの言葉を示した |
そして、shaping tomorrow with youの意味にも言及した |
これまで使用していたTHE POSSIBILITIES ARE INFINITEのメッセージ |
富士通には、長年にわたって使われてきた「夢をかたちに」という言葉がある。また、富士通グループが、企業理念、価値観、社員一人ひとりがどのように行動すべきかの原理原則を示すものとして、「FUJITSU Way」を制定している。
そして、ここ数年は、「THE POSSIBILITIES ARE INFINITE」(可能性は無限)という言葉を使い、この言葉をカタログやポスターに使用し、統一感を持ったメッセージとして展開してきた。
だが、その一方で、2012年度には海外売上高比率を4割以上に高める方針を打ち出し、成長の軸足をグローバル戦略に置く富士通にとって、グローバルで統一したブランド戦略が求められていたのは事実だった。
それは、日本においては一枚岩のように見える富士通の体制も、グローバルという観点から見れば、同じDNAを持った企業ばかりが存在するわけではなく、さらにそれぞれの国におけるブランドイメージもまったく異なるという状況が背景にあった。
例えば、日本においては、モノづくりという観点にこだわりを持つITベンダーとの印象が強いが、富士通サービスが本拠とする英国では、富士通のイメージは、ITサービスの方が強い。また、オーストラリアや南欧では、グループ会社である富士通ゼネラルが強い市場であり、エアコンのイメージが先行する。さらに、今後、事業拡大をもくろむ中国やAPACでは、まだブランドイメージが確立された段階にあるとはいえない。
「日本国内においては、ITサービス、サーバー/PC、通信といった領域で、富士通は高い認知度を誇る。だが、海外では14カ国中11カ国では、これらの領域において、はるかに認知度が低いという結果が出ている。グローバルにおけるブランド力を高めていくためには、広告宣伝による一時的な効果に頼るのではなく、企業活動全般が評価されることが必要」と、富士通 コーポレートブランド室の寺内室長は語る。
また、英ICLを買収し、それをベースに発展してきた富士通サービス(Fujitsu Services)、独Siemensとの合弁である富士通シーメンス・コンピューターズ(Fujitsu Siemens Computers)を、2009年に100%子会社化したという経緯を持つ富士通テクノロジー・ソリューションズ(Fujitsu Technology Solutions)といった企業は、富士通が海外現地法人として直接設置したのとは生い立ちが異なり、富士通のDNAに対する理解度には、各社に温度差があるというのが正直なところだ。
約60カ国、約540社のグループ会社を持ち、全世界で約17万人の社員が働く環境で、しかもその生い立ちが異なる企業が存在するのであれば、温度差があるのも当然といえば当然だろう。
「グローバルに事業を拡大し、ブランド認知を高めていくには、富士通グループのあらゆる活動のベクトルをあわせて一貫性を図ることが必要である。ブランドプロミスは、富士通がどのようなブランドとして認知されたいのか、ということを端的に表現したものであり、言い方を変えればお客さまとの約束を示したものとなる。グループの強みを明確化し、そこにベクトルをあわせていくことで、強いブランドの構築を目指していく」と、寺内室長は語る。
富士通の山本正已社長も、「外からは富士通の経営戦略が見えないという声がある。今後は社内外に向かって、明確な形で、経営戦略を打ち出していく必要があると考えている」と語る一方、「これから10年をかけて富士通が目指すのは、真のグローバルICTカンパニー。その達成に向けて、富士通の強みを打ち出したながら、グローバルに積極的に出ていく必要がある」とする。
つまり、「shaping tomorrow with you」は、グローバル事業拡大に向けて、グループ全体で一貫性があるメッセージとして位置づけ、富士通はなにを目指していくのかという姿勢を、対外的に発信していくメッセージということになる。
■「富士通の強いところをより強くする」という点に立脚
富士通では、「『shaping tomorrow with you』には、お客さまとともに豊かな未来を創造するという思いを込めている」と説明する。
そして、長期的なパートナーシップを大切にし、お客さまの成功に貢献していくこと、豊富な経験から培われた現場力で、新たな発想を生み出し、お客さまとともにICTの力でより豊かな社会を実現していくとの思いを、この言葉のなかに込めたという。
「富士通の根源的な強みはなにか。それは、お客さまとの長期的なパートナーシップを大切にしていくという点、お客さまとともにビジネスを推進していく姿勢が強いこと、お客さまのニーズをよく聞くこと、お客さまとの約束を最後までやり遂げるという強い意志を持っていることなどが挙げられる。実際、お客さまやパートナーからは、富士通のイメージとして、こうした声が聞かれている」と寺内室長は語る。
ここで挙げられたような、富士通の強いところをより強くするという点に立脚したのが、今回のブランドプロミスづくりの原点となる。
具体的には、shaping tomorrowには、ICTの力で、お客さまと社会の未来の創造に貢献していくこと、with youには常にお客さまの側に立って考え、行動するというお客さま起点を表したと説明する。
それぞれの言葉には強いこだわりがある。
例えば、お客さま、社会の未来の創造に貢献するという意味を持たせた「shaping」には、「Creating」という言葉を使うこともできただろう。だが、「Creatingには自然の力でつくり出す、まったく新たなものを生み出すという意味があるが、shapingには、かたちづくる、具現化する、社会を構築する、方向づけるという意味がある。最初からなにかを生み出すのではなく、これまでの実績をもとに新たなものを創出していくという富士通の姿勢を表現した」という。そして、shapeではなく、shapingとしたのも、「継続的に形づくること、具現化するという意味などを込めたため」としている。
また、未来を指す言葉として一般的に使われるFutureではなく、tomorrowを使ったのも、「遠い将来ではなく、すぐ近くの未来で、夢を実現するという意味を持たせた」とする。
一方で、with youという言葉にも強い思い入れがある。いや、むしろ、with youとしたところに富士通のこだわりがあるといえる。
「to youやfor youという言葉には、自分たちのソリューションを押しつけようとか、短絡的な利益を追求しているような雰囲気がどうしても感じられる。お客さまとの関係も、ドライな関係というのが前提となる印象だ。だが、with youには、お客さまのニーズをよく聞く、あるいは長期的なパートナーシップを大切にして、一緒になって解決を図るという意味がある。富士通のやり方は、まさにwith youという言葉に集約できる」
FUJITSU Wayでも、お客さま起点という言葉が使われている。そして、山本社長も、「グローバル起点」、「環境起点」とともに、「お客さまのお客さま起点」を富士通の活動ベースと掲げる。このお客さま起点の精神が、「with you」に込められているというわけだ。
■2009年4月から、新たなブランドプロミス制定を開始
富士通は、2006年に、コーポレートブランド室を独立組織とし、グローバルにおけるブランド戦略の立案などを開始した。2007年には、FUJITSU WAY推進本部と連動して、行動規範を「FUJITSU WAY」として取りまとめ、社内への浸透活動などを行ってきた。
コーポレートブランド室が新たなブランドプロミスの制定を開始したのは、2009年4月からだが、それ以前にも、2008年秋ごろから、各種リサーチや分析を開始していた経緯があった。ここでは、富士通の歴史やDNAと呼ばれるものをひもとき、さらに経営方針、経営戦略、事業戦略などを精査。加えて、8万5000人の社員に対する意識調査の実施、14カ国、3100人に対するブランド調査を実施し、富士通の根源的な強みを浮き彫りにしていった。
正式にブランドプロミス制定のプロジェクトがスタートしてからは、日本の本社部門だけでこれを作り上げるのではなく、リチャード・クリストウ執行役員副社長(当時は経営執行役上席常務)が率いる海外ビジネスグループ(GBG)と連携し、グローバルに展開できるブランドプロミスとしての制定に取り組んだ。
2009年7月には、GBGに所属する英国人チームと日本で合宿を行い、意見を戦わせたほか、毎週1回のペースで英国とテレビ会議で意見交換するといったことも行ってきた。
また、同時並行的に、本社のビジネスグループ長や海外法人のCEOといった社内キーマンへのインタビュー、20~30代の若手社員を対象にした座談会、社外の富士通ユーザーへのインタビューなども進め、それらの意見、情報をもとに、練り上げていった。
富士通 コーポレートブランド室担当部長のアメッド・モヒ氏 |
「いくつかの言葉の候補を出して、そこから選定するという手法ではなく、富士通が持つ歴史、DNA、イメージ、事業方針、富士通の強みなどのほか、調査やインタビューなどで収集したデータをとらえながら、言葉を作り上げていった」(富士通 コーポレートブランド室担当部長のアメッド・モヒ氏)。
2009年11月には、経営会議において、初めてブランドプロミスが議案として取り上げられた。
提出された言葉は、「shaping tomorrow with you」の言葉だけであり、第2案、第3案といったものはなかった。
経営会議においては、「shaping tomorrow with you」を次のように位置づけた。
「『夢をかたちに』という言葉は、富士通が永遠に持ち続けるDNA。そして、『shaping tomorrow with you』というブランドプロミスは、これまでのモノづくり中心の時代から、今後訪れるクラウド・コンピューティングの時代を迎え、よりお客さまとの緊密な関係が重視されるとともに、お客さまと一緒にビジネスを作ることになる、というこれまでとは異なる世の中が到来するなかでの富士通の役割を示したものになる」。
そして、お客さまの成功に貢献するという観点だけでなく、社会全体をICTによって、よりよい世界へと変えていくという一段高い視点からの取り組みについても網羅することが確認された。
その後、取締役会の決議を経て、2010年1月4日には、間塚道義会長による新年のあいさつのなかで、富士通全社員に向けて、ブランドプロミスを正式に発表。それから約3カ月後の3月29日に、プレスリリースの形で対外的に発表された。
2010年5月13、14日に東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催された「富士通フォーラム 201」0におけるテーマは、「夢をかたちに-shaping tomorrow with you」。この言葉のもとに、富士通の強みや将来性などを紹介していった。
■真のグローバルICTカンパニーを目指す上での共通基盤に
富士通では、「shaping tomorrow with you」のブランドプロミスをさまざまな場面で使用していくつもりだ。
6月以降は、富士通社員の名刺にもこの言葉が刷り込まれるようになるほか、カタログなどへの掲載、富士通の主要な施設でもこの言葉が看板として使用される。4月26日に開設した東京・浜松町の富士通トラステッド・クラウド・スクエアでは、すでに『shaping tomorrow with you』の文字が施設内で使用されている。また、グループ企業でも、一部の企業を除いて、このメッセージを使用することになる。
shaping tomorrow with youにはサブメッセージが付属する場合もある |
社員が携行するブランドスモールカード。企業理念や企業指針、行動指針、行動規範なども書かれている |
さらに、日本においては、より意味を伝えやすくするために、「shaping tomorrow with you」の文字の下に、「社会とお客さまの豊かな未来のために」といったサブメッセージを用意。これは使用するシーンで最適な言葉を用意して、サブメッセージを使い分けていくということも行われる。
また、5月中には、shaping tomorrow with youを紹介したビデオを完成させ、これを新たに用意するブランドポータルサイトなどを通じて、一般ユーザーにも広く公開する予定だ。
社員に対しては、全世界のグループ社員を対象にeラーニングなどを通じて、啓発活動を行う。すでにオーストラリアの拠点では2月から社員向けの啓発活動を開始。日本でも12万人の社員を対象に4月に実施している。さらに、英語に加えて、中国語、韓国語でも同様の仕組みを用意して、6月までに啓発活動を実施するという。
日本の富士通グループの社員には、企業理念や企業指針、行動指針、行動規範などとともに、ブランドプロミスが書かれたブランドスモールカードが配布されており、社員はこれを携行することになっている。
富士通は、6月20日に創立75周年を迎える。それにあわせて開かれる記念式典では、あらためて富士通ブランドの重要性などに言及されることになりそうだ。そのなかで、新たに制定されたブランドプロミスが持つ意味は大きいといえよう。
山本社長は、「富士通が目指すのは真のグローバルICTエクセレントカンパニー。この実現に向けてはまだ五合目にいる。『shaping tomorrow with you』は、富士通の一番の強みであり、まったくぶれない考え方である、お客さまと一緒に成長していくという姿勢を打ち出したもの。グローバル、クラウドという成長領域に本格的に取り組む上で、この言葉は重要な意味を持つ」と語る。
富士通が真のグローバルICTカンパニーを目指す上で、共通基盤として利用するメッセージが、この『shaping tomorrow with you』ということになる。
2010/5/28/ 06:00