ネットワンに聞く、仮想環境でのFCoEの可能性
仮想化技術が用いられる次世代データセンターにおいて、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)が有力なストレージアクセス方法という評価が高まりつつある。先日行われたVMware Virtualization Forum 2009会場でも、FCoEに注力しているネットワンシステムズ株式会社(以下、ネットワン)がパフォーマンスなどの実証実験を行った結果を発表し、参加者の関心を集めていた。今回は、ネットワンが行ったFCoEの実証実験結果などをベースに、FCoEにフォーカスしてみる。
■ストレージネットワークで注目されるFCoE
データセンターにおいて、ストレージやサーバー間を高速接続する際、FC(Fibre Channel)プロトコルが一般的に使われている。だが、仮想化技術の普及などにより、ネットワークトラフィックが増大した結果、FCの最大伝送速度4Gbps、最大伝送距離10kmという壁を乗り越えなければならない必要性に迫られてきた。
そこで、クローズアップされているのがFCoEだ。FCoEでは、FCフレームをイーサネットフレームにカプセリング化してイーサネット上で動作させるので、その相互接続性によりイーサネットの、例えば10Gbpsというより高速広帯域なども利用できるようになる。
FCoEに注目が集まるのは、こうしたパフォーマンス面からの理由だけではない。例えばデータセンター内では、ストレージネットワーク以外にも汎用イーサネットLANが構築されており、FCoEであれば両ネットワークそれぞれに必要であったスイッチや配線等を簡略化できる。これにより、管理の容易性や経費節減といったメリットも得られる。
■FCoEとFCのパフォーマンス結果
VMware Virtualization Forum 2009会場で展示されたシステム。このラックには、エンドトゥエンドでのFCoE環境を構築する、HPサーバーをはじめデータセンタスイッチ、ストレージなどの主要機器が搭載されている |
VMware Virtualization Forum 2009会場でネットワンが紹介したのが、FCoEとFCのスループット比較。物理環境・仮想環境のそれぞれでFCoEとFCのパフォーマンスが比較された。
サーバーにはHP DL380 G5を、ストレージにはNetApp FAS3140を、データセンタースイッチにはCisco Nexus 5010を使用。FCoE接続には、サーバー側にCNA(Converged Network Adapter)を、ストレージ側にはターゲットカードをそれぞれ搭載し、FCとFCoEの伝送速度を4Gbpsに設定している。
このシンプルな構成で、物理環境と仮想環境の双方を構築。物理環境では、Windowsサーバーを使用している。仮想環境では、VMware ESX 4.0を用いて仮想マシンを構成している。これらの環境で、フリーソフトのIometerを使用して各サーバー上でI/Oを発生させ、そのときのレートを測定した。
64kバイトのブロックサイズでリード時とライト時とで測定すると、リード時におけるFCoEおよびFCの間には、物理・仮想両環境においてほとんど差異がみられなかった。それも、2パスで約800Mバイトと、ほぼワイヤーレートという結果となった。またライト時は、FCoE、FCとも仮想環境で若干減少しているものの、大きな差は発生しなかった。
FCoEパフォーマンス測定の結果 |
■仮想環境構築には、iSCSIとFCoEのどちらがいいか?
仮想環境の構築では、iSCSIも高速広帯域ソリューションとして選択肢に挙げられる。iSCSIは、サーバーとディスク間接続用のSCSIプロトコルをTCP/IPに実装して利用するもので、ストレージとの接続が行える既存のイーサネット環境さえあれば、シンプルかつすぐに構築できる。これに対して、FCoEは対応スイッチが必要な分、システムとしてのコスト高は否めない。
ただしFCoEと比較すると、iSCSIは転送レートが低い、サーバーやストレージのCPU使用率が上がる、などリソース消費面での課題がある。
「同じレートのI/Oを出すのであれば、リソース消費が低いFCoEの方がいいでしょう。また、VMwareで仮想環境を構築する場合、VMotion用インターフェイス、管理コンソール用インターフェイス、ストレージネットワーク用インターフェイスが必要です。さらに冗長化も配慮すると、それらだけで6本といったように簡単にインターフェイスが増えてしまいます。FCoEであれば、各インターフェイスのために十分な帯域を確保でき、かつリンク統合のもと極めてシンプルなネットワーク構成を実現できます」(ネットワン 営業推進グループ ソリューション本部 エンジニアリングサービス部 第4PFチーム エキスパートの藤田雄介氏)と、仮想環境でのFCoEのメリットを紹介。
「iSCSIはレイヤー3までカバーされているので、今後IPv4からIPv6が本格化したときのケアを念頭においておく必要があります。また仮想環境でのモビリティ、例えばVMwareのVMotionの場合、同じデータセンターやマシンルーム内であればiSCSIとFCoEでの差異は考えなくてもいいが、データセンター間ではそうはいきません。例えば、災害対策などデータセンター間での接続を考えると、FCoEではレイヤー2ベースでデータセンター間ネットワークを延長できシンプルにすむし、この間で仮想マシンを異なるネットワーク環境に移しても、FCフレームのイーサネットフレームへのカプセリングというFCoEそもそもの技術が優位性を発揮し、IPアドレスもそのまま使えます」(藤田氏)。つまり、データセンターでの仮想化が今後さらに進めば、FCoEの優位性が高まるということだ。
ただ、FCoEの優位性をアピールするものの、藤田氏はiSCSIが不要とは必ずしも考えてはいない。「これからは、スイッチもストレージもFCoEとiSCSIの双方に対応するカードが出てくると、ユーザーは現況に即してより対応しやすくなるでしょう。現にFCoE、iSCSI、FCすべてに対応可能なマルチプロトコルストレージも存在します」という。
■FCoEベースで仮想環境を構築する企業も
まだまだ対応機器が限られているFCoEだが、FCoEベースで仮想環境を構築している企業も出ているという。ネットワン 営業推進グループ ソリューション本部 エンジニアリングサービス部 副部長の濱田充男氏は、「VMware Virtualization Forum 2009会場では、実際にVMwareで統合し、将来的にはFCoEを念頭においてモビリティを活用することで、システム管理をもっと楽にしたいと考える先進的なユーザーの方たちが目を引きました。すでにFCoE導入を決められた方たちもおられ、前向きに検討している案件ベースも増えてきています」と、好調な立ち上がりをアピールする。
今回の測定では、FCoE化するためのサーバー用CNAやストレージ用ターゲットカードがジェネレーション1と呼ばれる、いわばベータ段階であるため、伝送速度が4GbpsであったりIPと混在できないという制約を免れなかった。また、リンク統合によりインフラはシンプル化され、管理そのものは物理的には簡易化されるものの、やはり論理的にはVLANへの対応など、それぞれ個別に管理対応せざるをえないのが実情という課題もある。
今後は、IEEE DCB(Data Center Bridging)規格のステップアップをにらみながら、セカンドジェネレーションにおけるCNAやターゲットカード、そして本格的なテストツールを用いて、実環境における測定を行う予定。これにより、ファイバトラフィックとIPトラフィックとの混在環境、8Gbpsや10Gbpsなどさらに高速広帯域環境での測定を行うとしている。そして、来年には「フローコントロールやQoSの正常な動作などをフィックスさせていきたい」(藤田氏)と語る。
FCoE採用企業がある反面、FCoEはまだまだ理解されていないのが現状だ。今回、ネットワンが行った実証実験もFCoEへの関心を高めることが大きな狙いであり、早期段階での測定ながらも、FCとの混在環境でFCoEは遜色(そんしょく)ないことが実証できた点を強調する。これから仮想環境を構築するのであれば、FCoEもあわせて検討するといいだろう。
2009/12/7/ 00:00