「クラスメイトPC」を利用したICT実証実験-インテルと内田洋行が実施


左より、内田洋行 代表取締役社長の柏原孝氏、インテル代表取締役社長の吉田和正氏、内田洋行 取締役専務執行役員の大久保昇氏

 インテル株式会社と株式会社内田洋行は5月27日、教育のICT普及を目指した“児童一人に一台のPC”プロジェクトの第二弾として、都内の公立小学校を対象とした実証実験を開始すると発表した。

 “児童一人に一台のPC”プロジェクトは、2008年8月に千葉県柏市の小学校2校を対象に開始したプロジェクト。児童一人に一台のタブレットPCを配布し、国語と算数の反復学習などで利用することで、学力向上にどのような効果があるかの実証実験がおこなわれた。

 柏市での実証実験の成果について、インテル代表取締役社長の吉田和正氏は、「学期末に行われている総合テストの成績について導入前後で比較すると、国語と算数ともに平均点が上昇するなど良好な結果が得られた。特に導入前に70~80点だった児童の成績が向上していた。また、半数以上の児童が楽しかったと回答するなど、学習意欲の向上にも効果があった」と、一定の成果が出たと説明。内田洋行 取締役専務執行役員の大久保昇氏は、「実証実験を行った教員に聞くと、ICT活用が学力向上につながったという評価をいただいた。特に、授業の改善や授業そのものの質の向上などの面での評価が高かった」と、児童だけでなく、教員にとっても有効であったとした。

 第二弾となる今回のプロジェクトでは、対象授業を、国語・算数のほか、2011年度から新学習指導要領で小学校5・6年生で必修化される外国語活動(英語)を追加。「前回は2クラスで共有する形で一人一台のPCを用意したが、今回は一人で占有できるよう」(大久保氏)児童一人に一台、PCが提供される。


柏市での実証実験の結果今回は児童一人につき一台のPCを用意今回の実証実験校
クラスメイトPCを試験的に利用

 今回提供されるPCは、教育用途向けPCのリファンレンスモデルを採用した「クラスメイトPC」を試験的に採用。クラスメイトPCは、無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)やWebカメラを内蔵したAtomベースのノートPC。8.9インチ(1024×600ドット)の感応式タッチスクリーンを搭載しており、本体サイズは幅240mm×奥行き180mm×高さ26.0~39.3mm、重量は1.2~1.4Kg。児童が教室で落とすことを考慮し、50cmの落下テストをクリアした耐衝撃性も備えている。


クラスメイトPCを掲げるインテル吉田社長今回利用されるクラスメイトPC専用ラックも用意されており、管理性も向上している

 吉田氏は、「実証実験により、紙と鉛筆との親和性が高い手書き入力が可能なタッチパネルが重要という結果が出た。また、前回利用したPCの画面サイズが5インチだったことから小さいという意見もあり、8インチから12インチくらいの適度な画面サイズが必要であることもわかった。コンテンツに関しては、学習指導要領に従った構成がやはり必須であり、学習課題に対する理解や考え方の説明といった対応も求められていた。そのほか、インターネットや無線LANの接続トラブルへの対応、収納や充電機器などの設備、教員への研修・トレーニングの必要性など、運用時の広範囲なサポート体制の確立なども課題として浮かび上がっている」と、実証実験によりさまざまな課題が明確になったと説明。

 PCに関しては、8.9インチ液晶のクラスメイトPCを今回投入。また、専用のラックを用意するなど、管理面での対応も行われている。

 コンテンツに関しては、小学館デジタルドリルシステムを採用。これはドリル型のコンテンツで手書き認識に対応しており、自動採点が可能なのが特長となっている。また新たに英語コンテンツも採用。「読む」「書く」「聞く」「話す」をバランスよく学習できるコンテンツとなっている。

 インフラの面では、無線LAN環境の検証も行われる。大久保氏は、「同時に40台がアクセスするというのはビジネスユースではなかなか考えられない環境であり、トラフィックといった面での検証が必要。また、今回は都心の学校であることから、さらにシビアな環境になるのではないかと考えている」と、学校特有の環境を意識した実証実験を行うと説明。「また、今回の学校では電子黒板も導入されているので、電子黒板とクラスメイトPCとを連携した授業などの検証も行いたい」とした。


実証実験で導入されるドリル型コンテンツ英語ノートに対応した英語コンテンツも採用ICT環境の運用やソフトウェアの検証も実施

 「日本のICT教育は、ICT環境整備の予算が少ない、ICTを利活用する有用性について認識されていない、その結果授業でのICT利活用が進まない、という悪循環に陥っているのが現状。実際、e-Japan戦略で掲げられた整備目標も未達の状態で、さらに遅れているといった状態」(大久保氏)と、ICT環境が整備されていないことに危機感を抱く。

 しかし、現在国会で審議されている補正予算内で、学校ICT環境整備事業として総額4081億円の予算が計上されている。これにより校内LANの整備率が63%から100%に、また、校務用PC整備率も58%から100%になるとしている。「今回のプロジェクトと補正予算は直接関係はないものの、一人一台のPCが普通の学校でも使える環境が見えてきた。実証実験によりさらなる検証を進めていきたい」と、今回の補正予算を追い風にしたい考えを示した。

 内田洋行 代表取締役社長の柏原孝氏は、「内田洋行は、昭和20年に理科実験機器を提供して以来、学校向けに取り組んでいる。近年では、学習内容の変化が進んでいるのに加えて、ICT環境が進化するなど、授業でICTが当たり前のように使われる時代が目の前まで近づくほどに教育環境が大きく変化している。今回の実証実験によりICT活用が進むことを期待している」とした。





(福浦 一広)

2009/5/27 18:57