「仮想化でサーバー出荷台数が減っても大丈夫」、米DellベッカーVP


4月に発表された第11世代サーバー

 デル株式会社は今年4月、第11世代サーバーを発表した。ブレードサーバーの「Dell PowerEdge M610」、「Dell PowerEdge M710」、タワー型サーバーの「Dell PowerEdge T610」、ラック型サーバーの「Dell PowerEdge R610」、「Dell PowerEdge R710」の5機種を投入し、ラインアップを一新。デルが目指すITのシンプル化を促進する最適なサーバーだと位置づける。米Dellバイスプレジデント エンタープライズ・プロダクトグループ ソフトウェア&ソリューションズのリック・ベッカー氏に、第11世代サーバーへの取り組み、そして、デルが目指すエンタープライズコンピューティングへの取り組みについて聞いた。


顧客を支援するためのイノベーションを追求するのがデル


―経済環境が悪化するなか、デルに対するユーザー企業の要求はどう変化していますか。

米Dellバイスプレジデント エンタープライズ・プロダクトグループ ソフトウェア&ソリューションズのリック・ベッカー氏

ベッカー氏
 世界各国のユーザーと話をしていますが、どこの顧客でも異口同音に語るのが、景気が悪いこと、厳しい環境に置かれているということです。そうした環境下において、デルは、どんなお手伝いができるのか。その回答は、エンタープライズをより効率化すること、ITをよりシンプルにすること、そして、オープンであり、標準をベースにしたシステムを構築してもらうことに尽きます。競合他社はこうした状況下においても、何十人もコンサルタントを送り込み、多額のコンサルタント料を顧客に支払わせようとしている。独自のチップやフォームファクター、プロセッサ、ソフトで顧客を囲い込もうとしている。デルは、エンタープライズ全体を効率化し、ITのシンプル化を図れるソリューションを提供できます。デルは、イノベーションのためのイノベーションをやっているのではなくて、顧客を支援するためのイノベーションを追求している点が他社とは違うのです。その考え方を具現化したのが、第11世代のサーバーだといえます。


―顧客を支援するサーバーとは、どういう点を指しますか。

ベッカー氏
 HP、IBM、日立、NECは、すべての課題をブレードで解決できるといっていますが、16台未満の場合、ブレードのソリューションを実行すると最も高価なソリューションになります。第11世代サーバーでは、ブレードサーバーの最適化に加えて、ラックサーバー、タワー型サーバー、ストレージを最適化し、それぞれのニーズに対応できるようにしています。

 第11世代サーバーの出荷を前に、デルは、顧客を対象にブラインドテストを実施しました。各社のサーバーを用意し、どこが調査の主体であるかを明かさずに行った調査です。ここでは、ラッチはどうか、ブラグインはどうか、シャーシの入れ方、ストレージのホットスワップ対応はどうかなど、15の調査項目を設けましたが、そのうち、13項目でデルがベストとなりました。残念ながら、ハードドライブとファンの2項目では、ベストとはなりませんでしたが、その後改良を加えて、再評価してもらったところ、すべての分野でベストのサーバーになりました。つまり、現在の第11世代のPowerEdgeサーバーは顧客にとって最高のサーバーだといえますし、インテルXeon 5500番台による業界最高のパフォーマンスによって、優れた仮想化環境を実現できることも実証されています。

 データセンターにおいては、初期コストを下げるだけでなく、電力消費コストを下げること、寿命を延ばすことが、顧客の大きなプレッシャーとなっており、第11世代サーバーで実現している業界最高のワット当たりのパフォーマンスの実現は、まさに顧客の要求に応えたものです。新サーバー5製品では、電力効率で世界記録を樹立していますし、HPのサーバーよりも48%も高いワット性能比を実現しています。

 一方、ライフサイクルコントローラを業界で初めて搭載し、ライフサイクルマネジメントを大きく変えることにも成功しました。パフォーマンスがほしい、電力効率が高いものがほしい、そして、ITのシンプル化が行えるものがほしいとなれば、デルの第11世代サーバーしか選択肢がないといえます。さらに、第11世代サーバーは仮想化に最適なサーバーだという魅力もあります。


Energy Smartコンポーネントなど第11世代サーバーではワット性能比を向上同社の前世代サーバーおよび他社サーバーとの比較仮想化パフォーマンスのベンチマーク


―どんな点で、仮想化に最適化していると言い切れるのですか。

ベッカー氏
 いまや、ITをシンプル化するためには、仮想化技術を活用することは重要な鍵になります。第11世代サーバーでは、VMware、Citrix、Microsoftの組み込みハイパーバイザーを選択できます。それは業界で最も広い選択肢を用意していることになります。また、仮想化におけるパフォーマンスのボトルネックとなるのは、CPUではなく、I/Oです。メモリを125%増とし、I/Oを60%も向上させることで、パフォーマンス上のボトルネックを解消することに成功しています。

 また、多くのユーザーは、バーチャルマシンのスプロール現象に困っています。デルは、EMC、EqualLogicを使ってもらうことで、こうした課題を解消できる提案が可能です。さらに、デルのコンサルティングサービスでは、ワークショップのようなスタイルで仮想化に関するノウハウを提供したり、レディネスアセスメントの提供、設計、実装サービスを含む包括的な仮想化サービスを展開できます。こうした環境からも、第11世代サーバーを擁するデルが、仮想化に最適化したソリューションを提供できるベンダーであることがわかると思います。

 もうひとつ、強調したいのは、デル自身が仮想化による恩恵を強く受けている企業だということです。


デル社内でも5000台以上のサーバーを集約-2900万ドル以上を削減


―デルは仮想化によってどんな恩恵を受けているのですか。

ベッカー氏
 デルは、いまから3年前に、データセンターが肥大化して、新たな建物を作らなくてはならない状況に陥りました。そこで、5000万ドルを投資して、土地を買収し、建物をつくり、データセンターを稼働させることになりました。このとき、会長のマイケル・デルは、「ビルを建てるのは、これから利益をあげるための投資である。効率よくビジネスを進めていくことを考えてほしい」と、われわれにいいました。つまり、ブレードのソリューションを活用して、もっと効率的なデータセンターを作れという指示です。

 そこでわれわれが考えたのが、データセンターの寿命を従来のものに比べて、2~3年は長く使えるものにすることでした。3年が経過した現在、データセンターが持つキャパシティでは従来のものに比べて、200%以上となっていますし、寿命も3年以上になっています。近い将来、新たなデータセンターを作る必要はありません。

 社内では、Exchangeサービスを提供する上で334台のサーバーが稼働していましたが、これを仮想化することで、21台のブレードに集約しました。334台のサーバーですと、16ラック必要ですから、データセンターの端から端まで占めてしまいます。ところが21台のブレードでは、ラックの数を2分の1にまで減らすことができます。加えて、仮想化によって、電力消費も大幅な節減に成功しました。さらに、サポートする人員も11人から1人に減らし、ここでもコストを削減できました。仮想化のメリットを生かして、3年間で100万ドル以上の削減に成功することができたのです。

 また、データセンター全体では、5000台以上を集約して、2900万ドル以上のコストカットになりました。サーバーのフットプリントは70%に減らすことができ、電力消費も50%を改善しました。デルは、こうした自身の経験を生かして、顧客には、さらに高い効果をもたらすことができます。


―仮想化という観点から、日本のユーザーの反応はどうですか。

ベッカー氏
 日本の顧客は、新しい技術には比較的慎重にアプローチする傾向が強く、リスクを好まないところがあります。技術を理解し、ソリューションを提供する体制が確立したことを認識し、さらに世の中に成功事例があることを知って、初めて本格的な検討を開始する。そのために世界の流れから遅れることもあります。

 だが、日本におけるデルの2008年の仮装化に関するビジネスは、前年比70%増と飛躍的に増えています。いまや、仮想化は避けては通れない選択です。この勢いはこれからも続くのは明らかで、今後は日本の顧客にとっても、重要なポイントになってくるはずです。


―第11世代サーバーでは、運用管理における進化が大きいと感じますが。

ベッカー氏
 第11世代サーバーでは、ライフサイクルコントローラを採用し、すべての製品にマイクロコードを入れ、ダイナミックな形でBIOSを管理できるようにしています。従来のプラットフォームでは、ファームウェアやBIOSをロールフォワード、ロールバックワードしたりといったことは考えられることはありませんでしたが、これを提供できることで、顧客レベルで自己管理ができるようになりました。

 また、サーバーのプロビジョニングや、ライフサイクルマネジメントも飛躍的に進歩しています。さらに、OpenManageフレームワーク上の新たなサーバ管理ツールであるDell Management Consoleによって、データセンター全体を管理できるようになった。これは、Altiris、シマンテックとの協業によって実現したもので、当社のハードだけでなく、競合他社の製品を含む異機種混在環境のなかでも、シンプルなライフサイクルマネジメントを行えるようになっています。顧客の方で自由な裁量のなかでシステムベンダーやソリューションを選びたいという要求に応えたもので、当社では、そうした環境でも安心して活用してもらえるように、認証プログラム制度を実施し、顧客を囲い込まない戦略を行っています。

 そして、最後に、Image Directがある。この仕組みをベースとすることで、ITaaSとして、クラウド環境から、ITをマネジメントすることもできるようになります。ライフサイクルコントローラ、Dell Management Consoleなどと連動し、物理的なサーバー、仮想サーバーを効率化し、コスト低減のためのソリューションにつなげることができます。今後の展開が楽しみなソリューションです。顧客は、電力効率、パフォーマンスの向上が課題ですが、それと同様に、トップレベルの問題として位置づけられるのが、ITの運用をどうするのか、管理コストをどう下げるのかといった点です。ここにも第11世代サーバーの強みが発揮できるというわけです。


仮想化でサーバーの出荷台数が減ってもストレージの出荷台数は増加


―4月に第11世代サーバーを発表して以降、ユーザー企業からの評価はどうですか。

ベッカー氏
 欧州地域において、ある早期導入顧客からこんな意見をいただきました。「第11世代サーバーには不満だ」と。なぜ不満なのかというと、ベータユーザーである以上、こういうところが問題である、ここを改善しなくてはいけないといことを注文を出す立場にあるべきなのに、それがまったく見つからない。パフォーマンスが高く、使い方もシンプルである。一番知りたいのは、どれだけ早く買えるのかということだ、というわけなんです。

 一方で、日本では、HPCの顧客から、「待ち望んでいた」という声をいただきました。第10世代のラックに比べて、第11世代サーバーではかなり小さなラックとなりましたから、スペース効率の点でもメリットがある。そして、消費電力効率のメリット、インフィニバンドがサポートできる点なども評価されています。多くの引き合いをいただいています。


―仮想化が進展すれば、デルにとっては、サーバーの出荷台数が減少します。収益性という観点では、マイナスに働くのではないですか。

ベッカー氏
 確かに、サーバーの出荷台数は減ることになります。ところが、別の領域で利益を創出できるようになります。例えば、従来のサーバーに比べると、コンフィグレーションがリッチになっており、メモリの容量、ストレージへのアクセス、ネットワークのI/O数も増えています。また、仮想化環境では、ストレージの導入台数が増加する傾向がある。サーバーが減るのと反比例するように、ストレージの販売台数は増加することになります。

 また、デルは、コンサルティングの費用が競合他社に比べて少ないというお話をしましたが、新たなプロセスを提案し、ITをシンプル化し、エンタープライズを効率化できる提案を行えば、われわれの製品を購入する顧客、付帯するサービスの増加にもつながる。デルは昨年度、サービス関連事業だけで、61億ドルの売り上げを計上しました。この売り上げはますます増えていくことになるでしょう。

 サーバーの販売台数は減るが、提供するソリューションの幅は広がる。そこから利益が得られる。ここでも、われわれが考えることは、競合他社とは違うといえます。





(大河原 克行)

2009/6/23 09:00