日立、企業向けクラウドとして「指静脈マネー決済」を事業化へ

指静脈マネー対応自販機を参考出展

 株式会社日立製作所(以下、日立)は7月21日、指静脈認証の事業戦略説明会を開催。これまでの実績を紹介するとともに、「グローバルソリューションの展開」と「国内での認証サービス事業化」の推進で、2009~2011年度累計1100億円の売り上げを目指す方針を明らかにした。

指静脈認証は2010年に1500億円市場へ

情報・通信グループ セキュリティ・トレーサビリティ事業部 セキュリティソリューション本部長の中井幸一氏

 指静脈認証技術とは、指に近赤外線を透過させて得られる静脈パターンの画像により、個人認証を行う方法。従来の記憶認証(パスワード)のような暗記や定期更新が不要で、物理認証(ICカード)のように常備する必要もなく、紛失や盗難の恐れが少ないのが特徴。静脈認証は、指紋や顔、虹彩などほかの生体認証と比べても、コストと安全性に優れ、唯一外からは見えない生体内部の特徴を利用することから、偽造に強い次世代生体認証として期待されている。

 情報・通信グループ セキュリティ・トレーサビリティ事業部 セキュリティソリューション本部長の中井幸一氏によれば、「利便性とセキュリティ強度を両立することから、市場は急速に広がっており、2011年には1500億円へ拡大する見込みとなっている」。

 日立では2003年から静脈認証に取り組み、現在「機器組み込みセキュリティ」「金融セキュリティ」「ドアアクセスセキュリティ」「ITセキュリティ」の4分野でソリューションを推進。2006年からはグローバル展開とパートナー連携も積極的に進め、現在は「さらに応用分野を拡大すべく検討しているところだ」(同氏)という。

指静脈認証の特徴各種生体認証との比較静脈認証市場は急速に拡大

国家セキュリティ市場へ指静脈認証を訴求

 今後の事業戦略としては、「グローバルソリューションの展開と国内での認証サービス事業化を推進する」と同氏。具体的には、「国家セキュリティ市場への参入」「クラウドサービス事業化の推進」「指静脈認証のデファクト化・国際標準化の推進」の3点を掲げ、「2009~2011年度累計で関連システム含め、1100億円の売り上げを目指す」(同氏)とする。

 国家セキュリティの分野では、まず海外市場への参入を見据え、グローバルパートナーとの協業強化を行う方針。「グローバル生体認証市場を見ると、不況にあえぐ民需を横目に、国家セキュリティ分野が好調。当社としてはここを狙っていく。ただし、国家セキュリティ分野では、指紋認証が全体のおよそ67%と主流。この巨大な指紋市場に指静脈認証の優位性や利便性をアピールすることでシェア拡大を図る」(同氏)。

 協業強化としては、指紋認証分野の世界トップシェアを持つ仏Sagemと提携。2010年をめどに、同社の指紋認証技術と日立の指静脈認証技術を組み合わせた「マルチモーダル認証製品」の開発を行い、より高セキュリティの認証として、海外の国家セキュリティ市場へ訴求。「その協業成果を持ち帰り、日本市場への逆輸入も視野に入れる」(同氏)とする。

今後は、グローバルソリューションの展開と国内での認証サービス事業化を推進グローバルフレームワーク。パートナー拡大で海外の国家セキュリティ市場へ。その成果を日本市場に逆輸入

クラウド事業化も検討、「指静脈決済」の実現へ

指静脈マネー対応自動販売機(試作機)

 一方、エンタープライズ向けには、2010年の実現を目指してクラウドサービスの事業化も検討中。指静脈認証プラットフォームとして提供を予定しており、日立のデータセンターで指静脈データを集中管理。企業内では、自動販売機や売店での「指静脈マネー決済」を実現し、自宅では、eラーニングなどの本人認証を実現する。

 指静脈マネー決済では、指静脈データとともにクレジットカード情報を登録しておくことで、飲料などのスピーディな購入を実現。日立社内の売店などでは、すでに実用されているというが、今回はさらに、コカ・コーラなどの協力により開発した「指静脈マネー対応自動販売機(試作機)」が紹介された。

 主にオフィス内を想定したもので、通常の自販機の脇に、指静脈認証ユニットとデジタルサイネージのディスプレイが取り付けられている。社員は硬貨の代わりに、指静脈認証を行うことで飲料が購入できるほか、その社員に最適な情報がディスプレイに表示される仕組み。現状、試作機の段階で、今後の商品化などは一切が未定というが、日立ではこうした指静脈認証とデジタルサイネージの融合で、新たなサービスモデルを模索する方針だ。

 7月22~23日に東京国際フォーラムで開催される「Hitachi uVALUE CONVENTION 2009」では、このほか、次世代型となる「フルディスプレイモデル」の自販機も参考出展される。こちらは既存の自販機の概念を大きく打ち破るもので、前面に搭載された巨大ディスプレイのタッチパネル操作で飲料が購入できるようになっているほか、指静脈認証を行った社員ごとに、社内研修のリマインドなど膨大な情報をプロモーションすることが可能となっている。

指静脈認証で購入可能指静脈認証ユニット社員ごとに最適な情報が表示される

さらに次世代型として「フルディスプレイモデル」も参考展示大型デジタルサイネージに大量の社内情報を表示

飲料の購入もタッチパネル式に行う購入後は社内研修のリマインドなど社員に合った情報を大量に表示する

デファクト化・国際標準化への活動強化

 こうした事業展開を通じて、指静脈認証のデファクト化・国際標準化も推進するのも戦略の一端。これまでの実績としては、金融ATMで80%のシェアを獲得したほか、フランスで指静脈認証を搭載した製品が公的機関から、高いセキュリティを確保した生体認証製品として認定を受けている。

 今後はさらに活動を強化し、「国内外パートナーを拡大し、世界約30カ国と地域への販売を進めていく。同時に国際標準化(ISO)の推進も図り、互換テンプレートの策定や静脈認証の図記号策定に貢献したい」(同氏)としている。





(川島 弘之)

2009/7/22 00:00