「『取りあえず著名製品を買おう』がなくなる不況時こそチャンス」-米ProgressリーディーCEO
米Progress Software(以下、Progress)はもともと、OpenEdgeをコア製品として立ち上がったソフトウェア企業だが、2003年より買収戦略に転じ、多数の企業を買収して、SOA関連製品などを強化・拡充し、体制を整えてきた。今回は、来日したProgress 社長兼CEOのリチャード・D・リーディー氏と、日本プログレス株式会社 代表取締役の田上一巳氏に、Progressの戦略を聞いた。
Progress 社長兼CEOのリチャード・D・リーディー氏(左)、日本プログレス株式会社 代表取締役の田上一巳氏(右) |
―SOAという概念はずいぶんと普及しましたので、IT部門については、その価値を理解する人が増えていると思います。しかしビジネス面でのメリットが、経営陣にはなかなか認識されていないのではないかと思うのですが。
リーディー氏
それは重要な点です。SOAは、それだけではオペレーショナルレスポンシブルは達成できません。効果的なソリューションも一緒に提供していかねばならないのです。まず必要なのは可視化のソリューション。何が起こっているのかをダッシュボードで見える化すれば、起こっていることに応じたアクションが取れるようになります。当社の価値は、このように、SOAのインフラの上に可視化や管理性を載せることです。それによって、ビジネスに対して特別な価値を提供できます。
ここでもう1つ注意しなくてはいけない点は、SOAは、データを扱ったり管理したりすることが得意なのではなく、ビジネスプロセスを統合することが特徴だ、という点です。ですから、データインフラの統合に多くの企業は苦労しています。こうしたデータの基礎部分に対しても、当社は価値を提供できるのです。
―価値を理解してもらっても、SOAを全社的に広げるには、IT部門だけの取り組みでは荷が重すぎるように思えます。どのように、ほかの部門を巻き込んでいったらいいのでしょう?
リーディー氏
当社では、SOA自体を販売しているのではなく、ソリューションを販売しています。CEOなどの経営陣に製品をアピールするときは、SOAという言葉ではなく、「ビジネストランザクション・アシュアランス(ビジネストランザクションの保証)」なのだと伝えています。例えば、ビジネスにおける一連の流れの中で、請求書がなくなってしまった、発注がきちんとなされていない、という状況を可視化できます。こうすることで、ビジネス系の方にも、ここが悪かったということを気付いてもらえるんですね。よりチャンスを作り出す、リスクをなくす、効率性を高めるといった効果を強調することで、メリットをわかってもらえるようにしています。
具体的な例をお話ししますと、当社は株式などの取引市場で強いのですが、そこでもSOAとはいわず、(イベントをモニタリングして分析することで、自動的に取引を行う)アルゴリズムトレーディングという言葉を使って説明しています。このように、当社が市場で製品を販売する際には、ビジネス系の方々に使用例を紹介し、きちんとお使いいただいている事例を示しています。こういった話は、ITの方々ではなくトレーダーに話しています。
―ビジネスを実際に行う人が価値を理解できれば、IT部門にも協力的になるということですね。こうしたことを踏まえてか、SOAを提供する他社でも、ビジネス向けにわかりやすいメッセージを発信する企業は増えてきています。
リーディー氏
今では、技術系の企業であっても、ソリューションベースで提示することが一般的になってきてはいますね。しかしそういう中でも当社は秀でたアプローチをしているといるでしょう。競合の中には母体が大きいところもありますが、大きいだけに、転換も難しいのではないでしょうか。
ただ、重要な点として、技術そのものもやはり大切なのだということを強調しておきます。まずは、ベストな技術を持つことが必要なのであり、当社は、多くの分野で革新的な技術を持っていると自負しています。技術を持った上で、それをどうやってビジネスケースに適合させていくかを考えていくことこそが、本当に重要なことなのです。
―SOAの代表的な利用シーンとして、メインフレームへの適用ということもあるようですが、この分野での状況はいかがでしょう。
リーディー氏
当社ではあらゆるデータソースに、フォーマットに、どんなときでもアクセスできるので、メインフレームについても、それ以外にも統合環境を提供でき、いずれの環境でも利用されています。zIIP、zAAPといったコプロセッサに対応したユニークなソリューションもありますし、もう1つ、メインフレームでは、単一サーバーへの統合が可能という利点もあります。それによってSOAのレイヤを、メインフレームの資産をすべて含んだ形で作成できるメリットがあります。
田上氏
メインフレームについては、国内でも活用が進んできました。なかなか事例として公開できないのが、もどかしいのですが。メインフレームでのSOAはもともと、ダウンサイジングとして使われるときが多かった。しかしzIIPの登場などにより、Webサービスでの利用も増えています。OSが安くなったこと、Webサービスがリーズナブルになってきたこと、また何よりCOBOLのエンジニアを抱えていられなくなった企業が多いので、Javaが使われるようになっているんです。当社では、Sonic ESBによるデータ連携ができますから、それを見据えてWebサービス化を進められる点もメリットでしょう。また、メインフレームのソフトはもともと高いですので、ROIが出しやすいという点も追い風です。
―SOAの問題の1つとして、ガバナンスの欠如を指摘される場合もありますね。ここに対しては、どういったソリューションを提供されていますか?
リーディー氏
そのために、当社ではActionalとMindLeafを買収しています。可視化の強化という目的もありましたが、もう1つ、ガバナンスの強化が目的でした。ポリシーベースでガバナンスを構築したいというニーズがあり、それに応えています。
全体の環境を作ることによって、イノベーションをやりづらくなるといったマイナス面もあるかもしれませんし、制限のない環境で作っていく方が、早く開発ができるのは確かなのかもしれません。ですから当社では、最終的にはどこまでガバナンスをきかせたいのかを、必ず確認しています。しかし長期的には、(ガバナンスが欠如すると)IT全体の視点からさまざまなサービスやアプリケーションが重複してしまい、遅くなることでしょう。
別の側面では、規制が強化されているような業界もありますので、ルールにしたがっていくと、ITにも制限が伝わってくるところがあります。また、ルール違反をリアルタイムで知る必要が出てきていますので、その面でもガバナンスはメリットがある。さらには、機会を与えることもメリットで、情報の変化に競合より早く気がついて対応できれば、優位性を築くことができます。
田上氏
日本企業の中には、Webサービスが基幹システムになっているところがありますが、そういった場合はガバナンスを持ってきちんとトラックしていかなければ、障害時に原因がわからず、基幹システムが半日落ちてしまう、ということにもなりかねません。死活問題になりますから、このような企業はとても真剣にガバナンスと可視化に対して取り組んでいます。
―Progress全体で、成長が期待できる領域はどこでしょうか?
リーディー氏
データインフラの領域、オープン統合の領域、Apamaに代表されるESP(イベントストリーム処理)のエリアなどです。特にCEP(複合イベント処理)は今年で2倍になる見込みですね。まだ小さくはあるが市場自体が伸びているし、当社はもともとリーダーなのです。
田上氏
日本では、データモデルをもっともっとやっていかないといけないと思っています。特にテレコム市場においては、しっかりと立ち上げていきたいと考えています。ニーズがあるのと、市場としての状況が悪くないからです。
―最後に、日本の企業にアピールしたいことはありますか?
リーディー氏
Progressは、市場においてとてもユニークなポジションにいます。経済危機の中で、お客さまの「取りあえず著名企業の商品を買おうか」というような決断はなくなってしまうでしょう。企業はより賢明になって、コスト効率の高い、きちんとしたビジネス価値を出せるソリューションを探しています。当社の製品はコスト効率でも技術でも優れており、こうした、考えて投資をするような経済状況は、いっそういい位置にいくチャンスなのではないかと考えているのです。
―ありがとうございました。
2009/8/11 16:59