日立が中期経営計画を発表、社会イノベーション事業に1兆6000億円を投資
代表執行役 執行役社長の中西宏明氏 |
株式会社日立製作所は5月31日、2012年に売上高10兆5000億円、営業利益5%超、当期純利益2000億円台の安定確保を目標に掲げた中期経営計画を発表。それを達成するための経営施策について、代表執行役 執行役社長の中西宏明氏が詳細を説明した。
今回の中期経営計画で大きく掲げたのは、「創業の原点である『社会イノベーション事業』による成長と、安定的経営基盤を確立する」ということ。ここでいう社会イノベーション事業とは、「産業・交通・都市開発システム、情報・通信システム、電力システムの3事業と、それらの融合分野、材料・キーデバイス」で、現在の連結売り上げの60%を占める部分だ。中西社長は、「グローバル」「融合」「環境」の3つのフォーカスからここを強化すると説明したほか、中期経営計画全体での重点施策としては、日立の強みを発揮する「グローバル戦略」と、研究投資を含めた経営リソースの「重点投資」、経営基盤強化による「収益安定化」の3つを挙げる。
2009年度までの業績概況 | 2012年度の目標 |
注力事業分野の社会イノベーション事業 | 中期経営計画の基本施策 |
そのうち、1つ目の「グローバル戦略」では、「グローバルな現地化の推進・拡大を行う」ことが鍵。その中でも、「グローバルなお客さまのニーズをタイムリーにとらえ、迅速に事業を展開するためには、現地司令塔機能が重要」として、現地の価値観や規格、リスクを現地主導でとりまとめ、地域ごとのきめ細かな戦略を進めていく考えを示した。また、特に中国や、シンガポール、インドなどのアジアベルト地域を中心に、パートナー連携による事業機会の拡大を目指す意向で、加えて、日立の持つ強みを生かし、環境配慮型の都市作り、上下水道運営管理、環境配慮型データセンター事業といった新規事業も拡大する考えを示す。
グローバル戦略では、グローバルな現地化の推進・拡大を目指すほか、パートナー連携や新規事業の創出も強化する |
具体的な例として、中西社長は、早期に進出して以来、着実に事業を拡大し、1兆円規模の事業を展開している中国での例を紹介。「今後も高い成長が期待される中国事業は、シェアトップを争っている建設機械やATM、エレベーターなどの個別事業の強化を図る。あわせて、日本で築き上げた省エネ、環境技術で、スマートグリッド、水処理システムなど、中国で課題となりつつある環境分野にも貢献。環境システムモデルなど、中国で培った新たなビジネスモデルを、アジアベルト地帯の社会イノベーション事業に生かしていきたい」と話した。
一方先進国では、ハイエンド分野で世界トップシェアを持つストレージ市場に言及。卓越した技術力と、シリコンバレーの現地法人のマーケティング力をもとに事業を展開してきたが、今後はコンサルティング事業とあわせて、ICT事業をグローバルに展開する意向を示したほか、欧州では、「厳しい環境規制が適応されるとともに、社会インフラの老朽化が進み、リノベーション事業の需要が拡大している。火力発電や英国での鉄道事業など、現地の司令塔機能の強化と、さらなるリソースの強化で、おう盛なリノベーション需要をとらえる」とした。
日立では、こうしたグローバル展開を一層進め、海外の売上比率を50%以上へ高める考えで、さらに人的リソースについても、海外比率を高める計画。ただし、国内事業についても、「日本市場の成長は鈍化するともいわれているが、クリエイティブな提案をすることで、ビジネスを伸ばす大きなチャンスがあると考えている。お客さまと培ってきた先進技術と実績を生かし、クラウドをはじめとする高付加価値サービスの拡大を図る」としたほか、スマートグリッド事業の拡大、電力事業などに積極的に取り組むとしている。
中国での展開 | 北米での展開 |
2つ目の「重点投資」では、「コモディティ事業を遠ざけたことに加え、納税の効率化などのため、社会イノベーション事業の上場子会社を完全子会社化するなど、売り上げ規模で3割におよぶポートフォリオ見直しを継続的に行ってきた」と、過去の実績を説明。その上で、今後も再編を継続することと、さらに、全社をけん引する役割を担う社会イノベーション事業へ重点的に投資を進めることを明言した。
実際の金額としては、2010年度から2012年度までの3年で、設備・戦略投資の全社総額1兆4000億円のうち7割の1兆円を社会イノベーション事業に投資し、データセンター事業の拡大、火力・原子力電力システムの競争力強化などを実施。M&Aの積極的な活用も含めて、重点的に社会イノベーション事業を強化する。
加えて研究開発投資も、全社総額の5割にあたる6000億円を社会イノベーション事業に投資し、北米のストレージシステムや中国のスマートグリッド、またグローバル拠点のR&D基盤拡大、インフラ向け情報基盤の拡大、エレクトロニクスの研究開発などを行っていく。これは、グループ内の高機能材料事業に位置付けられるところも同様で、社会イノベーション事業を支える先端技術への注力を、今後も継続する考えだ。
ポートフォリオを整理し、売り上げの3割の規模を見直した | 社会イノベーション事業へ、重点的に投資するとした |
設備・戦略投資では3年で1兆円を投資 | 研究開発投資でも3年で6000億円を投資する |
最後の「収益安定化」では、「薄型テレビのパネル製造などをやめてOEMに切り替えたほか、自動車機器関連事業で構造改革を進め、本年度は黒字化。HDDも2年連続の黒字化に加え、2010年1~3月期にもさらなる拡大基調にある」(中西社長)と、課題事業の現況を報告する。
また、コスト削減策は今後も引き続き徹底するとし、「資材費は、集約購買を調達高の35%へ、グローバル調達を25%から50%へ引き上げる。固定費比率の継続的な引き下げやシェアードサービスの拡充により、グローバルで勝てるコスト競争力を目指す」ことを強調。連結納税の活用などもあわせて、「2000億円が安定的に確保できる収益性の強化を図る」とアピール。株主資本の強化や総資産の圧縮、有利子負債の削減など、財務体質の強化も継続すると説明している。
課題事業の改善状況 | コスト削減策の徹底 |
こうした施策によって、中期経営計画では前述の通り、2012年度に売上高10兆5000億円、営業利益5%超、当期純利益2000億円台の安定確保を目標に掲げている。その鍵を握るのは、やはり社会イノベーション事業で、「現在でも、利益率、利益額ともに社会イノベーション事業がけん引しているが、2012年ではこれがさらに加速する。同事業の営業利益率は7%を目標にしており、グループ全体の収益構造をリードする役割を担う」(中西社長)との期待を示す。
なお日立では、創業100周年にあたる2012年度を、「守りから攻めにいたるターニングポイント」と位置付けている。中西社長は、これについて、「日立グループの総力を結集し、人を生かし、技術を生かすことで中期経営計画を達成する。大事なのは、創業当時のベンチャー精神を発揮しながら、一人一人が攻めること。守りの施策としては、コスト競争力の向上と財務体質の強化を図り、安定した高収益体質を構築して、その先の、“より強い日立”へチャレンジする」と主張。力強く「日立を世界有数の社会イノベーション企業とすることで、ステークホルダーの期待に応えたい」と宣言した。
セグメント別ポジションチャート | セグメント別の売上高 |
最終利益が出る構造への展開を図る | 2012年度の経営目標 |
2010/5/31 14:56