マイクロソフトに聞く、Hyper-V 2.0の実力


 企業向けにボリュームライセンスでの提供が始まったWindows Server 2008 R2。さまざまな機能アップが行われているが、最大の機能アップは仮想化のHyper-V 2.0だろう。そこで、今回はマイクロソフト株式会社 サーバープラットフォームビジネス本部 Windows Server製品部 マネージャーの藤本浩司氏に、Hyper-V 2.0の特徴や今後の仮想化の動向を伺った。


―昨年6月にHyper-V 1.0を正式リリースし、1年ほどでHyper-V 2.0をリリースされました。急速なペースでバージョンアップを果たしていますね。

サーバープラットフォームビジネス本部 Windows Server製品部 マネージャーの藤本浩司氏

藤本氏
 今回は、Windows Server 2008 R2のリリースと同時にハイパーバイザーのHyper-Vもバージョンアップしています。確かに、Hyper-V 1.0から1年ほどでメジャーアップデートですが、Hyper-V 2.0は、Hyper-V 1.0で積み残していたLive Migration機能を搭載しています。

 Live Migrationに関しては、Hyper-V 1.0がリリースされた当初から、ユーザーの方々からの要望が強かったのです。Live Migrationをサポートしたことで、他社のハイパーバイザーと機能的には肩を並べられるほどになったと思っています。

 さらに、Xeon 5500番台(Nehalemアーキテクチャ)などの新世代のCPUにチューニングしています。特に、第二世代のCPU仮想化機能(Intel EPT、AMD-V)を利用することで、ハイパーバイザーの性能が飛躍的にアップしています。いくつかベンチマークが出ていますが、Hyper-V 2.0では仮想マシンのロスは、数%ほどと非常に小さくなっています。

 第二世代のCPU仮想化機能のサポート以外に、VHDフォーマットが新しくなったことで、仮想ディスクへのアクセスが大幅にパフォーマンスアップしています。

 これらの性能アップ以外に、Xeon 5500番台などのマルチコアCPUにおいて、コアごとに電力消費をコントロールする機能(コアパーキング)などが用意されています。


―Hyper-V 2.0により、仮想化で先行するVMwareに追いついたと思いますか?

藤本氏
 VMware ESXは、Hyper-Vがリリースされるよりも前から提供されています。このため、ブランドとしても大きなアドバンテージがあると思います。今回Hyper-V 2.0をリリースしたことで、多くのシステムインテグレータやユーザーにHyper-Vも検討していただけるようになったと思います。やはり、Live Migrationがあるかないかということで、検討からもれていたという経緯がありました。

 マイクロソフトの仮想化ソリューションが、すべての面でVMwareに追いついたとは思えません。今後、仮想化環境を管理するSystem Center Virtual Machine Manager(SCVMM) R2などを筆頭に、管理ツールソリューションのSystem Centerをリリースしていきます。これにより、ハイパーバイザーだけでなく、仮想化を取り巻くさまざまなソフトウェアが用意されることになります。

 もう一つ重要なのは、ライセンスなんです。仮想化においては、仮想マシン上にさまざまなソフトをインストールして利用します。このため、今までのライセンス体系では、コストがかかりすぎることになります。そこで、先日(9/8)Enrollment for Core Infrastructure(ECI)というライセンスを発表しました。

 ECIは、Windows Server 2008 R2 DatacenterとSystem Center Server Management SuiteとForefront for Client Securityをパッケージ化して、お得な価格にしました。Windows Server 2008 R2 Datacenterは、Hyper-V 2.0を標準で内蔵していますし、仮想マシン上で動かすWindows Serverのライセンスも無制限となっています(Windows Server 2008 R2 Enterpriseは4つまで)。こういった、お得なライセンスをリリースすることで、多くのユーザーに仮想化を導入してもらえればと考えています。


―Hyper-V 2.0のリリースにより、仮想化は大きく変わりますか?

藤本氏
 Hyper-V 1.0では、システムインテグレータやユーザーは様子見という状態でした。Hyper-V 2.0によって、本格的な導入に進むと思います。先ほど話したようにパフォーマンスもHyper-V 2.0で大幅にアップしています。

 Hyper-V 1.0のいくつかの例をみると、CPUコア数と同じ仮想マシンしか動かしていませんでした。このため、1台のサーバーで4つくらいの仮想マシンが目安になっていました。しかし、Hyper-V 2.0では大幅にパフォーマンスがアップしているので、CPUコア数以上の仮想マシンは問題なく動かせるようになっています。サーバーの集約率がアップしてきているのは、システムインテグレータなどに仮想化の事例が数多くでき、いろいろと経験を積んできたということでしょう。

 マイクロソフトでは、Windows Server 2008 R2のリリースと同時に、Windows Server 2008 R2のアセスメントツール(MAP ToolKit)の無償ダウンロード(http://technet.microsoft.com/ja-jp/solutionaccelerators/dd537566.aspx)を行っています。

 MAP Toolkitでは、サーバーのパフォーマンスなどのデータを長期間にわたって取得します。このソフトをインストールすることで、サーバーの負荷を長期間にわたって調査することが可能になります。このソフトを利用することで、サーバーの負荷をチェックし、仮想化する場合にどのくらいの性能が必要になるかという目安を示してくれます。このようなツールを利用すれば、多くの経験を持たなくても、適切な仮想化を進めることができると思います。


―仮想化においては、今後、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)が注目されていますが、VDIに関してのマイクロソフトの取り組みは?

藤本氏
 Windows Server 2008 R2で、VDI機能を標準で用意しました。Windows Server 2008では、VDIの接続ブローカーをマイクロソフト自身でリリースしていなかったので、CitrixのXenDesktopを利用するように説明していました。Windows Server 2008 R2では、追加ソフトなく、マイクロソフトだけのソリューションでVDIを実現しました。他社に比べるとVDI分野でも、最初の一歩を踏み出したという状況です。このため、今後はVDI関連の機能や管理ソフトなどを強化していく必要があるでしょう。

 また。VDIをより多くのユーザーに利用してもらうために、新しいライセンスを用意します。VDIを利用するためには、ターミナルアクセスライセンスやクライアントアクセスライセンスなど、さまざまなライセンスが必要になっています。これをパッケージ化して、年間ライセンス料で提供しようというモノです。

著者注:
7月に米国で行われたWorldWide Partner Conferenceにおいて、VDI Standard SuiteとVDI Premium Suiteが発表されている。VDI Standard Suiteは、Hyper-V Server、System Center Virtual Machine Manager、System Center Configuration Manager、System Center Operations Manager、Remote Desktop Services(CAL)、MDOPなどをパッケージ化している。VDI Premium Suiteは、VDI Standard SuiteにRemote Desktop Services(RDS)、APP-Vなどが入っている。ちなみに、VDI Standard Suitは1台あたり年間21ドル。


―Windows Server 2008 R2では、Remote Desktop Protocol(RDP)7.0にバージョンアップされましたが、クライアントPCでのDirectXサポートが見送られました。

RDP 7.0の当初計画
最終的なサポート範囲

藤本氏
 確かに、Windows Server 2008 R2の段階では、クライアントPCのGPU機能を利用したDirect3DやDirect2Dの機能は落ちました。しかし、開発チームは、開発作業を進めており、年内もしくは年明けにはRDP 7.0のバージョンアップ版を提供できると思います。これを利用すれば、VDI環境においても、ローカルPCと同じユーザーインターフェイスで、アプリケーションが利用できるようになると思います。

 クライアントPCとしては、Windows 7をターゲットとしています。このため、リモートアクセスのPCとしては、Windows 7が必須になります。現状では、Windows XPやWindows Vista用のRDP 7.0はリリースする予定はありません。ただ、Windows CEやWindows Mobileなどには移植されると思うので、RDP 7.0ベースのターミナル端末がリリースされると思います。また、Windows Mobileが入った携帯電話などからVDIにアクセスできるようになるかもしれません。


―先日、無償のHyper-V Server 2008 R2をリリースされましたが、評判はどうですか?

藤本氏
 Windows Server 2008 R2のホストをServer CoreにしたHyper-V Serverですが、ダウンロード数は非常に高いのですが、実運用で利用されている例は少ないようです。ハイパーバイザー上で仮想サーバーを動かす時には、ライセンスが必要になります。このため、Windows Server 2008 R2などを購入して利用されるので、結局Hyper-V Serverはテストなどで終わってしまうようです。また、本格的にHyper-V Serverを利用しようとしても、ホストの管理ツールがコマンドラインで使いにくかったというのも原因でしょう。

 Hyper-V Server 2008 R2では、Server Core上に簡単なメニューを用意しました。これで、最低限の設定を行ってもらい、あとはWindows 7やWindows Server 2008 R2からリモートで管理できるようにしました。リモートといっても、Hyper-VマネージャーのUIが表示されるため、非常に使いやすくなっていると思います。また、SCVMM 2008 R2などを使えば、GUIでHyper-V Serverも管理できます。今後は、Hyper-V Server 2008 R2でVDIを構築するということも出てくるでしょう。


―ありがとうございました。





(山本 雅史)

2009/9/14/ 00:00