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失敗しても再チャレンジする起業家には絶対投資したい

サンブリッジ・マイナーCEO

連載開始のあいさつにかえて

 2005年12月から2007年1月にかけて、Web 2.0とはなにかという問いに答えるためのフィールドワークとして、述べ57名のインタビューを敢行してきました。最終回に記しましたように、今回より、Webにとどまらず、IT全体におけるユニークな人物、ユニークなアイデア、ユニークなビジネスを紹介していきたいと思います。

 第一回目のゲストは、個人的にも現在最も関わりの深い人物(理由は後述)であり、外国人でありながら日本に根ざしたベンチャー支援事業を興した、株式会社サンブリッジ創業者兼現会長のアレン・マイナー氏です。初回だけあって、かなり長文になっていますが、どうぞ最後までお読みください。


サンブリッジ・マイナーCEO アレン・マイナー(Allen Miner)
株式会社サンブリッジ 代表取締役会長兼グループCEO

1961年ユタ州生まれ、アメリカ人。 1986年、ブリガムヤング大学卒業。 同年、米Oracleに入社。1987年から日本オラクル初代代表として同社の立ち上げに貢献し、その後の成長の礎を築く。 その後、日米オラクルのマネジメントとして活躍。 1999年、日本オラクルの株式公開後、退職、シリコンバレーにてサンブリッジの準備を開始。 同年12月株式会社サンブリッジを設立し、代表取締役社長に就任。 2007年1月より現職。  日米のITベンチャー企業への投資・育成活動に励み、国内ベンチャー業界における投資家及び起業家としての地位を確立し、米国フォーブス誌の2007年度Midas Listにて世界有数ベンチャーキャピタリスト40位としてランキングされるほか、「ベンチャー・ハビタット・クリエイター」として、活気あるベンチャー環境作りに幅広く尽力している。 日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)設立当時から理事を務め、ETIC(起業家育成、ソシャルベンチャー育成に取り組むNPO)の理事を務めるほか、数々のベンチャー支援関連の委員に就任。 


Midas Listの40位に初ランクインしたマイナー氏

小川氏
 Midas Listへのランキング入り、おめでとうございます。


マイナー氏
 ありがとうございます(笑)。ご存知と思いますが、Midas Listとはハイテク産業のベンチャーを支えるベンチャーキャピタリスト、エンジェル、弁護士、リクルーター、アドバイザーなどの中から、最も企業価値が高くなったベンチャーに貢献した支援者を選ぶランキングです。1月25日に米Forbes誌の「Midas List」2006年版が発表されたわけですが、そこで日本のベンチャー支援者としては初めて私が載りました。世界40位のランキングデビューはまずまずですね(笑)。

 セールスフォース・ドットコムへの貢献やマクロミル、ジー・モードなどのIPOの実績を評価されたようです。今回のMidas Listのランクインで、サンブリッジの評価もあがったと喜んでいます。


小川氏
 実はというか、いまさらですが(笑)、僕も今年からサンブリッジにお世話になっている身なので、とてもうれしいです(笑)。


マイナー氏
 そうでした(笑)。こうしてインタビューをされるのも面白い気分ですね。


小川氏
 僕は昨年末にサイボウズ株式会社と、その子会社であり取締役COOを勤めていたフィードパス株式会社を退職し、現在サンブリッジに社員として勤務しています。僕はこれまでWeb 2.0時代にフィットするための事業や、RSS/Atomフィードのようなテクノロジーを核としたサービスの開発をしてきており、なぜベンチャーキャピタルであるサンブリッジにいるのか? という質問をよく受けます。今日はアレンさんの口から、なぜ僕がここにいるのか、ということを紹介していただけると助かります(笑)。


マイナー氏
 なるほど、いろいろ話したいことがあるのですが、今日はそこに絞って話をさせていただくことにしましょう。


EIR(Entrepreneur in Residence:客員起業制度)

マイナー氏
 まず、小川さんのサンブリッジにおける立場を言い表すと、EIR、という存在になります。EIRとは、Entrepreneur in Residenceの略です。


小川氏
 日本語では客員起業家とか、住み込み起業家などと訳されることが多いですね。


マイナー氏
 日本ではまだまだ認知されていないと思いますが、シリコンバレーでは割と多くみられる新規事業の立ち上げ方法です。そもそも、全体的な話をすると、サンブリッジでは、5つのベンチャー支援の試みをしようと考えているのです。

 まず第一に、海外から有望なサービスを輸入して、日本で展開すること。第二に、既存の戦略で行き詰まっているけれど実は有望な事業を発見して、てこ入れをしてリスタートさせること。第三に、スピンオフやスピンアウトではなくてほかのベンチャーとの共同事業として支援すること。第四に、社員自ら新規事業を興して、独立した会社に育て上げること。これは、@ITがいい例ですね。そして、第五の試みがEIRです。


小川氏
 EIRは、VC(ベンチャーキャピタル)が起業家を社員として迎え入れて、その後新たに起業させるという手法ですね。日本ではネットエイジが採用している方法です。


マイナー氏
 ネットエイジとは若干異なるアプローチと思いますが、それは後で説明しましょう。まず、そもそも私がEIRという存在を知ったのは、オラクルで働いていた1997年頃にさかのぼります。当時の上司が、某有名VCからEIRにこないか、というオファーをもらったのがきっかけです。要は、EIRとは基本給を保証して、次なる投資対象になるベンチャーを作ってほしい、というものです。同時に、EIRにはExecutive in Residenceという意味もあって、優秀な経営者に入社してもらって、VCに持ち込まれる起業プランを評価してほしい、もしくは面白い案件があったら、そこの経営にあたってくれないか、その間は給料を保証するよ、というものです。この上司は実際にはEIRにはなりませんでしたが、私はこの制度に非常に強い関心を覚えたのです。

 当時はネットバブルの最中でしたからね、VCファンドなどの競争が激しいなかで、優秀な人材を確保するための方法として注目を集めていました。


小川氏
 結構昔からある手法なんですね。


マイナー氏
 サンブリッジを始めるころでも、いつかはわれわれもそういうEIRを、と考えていました。起業家へのオルタナティブな考え方、成功した経営者に新たな道を提示しようと考えていたわけです。


小川氏
 実は僕がサンブリッジのEIR第一号と聞いています。なぜいままで実例がなかったのでしょう?


マイナー氏
 ときどきは、EIR候補に会うことはありました。例えば某電機メーカーの幹部が退社されると聞いて、EIRにどうかと考えたりもしました。EIRは、いわゆるハンズオンと呼ばれるような起業家の卵に対するオファーではなくて、ある程度トラックレコードを持っている経験者に対する特別なオファーです。マネージメント能力と、アントレプレナーシップを兼ね備えた人たちでないとならない。これまでの日本には、候補者はなかなかいなかったと思います。制度を作っても、いままでは対象者がいなかったわけです。そんなおり、去年の夏から秋にかけて小川さんと接触して、EIRの成功事例をようやく作れるかも、と考え始めたというのが真相です。


小川氏
 ありがとうございます。過大評価でなければよいのですが(笑)。


ネットエイジのEIRとの相違点は、経験豊かな起業家への投資に絞る点

マイナー氏
 シリコンバレーではEIRを知らない人は少ない、でもすべてのVCがやっているとは限らないです。In Residenceというのは、VCの事務所に通うし、給料ももらう。それをやっているファームは少ないですね。たぶん東海岸よりはシリコンバレーに多くみられるようです。元AOLのJason Calacanis氏が米Sequoia Capitalに最近EIRとして入社したのもよい例です。東海岸は金融系のファンドが多く、なかなかEIRのようなやり方はそぐわないのでしょう。逆に西海岸のVCには起業経験者も多いので、フォーカスと戦略を持つ人が多い、ということと思います。ところで、逆に私から聞きたいことは、小川さんはなんでサンブリッジを選んだの(笑)?


小川氏
 そう切り返されるとは思いませんでした(笑)。


マイナー氏
 だって他にも選択肢はあったはずでしょう。


小川氏
 縁というとおかしいんですけれど、GMOアドネットワークスの村井さんにサンブリッジのプリンシパルの祐川京子さんを紹介していただいたのがきっかけなんです。その後すぐに(現サンブリッジ社長の)永山さんに会いにきていただいたんですね。そのときにEIRの話をいただいて、今の自分の環境ではベストの選択と考えたというのが大きな理由です。あとは、サンブリッジの投資先に元アキアの飯塚さんのバイデザインがあった、ということが大きいです。飯塚さんにはお世話になっていたので。


マイナー氏
 飯塚さんね。彼は本当のシリアルアントレプレナー(何度でも起業する人)だからね。私は一回失敗しても二回目にチャレンジするような人には絶対投資したいと思うんですよ。ビジネスモデルがどうこういうよりも、ああいう経営者を応援するために会社を作ろうと思ったんです。もちろん会社として、他の経営メンバーがイエスと言ってくれなければ何もできないわけだけど、バイデザインの場合は合意がとれて投資をすることになりました。


小川氏
 そういう志は共感できます、とても。ところで話は違うんですが、先ほどネットエイジのEIRとは若干異なる、とおっしゃりましたよね? その違いはなんでしょう?


マイナー氏
 シリコンバレー的なEIRの場合は、アントレプレナーになるかもしれない、エグゼクティブでもないという人に投資をするのはEIRとはいわないんですね。投資先の成功率をぐんとあげるための制度がEIRなのだから。ネットエイジのEIRは、日本流にアレンジというか、ハンズオンに近い手法ですね。

 その意味では、こういうEIRをやる!ということは成功すればよいPRになるけど、失敗したら、EIRという制度そのものが失敗、という社会的インパクトがリスクになりますね。レピュテーションリスクというか制度が根付くかどうかの問題ですね。小川さんとサンブリッジが組んでもできなかったとしたら、やっぱりシリコンバレーならではの制度だね、日本ではだめだね、というレッテルが貼られるでしょうから。


小川氏
 ほどよいプレッシャーをありがとうございます(苦笑)。


マイナー氏
 ともかく、EIRというのは人材を確保することで、スピーディに、成功確率をあげていく手法です。起業のアイデアはそれほど新しいものばかりじゃないですよ、Nothing new under the sun.、太陽の下では何も新しいものはない、というじゃないですか。だから、発想よりも人材に投資する、という考え方なんです。学生ベンチャーならいざ知らず、ある程度の年齢の起業家にとっては起業リスクは無視できないでしょう? 起業リスクを軽減できるという意味で起業家側にもメリットはある。

 ネットベンチャーでは経験は関係ないというけど、組織作りやシステムを作っていくには経験が必要です。ネットベンチャーがバブルの頃に生まれたのは、彼らが暇だったからです。収入になろうがなるまいが、リスクはゼロだから、学生ベンチャーがどんどん生まれました。でも、経験者の起業はそうもいかない。


小川氏
 その通りです。実は台湾に出張したおりに、EIRを話題にしたところ、いろいろな人からこの制度について質問をされたんですよ。台湾でも、意外に最近起業する若者が少なくなっていて、大企業に就職したがる。ならば大企業からのスピンオフはどうかというと、それも多くはない。だったらどうするか? そういう環境で、EIRは結構いいアイデアなんではないか、という具合です。


マイナー氏
 サンブリッジを作るときに、1000人のミリオネアを生み出そうと決意して始めたんですよ。最近、改めてこの目標の実現に向けてもっと動かなければと考えています。その意味でもEIR制度を今回実行できたことは大きいです。


小川氏
 その1000人の一人になれるように(笑)頑張ります。EIRも、もっと一般的になって、多くの事例が日本でも生まれるようになることを願っています。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/03/01 00:00

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