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規制強化で消えるメールマガジン、伸びるフィードリーダー

エル・カミノ・リアル木寺社長

 今回のゲストはケータイRSSリーダーのリーディング企業であるエル・カミノ・リアルの木寺社長です。

 筆者とは、フィードをWebとならぶトラフィックに成長させるための強力なドライバー(推進者)としての役割を果たすべく、互いに励まし合う中でもあります。拙書『フィードがグーグルの世界制覇を阻止する!』の執筆協力者でもある木寺さんと、フィードの可能性について忌憚(きたん)ない意見を交わしました。


エル・カミノ・リアル木寺社長 木寺 祥友(きでら よしとも)
株式会社エル・カミノ・リアル 代表取締役

横浜生まれ。1995年に日本最初のJavaプロジェクト、NTTテレマーケティング(現NTTソルコ)のサイバーモール制作に参加。
その後、全米各地をまわりJavaの産みの親であるジェームス・ゴスリングなどのJava開発者に直接会い、親交を深める。
2001年に株式会社エル・カミノ・リアルを設立、『フロントエンドソリューション』をテーマにクライアントJavaアプリケーションの開発を行う。
特に携帯電話向けRSSリーダーに注力し、2005年10月17日にiアプリ版「ECR RSSリーダー」を、2006年10月24日のMNP(番号ポータビリティ)に合わせて、「ECReal Reader」をリリース。

著作
「Javaを創った人々」(アスキー)
「今すぐできるiアプリプログラミング」など


modiphi-ECRで企業向けソリューションも提供

小川氏
 フィードを使った社内情報共有システムとして、modiphi-ECRを発表しました。今後エンタープライズ2.0の起爆剤になればいいですね。


木寺氏
 まったくです。modiphiとECRealリーダーの組み合わせは、強力だと思いますね。

 そのうちにはコンシューマ向けにも、ECRealリーダーでmodiphiのエディタで書いたフィードを、デフォルトで読めるようにしていきますよ。


小川氏
 ECRealリーダーの企業向けサービスも、どんどん事例が出てきていますね。フジテレビでの採用に引き続き、日経BPでの採用が決まりました。おめでとうございます。


木寺氏
 ありがとうございます。日経BPの件は、「ビジネスパーソンのためのケータイ向け総合サービスを開始」、というリリースを出させていただいています。サービスはnikkeiBP mobileというんですが、ケータイで日経BPの記事を読めるようにするというものです。厳密にいうと、他社のフィードを登録できるわけではないので、リーダーというよりは、ケータイ上の特定RSS記事のビューワーです。Webページをつくらずに、クローズな環境でフィードによって情報を読ませようというものですね。


ケータイサイトのFlash化がフィードリーダー普及を促進?

小川氏
 読む、という行為では、だいぶ理解が深まってきた感じですね。


木寺氏
 そうなんですよ。最近許可のないメール送信に対する規制が強まりました。承諾のない人にメールを出すのは犯罪です。ならばフィードだろう、という感じでもある。

 だいたいが、メールマガジンの登録も、登録解除も、とても面倒です。その点フィードリーダーならカンタンですから。だから、ケータイサイト全体がフィードリーダー化してくるのは必然のように思いますね。未読既読の管理もできるし。

 そして、ケータイサイトのFlash化も進んでいるのも追い風です。Flash化するとフィードリーダー化も進みますから。


小川氏
 それはなぜ?


木寺氏
 Flashは埋め込みだからコンテンツの更新は大変なんですよ。作成も更新も大変、だからコンテンツをRSSで投げ込めればいいでしょう、となるわけです。だからケータイサイトがフィードリーダー化するのはすぐでしょうね。広告もFlashで出せるし。ナンバーポータビリティ以降、勝手サイトが充実してきたじゃないですか、3キャリア対応ならFlashだろうと思いますね。


小川氏
 なるほど。


木寺氏
 メディアだって、自分のところに興味を持つお客様を囲い込みたいじゃないですか。それにはフィードリーダー。更新情報を出すことでユーザーを囲い込めるわけです。全文フィードを出すならフィードリーダー側をメディア化して、タイトルくらいしか出さないならWebサイトへ誘導する、ということになります。


FlashのテンプレートにRSSを組み合わせたケータイサイトが新しい

小川氏
 ところで、ケータイのフィードリーダーの市場…市場といえる大きさがあるのかな…、競合する企業はあるんですか? PC側からの参入者は別として。


木寺氏
 PCのWebでのフィードリーダーからケータイに出てきているところ以外は、表に出る、一般のユーザーが使える形でおおぴらに出しているところは少ないですね。

 うちはフジテレビのフィードリーダーを作ったんですけど、それで引き合いが増えました。フジテレビの場合は販促ツール+宣伝、という目的ですが、ブラウザやメーラーを配るのと一緒の用途です。


小川氏
 Lunascapeあたりのビジネスモデルに似てますね。


木寺氏
 企業売りすると、それもフジテレビのように大手だと知名度も上がるので、結果としてコンシューマー向けのユーザーも増える。いい循環になります。


小川氏
 mixiは、ある意味クローズな更新情報のフィードリーダーですし、だんだんユーザーもフィードリーダー的なサービスに慣れてきてる感じがしますね。


木寺氏
 ケータイでいうと、リッチなケータイサイトを自分で作りたいという人も増えてきてます。でも、たとえば背景の色を変えたりすることはケータイ側がXHTMLをサポートしていないとできないんですね。

 XHTMLが使えるケータイならば、実はFlashも使えるんですよ。だったら、Flashを使ってホームページを作ればいいじゃない、ということになる。でも、Flashのサイトを作るのは難しい(笑)。ならば、テンプレートをFlashで提供して、情報の更新自体はRSSでさせればいい、というように考えたわけです。


小川氏
 僕も、modiphiをエンジンとして、フィードリーダーをベースシステムとしてWebサイトを構築することを勧めています。Movable TypeがBlog作成ツールから、より一般的なWebサイトの構築エンジンになってきたのと同じことです。modiphiなら、記事も書けるし、読む機能も作れるし。


有料コンテンツの時代をフィードがつれてくる

木寺氏
 CGMの次に、フィードが真打ちになると思いますね。CGMは百貨店なんですよ。百貨店は、商品も商人も問屋からもってきている。あるのはその百貨店のブランドしかなくて、中にあるものは全部違う人が売ってたりする。

 今後は、SNSのようなCGMにおいても、たとえば東急ハンズやビッグカメラのような、ある種の目利きがいるようなサービスが出てくると思いますね。箱を貸すだけのビジネスモデルから、プロデューサーがいて、考えながらサービスを提供していく形に変わっていくべきですよ。ユーザーも貴重な時間を使うんだから。


小川氏
 All About がちょい不良で有名な岸田さんの会社を子会社化したじゃないですか。つまり、All AboutのようなCGMも特定分野の敏腕プロデューサーが必要となってきたということかもしれないですね。


木寺氏
 ですね。PCのインターネットに深く触れた世代は、サービスとか情報を無料で入手できるものだと考えていることが多いですよね。でも最近の20代だと、ケータイの公式サイトに金払うのは当たり前と考えている。つまり、無料情報をたくさん読むより、良質なお金を出して買うコンテンツにふれていたい、と思っているわけです。われわれ40代だと、逆にネットの前のメディアが中心で、コンテンツを買うのが当たり前だと思っている。だから、20代と40代は意外に有料メディアに抵抗がないんです。30代はかえってしぶちん(笑)。


小川氏
 同感です。特にフィードメディアならば、絶対有料情報の販売はビジネスになる。ヤフオクと同じで、最初は無料でも有料化することはできると思う。


木寺氏
 ユーザーとのリーチは絶対フィードが早い。雑誌から、フィードへ、という変化はあるでしょう。更新の早さや生の情報がよいという人が買っていくと思います。


小川氏
 新聞のようなメディアもね、いまは記事自体をネット化しているだけだと思うんですよ。

 新聞というメディア自体を、ちゃんとネットに置き換えてない気がします。つまり、更新を頻繁に行うよりも、かえって新聞と同じように朝刊と夕刊を作って、朝と夜だけ決まった時間に更新したらいいんです。さみだれ式に情報が更新されることについていけない人だっているわけです。更新時間を決めたフィードメディアもあっていい。

 コンテンツのネット化をするんではなくて、メディアコンセプトのネット化を考えるべきじゃないかな。


木寺氏
 おれ、日経BPの雑誌読んでるよ、というのと、おれ、日経BPのサイト読んでるよ、というのは何が違うの?ということになると思いますよ。雑誌のイイ面を持ちながら中にうまく入っていくべきでしょうね。

 PCのWebだけのときはね、Webと雑誌は違うよねと安心できたんですよ、持ち運べないし。でもケータイは違う。雑誌と同じようにどこにでも持参できちゃうから、同じような感覚で読まれてしまう。だから待ったなしだと思います。


小川氏
 WebはWebサイトのトラフィックですけど、フィードは記事自体のトラフィックですね。つまり、コンテンツと、それを見るためのツールが分離されているわけです。映画を見るのに映画館にいかなくてはならないということではなくて、DVD借りて家で見たっていい。また、DVDを見るのもテレビでみるんじゃなくて、Macで見てもいいし、液晶プロジェクタ使ってスクリーンに映せばいい。ホームシアターは、劇場とコンテンツの分離です。でもコンテンツそのものはいろいろな人に見られていく。これはフィードと同じです。


木寺氏
 フィードを登録するのは、年間購読紙に近いですね。未来に書いてくる内容について期待するし金を払う。Webは今の内容でしかないけど、フィードを登録することは未来の内容に期待することなんですよ。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/07/31 00:00

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