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サイトのRSS化だけで終わらず、いかにリーチするかが重要

レッドクルーズ保延COO

 今回のゲストはRSSを活用したプロモーションサービスやツールの提供を行う企業としては、日本のパイオニアのひとつといっていい、レッドクルーズCOOの保延さんです。技術ではなくPR畑出身という彼女が考えるRSSフィードの市場の展望についてお聞きしました。


レッドクルーズ・保延COO 保延 裕子(ほのべ ゆうこ)
レッドクルーズ株式会社 取締役COO

1963年東京生まれ。
英国留学のち1987年青山学院大学文学部英米文学科卒業。
プラップジャパン等PR代理店にて、外資系企業クライアントの日本におけるステイクホルダーコミュニケーションの戦略立案と運営を行う。
1996年、天文のインターネット多元中継非営利プロジェクト(現ライブ!ユニバース)の創設に参加、初回の中継で世界50カ国以上のファンを獲得。
2001年、インターネット調査のレッドシェリフ(2004年、ネットレイティングスに吸収される)日本法人の取締役として事業立ち上げを行いパートナーのビデオリサーチインターラクティブとともに全数調査普及の基礎を築く。
2004年、次世代型コミュニケーションソリューション企業レッドクルーズの設立に参加。
詳細はhttp://www.redcruise.com/


ネット企業を評価する仕事から、評価される側のツールの提供へ

小川氏
 簡単に経歴をお話しいただけますか?


保延氏
 15年くらいPR会社にいました。具体的な仕事としては、米国のIT企業のマーケットエントリーや日本でのコミュニケーションのお手伝いをしていました。コミュニケーションというのは、パートナーとなる企業や販売代理店、コンシューマや顧客となる経営者へのリーチ、あるいは日本での投資家探し、などのメッセージを届けることをしていたわけです。

 IT企業に直接、それもシリコンバレーのCEOなどとのふれあいが多かったのが楽しかったですね。ビジネスを立ち上げるということの面白さ、彼らの新しい発想がエキサイティングと思っていました。それで今に至っているわけなんですけど(笑)。3年前にレッドクルーズをCEOの増田とともに立ち上げることにつながっています。


小川氏
 PR業界からIT企業の広告担当になられている方はよくみますけど、経営者になっているというのは珍しい気がします。


保延氏
 急にPR業界からIT企業の経営者にというのは突然に見えるかもしれませんが、ITも技術だけでなりたつわけではなく、ターゲットを届ける対象はいろいろいらっしゃるわけですよね。ITに対する理解、技術の発展する速度についていけない人が多いと思うんです。ターゲットオーディエンスに対する説明は大事、商品の説明だけではないでしょう。


小川氏
 その通りですね。増田さんとお知り合いになったきっかけは?


保延氏
 レッドシェリフという、アメリカと豪州に本社を置く、ネット測定会社に二人でおりまして。テレビの視聴率はサンプル調査ですけど、ネットではサンプルではなく全数調査をしますよね。増田とその会社の日本法人の立ち上げをしたんです。ところが本社側がネットレイティングスに買収されてしまって(笑)。これを機に別のことをやろうと考えたんです。レッドシェリフはネット企業を評価する仕事なわけですけど、評価する側から評価される方のツール、コミュニケーションの直接的なツールを作ろうと考えました。そもそもレッドシェリフのときに、クライアントさまからいろいろと相談をされていた内容があったので、それをきっかけにレッドクルーズを作ることにしました。


RSS化していないサイトは将来的には取り残される

小川氏
 創業して3年ですよね。最近ではなにか業務上、戦略に変わりがありますか?


保延氏
 いえ。相変わらずRSSを中心とした仕事をしていますね。RSSを使ったコミュニケーション、RSSの生成・配信のお手伝い、ツールとしてのeクルーズの提供。それから配信したRSSのログ解析、フィード利用のコンサルをやっています。Blogパーツ関係もやってますね。


小川氏
 収益源は?


保延氏
 企業からのフィードの生成、配信、ホスティング、およびeクルーズのチャンネル掲載料です。


小川氏
 なかなかフィードの市場も爆発するには至らないですが…。


保延氏
 そうですね(笑)。なかなかねぇ。私の認識だとプレーヤーは多いわけですが、RSSを実装する会社はまだまだついてきてない、という感じがしてますね。RSSフィードを用いた技術やソリューションは洗練されてきているのに、ユーザーさんがついてきてないジレンマがあります。RSSは非常に素晴らしい技術ですけど、戦略的に取り組もうとするお客さまが少ないのが問題ですよね。それは提供する側の問題だとも思うんですね、もっと啓もうしていく必要があると思っています。だからFBS(フィードビジネス・シンジケーション)の存在価値はますますありますよ。


小川氏
 そうだ、今度(10月17日開催)のFeed Business Summitのキーノート、保延さんですよね。女性初です。


保延氏
 私なんかでいいのかどうか(笑)。フィードの利用については、企業の認識がお立場によっていろいろと違うというのが実情です。これだけRSSマーケティングという言葉が出てきていても、実際のマーケティング担当者がわりと分かってなかったり、RSSのオレンジのアイコンを置けばいいと思ってらっしゃる人も多い気がします。その逆に、IT部門の方だとXMLくらい自分でできるよ、ベンダーに頼むまでもない、と軽く考えているお客さまも多いんです(苦笑)。


小川氏
 同感です(笑)。フィードは確かにRSSという技術を使えば簡単に配信できるわけですけど、本来はもっとリッチなコンテンツをどうやったら流通させることができるかとか、見ためも含むデザインをよく練っていくべきものだと思います。小説書くのは難しいが俳句は短いから簡単、と考える人も多いかと思いますが、短いからこそセンスやテクニックがいるわけで、フィードはコンパクトなメディアだけにちゃんと考えないと。


保延氏
 XMLにすればいいというものではないですよね、もっと戦略的にするべきだと思います。

 RSS化してないサイトは将来的には取り残されるんじゃないですかね。ターゲットオーディエンスにいかにリーチするかを考えなくてはならないし、そもそもユーザーに飽きられたら簡単に登録解除されてしまうわけだから、継続してもらうための努力をする必要があります。それだけではなくて、ちゃんとフィードを出すための目標、たとえば購買とかにつなげるみたいなものを考えていかないと。なかなか分かっていただけないのが悲しいですね(笑)…。

 私どももアドバイスをいろいろするんですが、導入前はわりと聞いていただけるんですけど、実は導入したあとのほうがさらに工夫が必要なんです。更新頻度やタイトル、フィードの書き方などなど。でも一回導入してしまうと、忙しさのあまり、そういう工夫を後回しにしてメンテしない、ということになりがちです。担当者の啓もうが必要なんですね。


RSSは技術的な仕組みとして説明が困難、それが弱点

小川氏
 ツール入れればそれで終わり、とはならないですからね。FBSのキーノートではそのあたりをぜひ話してください。まあ、僕もセッションもちますけど(笑)。第二回目くらいまでのFBSはキャパでは無料で80名くらいの箱でやっていて、来てくださる人たちはかなり技術に明るい人たちだったわけなんですけど、最近は有料化して、インプレスR&Dさんのバックアップのもとで200名から300名の箱でお客さまを呼べるくらいになりましたから。興味はもっていただいているんですよね。後は、もっと事例を増やしていかないとならないですね。


保延氏
 そう、一番いいのはエキサイティングな事例が出てくることですよ。ただ、お客さまがその事例を公開してくれないというジレンマもありますね。ほんとはクライアントさまがアプローチしたいエンドユーザーさんが、わぁーと興奮してくれて、どんどん話してくれるようなことができればいいんですけどね。

 現状は企業が、自社の最新情報をRSSにすればいい、という感じですけど、そういうものではないと思うんですよ。消費者に直接エキサイトメントを提供するような方法があればもっと普及に弾みがつくんですけど…。地道にやっていくしかない…とは分かっているし、企業のみなさまにも理解を示してくださる方も多くなってきているんですけど。待ちきれない(笑)。


小川氏
 それは僕も同じ思いです(苦笑)。フィードリーダーの普及率もなかなか伸びてないですからね。こんなに便利なツールをなんで使わないのか理解ができないのですけど、でも、普通のネットユーザーが使ってみようと思うまでのきっかけがなかなかないのかも、とも思っています。

 eクルーズはフィードリーダーなんですよね?


保延氏
 そうですよ。汎用的なRSSリーダーなんですけど、RSSリーダーと思われてないのかもしれないですね。eクルーズの主なユーザーは特定の企業さまの新着情報が欲しくてダウンロードしているわけなので、比較的リテラシーが低い場合もありますし。そうはいっても、あてがいぶちの情報だと人間はあきるので、使い方の教育的な情報を流すこともしていて、エンドユーザーへの啓もう活動も地道に行っています。

 Web 2.0がはやってもブログとかCGMとかSNSのような派手な感じにいってしまって、RSSは仕組みになっていてちょっとわかりづらいのかも。そこが弱点ですね。


小川氏
 技術ぽさというか、まあ地味なんですよねー。セカンドライフは分かりやすいけど。


保延氏
 RSSは一度使い始めたら分かりやすいし、便利だから、きっかけしだいとは思いますけどね。

 RSSは、ここを見てください、といえば分かるような分かりやすさがないのが問題ですね。ブログならここを見て、とすぐいえるんですけど。


RSS広告にももっとクリエイティブを

小川氏
 RSS広告も伸びないみたいですしね。


保延氏
 なかなか難しいですね。ユーザーの心に届く、キャッチする広告を作るのもテクニックがいるんですよ。解除されやすいし。


小川氏
 イメージ広告はいけるかもと思うんですけど。たとえばmodiphiだとかなり大きな表示領域があるので、画像データをともなうフィードはとても美しく、効果的に表示できます。いまのRSS広告は、申し訳程度のコンテンツに小さなバナー。これではセクシーな広告にはならないですよね。もっとクリエイティブな方向に行くべきだと思うんです。

 広告業界ではATLとBTLというのがあって、ATLはテレビ、ラジオ、雑誌、新聞の4大メディアへの広告、BTLはネットを含む、それ以外の媒体のことです。でも、もうネット広告は規模でいえば雑誌を抜いているし、テレビもネットへの誘導に取り組んでいる。ネットの広告の中でもっとも先鋭的なはずのRSS広告は、技術にばかり目が向いて、クリエイティブなところが弱い気がしてます。たとえば、コンテンツを流しているフィードに一定間隔で広告だけのフィードを流すことをスタンドアローンというらしいですけど、いまはクリック率が高いかもしれないけど、ちゃんとクリエイティブに気を使ってユーザーを楽しませないと、やがては完全にスキップされてしまうと思っています。


保延氏
 女性誌に限らずファッション誌は広告だらけでも喜ばれますよ。広告がないと売れないくらいです。もっと工夫しないとね。

 eクルーザーも、フォトをスライドショーで見せられるようになったんですよ。ECサイトだと商品のイメージを見せたいじゃないですか。やっぱり写真が出ているとインパクトが違う。スライドショーならたくさん見せられるので、クライアントにも喜んでいただけます。


情報の発信側と受信側をバランスよくつなぐ必要

小川氏
 Macでも使えるようになったら教えてください(笑)。ところで、レッドクルーズとしての今後の目標は?


保延氏
 当面はやっぱりRSSの普及なんですが、eクルーザーをもっと育てたいですね。更新情報があればすべて見せたい。RSSリーダーという枠にとらわれず、使い勝手のいいツール、たとえば一つの機能としては「お気に入り更新チェッカー」というのがあるんですね。


小川氏
 どんな機能です?


保延氏
 RSSリーダーはRSS化されているもの、XMLになっているコンテンツを見るものですけど、企業がRSS化をすすめてもすべての情報がエンドユーザーにとってみられるわけではないですよね。だからそれらすべての更新情報を知らせる機能を作りました。


小川氏
 つまり、HTMLの更新を通知すると。


保延氏
 そうです。


小川氏
 それはいいですね。ちなみにmodiphiだとRSSに十分なコンテンツがない場合はその先のHTMLをみせる機能があります。


保延氏
 やっぱりわれわれとしては、情報の発信側と受信側をいかに有機的につなぐ、パイプラインを作るかが課題ですよね。

 受信側にあまりに偏りすぎるとフィルタリングを強めすぎて、発信側の力をそぐし、発信側の論理に立ちすぎるとユーザーを喜ばすことができない。いかにバランスをとって両方を成長させていくかを考えていきたいですね。

 頭の痛いもう一つの問題は、企業がRSS戦略を考えるのが足りないというのもあるんですけど、ユーザーのITリテラシーの違いの幅が大きすぎるのが問題です。情報収集に関するモチベーションの違いもありますし。経営者やマーケターであれば情報収集に対する熱意があるけど、そうでない人もまた多い。幅広くカバーしていくことは難しく、eクルーザーをどう開発していくか、本当に頭の痛いところです、試行錯誤していくしかないですけどね…。




小川 浩(おがわ ひろし)
株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。 東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。 2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。 著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。

2007/08/28 00:00

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