|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
SMB(中小企業)2.0の時代に顧客とともに成長する
|
|
セールスフォース・ドットコム宇陀社長
|
|
今回のゲストは、SaaSによるCRMサービスの提供企業であるセールスフォース・ドットコムの代表取締役社長 宇陀栄次氏です。
本連載の前身である『Web 2.0的キーマンに聞く』にも出演いただいた宇陀社長のお話が1年余を経て、どのように変わったのか、ぜひ比較しながらお読みいただければと思います。
|
宇陀 栄次(うだ えいじ)
株式会社セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長
慶應義塾大学法学部卒
日本アイ・ビー・エム株式会社 大手担当の営業部長、社長補佐、製品事業部長、理事・事業部長など法人系IT会社の社長を歴任
現在、米国salesforce.com Senior Vice President(上席副社長) 兼 株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役社長
|
■ エンタープライズ2.0よりSMB 2.0
小川氏
まさか同じビルで仕事をするとは、当時は思っていませんでした(笑)。
前回は、Web 2.0というキーワードを切り口として、ASPというかSaaSビジネスの全般についてのお考えをお聞きしました。あのときに印象深かったのは、銀行にお金を預けるように情報を預けてほしいというメッセージでした。SaaSへの理解が進まないこと自体が競合相手なんだという。
宇陀氏
あれから状況はだいぶ変わったと思いますよ。
当社のサービスの利用ユーザーも、IT管理者のような人がほとんどいない会社にまで広がっています。たとえば、10人くらいの従業員の配管設備工事会社である流体計画株式会社というお客様がいい例と思いますが、Salesforceとケータイを連携したシンプルなやり方で業務効率をどんどんあげています。
このお客様は建築サービスの顧客管理で、最初はどんぶり勘定での発注が多かったそうです。だから実際の粗利が想定したものと大きくずれてしまったりしてしまうことがあったんですね。それが、CRMを導入してから、そういう数字のズレがなくなって、精度がうんと高まった。
中小企業への融資をする銀行の側からすれば、過去の業績よりもこれからの計画、売上管理だとか利益管理、商談管理などの蓄積の方法などが大事なんです。だから、結果的にこのお客様はVCから出資してもらえたそうですし、オフィスもよりよいところに移られるという結果を出されました。導入後は年率30%の増収増益を達成されたと伺っています。
小川氏
中小企業のほうが、そういうシステムを導入したことによる成果がみえやすいかもしれませんね。
宇陀氏
実際、業種もほんとうにIT系とは関係ない分野にも広がってますしね。不動産さんとか、ネジのメーカーさんとかね。ネシ一本に加えられる付加価値なんて、正直それほど多くはないわけなんですよ。当社のお客様の、関西にあるネジ商社さんの社長に先日お会いしたんですが、当社のサービスを今年の1月から使い始めたところ、平均月間20%の増収、しかも8月度の実績は、目標値の141%達成だったそうです。効果が継続的に出る、というところが大事なことだと思いますね。
要は、こういうことなのかなと思うんですけど、建設業界では中小企業はみんなゼネコンの下請けで、みんな受動的だったんですね。ITだとゼネコンはないですよね、SIerはあるけど。建設業界も積極的に仕事をとりにいこうとしたときに、CRMはちゃんと役立つわけですよ。えっと思うようなローテクな業界も、ITを入れるようになってきた。その結果、むしろ中小企業のほうがITの導入効果が多くみえてきているわけです。
小川氏
なるほど。
宇陀氏
中小企業の皆さんにもよいアイデアは昔からあったけど、ITを経営にちゃんと活かすにはコストが高かった。けれど、SaaSなら安くつく。中小企業だってケータイくらい買えるわけですから。経営の改善をしようとして人に投資したり、機械を買ったりすること自体はあまりリスクないんです。でも、これまでのIT投資だけは5年の拘束条件がついたりするわけで導入しようにも敷居が高かった。SaaSにはそれがないんです。
小川氏
最近ではWeb 2.0にかけて、エンタープライズ2.0といって、あらゆるIT企業がさまざまなソリューションを紹介し始めてますね。
宇陀氏
エンタープライズ2.0はないんじゃない?と思いますけどね、中小企業(スモールビジネス)向けでSMB 2.0のほうが実践的と思います(笑)。
■ SaaSが“下克上”の世界を拓くか
小川氏
話は違いますけど、日本のネットベンチャー黎明期に多くの人材を輩出した慶應大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)の学生が最近では大手企業への就職を希望する率が高いそうです。
宇陀氏
米国なら優秀な人間は起業するか、ベンチャーに入りますけどね。日本では優秀な学生ほど官僚とか大企業にいきたがるのはなんでですかね。最近は少しその状態が変わってきた気もしないではないですけど。松下幸之助とか本田宗一郎とか、盛田昭夫のような、若い頃からの起業家が出てくるとね、いいんですけどね。日本にもそういう素地はあるとは思うんですけどねえ。
ジャパネットたかただって地方の小さな会社にすぎなかったわけですよ。
小川氏
Googleみたいな会社は出ますかね、日本に。
そう、Googleといえば、Google Appsに始まって、ついにGoogleも中小企業市場へのサービス展開を始めましたね。
宇陀氏
うーん。法人相手とコンシューマ相手は違う、ギャップがあると思っているんです。いかにGoogleといえども、法人市場に入り込むのは並大抵ではないと思いますよ。ただ、それなりに苦労はされるでしょうけど、どんどんよいサービスを作ってくるんではないでしょうか。こうしていろいろな企業が参入してくることはよいことですし、SMB 2.0の発展につながるのではないですか。お客様にとってもサービスが向上することや選択肢が多くなることはよいことであると思います。
法人のサービスは継続が必要です。個人でモノを買うということは自分だけの自己責任ですむわけですが、法人はやはりその意思決定に相応の責任が発生します。だから機能の良し悪しや値段だけではなく、よいサービスを継続して提供するということが大事でしょう。
小川氏
最近マイクロソフトも同じような声明を出してますね。その是非はともあれ、SaaSモデルとインストールモデルのコンセプトの蹉跌(さてつ)はもう企業の中でないといえるところまできていますか?
宇陀氏
必ずしもそうとはいえないかもしれませんが、それでも改善したんではないですかね。
航空業界でアメリカン航空が伸びたのは、旅行代理店のところですべての航空会社の予約をできるようにした。つまりオープンな予約システムを公開したからと言われていますが、実際にはアメリカン航空のイニシャルがAですから、結果として最初の選択肢になるから予約されやすい、というところがミソ(笑)。
小川氏
なるほど(笑)。
宇陀氏
そういうシステムは数百億円するわけですよ。SaaSが伸張することによって小さな企業がそんな大きな投資をしなくても、アメリカン航空のような素晴らしい結果を生むことだってありえるんです。20年くらい前は小さな会社が大きな会社を食うという、小が大を食うようなM&Aがたくさんあった。またそういう時代がくるかもしれないと思いますね。
これまでの企業はセキュリティを考えて、とにかく外部との接触を途絶することばかり考えていましたが、発想を変えてSaaSのようなサービスをうまく活用するようになると思います。
大企業だって、数万人いたって、みんな別々のことをやっているわけですからね。中小企業が固まってネットワーク化すれば大企業と戦える、そういうことを誰かがコーディネートすればよいのではと思ったりもしますね。
小川氏
下克上ですね、合従連衡かな(笑)。注目している技術、サービスはありますか?
宇陀氏
USにいくと、Salesforceとの連携をカンタンにマッシュアップするようなサービスが増えています、PowerPointのデータをドラッグ&ドロップして貼り付けたりと。
マッシュアップもエンターテイメント系だけではなくビジネスに使えるものが多くなっているんじゃないですかね。ユーザーに見えるアプリについてはパッケージではなくネットワーク上のサービスに変わってしまうんではないですかね。
バックオフィスでガチガチなもの、膨大なERPパッケージのようなものはパッケージで残るかもしれないですが、その他はSaaSでいいのでは。UIが伴うもの、つまり一般のユーザーが触れるようなアプリはネットワークにしておけばバージョンアップも改良もカンタンになりますからね。実際、アメリカのVCはパッケージベンダーに出資しなくなってきたと聞いてますよ。
小川氏
Google Docsで資料作っていると自動的に保存してくれてるんですけど、ああいう仕組みがネットでも普通になってますからね。
僕はGoogle Appsの有料版を使ってますけど、最近GmailやGoogle Calendarのロゴを、好きなモノに置き換えられるようになっていることに気がつきまして。modiphiのロゴに変えてます。こういうこともSaaSだからこそですしね。
宇陀氏
それは知らなかった(笑)。
ネットワーク型のサービスはコスト面よりも実はセキュリティの面でも安心ですしね。当社のサービスは常にミラーリングしているし、常にバックアップしています。ネットワークにおいておく方が安全、とそのうち皆さんがわかってくださるでしょう。タンス預金と銀行の金庫のようなもので、自分のところにデータを置くほうが安全というのは必ずしもそうではないということです。
小川氏
最後に、もう一度SaaSとASPの違いを伺っていいですか?
宇陀氏
SaaSはパーソナライズやカスタマイズが容易な世界です。限定されたアプリの提供がASPならば、新しいサービスを提供した場合、スケールメリットを生かして無料ですませることができるのがSaaS、と言えるでしょうね。
小川氏
わかりました。今日はどうもありがとうございました。
|
小川 浩(おがわ ひろし) 株式会社サンブリッジ i-クリエイティブディレクター。
東南アジアで商社マンとして活躍したのち、自らネットベンチャーを立ち上げる。2001年5月から日立製作所勤務。ビジネスコンシューマー向けコラボレーションウェア事業「BOXER」をプロデュース。
2005年4月よりサイボウズ株式会社にてFeedアグリゲーションサービス「feedpath」をプロデュースし、フィードパス株式会社のCOOに就任。2006年12月に退任し、現在サンブリッジにて起業準備中。
著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)などがある。 |
2007/09/25 00:01
|
|
|
|
|